表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
85/128

第85話


 マサヒデとリディアーヌは昼食を済ませた後、廊下をぐるりと回って行って、広い訓練場に来た。ここは近衛兵達の稽古場である。

 マサヒデが願って、リディアーヌに案内してもらったのだ。


「へえ・・・」


 大まかに、剣の組、槍の組、体術の組、自主練習と別れて、4組で稽古中だ。

 剣の組でも、大剣、長剣、サーベルなど、さらに別れて稽古しているし、槍でも短槍、長槍、ハルバードなどの大物もいる。


「色々やってるんですね」


「近衛兵たる者、どんな武器でも扱えませんと」


「ふうん・・・」


 教官が並ぶ近衛兵達の間を歩きながら、大声を張り上げる。


「一心!」


「「「はあっ!」」」


 声を出し、近衛兵達が剣を振る。


「二心!」


「「「はあっ! はあっ!」」」


「参心!」


「「「はあっ! は! はあっ!」」」


「四心!」


「「「はあっ! は! は! はあーっ!」」」


 マサヒデは近衛兵達の姿を見ながら頷く。


「なるほどなるほど」


「どうでしょうか」


「凄い気迫ですね。流石です。ただの稽古とは訳が違う。素振り一振に命賭けてます。全然違います。良い稽古をしておられます」


「ふんふん・・・」


 マサヒデがリディアーヌをちらりと見る。


「リディアさんは、近衛の方達とも稽古するんですよね。勝てます?」


「はい!」


「ふうむ・・・で? 真剣で勝てます?」


「え!? ええーと・・・どうでしょうか・・・」


「ふふ。すみません。意地悪な事を聞きました」


 朝稽古で、マサヒデと真剣の立ち合いをして、手も足も出なかったのだ。

 いざ真剣を持ってみれば、腰が引けてしまい、普段通りに動けなかった。


「あの、マサヒデ兄上は、あの者達に、真剣で勝てますか?」


「・・・」


 マサヒデは顎に手を当て、鋭く剣を振る近衛兵達を見る。

 鋭い。今のイザベルと同じか、いや、少し上か。そのくらいと見える。

 彼らと戦っていたら、どうなっていただろう。


「1対1なら勝てます。2人、3人になったら、正面きってでは多分無理です。こちらも人数がいないと負けます」


 個の実力も当然ながら、兵として訓練を受けているのだ。

 イザベルや彼らの本領は、組んでの動きにある。


「そういう場合、どうするのですか?」


「ま、逃げるか・・・いや、魔族で近衛と来たら、逃げられはしませんかね。どうしましょうか。その場次第です」


「逃げるんですか?」


「ええ。降参も許されない、やるしかないとなったら、私は名誉云々より、汚い手でも勝ちを拾います。武術家なんですから」


「ええー」


 リディアーヌが不満そうな声を上げる。


「がっかりしましたか」


「えっ!? い、い、いえー・・・」


「ははは! 騎士として恥ずかしくないように、とか、そういうのはないです。勝ってなんぼ、生きてなんぼです。名誉なんてどうでも良いです。そんなのを墓まで持って行っても、楽しくないです」


「そうでしょうか? 名誉の死を遂げたら、後世まで名が残ることもあるかと」


「私はそんなのいりません。この辺り、忍や軍人さん達に近いですか。騎士と、ただの武術家の違いってやつです」


 んん? とリディアーヌが首をかしげ、腕を組む。


「うーん・・・良く分かりません」


「アランさんや、イザベルさんに聞いてみると良いでしょう。貴族や王族と、平民の違いでもありますかね。ま、名よりも実を取るって所です」


「私は、名を取ります」


「それで良いと思います。要は、何の為に剣を振るかですよね」


「何の為」


 はたとリディアーヌが止まった。

 自分は何の為に剣を練習しているのだろう。

 楽しいからであって、特に剣で何かしたいとかはない。

 名誉を汚すなとは、指南役に言われているので、心掛けてはいるが・・・


「近衛の皆さんも、もしリディアさんが大変という時は、汚い事も平気ですると思います。騎士道云々なんか関係なしですね」


「・・・」


「正式な決闘であるだとか、果たし合いだとか、そういう場合は、涙を飲んで仕方なく見ているだけでしょうけど」


「・・・」


「ん」


「・・・」


 私は何の為に剣を・・・


「どうしました?」


「はっ!?」


 びく、とリディアがマサヒデに顔を向けた。


「し、失礼しました。私、何の為に剣術をやるのかって」


「ふふ。今は楽しいからで良いと思います。私もそうでしたから」


「そうでしたという事は、変わったのですか?」


「ええ」


「どうしてですか?」


「色々ありますよ。勇者祭。マツさんと結婚した事。子が出来た事。他の流派の先生達の教えも受けたりして・・・まあ、そもそも、トミヤス流というのは、あくまで武術であって、武道ではないのです。道の教えはないです。技術だけ」


「ううん」


「何の為に剣を振るかなんて、自分で考えなさい。自分で見つけて下さい。軍みたいに、王の為、国の為、民の為、なんて親切に教えません。個人の目的で技術を使いなさい、です。私はそこがぼんやり見えてきた所です」


「例えば、それが悪事でも?」


 マサヒデは軽く頷く。


「結構。トミヤス流の理念は、勝ちが正義。悪事に剣を振り、日陰者の逃亡者暮らしでも勝ちと思えるなら、どうぞどうぞ、です。ふふふ。そんなのが勝ちって思える人、中々いないと思いますが」


「ううん! ただ勝ちが正義という言葉だけだと、うっかりしそうですけど、悪事に使うのは難しいですね!」


「そうですとも・・・あ、そうそう。車道流、知ってますよね」


「勿論です!」


「宗家に言われました。剣とは何でしょう。人を夢中にしてしまう剣って、どういうものでしょう。剣に人生を賭けたいなんて考える者がいます。こんなに人を惹き付ける剣とは、一体何か! なーんて」


「んむう!? 流石は車道流ですね! 深いお言葉・・・考えた事もありませんでした。剣とは何か・・・全然分からないです」


「ははは! 考えなくても良いです。これ、剣とひとつになれた時に、自然に分かるそうです」


「分かると、どうなるんでしょう!?」


「どうなるか、分かりませんか?」


「はい!」


 きっぱりと分からない、と答えるのは流石と言うか、むしろ爽やかである。

 マサヒデは笑って、ぽんぽん、と腰を叩いた。


「自分は剣とひとつになってますから、もう腰の剣は飾りになります」


「ああっ!? 無刀ですか!」


「そうです。それが車道流の無刀だそうです。身一つが、既に剣なんですね。面白いでしょう」


「んーむむむ・・・」


 唸るリディアーヌの肩に、マサヒデが手を置いた。


「お願いがあります」


「なんでしょうか!」


「折角の機会、あそこで自主練してる人達と、少し撃ち合ってみたいです。時間、良いですか」


「はい!」



----------



 マサヒデとリディアーヌが訓練場を歩いて行くと、皆の視線が集まった。

 が、手を止めることなく「は! はあっ!」と気迫の乗った声をあげ、得物を振る。


 自主練習をしている者達の前に来て、マサヒデ達が足を止めると、皆が手を止めて、膝を付いて頭を下げた。これは自分にではなく、リディアーヌに対してだろうか。

 彼らはマツの夫と聞き、さくっと頭を切り替え、ぽっと出の平民浪人に、このような態度を取ってくれるのか。


「皆様」


「「「ははっ!」」」


「マサヒデ兄上が、少し撃ち合ってみたいと仰せです。何人か、お相手を願います」


「「「ははっ!」」」


「模造刀の用意を願います」


「「「ははっ!」」」


 え! とマサヒデが驚き、


「リディアさん! 模造刀なんて駄目ですよ! 当たったら大怪我してしまいます! 竹刀か木刀で結構です!」


 む、とリディアーヌがマサヒデを見て、


「マサヒデ兄上。より実戦に近い稽古をすべきです。彼らの持つ物も、模擬剣です」


 確かに、皆が持っているのは、刃を丸めた剣である。


「む、ううむ」


「模造刀で宜しい! 用意を!」


 近衛の1人が立ち上がり、マサヒデの前に来て、頭を下げた。


「長さは如何ほどをご準備致しましょう」


「ううむ。では、2尺7寸、腰反りに近い物がありましたら」


 折角だ。雲切丸に近い形の物が良い。


「む、刀にしては長いですな」


 ぱ、とリディアーヌが割り込む。


「マサヒデ兄上は、それを抜き打ちで私を完封するんですよ! 抜こうとしたら、もう刃が柄に届いていて!」


「なんと。姫様を完封ですか」


「そうですよー! マサヒデ兄上、皆を指導してやって下さい!」


「ええ!? 指導ですか!?」


「マサヒデ兄上はルーカス様に完勝出来る腕前! このような機会、そうはありませんよ! 感謝なさい!」


「ははっ! マサヒデ様、光栄であります! さればすぐにお持ち致します!」


 だだだーっ! と近衛兵は走って行ってしまった。

 その姿を見て、全身金属鎧を着たままで、全力で走るマサヒデと並んで走ってきた近衛兵を思い出す。


 鍛えに鍛えられた魔族達。

 やはり獣人族が多い。虫人族も何人かいる。鬼族や虎族はいないようだ。

 犬族とほとんど見分けはつかないから、狼族は居るかも知れない。


(これは情けない姿は見せられないぞ)


 そんな事を考えながら、膝を付いて頭を垂れる近衛兵達を見る。

 ただ撃ち合うだけでなく、指導。上手く出来るか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ