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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
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第92話


 長い長い城の廊下を、イザベルとトモヤ、騎士達が歩いて行く。

 イザベルにぶん回されたトモヤ以外は、皆がにこにこしている。


「イザベル様や、もうやめて下され。ワシは腕がすっぽ抜けるかと思うた」


「そうかそうか!」


 にこにこ。


「何がそんなに嬉しいのじゃ。さっきからにやにやしておって、まるでお貴族様のお顔ではありませぬぞ。それ程に贔屓の馬であったのかの」


「おおそうよ! 丸禅鋤は我がエッセン=ファッテンベルクで育った馬よ! 贔屓せぬ訳があるまい!」


「あっ! そうじゃったか! ううむ、それは仕方ないの」


「うむ! 許せ!」


「おうおう、許すも何も、こんなに目出度い事はなかろうて! ワシも祝おうぞ! イザベル様、おめでとうございまする!」


「はっはっは! 祝うてくれるか! しかし良いのか? 目白女王は日輪国の馬であるぞ」


 ぺしん! とトモヤが額に手を当てる。


「ありゃ! そうであったか。ワシは競馬には、とんと詳しゅうないでの」


「あれも歴史に名を残す名馬よ。日輪国の名馬記念館に必ずや銅像か記念碑が建つぞ。次に出場してきたら、魔王杯は目白女王が取るやもしれぬな」


 くるりとイザベルが後ろの騎士達に振り向き、


「皆々様はどう思われる」


「勿論、目白女王で」

「私もそう予想します」

「うむ。私もです」

「取りますな」


 イザベルがにやりと笑って、


「次も丸禅鋤が出たらどうであろうかな」


「む、ううむ」


「はっはっは! 2年続けて歴史に残るレースとなろう! 激戦の歴史か! うむ! それも良いな!」


 高笑いするイザベルに、トモヤが素朴な疑問を投げかける。


「のう、イザベル様や」


「む、何かな?」


「マサヒデ達やイザベル様の馬は出んのか? 競馬と言えば、どえらい賞金が出ると聞いた事がありまするがの」


「・・・」


 イザベルの笑い声が止まった。

 後ろで、騎士達も目をちらちらと見合わせている。

 登録などは面倒だが、登録が出来てしまえば、地方レースを荒らせそうだ。

 次の年には、もう重賞にも出られるのではないか?


 馬の傾向からして、イザベルの馬は障害走もしくはダート。距離は長短こなせる。

 騎士達の馬は、中距離から長距離向けか。パワーがあるから芝もダートも行ける。


「イザベル様もそうじゃが、騎士の皆様もあれじゃ、ファッテンベルクの兵隊の方々と、笑い声を上げて、馬で駆け回ってござったろう。イザベル様の家の兵は、どれも皆、馬の達者でござろうが。であれば、皆様も競馬に出られるのではあるまいか?」


「む」


「国に帰ったらあれじゃ。マサヒデは皆々様は騎士にもなれようと言うておったが、騎士なぞより、競馬はどうじゃ。こっちの方が儲かるのではござらぬか」


 騎士と言っても、彼らは雇われ。国に帰れば、もう職なしで、冒険者か傭兵に戻るしかない。

 マサヒデから太鼓判はもらっているし、先の事を考えれば、王宮騎士の試験をと考えていたのだが・・・


「む」「ううむ」「・・・」「ぬう」


「ところで、イザベル様。魔王杯の賞金はいくらなのじゃ?」


「優勝で金1万枚だ」


 トモヤが驚いて身を仰け反らせる。


「な、なにい!? きき金? 金貨で1万枚じゃと仰られたか!? 銀でなく金でござるか!?」


「と言っても、我が家には銅貨1枚も入らぬぞ」


 トモヤの頭が高速回転。

 銀行に預けておけば、利子だけでもかなりの額が毎年出る。

 年利0.5%で計算しても、10000×0.005=50枚。

 1年は12ヶ月。1ヶ月に4枚以上の金貨が入る事になる。

 これは有名職人の月収と同じくらいで、平民ではかなりの月収である。

 それが働かずに、毎年ぽんぽんと手に入ってしまうようになるのだ!


 つつつ、とトモヤが騎士達の所に下がって行く。


「のう。日輪国の競馬はどうでござるかの。金貨1万枚と言えば、銀行の利子だけで、一生働かずに済みまするぞ」


「日輪国では、確か国王杯で1000枚ですな」


「ふむ。10年分でございまするか。10年は流石に馬も持ちはしますまいの」


 騎士の1人、サクマが頷く。


「競馬となると、頑張っても現役5年が良い所でしょう。どうしても怪我が出ます」


 別の騎士、リーが首を振り、


「いやいやサクマ殿、重賞でなければ、レースはどこでもやっておりますぞ。むしろ地方を楽に荒らした方が。我らの馬は、芝もダートも行けましょう。そしてタフさが売りです。そっちで稼いだ方が」


「しかし、競馬で走らせるとなれば、若いうちにせめて1度は重賞を・・・」

「マサヒデ殿の馬は借りられませぬかな・・・」

「カオル殿であれば2頭持っておられますし・・・」

「競馬の賞金の場合、税金はどうでありましょうか・・・」


 こそこそ話す5人を、イザベルが訝しげな目で見て、


「何か?」


 びく! とトモヤが顔を上げ、


「あいや! 何でもござらぬ! のう、サクマ殿?」


「そう! うむ、何もございませぬぞ!」


 うむうむ! と騎士達が頷く。


「左様で。では参りましょう」


 くるっと振り返ったイザベルが、にやっと笑った。

 狼族の耳には、全て聞こえていたのだ。



----------



 さて、マツから逃げ出したマサヒデは、なんと魔王様の執務室に隠れていた。


 執務室に入って最初に兜の魔王様が「大変であったな」と声を掛けてくれはしたが、その後は書類や手紙と格闘中である。


(凄いな!?)


 どんどん積んでいかれる何かの書類に「保留」「却下」と、箱に分けていく。

 ばんばんと印を押していく物は「これは何たら省へ」「これはどこどこへ」と渡された書類が書記官らしき者に渡され、各省庁の名が書かれた箱に分けられていく。

 恐ろしい早さだが、ちゃんと目を通しているのが分かる。たまに「馬鹿な事を」「何を考えておる」「此奴は良い所に目を」など、ぶつぶつ言っているのだ。

 しかし、書類はどんどん運ばれるので、魔王様の机の上の山は中々減らない。


 で、マサヒデである。


 マサヒデは手伝う事は出来ない。何しろ魔王様の所まで上がってくる書類であるから、どれも軽々と目を通して良い書類ではないのだ。


 というわけで、ここでやる事はないので、執務室の奥に大きな机が置かれ、その上にいくつかの武器類が並べられ、それを見ていて暇を潰していろ、との事。

 魔術の籠もった物もあるので、念を込めるような事はするな、とだけである。

 飯は運んでくれるが、便所に出る際は気を付けろ、と、兜の下の魔王が笑った。


 よく見る剣もあり、長物もあり・・・

 見て気付いた事は、基本的に人の国と形状は変わらないという事。

 流石に太刀や刀はないが、長物などはそれが顕著である。

 違いと言えば、刃が分厚かったり、大きな物が多い事。

 ただ、そういう物は日輪国でも見る。


 片鎌槍とか、大身槍とか、長巻き、薙刀であったり、偃月刀であったり・・・

 ほとんど同じ。そして、どれもが見事な作だ。その頑丈さが一目で分かる。

 魔族は人族より頑丈な者が多いのだ。大きく頑丈になるのは当然の進化である。

 であるから、鍛冶族も進化して、どんどん頑丈に、そして大きく作っていくのだ。

 魔の国には他国との戦はなかったが、野盗や魔獣の退治ばかりしていても同じ事だ。


 このような得物を振り回す兵が大量にいる。魔の国とは戦いたくはないものだ。


 弓だって、イザベルは10貫(約80ポンド)を軽々と引いている。

 金がなくて用意こそ出来なかったが、30貫までの弓は普通に引けると言う。

 しかも、総鉄製の矢も使う。

 鎧を軽くぶち抜き、後ろにいる兵まで突き刺さるだろう。


 そんな弓兵が大量に並ぶ戦場に・・・絶対に行きたくない。

 昔の人族は、よくも魔の国と戦をしよう、などと考えたものだ。

 魔族の事を良く知りもしなかった、という事もあるのだが、愚かな事だ。


(ふむ)


 槍を取ってみる。

 懐紙を出して、刃に乗せ、軽く押さえてみる。


(はあて、なあ)


 マサヒデは首を傾げて、柄の先の方を手に乗せ、上げたり下げたり・・・


(ううむ)


 穂先に対し、柄がやわすぎる。

 これは柄が変えてあるのか、魔術でも籠めてあるのか。

 振り回した時、一番負担が掛かるのは、刃ではなく、柄に入っている茎の方。

 てこの原理で、どうしてもそうなるのだ。


 刀だって、柄がやわではすぐ割れる。だから、柄巻師がいるのだ。

 あれは美しく見せるとか、滑り止めというだけでなく、柄を破損から守るのだ。

 白鞘で斬ったりすれば、すぐ柄が割れる。


 さて、この槍。こんなに大きな刀身が当たったら、柄にかかる力も相当であろう。

 これでは、振り回して刃が当たると、柄が簡単に折れる。

 おそらく、元は鉄芯とかであったのでは?


「なるほどなあ・・・」


 長い柄に気を付け、穂先の方を見ていく。

 鍛冶族の作に共通する、見事な柾の詰み。見た目以上のずっしりした重さ。がっちり鋼が詰まっているのだ。これは頑丈。研ぐのが大変そうだ。

 美術的な美しさは皆無だが、日輪国では保存刀剣は軽く通りそうな出来である。

 魔の国では、このくらいが普通なのか。


(いや、わざわざ見せてくれるんだから、上物の方か)


 くるりとひっくり返す。

 乱れがないと言うか、刃紋はえらくすっきりというか、ないに等しい。

 元々、日輪国とは刃の作り方が違うのだから、こうなって当然なのだが、その辺りは楽しめない。だが、この鍛え肌は素晴らしい。


 穂先を上に持ち上げ、下から覗き込むように、左右にゆっくりと動かす。

 飾り気なく無骨。

 槍と言えば突く、叩く、程度に思われがちだが、普通に斬りもする。

 だが、この刃は斬れ味自体は鈍いであろうから、斬る時は、魔族の力で押し込んで斬るような感じに使うのか。


(そうなると、だ)


 やはり、柄に負担がぐっと掛かる。

 こんこん、こんこん、と刃の根本から、軽く指先で叩いて、柄を確認。

 やはりただの木。

 これでは振ったり叩いたりした時に、穂先が当たると、柄の中で茎が当たった所から、簡単に折れてしまうだろう。一応、目釘は上下2本入れてはあるが、とても耐えきれまい。マサヒデが振ってもすぐ折れそうだ。


 となると、鉄芯にせずとも、最低限、外から革なり鉄の輪なりを巻くような補強は必要。やはり、柄の方は変えたのだ。

 展示用か。で、なければ・・・


(柄の方になにか魔術でも籠められているかな?)


 マサヒデには分からないが、何らかの頑丈になるような魔術が籠められているのかもしれない。

 当然だが、刀身が大きいから、均整は大きく先に寄る。

 まあ、長物は全部そうだが・・・


 立ち上がって、構えてゆっくりと左右に動かしてみる。


(難しいな!)


 先重に過ぎる。ぎしっと音がしそうな程に、先が沈み、柄が下に曲がる。

 これは扱いが難しい。真っ直ぐ突くと、穂先が下を向いたまま前に突かれる。

 そのまま入ったら、ぽきっ。である。


 ただ突くだけでもかなり難しい。少し下に沈めるようにして、真っ直ぐ。

 沈め過ぎると穂先が上を向くから、それでも折れる恐れがある。

 それか、足に向かって突くようにするか。そういう使い方も悪くはないが。


 やはり、鉄芯などを入れて補強しなければ、ただ突くのも難しい。

 だが、そうするとえらく重くなる。人族ではトモヤのような力自慢でないと振り回すのは難しい。マサヒデではすぐ限界だ。


「ううむ・・・」


 魔族はこんな得物を軽く扱うのか!

 頷いて、槍を置き、次の得物を持ってみる。

 持ってみて、ううむ、と、またマサヒデが唸る。

 一瞬、魔王がちらりとマサヒデを見たが、すぐに書類に目を戻した。


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