第四十話 もふもふ
一週間、こんこんと眠り続けた土羽梨が何の前ぶりもなく起き上がったかと思えば正座になり、膝を枕として貸し続けてくれていた男性に向かい合って言ったのだ。
話し合いましょう。
男性はにこにこ笑ったまま、とりあえず食事を取りましょうかと言った。
「自由自在に動けている。もう食欲も湧いて来たんだろう?」
「いただきます」
「では用意してくる。ハシビ。この人を頼んだ。もし変化があったら、あなたが止めてくれ」
「あいあいさー!」
男性に向かって敬礼したハシビは男性が姿を消すまで見送ったのち、土羽梨の前に立ち、土羽梨と目を合わせた途端、滂沱と涙を流した。
「ど、どばりいぃ」
「ご迷惑をおかけしました」
土羽梨は正座のまま、地に手をつけて深々と頭を下げた。
ハシビは心配したよと言った。
「ずっと眠ったままで。もう。起きない。かと。心配。して。起きるって信じてたけど!」
「うん。ちょっと。うん。ごめん」
「土羽梨。疲れてる?横になっていいよ。オレに寄りかかっていいよ」
土羽梨は傍らで座ったハシビの青い身体をじっと見つめた。
おかしいなあれおかしいな。
もふもふ要素は一切なく、どちらかと言えば、メラメラ、もしくは、ツルツル要素万歳だったはずなのに、もふもふしている。ように見えた。
疲れが取れていない。
自覚した土羽梨は誘惑に抗わずにハシビの身体に背中を預けた。
ああ、やっぱりもふもふしている。
「ごめん。ハシビ。あの人が戻って来るまで、お願いします」
「うん。いいよ。ゆっくり休んで」
「うん。感謝します。ありがとう」
「ふふふ。いいよ」
土羽梨は心地よさを感じながら目を瞑った。
あの人の膝もこれだけもふもふしていたらよかったのにと、思いながら。
(でも。ずっと、膝を貸してくれた事には、お礼を)
(2023.8.31)




