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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
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第86話


 魔王城、近衛訓練場。

 ここは近衛兵達が稽古をしている訓練場である。


 ただ撃ち合ってみたいな、という話であったが、リディアーヌは指導という話で進めていってしまった。

 そして、竹刀、木刀ではなく、模造刀を使えと言う。

 近衛兵の1人が、今、用意に走っている。


「あ、そうだ。また晩餐会するんでしょう。ここから向こうに戻って、着替えてとか、時間どのくらいだと思います?」


「あ、そうでした・・・ううん・・・四半刻(30分)が限界です」


「ううむ、四半刻ですか。じっくりは出来ませんか」


 頭を垂れる近衛兵達を見回す。

 誰と立ち会っても、つまらない立ち会いにはなるまい。


「リディアさん、皆さんを、あんな風に頭を下げさせないで。見ている事も稽古になるんですから」


「はいっ! 皆の者! 面を上げよ!」


「「「ははっ!」」」


 ざん! と皆が顔を上げる。


「あまり時間は取れません。マサヒデ兄上と剣を交える者は限られます。出来ぬ者も、しかと見取り稽古をなさい」


「「「ははっ!」」」


 皆の視線が鋭い。

 害意のあるものではないが、マサヒデも緊張してしまう。


(大丈夫大丈夫。冒険者ギルドの稽古と同じだ)


 ふ! と息を吐き、襟を正す。


(そうだ。ファッテンベルクでも出来た。あの人達だって、凄い兵隊さんなんだ)


 咳払いして、帯を正す。


「兄上」


「む。なんですか」


 リディアーヌがにやにや笑っている。


「緊張しておいでなんですか?」


「ええ。そりゃあそうです。晩餐会の時ほどではないですが」


「じゃあ、大丈夫です。私はこの者達より強いです」


「ふふ。そうですね。真剣でなければ、ですが」


「もう! またそういう」


 リディアーヌが言いかけたところで、すたた! と近衛兵が走って来て、マサヒデの前で膝を付き、模造刀を差し上げた。


「模造刀、2尺7寸、お持ちしました。こちらで宜しいでしょうか」


「ええ。構いません」


 反りは雲切丸より浅いが、大丈夫だろう。

 手に取って、腰に差してみる。


「ふむ。ちょっと離れて下さい。リディアさんも」


「は!」「はいっ!」


 手に取ってみた時は少し不安を感じたが、腰に差してみると何と言う事もない。

 これなら抜ける。もう2尺7寸なら楽々と抜ける。

 サカバヤシ流の抜きの稽古のお陰だ。


「む」


 しぱん! と抜かれた抜き打ちに、近衛兵もリディアもぎょっとする。

 続けて、さっと振り被り、一振り。

 しっ!

 空を切る、とはまさにこの音。

 獣人族の目を持ってしても、見えない振り!


「ふんふん。なるほど、こんな感じですか。少し先重な感じですが」


 先重の方が扱いは難しいが、撃ち込みの威力は出る。

 マサヒデが懐から懐紙を出して、リディアーヌを手で招く。


「リディアさん、ちょっと来て下さい」


「は、はい」


 何をするのやら・・・


「これ持って、こう、ぴっと広げてて下さい」


「はい」


 言われるまま、懐紙を持って広げる。

 マサヒデが下がる。

 もしかして? もしかして!?

 マサヒデが振り被った!


「兄上!?」


 しぱん!


「ひいっ!?」


 ぎゅっと目を閉じたリディアーヌの手元を、マサヒデが覗き込む。


「うん、ちゃんと振れてますね」


 リディアーヌが恐る恐る目を開けば、懐紙が真っ二つに斬れている!

 模造刀のはずでは!?


「マサヒデ兄上、それ、それ、真剣では」


「真剣ではないですよ。ちゃんと振れれば、模造刀でも紙くらい斬れます」


 言いながら、マサヒデは模造刀の刃の上で手を滑らせる。

 手の平を見せて、


「ほら。斬れてません。ね?」


「ひぇー・・・」


「いやいや、武術家を名乗るなら、このくらい出来ませんと。リディアさんも、訓練用の剣でも、斬れるくらいにはなって下さい」


 無理です! と言いたかったが、頑張って青ざめた顔を縦に振った。


「はい」


「では、やりましょうか」


 マサヒデはにっこり笑って、模造刀を持って来てくれた近衛兵に笑顔を向けた。


「はっ!」


 勢い良く返事をしたが、振り返った近衛兵は、ごく、と喉を鳴らした。



----------



 マサヒデの前に、長剣を持った近衛兵が立つ。

 イザベルの剣ほど長くはないが、長い事には変わりない。


「ええー、指導という事ですので・・・」


 こく、こく、とマサヒデが首を左右に傾ける。


「うん、決まりました。今回は、武器に合わせる、という事をお見せします」


 前の近衛兵が手を上げる。


「マサヒデ様、武器に合わせるとは」


 マサヒデが頷いて、


「武器の形というものは、変えられません。勿論、鍛冶屋や研師の所に持って行って、短くしたり、薄くしたりとかは出来ます。そういう事は出来ますが。出来ますが、です。剣であろうが、何であろうがですよ。出来上がった時の形が最高の状態なわけです。それは分かりますよね。こういう形にしよう! と打って、出来上がるわけですから」


「はい」


「ですので、後から自分に合わせて、長さを削ったり。薄くしたり。そういう事は、出来る限りしない。ではどうするか。今、手に持っている武器に合わせ、自分を変えれば良い」


 マサヒデが近衛兵に近付き、にやりと笑って、模造刀を渡し、長剣を取った。

 どうする気なのだろう?


「・・・」


 近衛兵がちらっとリディアーヌを見ると、リディアーヌもさっぱり、と首を小さく振る。

 マサヒデは両手で長剣を持ち上げ、


「こりゃあ重い! よくこんなの振れますね!?」


「は、はあ」


「私では、簡単に扱える重さではありません」


「はい」


「では、武器に合わせて、私はどうするか。軽くするため、短くしてしまいますか? いいや、そんな事はしません。私は、この剣に合わせます。あなたも、その刀に合わせてみて下さい」


 よいしょ、とマサヒデは肩に横に担ぐように、剣を乗せる。


「ふふふ。行きますよ」


 す、と柄の側の肩を落としたと見えると、近衛兵の足元にマサヒデの長剣が振られてきた。


「おっ!?」


 ぱっと近衛兵が足を上げる。

 流石、目が良い。

 ぐるんと剣が回って、今度は上!

 ぱ! と刀を上げ、剣がぶつかると見えた時、くるっと反対向きに回った。

 そして、剣と刀はぶつかる事なく、首元を剣先が掠めて行った。

 マサヒデは近衛兵の横を通り過ぎ、とすん、と長剣の剣先を落とす。


 鹿神流回し斬りからの、抜き。

 肩甲骨をかくんと落とす事で、回転の向きを勢いを殺す事なく、変えるのだ。

 マサヒデは背を向けたまま、後ろの近衛兵に、


「どうです。武器に合わせると、私でもこの剣を何とか振れます」


「む、む・・・参りました」


 くるりとマサヒデが振り返る。


「何を言ってるんです。まだまだ。次は私が刀に合わせたら、ですよ」


 よっこいせ、と剣を持ち上げ、近衛兵の手に持たせて、刀を取る。

 とん、とん、と下がって、マサヒデがにやりと笑った。


「貴方はその剣をちゃんと使えていますか。剣を自分に合わせようとして、本来のその剣の力を抑え込んでいませんか。自分が剣に合わせないと、武器本来の力は出ません。さあ。見せて下さい」


 マサヒデが正眼に構える。

 近衛兵も中段に構える。


「は! 参ります!」


(ま、突きで来るよな)


 と、思った瞬間、動いたのが見えた。

 剣と模造刀が合わさった瞬間、マサヒデは平(刀を横に向ける)にしながら、片手で突き出す。


「う」


 イザベルと初めて立ち会った時の再現。

 横を向いた刀の反りに合わせ、剣は外に逸れた。

 マサヒデの模造刀は、近衛兵の水月の前で、ぴたりと止まっている。


「武器に合わせるという事は、こういう事です」


 おお、と見ていた近衛兵達から声が上がった。


「参りました!」


 剣を引き、近衛兵が頭を下げた。

 たたっ、とリディアーヌが駆け寄って来て、


「ままっ、マサヒデ兄上! 今のは!?」


 マサヒデは答えず、近衛兵に問い掛ける。


「今の、分かりました?」


「刀を、こう横にされたので、反りで、剣が逸らされました」


 マサヒデは少し驚き、眉を上げた。

 初見で見抜くとは思っていなかった。流石は近衛兵である。


「お見事! よく分かりましたね。流石です。イザベルさんは、最初は分かりませんでしたよ。リディアさんも、このくらい見抜いて下さい。まだ目が鍛えられていませんよ」


「うぐっ」


「ははは! さて、きちんと使えているなら、今のは返せたはずです。自分の得物を使いこなせていない証拠ですね。では、次の方! 別のもお見せします」


 さて、次は何でいこうか。


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