第83話
ここは魔王の居城、ロ=マーン城。イザベルの客室。
ここではアラン王子と、イザベルの2人で、日輪国対白露帝国の戦略会議中。
「して、アラン王子の手とは」
「土地の借り上げだ。魔王軍の一部を駐留させたい。あくまで駐屯地。基地でなくとも良いのだ」
「む」
米衆連合の海軍中将も、全く同じ話をしてきた。
これは断りはしたが・・・
「ヒラマツ陛下は、これを了承してくれると思うか」
「半々と言った所です。おそらく陛下ご自身は賛成なさいましょうが、議会はどうか」
「ううむ・・・日輪国は教会もあるし、な」
日輪国は宗教の自由が保証されているので、魔族反対の宗教もある。
そのひとつが、世界規模の『教会』である。当然、日輪国でも大きい。
教会は大きく3派閥あり、まず最大規模の『穏健派』。正式名、教会世界派。
魔族の入信だけは許されないが、別に反対などはしない。
教会への立ち入りも禁止はしない。
穏健派の建物は綺羅びやかで、観光名所になっている所も多いのだ。
次に、小規模の『抗議派』。新教会や、受け入れ派とも呼ばれる。
魔族も同じように信仰を認めましょう、という派閥だが、発言力は非常に低い。
次が武闘派の『排斥派』。
実態は穏健派の邪魔者始末係。
魔族のみならず、教会の邪魔になる者、なりそうな者を始末する派閥である。
魔族の有力者が暗殺されると『魔族排斥派か』と言われる。
が、人族が暗殺されても、さて、どの政敵であろうか? である。
『魔族を排斥する派』、という名前が有利に働くのだ。
「はい。各大臣、領主の反応は保証出来ません。では当家が土地を、と言いますと、保守派貴族からは猛反発され、敵を作る事になります。ご存知でしょうが、排斥派もおりますから、そういった危険も伴います」
「暗殺か。議会はどうなると予想する」
「日輪国の将来が左右される決となります。議会は真っ二つに割れますし、皆様、慎重になりましょう。良い提案、では明日にも、とは参りますまい。何年もかかる可能性が大と見ます」
「それでは間に合わぬ!」
アランが声を上げ、顔に手を当てて、ずー、と撫でるように下げる。
「間に合わぬのだ・・・すぐに賛成を貰える手はないか。渋々でも良い。反発を招いても良い。議会から何とか承認を得られぬか」
「これは流石に魔王様の直の御声がけでもならぬかと」
「やりたくはないが、金で釣れぬか」
イザベルが首を振る。
「私、日輪国の貴族を何人か見て参りましたが、領主に据えられる程の者は、気骨のある者が多く。それに、そもそも金で釣れるような者は信用なりませぬ」
「いや・・・うむ。そうであるな」
「1週間後。マサヒデ様とマツ様の婚儀。これは白露への大きな牽制になります。これで十分ではと見る者は多いでしょう」
「日和見な」
「王子。全員が全員、軍人目線でものを見られるわけではございませぬ」
「まあ、うむ。それは仕方がないが。あの国はいつまで経っても綱渡りだな」
「で、あるからして、永きの平時でも武が絶えず、軍は精強なのです」
2人の会話が切れた。
ふう、とアランが小さな溜め息をつき、がっくりと下を向く。
イザベルも腕を組み、目を閉じる。
静かな2人の頭は、煙を吹き出しそうな程に、ぶんぶん回っている。
「王子。少々、空気を入れ替えましょう」
「うむ」
イザベルが立ち上がって、窓を開けた。
向かいの廊下を、リュウイチと共に歩いて行くアルマダとラディ。
魔王家秘蔵の逸品を見に行くと言っていたが・・・
ぴん、とイザベルが閃いた。
「王子。良い案が浮かびました」
「む」
イザベルは窓の側に立ったまま。
アランが歩いて行き、隣に立つ。
「ハワード様に、願いを変えて頂きましょう。勇者祭での願い事とあらば、これは受け入れられる可能性が大です」
「願い? どういう事だ?」
イザベルがにやりと笑った。
「ハワード様の願い、領地の割譲ではなく、領地の交換と致せば如何です」
「ふ・・・ははは! なるほどな!」
「ま、議会が紛糾する事には変わりございませんし、ハワード家に借りを作る事にもなりますが、こちらは『希望を叶えてやろう』という立場になるのです。ハワード様が良しと言うのであれば、ハワード家にご連絡、了解を得ます。後はヒラマツ陛下の鶴の一声で決。議会の者達も、反対はしづらいでしょう」
「だが、ハワード家が首を縦に振るかな」
「ハワード家の者は、皆が聡明です。そして、政に深く関わりませぬ。飽くまで一領主、という姿勢を貫いております」
「ふむ。そう聞くと、当国のレイシクラン家と似ているな?」
「ふふ。規模が違いすぎますが。レイシクラン家の一声は、世界経済に響きます。まず、尋ねるだけ尋ねてみては? ハワード家には、少々上乗せした領地を確約すれば良いでしょう」
「ふうむ・・・北大陸と南大陸、どちらが良いと思う?」
北は自然豊かな地で、安定して平和である。
レイシクラン家が大きく占めており、大農産地が多く、海産物にも恵まれ、魔の国のみならず、世界中に食料の輸出をしている。貿易港も多いから、商業も活発だ。
南は過酷な環境で土地は痩せているが、地下資源に恵まれている地が多い。
金銀宝石の鉱山や油田が、そこら中に転がっている。
いち平民の住居が貴族並の豪邸で、それがずらりと並ぶ地域まである。
そして、それらを狙う多くの盗賊達に、魔獣も多い。
だが、統治次第では、砂漠のど真ん中に大都市を作る事も可能だ。
腕さえあれば、領地を丸ごと大都市にだって出来る。
「そこはハワード家次第でしょう」
「よし。では、ハワード殿に打診してみるか」
くる、と振り返って、アランが止まった。
「しまった・・・ファッテンベルク、まずいぞ」
「どうなさいました」
「昨夜のあの怒り様を見たであろう。ハワード殿は、私の話を聞いてくれると思うか」
「む」
「貴女は良い。マサヒデ兄上が許すなら、と簡単に許してくれた。だが、ハワード殿はどうか。名誉を踏みにじられた、決闘だとまで言ったのであるぞ」
アランが恐る恐る首を触る。
「大丈夫であろうか・・・取り付く島もないかと思うが」
「王子。これも良い勉強とお思い下さい」
「何?」
「これからは、相手の実力を見てからではなく、先に見抜くようになさいませ」
「どういう事か? リュウイチのような事を言うな」
イザベルがにっこり笑って、ドアに向けて手を差し出した。
「私は手伝いませぬ。お一人で。次はこういう事になりませぬよう」
「・・・日輪国の、事であるぞ」
「ハワード様は誠意の分かるお方。自らの行いに責を持つは当然の事。素直に頭を下げれば宜しいと存じます」
「頭を下げた瞬間、首を落とされはしまいな」
「そのつもりであれば、まず最初に決闘を申し込まれると思います。ですが、この世の中、万が一という事柄は、万が一ではございません。ごろごろと転がっております。王子も軍に関わっておりますれば、この事、身に沁みてございましょう」
「ううむ」
「ご武運を」
「武運を、などと言うでない・・・」
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アランは早足で廊下を歩いて行き、アルマダ達が見える所まで追いついてきた。
リュウイチに案内されて、奥まで戻って来たという事は、宝物庫の魔剣か称号武器を見るのだろう。この先は家族の部屋が並ぶ。
ずんずん奥に歩いて行く3人に、すたすたと間を詰めていく。
と、くるりとリュウイチとアルマダが振り返り、足を止めた。
(う)
一瞬躊躇したが、アルマダを見ながら軽く会釈して、歩いて行く。
ラディも足を止め、こちらを振り向いて、一瞬驚き、一瞬嫌な顔をして、目を逸らす。マサヒデに暴言を吐いた所を、目の前で見ている。当然の反応か。
だが、今はラディに用はない。
リュウイチは無関心な顔をこちらに向け、軽く頭を下げた。
リュウイチに軽く手を上げて挨拶を返し、アルマダの前に歩いて行く。
「ハワード殿」
「おはようございます」
「昨晩の無礼を詫びよう。マサヒデ兄上には申し訳のない事をした」
挨拶こそしてくれたが、アルマダの目には、まだ怒りが見える。
「前置きは置いて話そう。済まぬが、貴殿に手を貸して欲しい事があるのだ。危急の事である」
「政に関わる事ですか」
「そうだ」
「申し訳ありませんが、当家は政には出来る限り関わらぬ方針。私もです」
「聞くだけは聞いてもらえぬか。拒んだ所で、決して恨みは致さぬと約束しよう」
アルマダは眉を寄せ、少し考え、リュウイチを見て、
「ホルニコヴァさんと先に行っていてもらえませんか。後から追いつきます」
リュウイチは頷いて、ラディを連れて廊下を歩いて行った。
黙ったまま、アランとアルマダは廊下に立っていた。
2人が離れた所で、アランは廊下の手すりに歩いて行き、もたれ掛かった。




