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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
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第71話


 皆の着替えも終わって、並んだ部屋からずらずらと執事やメイドが出て来る。

 マサヒデ達も外に出ていたが、女衆(シズクは除く)の長い事。


 マサヒデ達は廊下の一角に集まり、マサヒデは壁に背を預けている。


「まだですかねえ」


「マサヒデさん、あなたは、あなたという人は、よくそんなに落ち着いていられますね」


 アルマダも用意されたタキシードに着替え、マサヒデの前で、腕を組んで、じりじりと落ち着かない様子だ。シズクやアルマダのお付きの騎士達も、言わずもがな。


「どうせ酒を呑まされて潰れるんですよ。皆さん、魔族なんですから、私達がついていけるわけがないじゃないですか」


「飲み比べではないんですよ。カゲミツ様との飲み会の席ではないんです」


「そうそう、ディナー、夕餉の時刻には随分早いなって思うんですが」


 アルマダが不機嫌と不安を混ぜた顔で、マサヒデに目を向ける。


「分かりませんか」


「分かりませんかって、何がです」


「ここからディナーの広間までは、距離があるって事です。ここは城の奥です。城の・・・そう、客間、と言ったら良いですかね。表に行くんですよ」


 ぽん! とマサヒデが手を叩く。

 マサヒデの隣に立っていたシズクも、あ、と顔を上げた。


「ああ! なるほど!」


「どれだけ広さがあるんでしょうね。まだ日が沈むには全然早いですよ」


「不便ですね」


「魔王様が中々戻ってこない、なんて話をしてたのも当然ですよ。執務室は城の方でしょうし」


「あ、そういう事か! ううむ」


「呑気ですね!」


 マサヒデはアルマダから目を逸らし、下を向く。


「そうしようと態度だけでも努めてるんですよ。魔王様と一緒に夕食なんて、考えたくもない」


「その魔王様は、もうあなたの義父なんです」


「分かってますよ」


 王妃2人との雑談はほのぼのと終わったが、最初に顔を合わせた魔王様を思い出したくはない。言葉ひとつで、文字通り握り潰されそうだ。なんと緊張する夕食であろうか。


「マサちゃん」


 シズクが不安そうに、小さく声を出した。


「なんです」


「私、どうしたら良い? マナーなんて分からないよ。まだ死にたくない」


「私もですよ。まあ、でも、魔王様は大丈夫ですって。懐が深い感じでしたし。もう腹を括って下さい。お願いでも考えてて下さい」


「うん」


 そんな話をしていると、まずカオルが出て来て、マサヒデ達の所に来た。

 ぞろぞろと執事とメイドが歩いて行くが、マサヒデも、アルマダも、シズクも、訝しげな目でそれを見送る。


「カオルさん、あの人達、忍の方では」


「はい。少々、皆様と話が盛り上がりまして。技術交流なども情報省に打診してみようかと考えております」


「着替えないんですか」


 カオルは渋い顔で頷き、軽く腕を広げる。


「仕込んでありますので・・・これを置いて、着替えて行くのは、少々。一応、これも正装ですし」


「ううむ。アルマダさん、一番落ち着いている人がここに来ましたよ」


「確かに。そうですね」


 ふ、と小さくアルマダが溜め息をつくと、カオルがむっとして、


「私も緊張しております」


「ええ。そうでしょうとも」

「でしょうね。忍の皆さんと盛り上がるくらいには、緊張してるんですよね」

「カオル、肝が据わってるな」


 アルマダ、マサヒデ、シズクの、呆れと諦めと緊張が混じった返答。


「ご主人様、もう少々、落ち着いて下さい。もはやご家族となられたのです。ユカリ様もコルネリア様も」


 き、とドアが開いて、カオルの言葉が止まり、皆の目がそちらに向いた。

 黄色と言うのか、むしろ金色と言うのか。

 きらきら輝くドレスを着たイザベルが出て来た。


「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」


 皆が黙ってしまった。

 ドレス姿のイザベルは、こうも変わるものか。

 普段からスーツかつなぎで、でかい剣を背負っているので、全然印象が変わる。


「お待たせ致しました」


 イザベルの方はイザベルで、床まで垂れた長いスカートのドレスで、全く不自然なく歩いて来て、マサヒデ達に頭を下げた。

 髪も綺麗に結われて、まさに貴族のご令嬢である。実際、そうなのだが。

 顔を上げると、薄く綺麗に化粧までしているではないか。


「なん、何と言うか、随分と、あれですね」


「流石はイザベル様。お美しい」


 アルマダがずばっと恥ずかしい事を言う。


「私のドレス姿など、皆様には敵いませぬが」


 ふ、とイザベルが笑って、羽織袴のシズクを見る。


「シズク殿には勝ったと思っても良いかな?」


 ふん、とシズクがそっぽを向く。


「いいよ。私がドレスなんて、何着ても駄目なんだ」


「ふふん。私も一応は貴族の令嬢であるからなー」


 得意気に腰に手を当てて、くるりと回り、振り向きでポーズをとる。背中が腰まで開いているではないか。普段のイザベルからは、およそ想像もつかない服だ。それよりも、スカートである。


「なんか、長袴みたいにすごく長いですけど、それ大丈夫なんですか? 踏んで転げたりしないで下さいよ」


「マサヒデ様、大丈夫でございます。慣れております」


 こんな服に慣れているとは! なんと貴族らしい発言!

 マサヒデとシズクが顔を見合わせる。


「マサヒデさん、当たり前ですよ」


 呆れ声を出すのはアルマダだけ。


「流石にここまで上等な物は着た事はございません。私、悩んでしまいしたが、やはり家の色として、黄色を選びました。如何でしょう」


「ううむ、似合いますね。驚くほどに」


 普段から武張ったイザベルだが、こういう姿もとても似合うのを知ってしまって、驚きを隠せない。


「カオル殿は、やはり着替えられませぬか」


「はい。私はこの服に色々仕込んでおりますし。置いて行っては、ここの忍の皆様に好き放題されてしまいそうで」


「ううむ、カオル殿のドレス姿も見てみたいものですが」


「では、後で1着、拝借致しましょうか」


 マサヒデが慌てて、


「だ、駄目ですよ!?」


 アルマダもシズクも、きょろきょろと廊下を見渡す。


「ふふ。冗談です。まさかに魔王様から盗みなど致しませぬ」


 き、とまたドアが開いた。

 イザベルが出て来たラディに声を掛ける。


「お、ラディ。待たせるではないか」


「は」


 身を固くして、ちょこちょことラディが歩いて来る。

 綺麗に結い上げられた髪に、かんざしが揺れる。

 青地に、ど派手な刺繍の入った着物・・・


(あ、着物)


 あれはいつの事だったか、ラディは背が大きいので、着物がない、と言っていたのを思い出した。きっと、しばらくぶりに着る着物ではないのだろうか。

 マサヒデは小さく頷いて、ラディに笑みを向け、


「やっぱりラディさんは着物も似合うと思いましたよ。綺麗です」


 ぼ、とラディの頬が、化粧の下で染まったのが、誰にも分かった。

 やはりこの男は恥ずかしい事を平気で言う。

 アルマダも同じ事を思われていたが。

 さて、あとはクレールだけ・・・


「まだ掛かりそうですね」


「何が?」


「クレールさんです」


 ああ、と皆が肩を落とし、溜め息をついた。


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