第九十五話 誰のための魔法
悪役令嬢は愛されている
第九十五話 誰のための魔法
王国歴三百二十八年、四月二十一日。
午後三時。
王立魔法学院。
「……消えた?」
一年生の教室で、一人の生徒が呟いた。
天井の魔法灯が、一斉に消えていた。
窓から差し込む陽光のおかげで、教室が暗くなることはない。
しかし、それだけではなかった。
「先生!」
別の生徒が手を挙げた。
「魔法が使えません!」
「……何?」
教師は、生徒の手元を確認した。
小さな魔法陣。
初級の発光術式。
それが、何度試しても起動しない。
「……おかしいな」
教師自身も術式を展開する。
淡い光が生まれた。
しかし。
すぐに消えた。
「…………」
教師は、窓の外を見た。
学院の中央塔。
その周囲に、青白い光が集まっている。
まるで。
見えない何かに引き寄せられているようだった。
◇
同時刻。
王都中央研究会館。
「……第一段階?」
ガルド・レイスは、制御盤を見つめていた。
『供給源候補数 四百七十四』
『魔力収集準備完了』
『第一段階、開始』
「……誰が、こんな命令を」
助手が慌てて答えた。
「我々ではありません!」
「分かっている!」
ガルドは、画面へ手を伸ばした。
古い術式。
三十年以上前に作られた魔力供給網。
彼自身も、その一部を研究していた。
しかし。
「……違う」
男は、小さく呟いた。
「これは、私の設計した回路ではない」
「……では」
「古い装置が、勝手に接続先を探している」
「……そんなことが」
「あり得る」
ガルドは頷いた。
「我々が使用した術式は、古い供給網と互換性がある」
「…………」
「その結果、停止していた装置が、再び動き始めたのだろう」
助手の顔が青ざめた。
「……では、すぐに停止を!」
「待て」
ガルドが制した。
「現在の供給量を見せろ」
「……はい!」
数字が表示される。
王都東区。
北区。
西区。
そして、学院。
無数の接続先が、画面に並んでいた。
ガルドは、それを見つめた。
「……なるほど」
「……何か、分かりましたか?」
「この装置は、魔力の総量を増やしているわけではない」
「……はい」
「必要とされる場所へ、足りない分を送り続けている」
「…………」
「だから、供給を止めれば、現在その魔力を利用している施設が停止する」
助手は、息を呑んだ。
「……施療院も、ですか?」
「当然だ」
ガルドは頷いた。
「治癒術式の維持に外部魔力を利用していれば、停止の影響を受ける」
「……では、どうすれば」
「簡単だ」
男は、椅子へ座った。
「必要な魔力だけを残せばいい」
そして。
無数の術式を書き始めた。
◇
午後三時五分。
王都魔法管理局。
「……学院から魔力が!」
職員が叫んだ。
机の上に広げられた地図。
そこに浮かぶ光の線が、次々と変化していた。
「学院の生徒たちが供給源として選ばれています!」
「人数は!?」
「四百七十四名!」
会議室が騒然となった。
その中心で。
エリザベートは、地図を覗き込んでいた。
「……ねえ」
フィオナが振り返る。
「何ですか?」
「その四百七十四人というのは、学院の生徒なの?」
「……はい。おそらく」
「まあ!」
エリザベートは、目を丸くした。
「そんなにいるのね!」
「……え?」
「私、まだ全員とお話ししたことがないわ!」
フィオナは、返事に困った。
そのとき。
マリアンヌが口を開いた。
「お嬢様」
「なあに?」
「四百七十四名全員から、魔力が奪われているわけではございません」
「……そうなの?」
「はい。現時点では、供給源として選ばれた人数です」
「ふうん」
エリザベートは、少し考えた。
そして。
「……選ばれた人は、知っているの?」
マリアンヌは答えた。
「いいえ」
「……そう」
少女は、地図を見つめた。
「それなら、教えてあげないといけないわね」
「……と、おっしゃいますと」
「だって」
エリザベートは首を傾げた。
「知らないうちに自分の魔力がなくなっていたら、びっくりするでしょう?」
マリアンヌは、静かに微笑んだ。
「……おっしゃる通りでございます」
◇
午後三時十分。
王都中央研究会館。
「……できた」
ガルドが呟いた。
助手が顔を上げる。
「……完成したのですか?」
「応急処置だ」
男は、制御盤を操作した。
王都全域の魔力供給状況が表示される。
ガルドは、その一つ一つを確認していった。
「……この街灯は不要だ」
一つの接続が消える。
「こちらの装飾術式も」
また一つ。
「商業区の展示用魔法装置も停止させろ」
「……はい!」
助手が操作する。
次々と魔力の消費量が減少していく。
「……施療院は?」
「維持しております!」
「学院は?」
「供給源候補数が減少しています!」
「……よし」
ガルドは頷いた。
そして。
「余剰魔力を、研究会館の蓄積装置へ移せ」
「……ですが」
助手が口を開いた。
「蓄積装置には、限界があります」
「知っている」
「……では」
「満ちる前に、別の装置へ移す」
ガルドは、当然のように答えた。
「それを繰り返せば、供給網を停止するまでの時間を稼げる」
助手は、目を見開いた。
「……なるほど!」
「ただし、長くは持たない」
ガルドは、画面を見つめた。
「学院側が、こちらに気づいてくれればいいが」
◇
午後三時十五分。
王都魔法管理局。
「……あれ?」
フィオナが、顔を上げた。
地図に浮かんでいた光の線。
その数が、少しずつ減っていた。
「……どうしたの?」
エリザベートが尋ねた。
「魔力の流れが、変わっています」
「……そうなの?」
「はい!」
フィオナは、地図を指さした。
「さっきまで学院へ集まっていた魔力が、別の場所へ流れ始めています!」
マリアンヌも、地図を見た。
「……なるほど」
そして。
「研究会館ですね」
「……え?」
「研究会館の蓄積装置を使用し、余剰魔力を一時的に受け入れているようです」
フィオナは、息を呑んだ。
「……そんなことができるんですか?」
「可能です」
マリアンヌは頷いた。
「ただし、複数の装置を正確に制御する必要がございます」
「……すごい」
フィオナは、地図を見つめた。
「こんな短時間で……」
その声には、純粋な驚きがあった。
マリアンヌは、静かに微笑んだ。
「優秀な研究者でいらっしゃるようですね」
◇
午後三時二十分。
王都中央研究会館。
「……学院側から連絡です!」
助手が叫んだ。
ガルドは顔を上げた。
「何だ?」
「こちらの魔力供給変更を確認したそうです!」
「……そうか」
「学院長から、直接お話があると」
ガルドは、少し考えた。
そして。
「つないでくれ」
「はい!」
通信装置が起動した。
画面に、一人の女性が映し出される。
マリアンヌだった。
『ガルド様』
「……学院長」
『現在、王都の魔力供給を調整されているのは、あなたですね』
「ええ」
『ご対応、ありがとうございます』
ガルドは、少しだけ目を細めた。
「……お気になさらず」
『学院側でも、供給回路の切り離しを進めております』
「……そうですか」
『現在の処置で、どれほど時間を確保できますか?』
ガルドは、数字を確認した。
「……二十分ほどでしょう」
『承知いたしました』
マリアンヌは頷いた。
『では、その間に学院側の接続を解除いたします』
「…………」
ガルドは、画面を見つめた。
「……解除?」
『はい』
「……学院の地下装置は、複数の供給回路と接続されています」
『存じております』
「単純に切断すれば、別の回路へ接続し直されるでしょう」
『ええ』
「……では」
『ですから』
マリアンヌは、静かに微笑んだ。
『接続先を探す必要がない状態にしてから、切り離します』
「…………」
ガルドは黙った。
そして。
「……どういう意味ですか?」
『現在、王都の設備で必要とされている魔力を、個別に確保しております』
「……個別に?」
『はい』
『学院の生徒たちを供給源として利用する必要がなくなれば、装置は新しい接続先を探さなくなります』
「…………」
『その状態を維持したまま、地下装置を停止いたします』
ガルドは、画面を見つめた。
「……なるほど」
静かに呟いた。
そして。
「……実現できるのですか?」
『もちろんです』
マリアンヌは、微笑んだ。
『ただし、あなたが時間を稼いでくださったおかげです』
「…………」
『感謝いたします』
通信が切れた。
ガルドは、しばらく画面を見つめていた。
◇
「……ガルド様!」
助手が声を上げた。
「聞きましたか!?」
「……ああ」
「学院長が、装置を停止させるそうです!」
「……そうだね」
「すごいですね!」
助手は、興奮した様子だった。
「我々の装置だけでは、あの供給網を完全に停止させることはできませんでした!」
「…………」
「それを、学院長は……」
「分かっている!」
ガルドの声が響いた。
助手は、驚いて口を閉じた。
沈黙。
ガルドは、目を伏せた。
そして。
「……すまない」
小さく呟いた。
「少し、疲れているようだ」
助手は、慌てて頭を下げた。
「……申し訳ありません」
「いや」
ガルドは、静かに首を振った。
「君は、何も間違っていない」
そして。
再び制御盤へ向き直った。
◇
午後三時二十五分。
王立魔法学院。
地下施設。
オスカー・ベルンハルトは、古い魔法装置を見つめていた。
『供給源候補数 四百七十四』
数字が変わる。
『三百二十一』
『二百七十六』
『百九十八』
「……減っている」
老人は、静かに呟いた。
別の場所で、供給量が調整されているのだろう。
そのとき。
扉が開いた。
「……先生」
レオンだった。
「……君か」
「はい」
「ここは危険だ。戻りなさい」
「分かりました」
レオンは頷いた。
しかし。
立ち去らなかった。
オスカーは、少しだけ目を細めた。
「……何か?」
「先生は、この装置を知っているのですか?」
「…………」
老人は答えなかった。
レオンは、装置を見た。
「三十年以上前に作られたものだと、聞きました」
「……そうだ」
「……そうですか」
レオンは頷いた。
それ以上、何も尋ねなかった。
オスカーは、しばらく彼を見つめていた。
そして。
「……君は」
小さく呟いた。
「何も聞かないんだな」
レオンは、少し考えた。
「……聞いてほしいことがあれば」
静かに答えた。
「先生から、お話しになると思いますので」
「…………」
オスカーは、目を閉じた。
そのとき。
装置の表示が変わった。
『供給源候補数 百二』
『供給源候補数 八十六』
『供給源候補数 四十九』
そして。
『供給源候補数 〇』
オスカーは、息を吐いた。
「……止まったか」
レオンは、装置を見つめていた。
「……そうですね」
しかし。
老人の表情は、晴れなかった。
◇
午後三時三十分。
王都魔法管理局。
「……できました!」
フィオナが声を上げた。
机の上の地図。
そこに浮かんでいた光の線が、次々と消えていく。
最後に。
学院へ伸びていた線が、すべて消えた。
「……終わったの?」
エリザベートが尋ねた。
マリアンヌは頷いた。
「学院の生徒たちを供給源とする接続は、解除いたしました」
「まあ!」
エリザベートは嬉しそうに笑った。
「よかったわ!」
「ただし」
マリアンヌは続けた。
「身体に形成された魔力回路など、まだ確認すべき問題が残っております」
「……そうなの?」
「はい」
「では、全部終わったわけではないのね!」
「左様でございます」
エリザベートは、少し考えた。
そして。
「……大変ねえ」
小さく呟いた。
その隣で。
フィオナは、地図を見つめていた。
「……すごい」
もう一度、呟いた。
「学院長、本当にすごいですね」
マリアンヌは微笑んだ。
「ありがとうございます」
「私、あんな複雑な術式……」
そこで、フィオナは言葉を止めた。
そして。
「……でも」
小さく笑った。
「私も、いつか作ってみたいです」
エリザベートが振り返った。
「まあ!」
そして。
「だったら、一緒に作りましょう!」
「……え?」
「私も、まだ魔法灯を完成させていないもの!」
フィオナは、目を瞬かせた。
そして。
「……はい!」
嬉しそうに頷いた。
◇
午後四時。
王都中央研究会館。
「……学院の接続が、すべて解除されました」
助手が報告した。
ガルドは、静かに頷いた。
「……そうか」
「研究会館の蓄積装置も、順次停止できます」
「分かった」
男は、制御盤へ手を伸ばした。
一つ。
また一つ。
装置が停止していく。
その操作は、正確だった。
複雑な術式。
膨大な計算。
わずかな誤りも許されない作業。
それでも。
ガルドは、一度も間違えなかった。
最後の装置が停止したとき。
助手が、深く頭を下げた。
「……お疲れ様でした」
「……ああ」
「ガルド様のおかげで、王都の被害を抑えられました」
「…………」
ガルドは、何も言わなかった。
助手は、続けた。
「本当に、素晴らしい技術です」
「……そうか」
「はい!」
ガルドは、ゆっくりと椅子へ座った。
そして。
「……君は」
小さく尋ねた。
「私の研究を、どう思う?」
助手は、少し驚いた。
「……研究、ですか?」
「ああ」
「……素晴らしいと思います」
「……そうか」
「はい!」
助手は、笑った。
「だって、魔法を使えなかった人たちが、使えるようになるんですよ!」
ガルドは、静かに頷いた。
「……そうだね」
「きっと、大勢の人が喜びます!」
「…………」
「それに、ガルド様なら、必ず成功させられます!」
ガルドは、目を閉じた。
そして。
「……ありがとう」
小さく答えた。
その声は。
ほんの少しだけ、嬉しそうだった。
◇
午後五時。
王立魔法学院。
医務室。
ノエルは、ベッドに座っていた。
右手には、もう光はない。
しかし。
魔力測定器には、以前とは違う数値が表示されていた。
事故前よりも、高い魔力量。
それは、今も変わっていなかった。
「……先生」
ノエルが尋ねた。
「僕、元に戻るんですか?」
教師は、少し考えた。
「……まだ、分からない」
「……そうですか」
「ただ、身体の状態は安定している」
「……はい」
ノエルは、右手を見つめた。
以前は、魔法を使えなかった。
それなのに、今は違う。
「……僕」
小さく呟いた。
「……このままでも、いいんですかね」
教師は、答えられなかった。
そのとき。
「……ノエル」
扉の向こうから、声がした。
オスカーだった。
「……先生?」
少年が顔を上げる。
老人は、静かに微笑んだ。
「……具合は、どうかね」
「……大丈夫です」
「そうか」
オスカーは、ベッドの横へ近づいた。
そして。
ノエルの右手を見た。
「……魔法は?」
「……使えます」
「……そうか」
老人は、少しだけ目を伏せた。
「……よかったな」
その言葉に。
ノエルは、困ったように笑った。
「……でも」
「……何だね?」
「……僕、こんなふうに使えるようになりたかったわけじゃないんです」
「…………」
「だって、僕が魔法を使えるようになったせいで、誰かが使えなくなったんでしょう?」
オスカーは、何も言わなかった。
「……それって」
少年は、俯いた。
「……僕が、誰かの魔法を取ったってことですよね」
長い沈黙。
そして。
「……違う」
老人が答えた。
ノエルは顔を上げた。
「……先生?」
オスカーは、静かに首を振った。
「……違うんだ」
もう一度。
小さく呟いた。
「……君が、悪いわけではない」
少年は、黙っていた。
オスカーは、しばらくその顔を見つめていた。
そして。
「……すまない」
誰にも聞こえないほど、小さな声で呟いた。
◇
その夜。
アルヴェイン公爵邸。
「セバスチャン!」
「はい、お嬢様」
「今日ね、すごい人がいたの!」
老執事は、静かに微笑んだ。
「左様でございますか」
「ええ!」
エリザベートは、嬉しそうに話し始めた。
王都の魔力異常。
学院の地下装置。
そして、研究会館のガルドが、魔力の流れを調整していたこと。
「……その方のおかげで、時間を稼ぐことができたのね!」
「左様でございますか」
「ええ!」
少女は、頷いた。
「とっても優秀な方なのね!」
「……そうでございますね」
エリザベートは、少し考えた。
そして。
「……でも」
首を傾げた。
「不思議ね」
「何がでございましょう?」
「そんなに優秀なのに、どうしてあんな危ないものを作ったのかしら?」
セバスチャンは、答えなかった。
少女は続けた。
「魔法を使えるようにしたかったのでしょう?」
「……はい」
「だったら、みんなが喜ぶものを作ればいいのに!」
「…………」
「フィオナの魔法灯みたいに!」
老執事は、静かに微笑んだ。
「……お嬢様」
「なあに?」
「人によって、欲しいものは異なります」
「そうなの?」
「はい」
「ふうん」
エリザベートは、少し考えた。
そして。
「……難しいのね!」
楽しそうに笑った。
「私なら、欲しいものを作るけれど!」
「……左様でございますね」
セバスチャンは、深く頭を下げた。
「お嬢様は、お嬢様の望まれるものをお作りくださいませ」
「ええ!」
少女は、満足そうに頷いた。
◇
同時刻。
王都中央研究会館。
地下第三研究室。
ガルドは、一人で机に向かっていた。
目の前には、今日の記録が置かれている。
『魔力供給調整、成功』
『学院供給源接続、解除』
『研究会館蓄積装置、停止』
そして。
『王都魔法管理局・王立魔法学院共同対応』
そこには、彼の名前も記されていた。
協力者として。
ガルドは、しばらくその文字を見つめていた。
そして。
「……協力者、か」
小さく呟いた。
彼は、今日の対応に失敗していない。
むしろ、誰よりも早く異常の仕組みを理解し、適切な処置を行った。
それは、研究者として誇るべき成果だった。
しかし。
「…………」
男は、窓の外を見た。
王立魔法学院。
その中央塔に、明かりが灯っている。
マリアンヌ学院長。
アルヴェイン公爵令嬢。
そして、あの少女の周囲にいる人々。
彼らは、今日も自分の研究を止めた。
研究の危険性を指摘し、装置を解除し、元の状態へ戻そうとしている。
それが正しいことは、理解していた。
それでも。
「……私は」
ガルドは、小さく呟いた。
「……間違っているのか?」
返事はなかった。
男は、机の上の研究記録を開いた。
魔力のない人々にも、魔法を。
その言葉が、最初の頁に書かれていた。
ずっと昔。
自分が書いた言葉だった。
ガルドは、しばらくそれを見つめていた。
そして。
静かに頁をめくった。
◇
同じ頃。
王都西区。
一人の少年が、手のひらを見つめていた。
昨日まで、魔法が使えなかった少年だった。
今日、初めて魔法を使えるようになった。
しかし。
今は、もう使えない。
「……やっぱり、駄目か」
少年は、笑った。
その隣で、母親が尋ねた。
「……残念?」
少年は、少し考えた。
そして。
「……うん」
小さく頷いた。
「でも」
顔を上げた。
「一回だけでも、使えてよかった」
母親は、微笑んだ。
「……そう」
「うん!」
少年は、夜空を見た。
そして。
「……また、使えるようになるかな」
小さく呟いた。
その願いを。
ガルド・レイスは、知らない。
王立魔法学院の誰も、知らない。
ただ。
少年は、確かに願っていた。
もう一度。
自分の手で、魔法を使ってみたいと。
――第九十五話・完




