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メルルゥ

 彼女は自分の存在に辟易していた。みんなとは違う白い髪も、それが原因で自分を捨てた親も、そんな自分が生きるこの世界すらも、自分に関係するありとあらゆる物を彼女は嫌っていた。





                  ■





 彼女の名はメルルゥ。白き髪を受け継ぐ数少ない文明の生き残りだ。


 白き髪の一族はこの国では悪しき一族として有名であり、古き過去にて魔族と人間との間に出来た忌み子を祖先としているという言い伝えが原因となって、今日でも白髪の人間は差別的な扱いを受ける。


 メルルゥの母はその白き髪の一族であったが、そのことをずっと隠して生活しており、隠し通したままメルルゥを生んだ。やがてメルルゥが成長すれば白髪が生え、その事実が明らかになってしまう。彼女の母は結局メルルゥを近くの教会に捨てることを選んだ。


 その後、メルルゥはたった独りでこの世界を生き抜いてきた。自分がみんなに嫌われていることに直ぐに気がついてしまったからだ。


 人もいないような洞窟の奥で生活し、その日その日を生きる抜くためだけに食料を調達する日々が続いた。小さい頃は木の実などの植物でどうにかなっていたが、大きくなり植物だけでは空腹を満たせなくなってからは、魔獣を倒す術を身につけ始めた。幸い、白髪の一族は魔族の末裔と言われるだけあって身体能力は高かった。その日を生きるために魔獣と戦い、食料を得る頃にはその日が終わる。そんな意味のないような日々を何十年とメルルゥは過ごしてきた。


 その間人との関わりは全くなかった。それは彼女が敢えてしていたことであり、寂しいと思うことはあれど、自分の姿を見て仲良くなってくれる人などいないことを知っていたため、彼女は決して人前には姿を現さなかったのだ。


 ただメルルゥもだんだんそんな自分の環境に慣れていき、次第に悲しさや寂しさといった感情は消え失せていった。


 その日を生きるためにその日を終えるという生産性のない毎日を過ごすことが、彼女の生きる道となっていたことに、メルルゥはもう何も感じなくなっていた。


 しかし、そんなメルルゥも時にはミスをすることもあった。


 ダンジョンの魔獣との戦闘に苦戦したメルルゥは、いつものように住処で体力が回復するまで休んでいたのだが、一向に回復することのない自分の体に違和感を覚えた。これまでの弱い魔獣とは違う、強力な魔獣による一撃は自然回復だけでは治らない傷になってしまったのだ。だが、街に下りて道具屋に行くわけにも行かず、ダンジョン近くにある人気のないアイテムショップに行くほかなかった。


 そこで、ある店員と出会ってしまったのだ。その店員はメルルゥにとって自分を嫌う多くの人間の内の一人に過ぎないはずであった。しかしその少年は、メルルゥを見るなり咲き誇る笑顔を浮かべて出会いを喜んだのだった。メルルゥには何が起こっているのかわからなかった。


 でもメルルゥは初めて自分の存在を許してくれる存在に出会えたのかもしれないと、その日、ほんの少しの希望を抱くことができたのだ。


 それからというもの、メルルゥは自分が何をしていても少年の姿が頭にちらつき、会って話したいと思うようになっていた。それはごく自然なことで、メルルゥは生まれて初めて、人と話す喜びを知ったのだ。それはメルルゥが一八になるときだった。


 メルルゥは何度もその少年が開いているアイテムショップに通った。他にお客さんが来ることもなく、いつも行くと少年が笑顔で待っていてくれて、ふたりだけの時間をおしゃべりをしたり、新作のアイテムを使ってみたり、二人でのんびりしたりして過ごすことができたのだ。


 今までの毎日がまるでゴミのように思え、これからの毎日が光り輝いていた。


 しかし、人間、光を知ると影が際立つものである。相手の都合か、しばらく会えない日が続いてしまうと、メルルゥは感じたことのない悲しみを覚えた。寂しくて仕方なくて、普段なら絶対に行かない街にも足を運び、少年の姿を探した。しかし、少年どころか自分を明らかに憎む視線ばかりが突き刺さり、少年への思いと自分への罪の意識で消えてしまいたくなるほどの思いを抱えていた。


 そんな時だった。


 メルルゥの前に一人の少女が現れたのだ。その少女は、メルルゥに向かってこんなことを言った。


「こんにちは、メルルゥ。突然でごめんね、あなたの生きる意味って何?」





                       ■ 





 魔界を治める第一魔王が単独で王城に侵攻し、その消息を絶ったという知らせは直ぐに魔界にも響き渡っていた。それは魔界を揺るがす大事件だった。魔界を治める者がいなくなり、いつ秩序が乱れて反乱や暴動、内戦が起こってもおかしくない状態となってしまったのだ。


 魔界の多くの者がどうすればいいのか悩んでいるとき、第二魔王軍の幹部であるナギアはいち早く人間界に乗り込み、どういう状況なのか、なぜ第一魔王が単独で乗り込んだのか、などを調査しにきていた。そこで彼女は偶然、魔界の血を引く人間の存在に気がついてしまったのだ。人間に嫌われるはずの彼女が楽しそうに過ごしているのを見て、ナギアは彼女に純粋な興味を抱き、調査と並行して彼女の動向を伺うことにした。すると、彼女の体は遠い祖先の魔族要素を特別多く含んでいることがわかった、それこそ魔王と比べても引けを取らない程だ。


 その瞬間、ナギアはひらめく。


 彼女の手によって魔界に新たな一ページを刻むことが出来るかもしれないと。


「ふーん、何あの子。私なんかより数倍強い力持ってるじゃない」


 ナギアは深く染まった青の髪を風になびかせながら、メルルゥを見ていた。心底楽しそうに毎日を過ごす彼女に、どう接触しようか考える日々が続いた。


「力尽くで行けば、多分力を使いこなせないあの子は私の手に落ちると思うけど、確実ではない。もっと時間はかかれど確実な方法は……」


 そう考え、ナギアはあることを思いつく。それはあくまで仮定にしか過ぎなかったが、メルルゥを少年からしばらく離したことによってそれが真実へと昇華する。


 メルルゥと接触したナギアは彼女にこんなことを言った。


「私は魔界に住む魔族なの。だけど、今の魔界は既に廃れていて、私たちみたいな魔族は人間との共存を望んでいる。だからあなたには、私たちと協力してその橋渡しになって欲しいの」


 しかし、メルルゥはそんなことには微塵も興味がない。


「私は私をこんな存在にした魔族も嫌いだし、魔族のちが少し流れているってだけで憎んでくる人間が嫌いです。だからそんな両者の和睦に協力する気はありません」


「じゃあ、私たちに協力することがあなたの生きる意味だとしたら?」


「え?」


「あなた、私に言ったわよね。《あの少年の幸せ》が自分の生きる意味だって。魔族と人間の間にもし溝ができたままだと、近いうちに私たちとは別の勢力の魔族が人間界に侵攻してくる。そうなると人間界と魔界は全面戦争になりかねない。だから、先に私たちの手で平和を作ることでその争いを抑制しなきゃいけないってことなの」


「そんな…………」


「私、あなたがこんな肩身の狭い世界であんなに楽しそうに生きているのを見て感動したの。だから、あなたの生きる意味に協力させて?」


「私があなたに協力すれば……争いは起きないのですか?」


「人間と魔族の衝突であの少年の住むこの世界に被害が及ぶことはないわ」


 ナギアのその言葉に、メルルゥは小さく頷いた。


「私は、何をすればいいんですか?」

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