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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
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第9話


 魔の国の南大陸最大の貿易港を持つ都市、ジョアル。


 マサヒデ達はこの町の冒険者ギルドで、ほんの数日だけ、出稽古を行う事になった。

 冒険者ギルドに貸しを作るという目的もあるが、そんな事は小さな事。

 一番大きな目的は、本場、魔の国の冒険者達の腕から、この地の者達の強さを計ろうという事である。


 予定は2、3日。時間もないので、取り敢えず総当たりでとにかく立ち会うという、稽古と言うよりも、武術を体験してもらおう、くらいの感じである。


 そして、こちらはカオル。


「……」

「……」


 犬族の冒険者と見合っている。

 時折、びく! と、大上段に構えられた冒険者の木剣が動く。


「勘の鋭い事で」


 カオルは正眼に構えたまま、ぴくりとも動いていない。ように見える。

 実は、稽古着の下で動くくらい、上半身を微妙に動かしている。

 下がったり、前に出たり。半寸にも満たない動き。

 一種の誘いやフェイントと言える動きである。

 マサヒデも無意識にこれをよく使う。


 人というのは、見えなくても、この程度の動きに敏感に反応してしまうのだ。

 魔族でなくとも、人族でもそう。

 目で認知出来ていなくても、身体の反射で自然とそうなる。


 この見えない動きに釣られて、冒険者は剣を振り下ろしそうになるのだが、勘で止めている。本能が危険だ、と察知して止めているのだ。


「あまり長いお見合いもなんですので……」


 す、とカオルが右脇構え。

 上段に対し、あまりにも無防備な構え。

 だが、どちらも攻撃的な構えである。

 カオルは頭をさらしているし、冒険者は胴から下をさらしている……


「は!?」


 気付いた時には、カオルの竹刀の先が、冒険者の目の前。

 う! と冒険者が顎を上げる。

 横で見ていた冒険者達には、何故避けなかった? と見えたろう。


「ふふ。急に目の前に来て驚きましたか」


「はい……」


 無願想流は剣から出ていくので、身体の起こりがほぼないに等しい。

 目の良い者ほど、出来る者ほど、普段から対する相手の起こりに敏感なものだ。

 やはりこういう動きには慣れていなかった。

 結果、あ、振り出した、と見えた時には、もう目の前に来ている、となる。


「これがトミヤス流、と言った所です」


「あ、あれえ? いや、参りました」


 冒険者がすごすごと帰って行く。


「お前、何しとんねん。あんな遅いの避けれるやろ」

「いや、分っからん……気付いたら目の前にあんねんて」

「何言うとんねん」

「や、ほんまに。魔術みたいの使っとんのかなあ……何やろ?」


 くす、とカオルが笑った。


「聞こえておりますよ。魔術や催眠術など、一切使っておりません」


「あ! すません!」


「これは技術です。次の方、どうぞ」



----------



 こちらはイザベルで……


「ふんっ!」


 がつん! と冒険者の木剣が、イザベルの馬鹿でかい木剣に叩き落とされる。


「あいった!」


 びいん、と痺れた手を、冒険者が振る。


「その程度か! 次!」


「あざした!」


 冒険者が頭を下げて下がって行く。


(ぬうっ!)


 大きな声を上げてはいたが、イザベルは心中で渋い顔をしている。

 中々、アルマダのように擦り落としが出来ない。

 弾いたり、叩き落とすだけだ。


(だが、良い練習台!)


 正中を取り、割り入るというだけなのだが……

 散々練習して、自分はこの程度か!


「おなしゃす!」


 槍の冒険者が前に立つ。


「参れ!」


 槍でも正中を取り、割り入るのみ。

 それで擦り落としはなる!


「でりゃ!」


「ふん!」


 かすー! とイザベルの剣の腹を滑り、槍が逸れていくが、す、とイザベルは軽い半身。流しきれていない。剣先も正中から外れた。


(ち!)


 踏み入りながら、冒険者の額の前に木剣を置く。


「う」


「ここまでだ! 下がれ!」


「あざした!」


「次! 参れ!」



----------



 シズクも張り手が終わり、冒険者と立ち会っているが……


 こおん!

 シズクが構えた棒に、冒険者の木剣が弾かれる。


「ういって!」


「ほいほい」


 薙ぎ払い。

 シズクが棒を立てる。

 こおん!


「あいたーっ!」


「どしたどした」


 弾く時、ほんの少しだけ棒を押し出しているので、物凄い痺れが冒険者の手に響く。


「ひぇー……」


 ふりふり、と冒険者が手を振る。


「おいおい、情けねえなあ。本場の魔族がこんなもんか? 人の国の冒険者のが、遥かにマシだぞお」


「ちきしょらあーっ!」


 ふいっと半身に避け、冒険者の腰に棒を当て、更にくるっと回る。

 棒で押し出されるように、冒険者が前にすっ転ぶ。


「あららあ。こりゃ痛い!」


 言いながら、こつん、と転んだ冒険者の頭に棒の先を当てる。


「はい、ここまでー」


「うーん! あざっした!」


 冒険者が立ち上がり、頭を下げて下がって行く。


「次は誰だあ? つまんにゃいぞおー。にゃーんちゃって! あはは!」


 ははは! と冒険者達が笑う。

 ここは楽しくやっている。



----------



 そのマサヒデ達の様子を、最初にマサヒデに飛び掛かっていった冒険者、リュウが、腕を組んでじっと見つめていた。

 鋭い目の冒険者が1人やって来て、リュウの横に座ると、う、と他の冒険者達が驚いて、離れていく。


「やられたのか」


「ハヤテ……ああ。7割程度でいけるかと思ったが、7割じゃ掠りもしねえな」


 ん、と冒険者が少し驚いた。


「お前の7割でか」


「ああ」


「そうか。あいつらは本物か」


「見ての通りだ」


 冒険者がマサヒデ達を見る。


 するりするりと槍を避けるマサヒデ。

 かすん、と剣を落とすアルマダ。

 相手の反応の前に竹刀を突きつけるカオル。

 怒鳴りながら木剣を弾くイザベル。

 笑いながら、ごん、ごん、と木剣を受けるシズク。


「ほう……なるほどな。お前、素手の間合いでやられたのか」


「ああ」


「そうか。どうするんだ」


 にやあ、とリュウが笑った。


「やるだろ。本気で」


 答えた時に、マサヒデがちらりとハヤテを見た。

 ハヤテはにっこり笑って、手を振る。


「お前なあ!」


 リュウがハヤテに掴みかかったが、ハヤテはその手を払い除け、


「あいつらは別に敵ってわけじゃねえんだぜ」


「ちっ!」


「力試しには持って来いの相手だろう。胸を借りようじゃないか」


 リュウが拗ねた顔で腕を組む。


「くくく……今まで、本気でやるって事は、そうなかったからな……」


 ハヤテが狂気を交えた笑みを浮かべた。


「お前、その笑い方、何とかならねえのか」


「これが素だからな。あいつらは明日も来るのか?」


「らしいな」


「そうか。なら、急ぐ必要はないな。明日で良いか……稽古で本気でいかねえってのは、失礼ってもんだろ?」


「ああ」


「下準備に行ってくる。明日は早起きしろよ」


「ああ」


 ハヤテと呼ばれた冒険者は立ち上がり、軽く頭を下げて、訓練場を出て行った。

 残ったリュウは、じっとマサヒデ達を睨んでいた。


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