第9話
魔の国の南大陸最大の貿易港を持つ都市、ジョアル。
マサヒデ達はこの町の冒険者ギルドで、ほんの数日だけ、出稽古を行う事になった。
冒険者ギルドに貸しを作るという目的もあるが、そんな事は小さな事。
一番大きな目的は、本場、魔の国の冒険者達の腕から、この地の者達の強さを計ろうという事である。
予定は2、3日。時間もないので、取り敢えず総当たりでとにかく立ち会うという、稽古と言うよりも、武術を体験してもらおう、くらいの感じである。
そして、こちらはカオル。
「……」
「……」
犬族の冒険者と見合っている。
時折、びく! と、大上段に構えられた冒険者の木剣が動く。
「勘の鋭い事で」
カオルは正眼に構えたまま、ぴくりとも動いていない。ように見える。
実は、稽古着の下で動くくらい、上半身を微妙に動かしている。
下がったり、前に出たり。半寸にも満たない動き。
一種の誘いやフェイントと言える動きである。
マサヒデも無意識にこれをよく使う。
人というのは、見えなくても、この程度の動きに敏感に反応してしまうのだ。
魔族でなくとも、人族でもそう。
目で認知出来ていなくても、身体の反射で自然とそうなる。
この見えない動きに釣られて、冒険者は剣を振り下ろしそうになるのだが、勘で止めている。本能が危険だ、と察知して止めているのだ。
「あまり長いお見合いもなんですので……」
す、とカオルが右脇構え。
上段に対し、あまりにも無防備な構え。
だが、どちらも攻撃的な構えである。
カオルは頭をさらしているし、冒険者は胴から下をさらしている……
「は!?」
気付いた時には、カオルの竹刀の先が、冒険者の目の前。
う! と冒険者が顎を上げる。
横で見ていた冒険者達には、何故避けなかった? と見えたろう。
「ふふ。急に目の前に来て驚きましたか」
「はい……」
無願想流は剣から出ていくので、身体の起こりがほぼないに等しい。
目の良い者ほど、出来る者ほど、普段から対する相手の起こりに敏感なものだ。
やはりこういう動きには慣れていなかった。
結果、あ、振り出した、と見えた時には、もう目の前に来ている、となる。
「これがトミヤス流、と言った所です」
「あ、あれえ? いや、参りました」
冒険者がすごすごと帰って行く。
「お前、何しとんねん。あんな遅いの避けれるやろ」
「いや、分っからん……気付いたら目の前にあんねんて」
「何言うとんねん」
「や、ほんまに。魔術みたいの使っとんのかなあ……何やろ?」
くす、とカオルが笑った。
「聞こえておりますよ。魔術や催眠術など、一切使っておりません」
「あ! すません!」
「これは技術です。次の方、どうぞ」
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こちらはイザベルで……
「ふんっ!」
がつん! と冒険者の木剣が、イザベルの馬鹿でかい木剣に叩き落とされる。
「あいった!」
びいん、と痺れた手を、冒険者が振る。
「その程度か! 次!」
「あざした!」
冒険者が頭を下げて下がって行く。
(ぬうっ!)
大きな声を上げてはいたが、イザベルは心中で渋い顔をしている。
中々、アルマダのように擦り落としが出来ない。
弾いたり、叩き落とすだけだ。
(だが、良い練習台!)
正中を取り、割り入るというだけなのだが……
散々練習して、自分はこの程度か!
「おなしゃす!」
槍の冒険者が前に立つ。
「参れ!」
槍でも正中を取り、割り入るのみ。
それで擦り落としはなる!
「でりゃ!」
「ふん!」
かすー! とイザベルの剣の腹を滑り、槍が逸れていくが、す、とイザベルは軽い半身。流しきれていない。剣先も正中から外れた。
(ち!)
踏み入りながら、冒険者の額の前に木剣を置く。
「う」
「ここまでだ! 下がれ!」
「あざした!」
「次! 参れ!」
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シズクも張り手が終わり、冒険者と立ち会っているが……
こおん!
シズクが構えた棒に、冒険者の木剣が弾かれる。
「ういって!」
「ほいほい」
薙ぎ払い。
シズクが棒を立てる。
こおん!
「あいたーっ!」
「どしたどした」
弾く時、ほんの少しだけ棒を押し出しているので、物凄い痺れが冒険者の手に響く。
「ひぇー……」
ふりふり、と冒険者が手を振る。
「おいおい、情けねえなあ。本場の魔族がこんなもんか? 人の国の冒険者のが、遥かにマシだぞお」
「ちきしょらあーっ!」
ふいっと半身に避け、冒険者の腰に棒を当て、更にくるっと回る。
棒で押し出されるように、冒険者が前にすっ転ぶ。
「あららあ。こりゃ痛い!」
言いながら、こつん、と転んだ冒険者の頭に棒の先を当てる。
「はい、ここまでー」
「うーん! あざっした!」
冒険者が立ち上がり、頭を下げて下がって行く。
「次は誰だあ? つまんにゃいぞおー。にゃーんちゃって! あはは!」
ははは! と冒険者達が笑う。
ここは楽しくやっている。
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そのマサヒデ達の様子を、最初にマサヒデに飛び掛かっていった冒険者、リュウが、腕を組んでじっと見つめていた。
鋭い目の冒険者が1人やって来て、リュウの横に座ると、う、と他の冒険者達が驚いて、離れていく。
「やられたのか」
「ハヤテ……ああ。7割程度でいけるかと思ったが、7割じゃ掠りもしねえな」
ん、と冒険者が少し驚いた。
「お前の7割でか」
「ああ」
「そうか。あいつらは本物か」
「見ての通りだ」
冒険者がマサヒデ達を見る。
するりするりと槍を避けるマサヒデ。
かすん、と剣を落とすアルマダ。
相手の反応の前に竹刀を突きつけるカオル。
怒鳴りながら木剣を弾くイザベル。
笑いながら、ごん、ごん、と木剣を受けるシズク。
「ほう……なるほどな。お前、素手の間合いでやられたのか」
「ああ」
「そうか。どうするんだ」
にやあ、とリュウが笑った。
「やるだろ。本気で」
答えた時に、マサヒデがちらりとハヤテを見た。
ハヤテはにっこり笑って、手を振る。
「お前なあ!」
リュウがハヤテに掴みかかったが、ハヤテはその手を払い除け、
「あいつらは別に敵ってわけじゃねえんだぜ」
「ちっ!」
「力試しには持って来いの相手だろう。胸を借りようじゃないか」
リュウが拗ねた顔で腕を組む。
「くくく……今まで、本気でやるって事は、そうなかったからな……」
ハヤテが狂気を交えた笑みを浮かべた。
「お前、その笑い方、何とかならねえのか」
「これが素だからな。あいつらは明日も来るのか?」
「らしいな」
「そうか。なら、急ぐ必要はないな。明日で良いか……稽古で本気でいかねえってのは、失礼ってもんだろ?」
「ああ」
「下準備に行ってくる。明日は早起きしろよ」
「ああ」
ハヤテと呼ばれた冒険者は立ち上がり、軽く頭を下げて、訓練場を出て行った。
残ったリュウは、じっとマサヒデ達を睨んでいた。




