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第七話 お嬢様の誕生日

悪役令嬢は愛されている


第七話 お嬢様の誕生日


「私、お誕生日が欲しいわ」


王国歴三百二十七年、十二月二十三日。


午前七時。


エリザベート・フォン・アルヴェインは、朝食の席でそう告げた。


「かしこまりました」


老執事セバスチャンは、静かに頭を下げた。


「……あら?」


少女は首を傾げた。


「でも、私のお誕生日っていつだったかしら?」


「四月二日でございます」


「そうだったわね」


「はい」


「でも、今は十二月でしょう?」


「左様でございます」


「待ちきれないわ!」


「かしこまりました」


「今日がお誕生日だったらいいのに!」


「承知いたしました」


「それと、十七歳になりたいわ!」


「かしこまりました」


「でも、十六歳も捨てがたいわね」


「左様でございますね」


「どうしましょう」


少女は少し考えた。


そして、手を叩いた。


「そうだわ!」


「はい」


「十六歳のまま、十七歳のお誕生日を迎えればいいのよ!」


「素晴らしいお考えでございます」


「でしょう?」


エリザベートは満足そうに頷いた。


「では、今日を私のお誕生日にしなさい!」


「かしこまりました」


「お昼までよ!」


「承知いたしました」


今日もお嬢様は大変お元気でいらっしゃる。


実に喜ばしいことであった。


◇


午前七時三十分。


地下第三会議室。


「では、緊急会議を始めます」


セバスチャンが告げた。


「本日の議題は、お嬢様のお誕生日についてです」


「お嬢様のお誕生日は四月二日では?」


マリアンヌが尋ねた。


「本日より十二月二十三日となります」


「なるほど」


「ただし、十六歳のまま十七歳のお誕生日を迎えられます」


「承知いたしました」


エルマーが手を挙げた。


「年齢について、少々確認したいことがございます」


「何でしょう」


「お嬢様は十七歳になりたいとおっしゃいましたが、十六歳のままでいたいともおっしゃいました」


「はい」


「つまり、年齢を十六歳に維持したまま、十七歳の誕生日を迎える必要がございます」


「そのとおりです」


「なるほど」


エルマーは腕を組んだ。


「時間魔法を用いれば、可能かもしれませんな」


「ほう」


「肉体年齢を固定し、暦上の年齢のみを進める方法です」


「結構です」


「しかし、一つ問題が」


「何でしょう」


「お嬢様の誕生日を変更すると、戸籍上の記録と矛盾が生じます」


「なるほど」


セバスチャンは頷いた。


「では、戸籍を変更いたしましょう」


「承知いたしました」


マリアンヌが手を挙げた。


「王国の暦についても、修正が必要では?」


「ほう」


「お嬢様のお誕生日を正式に祝うのであれば、国民全員が認識する必要がございます」


「なるほど」


「では、祝日にいたしましょう」


「結構です」


会議は滞りなく進んだ。


◇


午前八時。


使用人控室。


「本日の教育課題についてですが」


マリアンヌが告げた。


「はい」


レオンは静かに頭を下げた。


「お嬢様のお誕生日を祝っていただきます」


「承知いたしました」


「ただし、通常のお誕生日とは異なります」


「はい」


「お嬢様は、十六歳のまま十七歳のお誕生日を迎えられます」


「承知しております」


「では、最初の質問です」


マリアンヌは一枚の紙を差し出した。


『十六歳のまま、十七歳のお誕生日を迎える方法』


「あなたなら、どうなさいますか?」


レオンは少し考えた。


「……十七歳のお誕生日を祝います」


「ほう」


「年齢を変える必要はございません」


「なぜでしょう」


「お嬢様は、十六歳のままでいたいとおっしゃいました」


「はい」


「ですので、十六歳のまま十七歳のお誕生日を祝えばよろしいかと」


マリアンヌは微笑んだ。


「素晴らしい」


「ありがとうございます」


「ですが、一つだけ」


「何でしょう」


「十七歳のお誕生日とは、十七歳になる日を意味するのでは?」


「……」


「お嬢様は十六歳のままでいたいとおっしゃいました」


「はい」


「では、どうなさいます?」


レオンはしばらく考えた。


そして、静かに答えた。


「……お嬢様にお尋ねします」


マリアンヌは微笑んだ。


「満点です」


◇


午前九時。


王宮。


「誕生日を変えるだと!?」


国王アルベルト三世は、玉座から立ち上がった。


「はい、陛下」


宰相が答える。


「アルヴェイン家より、正式な申請が届いております」


「何の申請だ!」


「エリザベート嬢の誕生日を、本日十二月二十三日に変更するとのことです」


「……勝手にすればよい」


「陛下」


「何だ」


「さらに、本日を王国の祝日とするよう要請が」


「却下だ!」


「……陛下」


宰相は困ったように眉を下げた。


「何だ」


「すでに王都の主要商会が、本日を休業日としております」


「なぜだ!」


「アルヴェイン家より、全商会に補償金が支払われております」


「……」


「また、王都の学校も休校となっております」


「なぜだ!」


「同様に、補償金が支払われております」


国王は頭を抱えた。


「……あの娘は、何を考えているのだ」


「陛下」


宰相が続けた。


「さらに、王都の広場では、すでに祝賀会の準備が進められております」


「……」


「本日正午より、盛大な祝賀会が開催される予定です」


国王は天井を見上げた。


「……もう好きにしてくれ」


◇


午前十時。


アルヴェイン公爵邸、庭園。


巨大な会場が設営されていた。


白いテーブルクロス。


色鮮やかな花々。


豪華な料理。


そして、中央には巨大なケーキ。


高さ、およそ十メートル。


「……大きいですね」


レオンが呟いた。


「当然です」


マリアンヌが答えた。


「お嬢様のお誕生日ですから」


「はい」


「ですが、一つだけ問題がございます」


「何でしょう」


「お嬢様は、十六歳のまま十七歳のお誕生日を迎えられます」


「承知しております」


「では、ろうそくは何本立てるべきでしょう?」


「……」


レオンは少し考えた。


「……十七本では?」


「不正解です」


「……」


「お嬢様は十六歳のままでいたいとおっしゃいました」


「はい」


「では、十六本では?」


「……」


「ですが、十七歳のお誕生日でもございます」


「……」


マリアンヌは微笑んだ。


「難しいですね」


「……はい」


「お嬢様にお仕えするというのは」


◇


正午。


「まあ!」


エリザベートは庭園に広がる光景を見て、歓声を上げた。


「素敵!」


「お誕生日おめでとうございます、お嬢様」


セバスチャンが深々と頭を下げた。


「ありがとうございます!」


少女は満面の笑みを浮かべた。


「本当に今日がお誕生日になったのね!」


「はい」


「ふふっ!」


彼女は嬉しそうに笑った。


「ねえ、セバス!」


「はい」


「私、今何歳?」


「十六歳でございます」


「そうよね!」


「はい」


「でも、今日は十七歳のお誕生日なのよね?」


「そのとおりでございます」


「まあ!」


少女は満足そうに頷いた。


「素敵だわ!」


そのとき。


彼女は巨大なケーキに気づいた。


「……あら?」


「いかがなさいましたか」


「ろうそくがないわ」


「はい」


「どうして?」


セバスチャンは静かに頭を下げた。


「お嬢様のお考えを確認したく存じまして」


「私の?」


「はい」


「十六本と十七本、どちらをご希望でしょうか」


エリザベートは少し考えた。


そして、笑った。


「両方!」


「かしこまりました」


「だって、十六歳でも十七歳でもあるんでしょう?」


「おっしゃるとおりでございます」


「なら、三十三本ね!」


「承知いたしました」


セバスチャンが指を鳴らす。


ケーキの上に、三十三本のろうそくが現れた。


「まあ!」


少女は嬉しそうに笑った。


「綺麗!」


◇


午後一時。


王宮。


「王都中で誕生日を祝っているだと!?」


国王アルベルト三世は、玉座から立ち上がった。


「はい、陛下」


宰相が答える。


「アルヴェイン家の祝賀会が、王都全域に拡大しております」


「なぜだ!」


「商会や貴族たちが、自主的に参加しているためです」


「自主的?」


「はい」


「……本当に自主的なのか?」


宰相は答えなかった。


国王は頭を抱えた。


「……あの娘は、いったい何者なのだ」


◇


午後三時。


アルヴェイン公爵邸、庭園。


エリザベートは、巨大なケーキを前に立っていた。


「ねえ、セバス」


「はい」


「ろうそくを消したら、願い事が叶うのよね?」


「そのような言い伝えもございます」


「本当?」


「お嬢様がお望みであれば」


「ふふっ!」


少女は嬉しそうに笑った。


「じゃあ、願い事をしなくちゃ!」


彼女は目を閉じた。


一秒。


二秒。


三秒。


十秒。


三十秒。


一分。


やがて。


「……できたわ!」


エリザベートは目を開けた。


「願い事、終わったわ!」


「かしこまりました」


「じゃあ、消すわよ!」


少女は大きく息を吸い込んだ。


そして。


「ふうっ!」


三十三本のろうそくが、一斉に消えた。


「まあ!」


エリザベートは歓声を上げた。


「全部消えたわ!」


「お見事でございます」


セバスチャンが深々と頭を下げた。


「ふふっ!」


少女は満足そうに笑った。


「きっと、願い事が叶うわね!」


「必ずや」


◇


午後五時。


地下第三会議室。


「本日の祝賀会についてですが」


セバスチャンが口を開いた。


「無事に終了いたしました」


「ええ」


マリアンヌが頷いた。


「お嬢様は、大変お喜びでいらっしゃいました」


「実に喜ばしいことです」


「ただし」


エルマーが手を挙げた。


「少々、気になることがございます」


「何でしょう」


「本日、お嬢様が願い事をされた直後、王都上空の流星が一つ増加いたしました」


会議室が静まり返った。


「……なるほど」


セバスチャンが頷いた。


「現在、何個でしょう」


「四つでございます」


「そうですか」


「はい」


「では、引き続き観測を」


「承知いたしました」


「ただし、お嬢様の秘密に関わる調査は控えるように」


「もちろんです」


会議は終了した。


◇


午後七時。


エリザベートの寝室。


少女は、窓の外を眺めていた。


夜空には、四つの流れ星が輝いている。


「まあ!」


エリザベートは歓声を上げた。


「また増えてる!」


「はい、お嬢様」


セバスチャンが答える。


「素敵ね!」


「恐悦至極に存じます」


「ねえ、セバス」


「はい」


「私、もう一つ願い事をしてもいいかしら?」


「もちろんでございます」


「ふふっ!」


少女は嬉しそうに笑った。


そして、両手を合わせた。


目を閉じる。


一秒。


二秒。


三秒。


十秒。


三十秒。


一分。


やがて。


「……できたわ!」


エリザベートは目を開けた。


「願い事、終わったわ!」


「かしこまりました」


セバスチャンは深々と頭を下げた。


「お嬢様の願いが、叶いますように」


少女は満足そうに頷いた。


◇


その夜。


王都の空には、五つの流れ星が輝いていた。


誰も知らない。


なぜ、流れ星が増えているのか。


誰も知らない。


エリザベートが何を願ったのか。


そして。


誰も知らない。


その願いが、何を引き起こそうとしているのか。


ただ一つ、確かなことがある。


彼女の願いを叶えるために、世界でも最も優秀な人々が動き始めているということ。


今日も悪役令嬢は、愛されている。


第七話 終

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