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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
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第73話


 多くのメイド達を引き連れ、マサヒデ達がぞろぞろと廊下を歩いて行く。


 窓の外を見れば、もう日が沈みかけ、茜色になっている。

 着替えを始めた頃には、まだ少し日が傾いた、という程度だったのに、広い城だ。


「マツさん、まだですか」


「もうすぐ表に着きますから。私達の場所は第3ホールですから、すぐです」


「私達?」


「今回は、家族とそうでない方々は別々にするんですって」


「ああ」


 魔王様と、ユカリ王妃と、コルネリア王妃以外は初顔合わせになるから、そうするのか・・・

 あっ! とマサヒデが驚き、


「え!? じゃあ、私1人ですか!?」


「私がおりますよ。クレールさんもです」


 ユカリもくすっと笑って、


「マサヒデさん、私もおりますから。ね?」


「え、ええ」


 急に胸がどきどきしてきた。顔から血の気が引いて行くのを感じる。

 あと何人の王妃がいて、何人の王子、姫がいるのだろう。


「マサヒデ様、もうすぐですよ」



----------



 アルマダ達は手前のドアの前に入っていき、マサヒデ達は更に歩く。

 ホールが続いている。

 廊下には黄金色の鎧を着た近衛兵が何人も並び、マサヒデ達を見送っていく。

 そんな落ち着かない廊下を歩いていくと、メイド達が足を止め、ささっと並んだ。


「ここです」


「・・・はい」


 中から、わやわやと声が聞こえる。軽く10人以上はいそうだ。

 一体、何人居るのやら。


「さ、参りましょう」


 マツが言うと、ドアの左右のメイドが頭を下げ、ドアを開けた。


(うお)


 眩しい! と目を細め、少しずつ目を開いていくと、えらく明るい部屋。夕方とは思えない。

 上にはぎらぎら光るシャンデリア。

 その光を浴びて、同じくきらきら光る服を着た者達。

 あれが全部、魔王様の家族なのか!?

 それらがぴたりとお喋りをやめて、マサヒデ達に目を向けた。

 10人は手前にいただけだ。奥にもずらりと並んでいる。これが全員家族!?


 ユカリが軽く会釈して入って行き、アランも入って行き、次にマツがタマゴを抱えて、深々と頭を下げて入って行く。


(マサヒデ様)


 後ろでクレールが囁き、驚いている暇もなく、仕方なくマサヒデも深く頭を下げ、中に入った。

 この後ろにいるクレールの頼もしさ。

 すんなり入っていくマツとユカリより、同じ客分のクレールの方が頼もしい。


「ん、んんっ!」


 咳払いして、背を伸ばし、軽く襟を正して中に1歩。もう引き返せない。


「む」


 ぴたりとマサヒデが足を止めたので、クレールも足を止めた。

 コの字に置かれたテーブルの一番奥、そこに座っているあの男は・・・


(マサヒデ様!)


 し、と口を鳴らし、クレールが催促するが、マサヒデは驚きの顔を隠せず、足を止めたまま。


(マサヒデ様!)


 もう一度クレールが言った所で、やっとマサヒデが歩き出した。

 マサヒデはクレールと並んで、


「ク、クレールさん」


「どうしました」


 クレールは皆に笑顔を向けたまま、器用に小さく返事を返す。


「あの、一番奥に座っている人が、魔王様ですか」


 クレールもちらりと奥に目をやって、ぎょっとした。

 そこには、マサヒデと大して変わらぬくらいの、若い男が座っていた。


 主賓席だ。王子が座って良い席ではない。

 あれが、魔王様!?

 2人が驚いた目を向けていると、男がにっこり笑って、席を立ち上がった。



----------



「マサヒデ君」


 歩いて来た若い男が、マサヒデに声を掛ける。

 これは、確かに、中庭で聞いたあの鎧の男の声!

 見た目に似合わぬ、低く重みのある声!


「はっ」


 威厳、迫力よりも、その見た目に、マサヒデもクレールも衝撃を受けた。

 魔王様はもう10万年を越えて、この魔の国にいるのだ。

 この若さは一体!? あと何年生きるのだ!?


「ふふふ。そう緊張するな。ここには家族しか居ないのだ。レイシクランは、まだ予定だが、まあ断られる事はあるまいから、この席に呼んだ」


「あ、ありがたき、幸せに、ございます」


 よもや影武者という事はあるまい。

 魔王様には毒も鉄砲も効きはしないのだから。

 大砲が直撃したら、少しは傷付けられるだろうか。

 大きなホテル程の大きさの魔獣と素手で戦って、軽く倒してしまう程の男なのだ。


「ふふふ。その様子、驚いたな? 我の顔を見ると、皆が驚く」


「は・・・はい。驚きました」


「若く見える、と言うからな。今のどの妃よりも若く見える。これはありがたいと言うべきかな? ふふふ」


「私と、大して変わらないように、見えます」


「そうだな。この先、何年生きるか分からん。寿命が近くなると、急に歳を取り出すという感じかもしれんが。さあ、こちらに来い。今日の主客は、マサヒデ君とレイシクランだ。レイシクラン・・・」


 魔王がクレールに目を向ける。


「は、はい」


「もう、クレール、と名で呼んでも良いかな。君も、マサヒデ君との結婚を、父上から正式に許しを得られたら、我が娘となるのだ」


「はははい! はい!」


 魔王は顔を上げ、まだ見たことのない家族達に挨拶をしているマツに目を向けた。


「マツ!」


「はーい!」


「来い!」


「はあーい!」


 ぶつぶつ言いながら、マツが歩いて来て、


「お父様、まだ挨拶も終わっていないのに」


「後にしろ。いつまで経っても飯が食えん。もう始めるぞ。私は腹が空いた」


「お父様ったら・・・ぶつぶつ」


 マツの方が年上に見え、奇妙な会話に聞こえる。マサヒデと、マツやクレールの会話も、傍から見れば、こんな感じだったのだろうか・・・



----------



 マサヒデ、マツ、クレール、ユカリ、魔王と、奥のテーブルに並んで座ると、皆が会釈して席に向かった。


 席に着き、グラスを取った所で、魔王が立ち上がる。


「今宵はマツの結婚を祝しての前祝いだ! ここには家族しか居ない!」


 家族! マサヒデも、クレールも、じんときてしまった。

 魔王様に認められたのだ。


「このマツが、マツが! 結婚出来るとは・・・」


 何かを感じたと思ったら、突然、マサヒデの持つグラスがぴしりと音を立てた。


「あ」


 と、小さく声を出すと、グラスの上が割れて、落ちてしまった。

 薄いグラスは、かしゃん! と高く細い音を立て、粉々に砕け散り、マサヒデの手に残ったのは、グラスの足だけ。


「うわ!?」


 は! は! とマサヒデがきょろきょろしたが、マツもグラスを置いて、


「マサヒデ様、大丈夫ですから」


 きん、と軋むような音がして、マツがさっとグラスに袖を被せると、ぱしん! とマツのグラスも弾けるように割れた。クレールも慌ててグラスを遠くに置く。


「魔王様」


 ユカリが魔王の裾を引くと、魔王が割れたグラスを見て、一瞬慌てた顔を見せた。


「む! むう、すまぬ」


 一呼吸置いて、魔王が顔を上げた。


「思わず昂ってしまった。続ける! マツの結婚を祝い、マサヒデ君を息子に迎えられる事、クレールを娘に迎えられる事を祝おう! か・・・かん」


 マサヒデが急に言葉に詰まった魔王の顔を見上げると、ほろり、と魔王が涙を流した。あ、と驚くと、ぽろぽろと涙を流す。魔王様が泣いている。


「ううっ」


 小さな声がして、魔王の向こうに座るユカリも、目にハンカチを当てている。


「乾杯! 乾杯だ!」


「「「乾杯!」」」


 皆の顔に、喜びと呆れのような笑顔が浮かんでいた。



----------



 とすん、と椅子に腰を下ろした魔王は、マサヒデと反対を向いて、目に手を当てていた。


「マサヒデ君」


「はい」


「マツの事は、諦めていた」


「はい」


「怖れられ、どの見合いも断られた。マツも断った。そして家を出ると言って・・・連絡も寄越さなくなり・・・独り身のまま・・・もはやと思っていた・・・」


「ううっ! マサヒデさん!」


 ユカリが真っ赤な目をマサヒデに向け、頭を下げる。


「マツを、マツを宜しくお願いします!」


「勿論です。私は武術家ですから、いつ斬られて死ぬか分かりません。ですが、生きている間は、必ず」


「孫も成せた・・・このリオン、心から感謝するぞ」


 リオン。魔王様の名は、リオンというのか。

 ただ『魔王様』というだけで、名は知らなかった。迂闊であった。


(うわ、俺、なんでマツさんに聞いておかなかったんだ)


 ちら、と横のマツを見ると、マツもタマゴを抱いて泣いていた。

 クレールも泣いていた。


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