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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
88/128

第88話


 その日の晩餐会も、豪華なものであった。


 魔王の大勢の家族が並び、マサヒデとマツ、クレールが、魔王、ユカリ王妃と並んで座る。

 かちゃかちゃと料理が並べられ、ワインが注がれる。

 そして、マサヒデのグラスには水。


 魔王はそれをじっと見て、


「マサヒデ君」


「は」


「何故ワインを飲まぬのだ。気に入らぬか」


「ああいえ。いや、そのー、ですね。実はですね、私、全然呑めないんです。昨晩は、酔い止めを飲んでいました。今朝も二日酔いの薬を」


 ふっ! と魔王が笑い、ユカリもくすっと笑う。


「ふふふ。恐ろしい程の剣の使い手も、酒には負けるか」


「はい」


 魔王はグラスを傾け、すっとグラスを置いて、


「昼間は近衛兵とやり合ったそうだな」


「えっ!?」


 マツが驚いて、手を止めてマサヒデと魔王を見る。

 マサヒデは、はっとして、


「マツさん、違いますよ。稽古に参加した、という」


「あ、そうでしたか・・・何か問題を起こしたのかと」


「問題なんて起こしやしませんよ。リディアさんも一緒にいたんです」


「はー・・・驚いてしまいました」


 マツが手を動かし、フォークを口に運ぶ。


「で。マサヒデ君。うちの近衛はどうかな」


「そうですね・・・何を基準にしたら良いか、というのがあれですけど、1対1なら勝てますが、2人いたらもう勝てないです」


「ふむ」


 マサヒデは箸を置いて、顎に手を当てる。

 気を利かせて、マサヒデにはナイフ・フォークではなく、箸を置いてくれたのだ。


「リディアさんが、近衛兵には勝てますと言っていましたが、やはり皆さん、遠慮があるのでは? いや、ありますよね。姫様なんですから。実際に見て、手合わせしてみた感じ、リディアさんとは良い勝負が出来ると見ました」


「ほう。では、リディアも2人いたら勝てぬか」


「はい。串刺しになって、穴だらけになると思います」


 ふ、と魔王は鼻で笑って、グラスを取る。

 くるん、と回し、


「えらく素直に認めるな。気を使わずとも良いぞ」


「いえ。気を使ってはいません。2人相手では、腕の差はぐっと・・・いや、まあ、勿論ですね、何と言いますか。複数で戦うのが上手か、という所もあります」


「ふむ」


「リディアさんが2人いたとして、互いに邪魔するような事をしてたら、それは勝てます。ですが、近衛兵の皆さんは、兵として訓練を積んでいるわけです。連携上手は当然なわけで、1人1人の腕は劣っても、まあ2人もいたら、私には絶対に無理な所にいます」


「なるほど」


「全身金属の鎧を着ていても、全力で走る私に追いついてきます。ですから、もう逃げも出来ません。私1人なら、間違いなく負けです」


「正確な分析だ」


 魔王はぐっとワインを飲み干し、フォークを取った。

 ぷすっ、とマサヒデには名の分からない魚の料理を刺し、ぱくりと口に入れる。


「魔王様」


 行儀の悪い食べ方に、ユカリが呆れ声。

 ふん、と魔王は手を振って、


「リディアに、忍と立ち会ってみろと言ったそうだな」


「はい」


「何故か」


「武術を本気でやりたいと思うなら、毛色の違う者との立ち会いは、大きな学びになります。近衛兵の皆さんとは、戦い方が全然違うでしょうし」


「なるほど。良い指導だ」


「自分の経験から、です」


「良い経験をしてきたと見える。ところで、マサヒデ君。マツも聞け」


「は」「はい?」


「まだ聞いておらぬ事があるようだな」


「何をでしょう」


「マサヒデ君。君の所の忍。カオル=サダマキといったな」


「はい」


「あの者の願いを聞いたのか? マサヒデ君も、マツも、ユカリに目通りをと願った後、すぐに私の前から下がったからな」


 マサヒデとマツが顔を見合わせる。


「お父様、カオルさんが何を願ったのです?」


 ふふん、と魔王が笑い、マツの母、王妃ユカリの方を向く。


「お前はもう聞いたのか?」


「いえ。何ですか?」


 魔王は可笑しそうに笑って、首を振った。


「ふふふ。後で本人から聞く事だ。『許して下さい』との願いであったので、私は許す、と言った。『して下さい』であれば、楽に済んだのにな・・・ふふふ」


「お父様、意地悪しないで教えて下さい。何なのです」


「さてな。後でお前達の驚いた顔が見たいからな。ユカリ。マサヒデ君。驚くぞ」


 マサヒデは眉をひそめ、


「マツさん。許して下さいって、カオルさん、何かしてしまったんでしょうか。知らずに大事な情報を漏らしてしまって、後で大事だと分かったとか」


 む、とマサヒデの眉も寄る。


「まさか、もう国に帰れない、とかじゃないでしょうね」


「ううん・・・」


 不安そうなマサヒデとマツを見て、魔王がにやにや笑う。


「ふふふ。さてどうかな。場合によっては、国には生きて帰れぬやもしれぬな」


 カオルの願いを聞いていたクレールが、むっすりした顔で、料理を口に運んでいる。


「おや。クレール、どうかしたか? ああ、そうか。いかにトゥクライン家の料理とはいえ、流石にレイシクランの満足には届かぬか」


「んっ! い、いえ! そうではございません!」


「む、そうか。では、好きなだけ食すが良い。ふふふ」


 知っているくせに、意地悪な!

 ぷい! と横を向きそうになったが、クレールはにっこり笑った。


「恥ずかしいですけど、あまりに美味しくて、食べるのに夢中で言葉を忘れてしまって! えへへへへ」


「はっはっは! そうかそうか! ふふ、レイシクランの娘も可愛いではないか!」


「魔王様、おやめ下さい。恥ずかしゅうございます」


「ふふふ。着飾ってみても、中身は年相応と言った所かな?」


「まあ!」


 クレールのほんの一瞬の不機嫌を感じ取ったか、魔王の目が一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、クレールを見据えた。

 笑いながらも、クレールの背中に嫌な汗が流れた。



----------



 晩餐会が終わり、マサヒデにリディアがまとわりついてきたが、マサヒデは「用事が」と引き剥がし、マツとユカリと3人で、カオルの部屋の前に来た。


 マサヒデはドアにノックの手を伸ばしたが、止めて、後ろのマツに振り返り、


「場合によっては、ですけど」


「はい?」


「ううむ。場合によっては、ですが。マツさん。魔王様か、クレールさんか・・・相談、した方が良いですよね」


「まあ・・・聞いてみませんと、何ともですけど」


「そうですね」


 こん、こん。


「カオルさん。マサヒデです」


「はーい」


 広い部屋に厚いドア。

 カオルは大きな声を出したのだろうが、声がくぐもって聞こえる。


 がちゃ、とドアが開くと、執事が立っている。


(ん?)


 これは忍だ。はて・・・見張りか?


(ああ)


 カオルの横に立っているメイド姿の忍が頷いた。

 そう言えば、レイシクラン、魔王の忍と、3人でカザマ流忍術の資料を研究するとか何とか言っていた。


「お疲れ様です」


 と、執事に軽く頭を下げ、中に入って行く。

 カオルがソファーから立ち上がり、深く頭を下げる。


「ユカリ王妃。お目通り叶いまして、恐悦に存じます」


「ご丁寧なご挨拶、ありがとう。早速ですけれど、私達、サダマキさんに少しお聞きしたい事がございます」


「は。何なりと。ただ、国や軍の機密のような類になりますと、お答えしかねます所がございますが、そこは何卒ご了承を願います」


「大丈夫です。そう言った事ではありません。座っても良いかしら」


「は」


 マサヒデ達がカオルの対面にソファーに座る。

 マツは着物を捌きながら、ユカリも器用にドレスを捌きながら。

 とん、とん、とん、とメイド姿の忍がカップを置き、茶を注ぐ。

 さり気なく、マサヒデとマツには緑茶を注ぐ。

 こちらはマサヒデ達と長い、レイシクランの忍だ。


「さ、サダマキさんもお座りになって」


「は」


 カオルの前にカップが置かれ、こちらにも緑茶が注がれた。

 マサヒデはちらりとマツを見る。

 この流れ、ユカリに話させた方が良いだろうか。


 黙ったまま、ず、ず、と茶を啜っていると、ユカリがカップを置いた。


「サダマキさん。魔王様からお聞きしたのですが」


「は」


「魔王様に、何か・・・私共が驚くような願いをしたとか」


「んぐっ!?」


 カオルがむせて、けほ、けほ、と咳き込む。

 く! と横のメイド姿の忍が、一瞬笑いを堪え、無表情に戻る。


「やはり大事なのですね。お尋ねしてもよろしいかしら」


「・・・」


 心配そうなマサヒデとマツ。

 真面目な顔のユカリ王妃。

 懐紙でゆっくり口周りを拭きながら考える。


(どうしたら有利に進められようか)


 嫉妬深いマツに聞かれると、一瞬で消し炭にされかねない。

 魔王様から許しは得たが、マツ達や情報省には、自分で何とか、と言われている。

 いつかは話さねばならないのだが・・・それが、今。


 ゆっくりとカップを置き、ゆっくりとカップを拭い、懐に懐紙を突っ込む。


(ここはまず王妃からだ)


 王妃は何人もいる。

 一夫多妻の生活をしているのだ。


「では、その・・・ご主人様、マツ様、しばし。まずは王妃にお話したく存じますが」


 マサヒデとマツが顔を見合わせる。


「何故です?」


「いえ。その、何と言いましょうか。私が思うに、まずは、王妃に話さねばならぬ事かと存じますので」


「んん? 何なんです? 危険な事ですか?」


「いえ・・・」


 ある意味危険ではある。特にマツが。

 ユカリが頷いた。


「結構です。マサヒデさん。マツ。少し部屋の外に。あなた方に聞かせても良いか否かは、私が判断致します。サダマキさん、それで宜しいですね」


「は!」


「では、お二人共、少々外で待っていて下さい」


「はい」

「分かりました」


 マサヒデとマツが立ち上がり、ぱたん、とドアが閉まった。

 ユカリの緊張と、カオルの気不味い空気が混じった、嫌な空気。


「さて・・・」


 ユカリがカップを取る。


「サダマキさん。聞かせて下さい」


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