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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
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第8話


 マサヒデ達が準備室に入ると、騒がしかった準備室が静まった。


 少しして、冒険者達がこそこそと話し出す。


(あれ……トミヤスはんちゃうんか)

(ああ。ワシ、昨日見たで。あれトミヤスはんや)

(ちゅことは、あれか。あの子がお弟子のカオルちゃん)

(ほな、あの色男がハワード様か)

(鬼。闘将マフラーやで。闘将シズクや)

(したら、あのスーツのが)

(せや。ファッテンベルク様や。こらごついの来たで)


 ごと、とマサヒデが愛刀、雲切丸を置くと、こそこそ喋っていた冒険者達が静まった。

 マサヒデがゆっくりと手前の冒険者に目を向ける。


「どうも」


「あ……どもっす」


「トミヤス……自己紹介はいりませんか。ご存知のようで」


「なんちゅか、はい。知っとります」


「今日と明日……明後日もあるかもしれませんが」


「はい」


「私達、こちらで、出稽古をする事になりました」


 ざわ、と冒険者達が声を上げる。


「えっ!?」

「いや出稽古でっか!」

「まあじすかっ!」


「ええ。今、言いましたが、出稽古です」


「稽古つけてくれはるんすか!」


 やはり、オリネオの冒険者ギルドでマサヒデが稽古をし、冒険者達が腕を急に上げた、という話はこちらにも伝わっているようだ。誇張された噂のようなものであろうが……

 マサヒデはにこっと笑って、


「はい。これはお互いにという事で。私も、皆さんの経験から学んだ知識と言うか、戦い方というか……そういうのが欲しいのです。稽古と言うよりも、技術の交流という感じで。宜しくお願いします」


「宜しくお願いします!」



----------



 そして、マサヒデ達が訓練場に立つ―――


「最初に質問しますけど、シズクさんに精魂注入(張り手)をもらいたいという方、いらっしゃいますか」


 ばばば! と手が上がった。半分以上いる。やはりか。


「稽古の前にもらって下さい。稽古の後はきついと思いますから。さ、シズクさん」


「おう!」


 どすん! とシズクが踏み出して、拳を挙げる。


「精魂注入じゃあー! 並べっ!」


「「「応!」」」


「いくぞーっ!」


 ばあちーん! どすんっ! ごろり……


「……」


 本来ならここで「ありがとうございました」と立つ所なのだが、立ち上がらない。

 シズクは吹っ飛んで倒れた冒険者を指差し、


「あ、ごめん。誰か運んだげてくれる? 死んではないと思う」


「思う、ですか」


「こら! 気合入れんかい! こんなんでビビってどうする! 人族でも私の張り手うけてるぞ!」


「まじすか」



----------



 ……というやり取りを尻目に、マサヒデは竹刀をぱしん、ぱしん、と手に当て、


「私とカオルさんは木刀でなく竹刀です。これは皆さんが大きな怪我をされると困るから。皆さんには冒険者という仕事があるからです。私達はただの浪人。職なしの武術家です。これでも武術家ですから、皆さんの木刀、木剣で頭を潰されようと、一向に問題ないです。ハワードとか、レイシクランだとか、ファッテンベルクとか、貴族からの文句も一切出ないです。勿論、弓、鉄砲、魔術、札、何でも使って下さい」


「「「はい!」」」


「アルマダさんとイザベルさんは得物が剣なので、木剣を使います。2人共、出来る限り気を付けますが、皆さんも気を付けて下さい。この2人の木剣は、真剣と変わりないですから、そのつもりで立ち回って下さい」


「「「はい!」」」


「それから、私達は予定があるので、長滞在出来ません。今日を入れて2日か、せいぜい3日。時間もありませんし、出来る限り、同じ相手でなく、全員と立ち会うようにして下さい。私達は全員、動きは全く違いますからね」


「「「はい!」」」


 マサヒデが目配せすると、皆が頷いて、集まった冒険者達を囲むように、距離を取ってバラける。


「では、お好きな相手に、1人ずつどうぞ」


 全員、一瞬の躊躇があったが、1人、真っ先に立ち上がった。

 ばしん! と手の平に拳を叩き付け、にやりと笑う。


「トミヤス。お前が一番強いのか」


「さあ……得意不得意もありますから、何とも」


「そうかい」


 にやにや笑いながら、冒険者がマサヒデの前に出て来る。


(おや?)


 他の冒険者達の様子がおかしい。

 皆、顔色を悪くして、マサヒデではなく、出て来た冒険者の背を見ている。


(これは中々?)


 武器を持っていない。拳が真剣、という事か。

 だが、マスダ程ではない(※米衆連合国編・43話)。

 もろに殺気を出しているが、流石にマスダ程の危険は感じない。

 たらん、とマサヒデが竹刀を無形に垂らす。


「頭あ潰されて文句ねえってなあ!」


 するりと外に半身。

 冒険者の右拳が目の前を通り過ぎた。


「ほう」

「んっ!」


 マサヒデの竹刀の先が、冒険者の足を止めている。

 ここで蹴りを出してくるつもりなのは見えた。

 しっかりと次の準備が出来ている。流石だ。

 そして、止められても驚いていない。


「けあーっ!」


 出した右拳がそのまま横に振られる。

 が、マサヒデは相手の腹に頭を乗せるようにして、すっと頭を下げた。

 後頭部の髪が、冒険者が振った腕の袖で、ばさっと流れる。


「つかっ」


 同時に左手がマサヒデの頭に向かう。

 が、マサヒデは背を伸ばしながら、くるりと回り、冒険者の腰の後ろに腰を付ける形で立った。


「まえて……ねえな……」


 腰を入れつつ、冒険者の膝の裏に竹刀を当て、くいっと持ち上げるように竹刀を上げると、ばたん! と冒険者が倒れた。


「かはっ!」


 声を上げたが、冒険者は一瞬で膝立ちに立ち上がった。

 が、顔の前に、竹刀の先。


「うっ」


「ここまでです」


「……」


「どうしました。ここまでです」


「もらったっ!」


 がば! と冒険者が地面に伏せ、手で足を払いにきたが、すっと空振り。

 直後、とすん、と冒険者の首の横にマサヒデの踵が軽く落ちた。


「稽古でなければ、死んでましたよ」


 こつん、とマサヒデの竹刀の先が、冒険者の首の後ろに当たる。


「ちっ!」


 冒険者が立ち上がり、ばたばたと稽古着をはたきながら下がって行く。


(あれはちゃんとした武術だ。古流の空手っぽいな?)


 マサヒデは少し驚いて、冒険者を見送る。


(おい、やべえぞ。リュウさん相手にあれて)

(動きおかしで、あれ……なんか速くあれへんのに、すりんて避けたで)

(しゃあけど、ぶっ叩かれる事はあれへんみたいやな。俺いくわ)


「自分いきます!」


 冒険者が1人立ち上がると、他も立ち上がり、アルマダ、カオル、イザベルに向かって行く。



----------



 かすん!


 アルマダの擦り落とし。

 冒険者が振り下ろした木剣に割り入って、冒険者の木剣は地面に叩き付けられ、アルマダの木剣の剣先は冒険者の喉元。


「なっ……何で!?」


「これが剣術というものです」


「もっかい、いいすか!」


「時間もありますので、もう一度だけ」


「おなしゃす!」


 横の薙ぎ払い。

 これも横に割り入って、冒険者の木剣は大きく横に押されるように流され、横に身体を崩す。アルマダが返した木剣が、冒険者の喉元に。


「な、何でえ!?」


「ふふふ。これが剣の術。剣術です。仕掛けは別に難しい事ではないです。出来る出来ないはまた別ですが」


「あざした。参りました」


 冒険者が頭を下げると、アルマダも頭を下げ、


「いやあ、流石に速い。ですが、動きの起こりが丸見えですから、少し心得のある人には、簡単にいなされますよ」


「はい」


 すごすごと冒険者が下がって行く。

 下がって行く冒険者を笑顔で見送りつつ、アルマダは驚いていた。


(流石! 魔の国本国は違う!)


 オリネオに居た魔族の冒険者とは違う。

 速いし、何よりも勘が恐ろしく鋭い。

 当然種族の差もあるが、危険な仕事が多いからであろう。


(なるほど。武術が発展しないわけだ)


 だが、動きは単に力任せな部分が多く、技術は雑。

 その身体も固く、伸びやかでなく、所々で力が止まっている。

 余計な力を使い過ぎ、折角の魔族の力を、自分で殺してしまっているのだ。

 以前のイザベルが似たような状態だった。


 これなら、長く稽古に参加してくれたオリネオの冒険者達なら、負けはしない。

 ある程度武術の心得があるなら、驚かなければ対処は出来る。

 大抵は驚いてしまうだろうが……


 アルマダはにっこり笑って、次を促す。


「まあ、皆様、そう緊張なさらずに。剣術というものを体験するくらいの感じで。次の方、どうぞ」


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