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第三十四話 もう一人の私を連れてきなさい

悪役令嬢は愛されている


第三十四話 もう一人の私を連れてきなさい


「やっぱり、あの私を連れてきなさい!」


翌朝。


エリザベート・フォン・アルヴェインは、朝食の席で宣言した。


「昨日の、泣いていた私よ!」


セバスチャンは一礼した。


「承知いたしました」


「それから、もう一人のレオンも!」


「かしこまりました」


「二人とも、今日中によ!」


「最善を尽くします」


少女は満足そうに頷いた。


しかし。


「お嬢様」


レオンが口を開いた。


「何?」


「お二人をお連れするには、先方の世界との往来を確立する必要がございます」


「じゃあ、確立しなさい!」


「承知いたしました」


「簡単でしょう?」


「いいえ」


エリザベートは目を丸くした。


「……簡単じゃないの?」


「はい」


「じゃあ、難しいの?」


「非常に」


少女は、しばらく考えた。


そして。


「まあ!」


嬉しそうに笑った。


「じゃあ、あなたが頑張るところを見られるのね!」


「……はい」


「楽しみだわ!」


レオンは深く頭を下げた。


◇


午前十時。


公爵邸の地下研究室。


エルマーは、昨夜から一睡もしていなかった。


黒板には複雑な魔法式。


床には数百枚の計算用紙。


中央には、昨日の観測装置が置かれていた。


「……理論上は可能です」


エルマーが言った。


セバスチャンが尋ねる。


「成功率は?」


「分かりません」


「……」


「観測した世界が、実際に存在する場所なのか。それとも魂の記憶が作り出した映像なのか。まだ確定しておりません」


レオンが口を開いた。


「実在します」


全員が振り返った。


「……レオン殿?」


「少なくとも、あの世界に相当する場所は存在します」


エルマーは目を細めた。


「……根拠は?」


「私が、そこにいたからです」


沈黙。


セバスチャンが、静かに尋ねた。


「……それは、どういう意味でしょうか」


レオンは答えなかった。


代わりに、観測装置へ歩み寄った。


「エルマー様。昨日の映像を、もう一度表示できますか」


「可能です」


「では、お願いします」


水晶球が輝いた。


光の幕に、燃える王都が映し出された。


瓦礫。


崩れた城壁。


そして、金色の髪の少女。


その隣には、黒髪の青年。


レオンは、静かに指を伸ばした。


「……この場所です」


「何がでしょう」


「王都の東門から、南へ三百歩」


エルマーが映像を拡大する。


「……」


「その先に、地下水路への入口があります」


「……」


「そこを通れば、王城の地下へ出られます」


エルマーは、映像を見つめた。


そして。


「……なぜ、ご存じなのですか」


レオンは、静かに答えた。


「……以前、通ったことがございます」


◇


正午。


エリザベートは、研究室にやってきた。


「まだなの?」


「申し訳ございません」


エルマーが頭を下げた。


「現在、世界間の移動方法を検討しております」


「遅いわ!」


「……」


「レオン!」


「はい」


「あなた、昨日は叶えるって言ったでしょう!」


「はい」


「じゃあ、叶えなさい!」


「承知いたしました」


少女は頬を膨らませた。


「……本当にできるの?」


レオンは、少し考えた。


そして。


「……必ず、方法を見つけます」


静かに答えた。


エリザベートは、しばらく彼を見つめた。


そして。


「……そう」


小さく呟いた。


「……じゃあ、待ってあげる!」


「ありがとうございます」


「でも!」


少女は、満面の笑みを浮かべた。


「待ってる間、退屈しないようにしてね!」


「承知いたしました」


◇


午後三時。


公爵邸の庭園。


エリザベートは、黒竜ポチの背中に乗っていた。


「もっと高く!」


ポチが翼を広げる。


「もっと速く!」


黒竜が空を駆ける。


「ふふっ!」


少女は楽しそうに笑った。


その下で、レオンは空を見上げていた。


隣には、エレオノーラ。


「……レオン」


「はい、奥様」


「……あなた、昨日の世界にいたのね」


レオンは、静かに頷いた。


「……はい」


「……」


「ですが、あの映像のすべてを知っているわけではございません」


エレオノーラは、少し考えた。


そして。


「……あなたは、あの世界で死んだの?」


レオンは、しばらく黙った。


そして。


「……はい」


静かに答えた。


エレオノーラは、目を閉じた。


「……そう」


「……」


「……それでも、あの世界にはあなたがいる」


「……はい」


「……」


エレオノーラは、静かに空を見上げた。


「……死者蘇生、ね」


レオンは、何も答えなかった。


◇


夕方。


研究室。


エルマーが、突然声を上げた。


「……できました!」


セバスチャンが振り返る。


「何がでしょう」


「世界間の接続です!」


「……」


「観測装置を応用すれば、短時間だけ、向こう側とこちら側を繋ぐことができます!」


レオンが尋ねた。


「安全性は?」


「……まだ、分かりません」


「では、先に物体を送ってください」


「承知いたしました」


エルマーは、小さな石を用意した。


魔法陣が起動する。


光の幕が揺れる。


そして。


石が、消えた。


「……!」


全員が息を呑んだ。


数秒後。


光の幕に、石が映った。


瓦礫の上に落ちていた。


「……成功です!」


エルマーが叫んだ。


セバスチャンは、静かに頷いた。


「……素晴らしい」


しかし。


レオンは、何も言わなかった。


彼は、映像の奥を見つめていた。


瓦礫の向こう。


黒髪の青年が、こちらを見ていた。


◇


「……気づかれましたね」


エルマーが呟いた。


映像の中の青年は、ゆっくりと歩み寄ってきた。


その顔は、レオンと同じだった。


ただし。


目元に、小さな傷があった。


こちらのレオンにはない傷だった。


青年は、石を拾い上げた。


そして。


何かを呟いた。


音声は聞こえない。


エルマーが魔法陣を調整する。


「……音声を接続します」


光の幕が震えた。


そして。


『……聞こえるか』


声が響いた。


レオンと同じ声だった。


セバスチャンが息を呑んだ。


『……誰だ』


青年が尋ねた。


レオンは、静かに答えた。


「……レオンです」


沈黙。


映像の中の青年は、しばらくこちらを見つめていた。


そして。


『……そうか』


小さく呟いた。


『……また、来たのか』


レオンの表情が、わずかに変わった。


「……また?」


青年は、静かに頷いた。


『……お前で、三人目だ』


◇


その日の夜。


エリザベートは、研究室へ駆け込んできた。


「レオン!」


「はい、お嬢様」


「できたのね!」


「はい」


「まあ!」


少女は、満面の笑みを浮かべた。


「じゃあ、早く連れてきなさい!」


レオンは、静かに頭を下げた。


「……お嬢様」


「何?」


「……先方と、少しお話をさせていただいてもよろしいでしょうか」


「嫌よ!」


「……」


「私も話すわ!」


レオンは、少し考えた。


そして。


「……承知いたしました」


光の幕が、再び輝いた。


瓦礫の街。


黒髪の青年。


そして、その隣に。


金色の髪の少女が現れた。


エリザベートは、目を輝かせた。


「まあ!」


光の向こうの少女も、こちらを見つめていた。


二人のエリザベートが、向かい合う。


そして。


こちらのエリザベートが、満面の笑みで言った。


「こんにちは!」


向こうの少女は、しばらく黙っていた。


そして。


『……あなた、誰?』


エリザベートは、胸を張った。


「私よ!」


沈黙。


向こうの少女は、目を細めた。


そして。


『……私が、そんなに笑うわけないでしょう』


静かに答えた。


こちらのエリザベートは、目を丸くした。


そして。


「……まあ!」


嬉しそうに笑った。


「あなた、私のこと嫌いなのね!」


第三十四話 終

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