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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
68/130

第68話


 戻って、マサヒデ達のテーブル。

 ここにはマサヒデ、マツと、マツの実母、もう一人の王妃がいる。


「お座りになって」


「失礼致します」


 クレールが隙のない礼をして、隙もなく椅子に座る。


「ユカリ=フォン=ダ=トゥクライン。マツの母です」

「私はコルネリア=フォン=ダ=トゥクラインです」


「クレール=フォン=レイシクランと申します」


 クレールが微笑みを浮かべて名乗りを返したが、目が笑っていない。


(流石に緊張もするよな)


 仲良くお喋りして、緊張の解けてしまったマサヒデは、クレールを見てのんびりと苦笑を浮かべているが、クレールの緊張はそうではない。

 ここで認められなければ、マサヒデの妻とはなれないのだ。


「お母様。クレールさんもマサヒデ様の妻になります」


 マツのフォローか。既に決まっている、というような言い方をしてしまった。


「あら。では、お父上のレイシクラン公には、既にお許しを得ているの?」


「いいえ。これからです。先にうちに挨拶に来るべきです、とわざわざ譲ってくれたんですよ」


「流石にレイシクラン家のお方は、懐がお広いですね」


 ユカリがそっとミルクの小瓶を取って、紅茶に回して垂らす。

 紅茶の上に、綺麗に白いうずまきが出来た。

 ティースプーンを取り、すう、と回す。


「レイシクランの船で来られた、という話ですから、公爵はきっと、お許しになられているのでしょうけれども」


 マサヒデも、この時にクレールがどうして緊張しているか察せられた。

 これは、マツの母、ユカリの試験ではないのか?

 クレールは今、見定められているのか。


(目に適わないと、やっぱり駄目なのか?)


 王家は許さぬ、という事で、クレールは離れるのか?

 きっとそうなのだろう。でなければ、クレールがこうも緊張する事はない。

 魔王様は許すと言ったが、このユカリという王妃は駄目だと言うかも・・・


「うふふ。ジョン公爵はお声が大きいから・・・マサヒデさん。娘はやらん! なんて言われても、頑張って下さいね」


 ユカリがマサヒデを見て、にっこり笑い、カップを口に運ぶ。

 合格したのか。

 ふう、とマサヒデの口から小さく息が漏れる。


「はい。あの、クレールさんのお父上は、怖いお方なんですか?」


「それはもう! 魔王様とは違う感じの・・・そうね。勢いのあるお方ですから」


「声が大きくて、ですね」


「ええ」


 ユカリとコルネリアが笑う。

 マサヒデがマツを見ると、マツが笑顔を見せた。

 カゲミツと似た感じなのだろうか?



----------



 クレールも許されたようで、マサヒデもほっと一息。


「ところで、先程の龍人族の方が、魔王様の右腕の方と聞きましたが」


「ええ。リュウイチさんには、毎日お世話になっているんです。うふふ」


 ユカリが含み笑い。何がおかしいのか、にやにやした顔をマサヒデに向ける。


「ねえ、マサヒデさん」


「はい」


「魔王様の前に、直に顔を出した勇者って、マサヒデさんが初めてなんですよ」


「え?」


 どういう事か? クッキーに手を伸ばしていた手が止まる。


「リュウイチさんは、いつも魔王様の城まで来られたお方をお迎えするんです。その時、リュウイチさんを見て、立ち向かって来るか、しっぽを巻くか。逃げてしまうにしても、怯えて逃げたのか、それともここは一時撤退したのか、なんて所をちゃんと見てるんです」


 マサヒデは手を引っ込めて頷く。


「はい」


「それで、勇気を持って向かって来る方々は、リュウイチさんが魔王様の前に連れて行くんですよ。勇気ある者。勇者、なんですから」


「あ、なるほど」


「うふふ。リュウイチさんに勝てる方は、魔王様と神様くらいではありませんかしら」


 ふん、とマツが鼻を鳴らす。


「お母様。私、世に出て少々腕を磨きました。リュウイチさんには勝てる自信がございます」


「あら。マツも言うようになったわね」


「お父様には敵わないかもしれませんが、この術を破った方は、マサヒデ様のお父上、剣聖カゲミツのみ! という魔術を研究して作りました」


「へえ・・・」


 きらりとユカリの目が光り、微笑みが消える。


「私にも敵うと思っているの?」


「勿論です」


 このユカリという王妃も、魔術達者なのか。

 マツの魔術の腕は、魔王様の血だけではないらしい。


「見せてもらえる?」


「うふふ。駄目です。リュウイチさんに見てもらってからです」


「ううん、焦らすのね」


 ふ、とユカリの目が柔らかな感じに戻る。


「クレールさん、と呼んでも良いかしら」


「はい」


 クレールがまだ緊張の抜けない目をユカリに向ける。


「クレールさんは、死霊術がお得意なんですね」


「はい」


「珍しいわ。放映は見ていました。ぶんぶん虫を飛ばしたり。あれだけ巧みに死霊術を使う方は、中々おりませんもの」


「まだまだ、魔術師としては未熟です」


「うふふ。謙虚ですこと」


 マサヒデは緊張して畏まっているクレールを見て、なんだか夫の目の前で、姑が嫁をいじめているような感じに見えてきてしまった。

 ユカリの方は、緊張させまいと手を差し伸べている感じを感じるのだが、クレールがずっと畏まっているので、見た目はどうしてもそう見えてくる。


「クレールさんのお陰で、お七夜のパーティーは盛り上がりましたね」


 少し沈黙の間が出来た所で、マサヒデが口を開いたので、皆の目がマサヒデに向いた。


「どんな風に?」


「ふふ。すごく大事な刀で、虎を斬らされましたよ。ね、クレールさん」


 クレールがぎくりとして、マサヒデを見る。


「え? ええ、はい」


 椅子に座る時に、浪人差しのように縦に落としていた腰の雲切丸を、鞘ごと抜く。


「これなんですけどね。もう1000年も前・・・と言っても、ユカリ様には大した年代ではないでしょうが」


 くす、とコルネリア王妃が笑う。


「まあ貴重な逸品ですよ。刀という物が、やっと出来始めた頃の刀、と言えば、貴重さが分かるでしょうか」


 言いながら、カップをどけると、メイドがささっとマサヒデの前の皿やらを下げていく。そっとテーブルに乗せると、2人の王妃が目を輝かせる。

 青貝微塵塗の鞘、鍍金(金メッキ)の金具が、日光を浴びてきらきらと輝く。


「まあ! 綺麗な装飾!」

「本当! 放映では分かりませんでしたが、こんな物をお持ちに」


「でしょう? これで虎なんて大きな動物を斬れ、なんて言うんです。全く、とんでもない事をさせますよね。自分も刀数寄者のくせに」


 くすくす笑うマツの隣で、クレールは身を固めている。


「刀って、やっぱり斬れ味が凄いんですか?」


「物によりけりですが、これはかなり斬れる方です」


 マサヒデがほんの少しだけ抜く。

 いつものように、窓開けした鍔元2寸。

 それより上は、寝刃研ぎで終わっている。

 マサヒデは懐から懐紙を出して、指で摘む。


「見てて下さい」


 摘んだ懐紙を、ゆっくりと下ろしていく。

 刃の上に乗った所で、ぱ、と指を離すと、一旦は乗ったように見えた懐紙が、はらりと斬れて、ひらり、ひらりと左右に分かれて落ちる。


「まあ!」

「凄い!」


 軽く柄を上げて、すとん、と納め、


「魔剣でも称号武器でもない物で、ここまで斬れるのは、そうそうはないです。貴重ですよ。これを使えだなんて」


「でも、そんなに斬れるんですから」


「いやいや、いくら何でも骨には当たりますし、虎は重いですよ。もし曲がってしまったり、欠けてしまったら大変でしたね。まったく、クレールさんの我儘には呆れますよ。自分はその虎に乗って、どうだと言わんばかりの顔で入場してきて」


「もう! マサヒデ様なら大丈夫だって分かってたんです!」


 ついにクレールが声を上げた。


「おほほほ!」


 マツが声を上げて笑い、王妃2人もくすくす笑って、顔を赤くしたクレールをちらちらと見る。


 これで少しは場が和んだだろうか?

 マサヒデもにやにや笑いながら、ゆっくりと腰に雲切丸を戻した。


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