↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
93/97

第九十三話 誰のための灯り

悪役令嬢は愛されている


第九十三話 誰のための灯り


王国歴三百二十八年、四月二十日。


王都東区。


その朝、小さな奇跡が起きた。


「……できた」


少女は、自分の手を見つめていた。


十歳ほどの、茶色い髪の少女だった。


名前はリナ。


魔法を使ったことは、一度もない。


正確には、使えなかった。


学院に通うだけのお金もなければ、魔法を学ぶだけの適性もなかった。


そんな少女の指先に。


小さな炎が灯っていた。


「……お母さん!」


リナは、家の奥へ駆け込んだ。


「見て!」


「どうしたの?」


「魔法!」


少女は、指を突き出した。


ぽっ。


炎が浮かぶ。


母親は、目を丸くした。


「……リナ?」


「できたの!」


少女は笑った。


「私にも、魔法ができたの!」


母親は、しばらく何も言えなかった。


そして。


娘を抱きしめた。


「……よかったね」


その声は、少し震えていた。


◇


午前九時。


王立魔法学院。


「……妙ですね」


マリアンヌは、報告を聞いていた。


王都の東区で、魔法に関する異常が相次いでいるという。


魔法を使えなかった者が、突然使えるようになる。


反対に、日常的に魔法を使っていた者が、一時的に使えなくなる。


数は、まだ少ない。


ただし。


「学院の三名とは、接点が確認されておりません」


教師が説明した。


「そうですか」


マリアンヌは頷いた。


「王国の魔法管理局には?」


「すでに報告済みです」


「ありがとうございます」


彼女は立ち上がった。


「では、私も現地を確認いたします」


「学院長自ら、ですか?」


「ええ」


マリアンヌは微笑んだ。


「昨日、研究会館で確認した術式と似ている可能性がありますから」


教師は頷いた。


そのとき。


扉が開いた。


「マリアンヌ!」


エリザベートだった。


「お嬢様」


「聞いてちょうだい!」


少女は嬉しそうに笑った。


「今日、フィオナとお買い物に行くの!」


「左様でございますか」


「ええ! 魔法装置の材料を探すのよ!」


「それは楽しみでございますね」


「でしょう!」


エリザベートは胸を張った。


「私、今度こそ自分で作るわ!」


マリアンヌは、微笑んだまま少し考えた。


「……どちらへお出かけになるのですか?」


「東区よ!」


「…………」


「お店がたくさんあるんですって!」


マリアンヌは、静かに頷いた。


「承知いたしました」


そして。


「では、私もご一緒いたします」


「まあ!」


エリザベートは喜んだ。


「みんなでお買い物ね!」


◇


午前十一時。


王都東区、中央市場。


「……すごい」


フィオナが呟いた。


市場には、見たこともない魔法装置が並んでいた。


古い魔法石。


壊れた術式盤。


用途の分からない金属部品。


そして、魔力を蓄えるための小さな容器。


「これ、全部売り物なの?」


エリザベートが尋ねた。


「はい!」


フィオナは頷いた。


「中古品が多いですけど、珍しい部品もあります」


「まあ!」


エリザベートは、一つの装置を手に取った。


丸い。


青い。


表面には、何やら文字が書かれている。


「これは何?」


店主が答えた。


「古い魔力測定器でございます」


「そうなの!」


「はい。動作は保証いたしかねますが……」


「買うわ!」


「……え?」


「だって、丸くて可愛いもの!」


フィオナは、少し笑った。


「エリザベート様、何に使うんですか?」


「まだ決めていないわ!」


「……そうですか」


「でも、持っていたら何かに使えるかもしれないでしょう?」


店主は、嬉しそうに頭を下げた。


こうして。


エリザベートの魔法装置製作は、用途不明の中古品を購入するところから始まった。


◇


その頃。


市場の反対側では、人だかりができていた。


「すごいぞ!」


「もう一回!」


「どうやったんだ!?」


人々の中心にいたのは、リナだった。


少女は、指先に炎を浮かべている。


「ほら!」


小さな炎が、ふわりと踊った。


歓声が上がる。


「お前、魔法なんて使えなかっただろ!」


「うん!」


「誰かに教わったのか?」


「ううん!」


少女は首を振った。


「今朝、急にできたの!」


「……今朝?」


「そう!」


リナは、市場の入り口を指さした。


「そこの街灯が光ったとき!」


人々が振り返った。


そこには、古い魔法街灯が立っていた。


何十年も前から使われているものだ。


ただし。


その街灯は、昼間だというのに光っていた。


淡い青色。


それも、通常の魔法灯とは違う光だった。


「……何だ、あれ?」


誰かが呟いた。


そして。


少し離れた場所で。


別の声が上がった。


「……おかしい」


一人の老人だった。


市場で魔法道具を修理している職人である。


彼は、手のひらに魔力を集めようとしていた。


しかし。


何も起きない。


「……どうして」


もう一度。


それでも、何も起きなかった。


「……魔法が」


老人の顔が青ざめた。


「……使えない」


◇


「……ねえ」


エリザベートが、足を止めた。


「何かしら、あれ」


人だかりの向こう。


古い街灯が、青白く輝いている。


フィオナも振り返った。


「……あれ?」


少女の表情が変わった。


「……おかしいです」


「どうしたの?」


「この時間に、街灯が光っているんです」


「……そうね」


「それだけじゃありません」


フィオナは、街灯へ近づいた。


支柱の根元。


古い術式が刻まれている。


そして。


その上に。


細い線が浮かび上がっていた。


「……これ」


フィオナは息を呑んだ。


「研究会館で見た術式と、似ています」


エリザベートは首を傾げた。


「昨日の?」


「はい」


マリアンヌも、街灯を見つめていた。


「……なるほど」


静かに呟く。


「こちらでしたか」


◇


「……魔法が使えるようになったの!」


リナは、得意げに話していた。


エリザベートは、少女の手を覗き込んだ。


「まあ!」


小さな炎。


その光を見て、エリザベートは嬉しそうに笑った。


「綺麗ね!」


「うん!」


「あなたが作ったの?」


「そう!」


リナは胸を張った。


「今朝からできるようになったの!」


「素敵じゃない!」


「ありがとう!」


二人は笑い合った。


しかし。


「……あの」


フィオナが、口を開いた。


「その魔法、少しだけ調べてもいい?」


「……え?」


「痛いことはしないよ」


リナは、少し考えた。


そして。


「いいよ!」


頷いた。


フィオナは、エリザベートが先ほど購入した魔力測定器を借りた。


古い装置だったが、基本的な術式は残っている。


「……動くかな」


小さく呟く。


魔力石を取り付ける。


術式盤を調整する。


そして。


「……あ」


装置の針が動いた。


フィオナは、目を丸くした。


「……これ、まだ使えます!」


「まあ!」


エリザベートは喜んだ。


「買ってよかったわね!」


「はい!」


フィオナは、リナへ装置を向けた。


針が動く。


しかし。


すぐに止まった。


「……あれ?」


もう一度。


同じだった。


フィオナは首を傾げた。


「……本人の魔力が、ほとんどない」


リナが尋ねた。


「……どういうこと?」


「……えっと」


フィオナは、少し考えた。


「今使っている魔法は、あなた自身の魔力だけで動いているわけじゃないみたい」


「……え?」


「どこか別の場所から、魔力が流れてきてる」


少女は、自分の手を見つめた。


そして。


「……じゃあ」


小さく尋ねた。


「これ、私の魔法じゃないの?」


フィオナは、すぐには答えられなかった。


◇


そのとき。


市場の入り口から、悲鳴が響いた。


「馬車が!!」


全員が振り返った。


一台の荷馬車が、通りを猛進していた。


引いているのは魔法で動く機械馬。


通常は御者の術式によって速度を制御する。


だが。


「止まれ!!」


御者が叫んだ。


機械馬は止まらなかった。


「……制御が効かない!」


荷馬車は、市場の中央へ突っ込んでくる。


通行人が逃げる。


店主たちが荷物を放り出す。


その進路上には。


幼い子供がいた。


「……っ!」


ルークが走った。


人々の間を抜け。


剣を抜く。


「どけえっ!!」


機械馬の前脚を斬りつける。


金属が砕けた。


しかし。


「……なっ!?」


機械馬は倒れない。


むしろ、青白い光が強くなった。


壊れた脚が、魔力によって無理やり動かされている。


「……何だこれ!」


ルークは舌打ちした。


荷馬車は止まらない。


そのとき。


「ルーク!」


セシリアが叫んだ。


「子供を!」


「……っ!」


ルークは、進路上の子供へ飛び込んだ。


抱きかかえる。


地面を転がる。


荷馬車が、すぐ横を通り過ぎた。


しかし。


まだ止まらない。


その先には。


市場の屋台が並んでいた。


◇


「……まあ!」


エリザベートは、走り去る荷馬車を見つめた。


「危ないわね!」


その言葉と同時に。


少女の身体が、ふわりと浮いた。


「……え?」


フィオナが目を瞬かせた。


エリザベートは、空を飛んでいた。


特別な術式を唱えたわけではない。


魔法陣を描いたわけでもない。


ただ。


少しだけ地面から離れた。


そして。


「そこのあなた!」


荷馬車の御者へ声をかけた。


「荷物を落としたらどうかしら!」


「……は!?」


御者が振り返る。


「重いから止まらないのではなくて!?」


「違います!!」


「……そうなの?」


「馬が止まらないんです!!」


「まあ!」


エリザベートは、少し考えた。


そして。


「では、馬を止めればいいのね!」


「それができれば苦労しません!!」


「そうよね!」


少女は、素直に頷いた。


しかし。


そのとき。


マリアンヌの声が響いた。


「お嬢様」


「なあに?」


「少々、お下がりくださいませ」


「……そうなの?」


「はい」


エリザベートは、空中で頷いた。


「分かったわ!」


◇


マリアンヌは、右手を上げた。


《連結》。


市場の街灯。


店先の魔法灯。


建物に刻まれた防護術式。


それぞれ別々に動いていた魔力回路が、一瞬だけつながった。


そして。


荷馬車の機械馬へ伸びていた青白い光が、空中に浮かび上がった。


「……なるほど」


マリアンヌは、静かに呟いた。


「動力を供給しているのではなく、制御回路を上書きしているのですね」


指を動かす。


街灯の光が、一斉に消えた。


同時に。


機械馬の脚が止まった。


ぎぎぎぎっ!


荷馬車が地面を滑る。


そして。


屋台の手前で、ようやく停止した。


沈黙。


その後。


「……止まった?」


誰かが呟いた。


「……止まったぞ!」


歓声が上がった。


御者は、座席から崩れ落ちた。


「……助かった」


ルークも、子供を抱えたまま息を吐いた。


セシリアが駆け寄る。


「怪我はありませんか?」


「……大丈夫だ」


「その子は?」


「……無事だ」


子供は、泣いていた。


ルークは、少し困った顔で笑った。


「……怖かったな」


そして、ゆっくりと頭を撫でた。


◇


「……ねえ」


エリザベートは、地面へ降りた。


その目は、消えた街灯へ向けられていた。


「さっきまで、光っていたのに」


「はい」


フィオナが答えた。


「今は、消えています」


「そうね!」


「……それと」


フィオナは、リナを見た。


少女は、自分の指先を見つめていた。


何度も、魔法を使おうとしている。


しかし。


炎は生まれなかった。


「……あれ?」


もう一度。


「……どうして」


その声が、小さく震えた。


「……できない」


エリザベートが近づいた。


「リナ?」


少女は、顔を上げた。


「……魔法が」


その目に、涙が浮かんでいた。


「……なくなっちゃった」


◇


「……そう」


エリザベートは、静かに頷いた。


リナは俯いた。


「……せっかく、できたのに」


小さな声だった。


「……私にも、できたのに」


誰も、すぐには言葉をかけられなかった。


フィオナは、測定器を見つめた。


街灯が消えたことで、外部からの魔力供給も停止したのだろう。


それは、理解できた。


しかし。


理解できることと、納得できることは違う。


「……ごめんね」


フィオナが呟いた。


リナは、首を振った。


「……ううん」


そして。


「……また、できるようになるかな」


小さく尋ねた。


フィオナは答えられなかった。


そのとき。


「なるわよ!」


エリザベートが、元気よく答えた。


全員が振り返った。


「……え?」


リナが顔を上げる。


エリザベートは、当然のように続けた。


「だって、さっきできていたのでしょう?」


「……うん」


「なら、もう一度できるようにすればいいじゃない!」


「……でも」


「今度は、ちゃんと自分で使えるようにするの!」


少女は、笑った。


「その方が素敵でしょう?」


リナは、目を瞬かせた。


そして。


小さく頷いた。


「……うん」


その隣で。


フィオナは、黙ってエリザベートを見つめていた。


◇


午後二時。


王都東区。


騒動が収まった後、マリアンヌは一人の老人と向かい合っていた。


「……お久しぶりです」


元学院長。


オスカー・ベルンハルト。


彼は、古い街灯の根元を調べていた。


「……マリアンヌ君」


「はい」


「これは、君が止めたのかね?」


「ええ」


オスカーは、ゆっくりと頷いた。


「……そうか」


「何か、ご存じなのですね」


老人は、しばらく黙っていた。


そして。


「……昔、似たものを作った」


小さく答えた。


「三十年以上前のことだ」


マリアンヌは、続きを待った。


「当時、我々は魔法を誰でも使えるものにしようとしていた」


「……はい」


「魔力量の少ない人間でも、強い魔法を使えるようにする」


「…………」


「それ自体は、今でも間違っていたとは思っていない」


オスカーは、街灯へ手を触れた。


「だが、一つだけ問題があった」


「……何でしょう」


「魔力を供給する側と、受け取る側を、誰が決めるのかという問題だ」


マリアンヌは黙っていた。


老人は続けた。


「当時の装置は、魔力を必要としている者へ、自動的に供給する仕組みだった」


「……なるほど」


「しかし、それでは供給源を決められない」


「…………」


「魔力を持っている者から、必要としている者へ」


オスカーは、小さく息を吐いた。


「本人が望んでいなくてもな」


◇


「……では」


マリアンヌが尋ねた。


「今回の異常も、同じ仕組みでしょうか」


「可能性は高い」


オスカーは頷いた。


「だが、私が関わった研究は、すでに凍結されている」


「存じております」


「……そうか」


老人は、少しだけ目を細めた。


「ガルドが、記録を見つけたのだろう」


マリアンヌは答えなかった。


オスカーは続けた。


「古い術式は、王都の魔力供給網に接続されていた」


「……はい」


「当時の設備は、ほとんど撤去されたはずだ」


「ですが、残っていた」


「……そうだな」


オスカーは、街灯を見上げた。


そして。


「……おそらく、今回の研究によって再起動したのだろう」


マリアンヌは、静かに頷いた。


「それなら、すべて撤去すればよろしいのでは?」


「……できる」


「…………」


「だが、時間がかかる」


オスカーは、通りの先を見た。


王都には、無数の街灯がある。


その下には、古い魔力供給回路が張り巡らされている。


「……それに」


老人は、小さく呟いた。


「一つだけ、気になることがある」


「何でしょう」


「……誰が、あの術式を完成させたのか」


◇


同日、午後四時。


王都中央研究会館。


「……東区で、接続が確認されました」


助手が報告した。


ガルドは、記録を見つめていた。


「……そうか」


「しかし、すぐに遮断されています」


「……なるほど」


「学院長が現場にいたようです」


ガルドは、小さく笑った。


「……また彼女か」


助手は、少し困った顔をした。


「……今後、どのようにいたしましょう」


ガルドは、しばらく黙っていた。


そして。


「……東区の実験結果を見せてくれ」


「はい」


助手は、一枚の記録を差し出した。


『接続数 一』


『接続時間 十九分』


『供給先 七』


『供給源 未特定』


ガルドは、その数字を見つめた。


「……七人か」


小さく呟く。


「一つの接続から、七人へ魔力が供給された」


「……はい」


「それで、供給源は?」


「……特定できておりません」


「そうか」


ガルドは、静かに頷いた。


そして。


「……興味深いね」


助手が顔を上げた。


「……何がでしょう」


「我々の研究では、供給源と供給先を指定していた」


「……はい」


「だが、今回の接続では、それが自動的に決定された」


男は、記録を置いた。


「……つまり」


ゆっくりと笑った。


「我々が作ろうとしていたものを、誰かがすでに完成させている可能性がある」


◇


その日の夕方。


アルヴェイン公爵邸。


「セバスチャン!」


「はい、お嬢様」


「今日ね、魔法が使えなくなった女の子に会ったの!」


「左様でございますか」


エリザベートは、今日の出来事を話し始めた。


突然魔法が使えるようになった少女。


暴走した荷馬車。


それを止めたマリアンヌ。


そして、魔法を失った少女。


老執事は、静かに聞いていた。


「……なるほど」


頷く。


「それで、お嬢様は?」


「私、あの子にも魔法を使えるようになってほしいわ!」


「左様でございますか」


「ええ!」


エリザベートは、元気よく答えた。


「だって、あんなに嬉しそうだったのよ!」


セバスチャンは、微笑んだ。


「……かしこまりました」


そして。


「では、そのようにいたしましょう」


「まあ!」


エリザベートは喜んだ。


「できるの?」


「方法はございます」


「すごいわ!」


「恐れ入ります」


少女は、しばらく考えた。


そして。


「……でも」


首を傾げた。


「あなたが全部やってしまったら、つまらないわね」


「…………」


セバスチャンは、静かに頷いた。


「……左様でございますね」


「ええ!」


エリザベートは、笑った。


「私、フィオナと一緒に作ってみるわ!」


「かしこまりました」


セバスチャンは、深く頭を下げた。


「必要なものがございましたら、何なりとお申し付けくださいませ」


「ありがとう!」


エリザベートは、嬉しそうに自室へ向かった。


その背中を見送り。


セバスチャンは、静かに呟いた。


「……魔力を持たぬ者へ、魔力を与える装置」


少しだけ、目を細める。


「……なるほど」


そして。


「お嬢様は、実に面白いことをお望みになる」


微笑んだ。


◇


同じ頃。


王都の西区。


古い街灯が、一つだけ光った。


青白い光。


その下を、一人の少年が歩いていた。


少年は、足を止めた。


そして。


「……あれ?」


自分の手を見つめた。


指先に、小さな炎が灯っている。


「……何だ、これ」


少年は、驚いた顔をした。


その背後。


家の窓から、一人の女性が顔を出した。


「……あなた!」


「……母さん?」


「……どうしたの?」


「……魔法が」


少年は、笑った。


「……使えるようになった!」


女性は、目を見開いた。


そのとき。


彼女の手から、小さな魔法灯が落ちた。


ぱりん。


床にぶつかり、割れた。


「……あれ?」


女性は、自分の手を見つめた。


いつもなら、簡単に使えるはずの魔法。


それが。


「……どうして」


何度試しても。


発動しなかった。


◇


王都中央研究会館。


地下第三研究室。


誰もいない部屋。


測定装置が、静かに光った。


『接続数 一』


しばらくして。


数字が変わった。


『接続数 二』


そして。


『接続数 三』


誰も操作していない。


誰も命令していない。


それでも。


装置は、動いていた。


――第九十三話・完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。