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虹と戯れる砂の底魚  作者: 藤泉都理
第二章
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第七十五話 ひっそり




 えーっと。

 その言葉をいつまで繰り返すのだろうか。

 土羽梨を抱きしめ続ける冴野は疑問に思いながら、様子を窺った。

 土羽梨はどのようにしてこの抱擁から抜け出すのかを。




 不覚にも『焔の国』に幻の姿を操られてしまっていた冴野が、どうにかこうにか主導権を取り返した矢先の出来事だった。

 土羽梨のあちらこちらの身体の皮膚と肉がどろどろに溶け落ち、露わになった骨は不気味に踊りくねっていたかと思えば圧縮するという、口を覆いたくなる凄惨な光景に、けれど、悲鳴を一声すら上げていなかった土羽梨を目の当たりにしたのだ。

 どちらの仕業なのか。

 目を瞠る冴野は刹那生まれたその疑問を放置しては、土羽梨を抱きしめた。

 土羽梨ではない何かに変化しようとする身体を再構築する為だ。


 戻れ。

 戻れ。

 戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ。


 冷静だったのか、荒れ狂っていたのか。

 声に出していたのかいなかったのか。

 のちに思い返しても、冴野はわからなかった。


 ただ、冷たくて、ひどく冷たくて。

 ただ、熱くて、ひどく熱かった。


 声が聞こえた。

 馴染みのある声。

 優しい声。

 だったはずだ。


 せっかく。

 せっかく、あなたと同じ姿にさせてあげるのに。


 不要だ。

 即座に切って捨てた。

 要らぬ。

 この人をもし手に入れるのならば、この姿のまま。


「えーっと」


 いつまで言うつもりなのか。

 呆れながらも、冴野はひっそりと笑った。

 ひっそりと、息を吐いた。











(2023.9.12)




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