第8話
マサヒデ達が準備室に入ると、騒がしかった準備室が静まった。
少しして、冒険者達がこそこそと話し出す。
(あれ……トミヤスはんちゃうんか)
(ああ。ワシ、昨日見たで。あれトミヤスはんや)
(ちゅことは、あれか。あの子がお弟子のカオルちゃん)
(ほな、あの色男がハワード様か)
(鬼。闘将マフラーやで。闘将シズクや)
(したら、あのスーツのが)
(せや。ファッテンベルク様や。こらごついの来たで)
ごと、とマサヒデが愛刀、雲切丸を置くと、こそこそ喋っていた冒険者達が静まった。
マサヒデがゆっくりと手前の冒険者に目を向ける。
「どうも」
「あ……どもっす」
「トミヤス……自己紹介はいりませんか。ご存知のようで」
「なんちゅか、はい。知っとります」
「今日と明日……明後日もあるかもしれませんが」
「はい」
「私達、こちらで、出稽古をする事になりました」
ざわ、と冒険者達が声を上げる。
「えっ!?」
「いや出稽古でっか!」
「まあじすかっ!」
「ええ。今、言いましたが、出稽古です」
「稽古つけてくれはるんすか!」
やはり、オリネオの冒険者ギルドでマサヒデが稽古をし、冒険者達が腕を急に上げた、という話はこちらにも伝わっているようだ。誇張された噂のようなものであろうが……
マサヒデはにこっと笑って、
「はい。これはお互いにという事で。私も、皆さんの経験から学んだ知識と言うか、戦い方というか……そういうのが欲しいのです。稽古と言うよりも、技術の交流という感じで。宜しくお願いします」
「宜しくお願いします!」
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そして、マサヒデ達が訓練場に立つ―――
「最初に質問しますけど、シズクさんに精魂注入(張り手)をもらいたいという方、いらっしゃいますか」
ばばば! と手が上がった。半分以上いる。やはりか。
「稽古の前にもらって下さい。稽古の後はきついと思いますから。さ、シズクさん」
「おう!」
どすん! とシズクが踏み出して、拳を挙げる。
「精魂注入じゃあー! 並べっ!」
「「「応!」」」
「いくぞーっ!」
ばあちーん! どすんっ! ごろり……
「……」
本来ならここで「ありがとうございました」と立つ所なのだが、立ち上がらない。
シズクは吹っ飛んで倒れた冒険者を指差し、
「あ、ごめん。誰か運んだげてくれる? 死んではないと思う」
「思う、ですか」
「こら! 気合入れんかい! こんなんでビビってどうする! 人族でも私の張り手うけてるぞ!」
「まじすか」
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……というやり取りを尻目に、マサヒデは竹刀をぱしん、ぱしん、と手に当て、
「私とカオルさんは木刀でなく竹刀です。これは皆さんが大きな怪我をされると困るから。皆さんには冒険者という仕事があるからです。私達はただの浪人。職なしの武術家です。これでも武術家ですから、皆さんの木刀、木剣で頭を潰されようと、一向に問題ないです。ハワードとか、レイシクランだとか、ファッテンベルクとか、貴族からの文句も一切出ないです。勿論、弓、鉄砲、魔術、札、何でも使って下さい」
「「「はい!」」」
「アルマダさんとイザベルさんは得物が剣なので、木剣を使います。2人共、出来る限り気を付けますが、皆さんも気を付けて下さい。この2人の木剣は、真剣と変わりないですから、そのつもりで立ち回って下さい」
「「「はい!」」」
「それから、私達は予定があるので、長滞在出来ません。今日を入れて2日か、せいぜい3日。時間もありませんし、出来る限り、同じ相手でなく、全員と立ち会うようにして下さい。私達は全員、動きは全く違いますからね」
「「「はい!」」」
マサヒデが目配せすると、皆が頷いて、集まった冒険者達を囲むように、距離を取ってバラける。
「では、お好きな相手に、1人ずつどうぞ」
全員、一瞬の躊躇があったが、1人、真っ先に立ち上がった。
ばしん! と手の平に拳を叩き付け、にやりと笑う。
「トミヤス。お前が一番強いのか」
「さあ……得意不得意もありますから、何とも」
「そうかい」
にやにや笑いながら、冒険者がマサヒデの前に出て来る。
(おや?)
他の冒険者達の様子がおかしい。
皆、顔色を悪くして、マサヒデではなく、出て来た冒険者の背を見ている。
(これは中々?)
武器を持っていない。拳が真剣、という事か。
だが、マスダ程ではない(※米衆連合国編・43話)。
もろに殺気を出しているが、流石にマスダ程の危険は感じない。
たらん、とマサヒデが竹刀を無形に垂らす。
「頭あ潰されて文句ねえってなあ!」
するりと外に半身。
冒険者の右拳が目の前を通り過ぎた。
「ほう」
「んっ!」
マサヒデの竹刀の先が、冒険者の足を止めている。
ここで蹴りを出してくるつもりなのは見えた。
しっかりと次の準備が出来ている。流石だ。
そして、止められても驚いていない。
「けあーっ!」
出した右拳がそのまま横に振られる。
が、マサヒデは相手の腹に頭を乗せるようにして、すっと頭を下げた。
後頭部の髪が、冒険者が振った腕の袖で、ばさっと流れる。
「つかっ」
同時に左手がマサヒデの頭に向かう。
が、マサヒデは背を伸ばしながら、くるりと回り、冒険者の腰の後ろに腰を付ける形で立った。
「まえて……ねえな……」
腰を入れつつ、冒険者の膝の裏に竹刀を当て、くいっと持ち上げるように竹刀を上げると、ばたん! と冒険者が倒れた。
「かはっ!」
声を上げたが、冒険者は一瞬で膝立ちに立ち上がった。
が、顔の前に、竹刀の先。
「うっ」
「ここまでです」
「……」
「どうしました。ここまでです」
「もらったっ!」
がば! と冒険者が地面に伏せ、手で足を払いにきたが、すっと空振り。
直後、とすん、と冒険者の首の横にマサヒデの踵が軽く落ちた。
「稽古でなければ、死んでましたよ」
こつん、とマサヒデの竹刀の先が、冒険者の首の後ろに当たる。
「ちっ!」
冒険者が立ち上がり、ばたばたと稽古着をはたきながら下がって行く。
(あれはちゃんとした武術だ。古流の空手っぽいな?)
マサヒデは少し驚いて、冒険者を見送る。
(おい、やべえぞ。リュウさん相手にあれて)
(動きおかしで、あれ……なんか速くあれへんのに、すりんて避けたで)
(しゃあけど、ぶっ叩かれる事はあれへんみたいやな。俺いくわ)
「自分いきます!」
冒険者が1人立ち上がると、他も立ち上がり、アルマダ、カオル、イザベルに向かって行く。
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かすん!
アルマダの擦り落とし。
冒険者が振り下ろした木剣に割り入って、冒険者の木剣は地面に叩き付けられ、アルマダの木剣の剣先は冒険者の喉元。
「なっ……何で!?」
「これが剣術というものです」
「もっかい、いいすか!」
「時間もありますので、もう一度だけ」
「おなしゃす!」
横の薙ぎ払い。
これも横に割り入って、冒険者の木剣は大きく横に押されるように流され、横に身体を崩す。アルマダが返した木剣が、冒険者の喉元に。
「な、何でえ!?」
「ふふふ。これが剣の術。剣術です。仕掛けは別に難しい事ではないです。出来る出来ないはまた別ですが」
「あざした。参りました」
冒険者が頭を下げると、アルマダも頭を下げ、
「いやあ、流石に速い。ですが、動きの起こりが丸見えですから、少し心得のある人には、簡単にいなされますよ」
「はい」
すごすごと冒険者が下がって行く。
下がって行く冒険者を笑顔で見送りつつ、アルマダは驚いていた。
(流石! 魔の国本国は違う!)
オリネオに居た魔族の冒険者とは違う。
速いし、何よりも勘が恐ろしく鋭い。
当然種族の差もあるが、危険な仕事が多いからであろう。
(なるほど。武術が発展しないわけだ)
だが、動きは単に力任せな部分が多く、技術は雑。
その身体も固く、伸びやかでなく、所々で力が止まっている。
余計な力を使い過ぎ、折角の魔族の力を、自分で殺してしまっているのだ。
以前のイザベルが似たような状態だった。
これなら、長く稽古に参加してくれたオリネオの冒険者達なら、負けはしない。
ある程度武術の心得があるなら、驚かなければ対処は出来る。
大抵は驚いてしまうだろうが……
アルマダはにっこり笑って、次を促す。
「まあ、皆様、そう緊張なさらずに。剣術というものを体験するくらいの感じで。次の方、どうぞ」




