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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
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第67話


 マサヒデとマツが王妃2人と楽しげに話している所、別のテーブルでは―――


「あの2人は楽しそうではありませんか」


 アルマダが笑顔でクレールに愚痴をこぼす。

 別にテーブルを分けられた事には不満はない。

 アルマダは勇者でも、魔王様の親戚でもないのだ。


「・・・」


 クレールは無表情で黙ったまま、紅茶を小さく口に入れる。

 自分から行く事は出来ない。呼ばれなければならない。

 呼ばれた時、王妃からの許しを得られるのだ。


 マサヒデの第二夫人になる許しを。


 呼ばれて、喋る。そしで、見定められる。

 マサヒデも今は楽しげに喋っているが、試されているのだ。


(元から、人に気に入られようとする方ではありませんし)


 はあ、と、クレールが小さく溜め息をつく。

 隣では、ラディが真剣な顔で、何度も魔剣登録の申請書を見直している。


「ええと・・・名前、良し。住所、良し・・・」


 自分と父が手掛けた、今までで最高の作で、最高に危険な魔剣。

 その名には、自分と同じ『ラディスラヴァ』の名がつく。

 後世まで、名が残るのだ。


「良し」


 自分の住所や名前は何度も見直した。

 2枚目を取る。


 『1・この魔剣にはどんな力がありますか。具体的にお書き下さい』


「・・・」


 どのような形にも変化します。

 魔剣、称号武器にも変化します。

 それらの力も再現出来ます。

 その力を見た事がなくても、再現出来ます。


 また、持ち手に大量の魔力を供給します。

 刃物に変化させた際は、異常な斬れ味を見せます。

 変化させず、元のナイフの形のままだと、異常な斬れ味はありません。


 『2・1の力を利用する際、条件などはありますか。具体的にお書き下さい』

 ※例:構え、呪文、天候、時間、使い手の魔力、他に何らかの物が必要など。


 非常に集中力が必要です。


(ええと・・・具体的にお書き下さい? どうだろう?)


 ラディがペンを止めて考える。

 マサヒデ=トミヤスが一振りするのが精一杯なくらい、と書けば、通じる?


「んん~~・・・んん~・・・」


 小さく唸るラディの横から、さっとイザベルが書類を取る。


「あっ」


「ふむふむ」


「イザベル様」


 ん、とイザベルが小さく頷き、


「ラディ、これで良かろう。不足があれば、また尋ねられる」


「大丈夫でしょうか」


「大丈夫だ。審査は必ず通る」


 イザベルが書類を差し戻し、次の欄に指をさす。


 『3ー1・審査を通れば魔剣図鑑に載ります。この魔剣の姿を公開しても』

  『良い』

  『良くない』


 『3ー2・審査を通れば魔剣図鑑に載ります。この魔剣の力を公開しても』

  『良い』

  『良くない』


 『※両方良くないの場合、図鑑には名のみが載ります』


「さあ。チェックを入れろ」


「はい」


 両方に、良い、の方にチェックを入れると、イザベルが頷く。


「最後だ。あれはお前の名を冠し、柄に両親の名を刻まれた魔剣、ラディスラヴァとなり、後世まで図鑑に載るのだ」


 『4・他に補足などがあればお書き下さい』


 この魔剣は、私、ラディスラヴァ=ホルニコヴァと同名です。

 柄には両親の名が彫られています。


 両親が子を支え、立つ。

 マサヒデ=トミヤスさんの発案で、この名が決まり、両親の名を刻みました。


 さらさら・・・

 書いて、ラディが顔を上げる。


「ん。イザベル様、出来ました。どうでしょうか」


「ふうむ! そうか、そういう謂れがあったか! ・・・と、後世の者は心を温めるであろうな。良いと思うぞ」


 またイザベルが書類をひったくり、メイドに見せる。


「最後の補足の所を読んでみよ」


「はい」


 メイドが書類を取り、最後の補足の欄を読み、ちらりと向こうのテーブルのマサヒデを見て、ラディを見て、微笑んで頷く。


「実に良い名の魔剣だと思います」


「であろう。ここにもマサヒデ様の名が残ったな。流石は我が主よ」


 イザベルがもう1枚のラディの名前、住所などが書かれた書類を取り、メイドに差し出す。


「では、これで頼む」


「はい。後の手続きはお任せ下さい。本日中に新しい魔剣が登録されます」


 メイドがぺこりと頭を下げ、テーブルから離れて行った。


 テーブルの端では、シズクが肩を竦めて身を小さくし、俯きながら、ちらちらと周りを見ている。

 膝の上の手を、ちょっと上げては、カップを壊したら、ソーサーを壊したら、と、すぐ引っ込めながら・・・


「ふっ」


 その様子を見ながら、カオルが鼻で笑い、カップを口に運んでいる。



----------



 そのまま四半刻(30分)。


 メイドが戻って来てすぐ、遠い廊下の方の空気が緊張したものに変わった。

 アルマダが目を向けると、数人残ってバラけて並んでいた近衛兵達が、浅く頭を下げている。


(誰か来る)


 カオルも気付いたか、アルマダと一緒に、鋭い視線を廊下の方に向けている。

 奥から出て来たのは、背のぴしりとした老人。


(む!)


 アルマダもカオルもぎょっとした。

 驚いた2人の顔を見て、イザベルとクレールも目を向け、身を固める。


 老人はマサヒデ達のテーブルの方を見て、微笑んで会釈した。

 マツが何か言ったが、小さく首を振って、こちらに歩いて来る。

 マツ達のテーブルからこちらに顔を向けた時、微笑は消えていた。


(何者だ)


 全員の頭に、疑問と恐怖が浮かぶ。

 老人の背には、大きな羽が生えているのだ。

 鳥族の羽ではない。竜のような被膜の羽。龍人族。

 城仕えの龍人族で、この年齢。相当の古参のはずでは?


 老人はテーブルの横に立ち、張りのある低い声で、クレールに顔を向けた。


「クレール=フォン=レイシクラン様は、貴方様でしょうか」


「はい」


 老人がクレールを見ながら頷く。


「相談役のリュウイチ=ツシマと申します」


 リュウイチ! これが、魔王様が話していた、古参の龍人族!

 皆はぎょっとしたが、クレールは静かに立ち上がり、綺麗に頭を下げる。


「このようなはしたない格好でお許し下さい。私がクレール=フォン=レイシクランでございます」


 クレールはドレスではなく、冒険者姿。

 いくら城中に入り込めても、その後がすんなりいくはずもないと誰もが考えていたから、アルマダも鎧を着てきたし、マサヒデも正装ではない。


「いえいえ。つい先程まで、勇者ではございませんでしたからな。服装はお気になさらず」


 答えながらも、リュウイチはじっとクレールを見ている。

 クレールが顔を上げると、リュウイチの深く青い目と視線が合った。


「・・・」「・・・」


 二人共、黙ったまま、沈黙が過ぎていく。

 テーブルの皆も、静まり返っている。

 しばらくして、リュウイチがにこっと笑い、


「レイシクラン様。お待たせ致しました。どうぞあちらのテーブルへ」


「はい。失礼致します」


 綺麗に頭を下げ、しずしずとクレールが歩いて行く。

 取り敢えず、リュウイチの見定めには合格したようである。


 クレールが横を通り過ぎたが、リュウイチはテーブルの方に目をやったまま。

 見ているのは、治癒師のローブの、眼鏡を掛けた、背の高い若い女。


「ラディスラヴァ=ホルニコヴァ殿だな」


「はいっ!」


「この魔剣は・・・」


 リュウイチが、懐から魔剣を取り出す。

 審査の事だろうか。


「は、はい」


「拵えが随分と変わっている。そして、柄には貴女の両親の名が刻まれている」


「はい」


「もしかして、この拵えを手掛けたのは、君の父上かな? 腕利きの鍛冶師という情報は既に届いている」


「は、はい! そ、その、鞘は、私めが、やらせて頂きました」


「なるほど。情報通り一流だな。では、図鑑の方には、拵えは君のお父上、鞘は貴女の作、と付け加えておく。構わないかな」


「は、ははーっ!」


 がば! と勢い良く頭を下げ、ラディのローブがぶわっと上がって、ぱさっと落ちる。リュウイチは苦笑して、


「ふふふ。別にお情けとかどうのという話ではない。刀身を作ったのは誰、という情報はあっても、拵えを手掛けたのは誰、という情報まであるのは、数が少ないのだ。貴重な資料だ」


「あっ」


 確かに、刀身に誰々と銘があっても、拵えなどに銘があるものは少ない。

 刀などは拵えに小さく彫ってある事もあるが、ナイフではまず無いだろう。


「実に良い出来だ。オーダーメイドのように手に馴染む。力も先程確認した。登録は先程の書類に魔王様が印を押せば終わりだ。さて、封印の件だが、もう一度確認する。本当に封印して良いかね。君の個人蔵とする事も出来る」


 ラディは迷いなく頷く。


「封印をお願いします」


 即答したラディの迷いのない目を見て、リュウイチも頷いた。


「結構。急いで封印作業に取り掛かろう。私自身で厳重に封印してみせる。では、皆様、ご挨拶も出来ず申し訳ありませんが、本日はこれにて」


 頭を下げたリュウイチに、皆も頭を下げる。

 去り際、アルマダは、リュウイチとちらりと目が合ったのを感じた。


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