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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
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第66話


 マサヒデ達とは別にテーブルが置かれ、アルマダ達はそちらで席を囲んでいる。

 マサヒデとマツは、マツの実母のユカリと、もう1人の王妃と、タマゴの置かれたテーブルで茶会だ。


「私は」


 マツの母と別の王妃が名乗ろうとした時、がちゃがちゃと鎧を鳴らして、魔王が近付いて来た。

 はっとしてマサヒデは身を竦める。


「急ぎの仕事が出来た」


「そんな。魔王様、マサヒデさんが来たばかりなのに」


「そのマサヒデ君のせいで出来た仕事だ。すぐに戻る」


 がちゃ、がちゃ・・・


 見送ると、廊下からは、いつの間にか近衛兵が消えていて、数人が残っているだけになっていた。

 ふう、とユカリが溜め息をつくと、もう一人の王妃も苦笑い。


「すぐ戻る、と言って、戻る事は滅多にないんです。夜まで戻りませんよ」


 ユカリより年上に見えるが、この王妃は一体何歳なのだろう。耳が出ているから獣人族というのは分かる。

 だが、一口に『獣人族』と言っても多種居て、虎族、熊族などは、何百年生きるか分かったものではない。マスダも全然老けて見えなかったが(古い獣人族のように獣そのものの顔という事もあるが)、200年以上を米衆連合国で過ごしているのだ。

 その前はこの魔の国に居たらしいが、一体何年過ごしていたのか。


「私はコルネリアと申します」


「は。改めまして、マサヒデ=トミヤスと申します」


「私はたったの120歳ですから」


 たったの・・・

 しかし、120歳というと、マツよりも遥かに年下の母、という事になるのか。


「あの、獣人族の方でしょうか」


「いえ。尖耳族です」


「あっ! そうでしたか。あ、ああいや、耳があるので、てっきり獣人族の方だと。失礼をお許し下さい」


 尖耳族の寿命は長くても300年くらいと、シズクに教えてもらったが、言ってから、耳がある、というのもおかしな言い方だな、と思った。


「うふふ。人族の方には、見分けが難しいですか」


「言われれば、確かに耳の形が全然」


「でしょう。でも、私、あまり耳の形は良くないって、占い師の方に言われたの。それが王妃になってしまって。占いなんて、あてになるものではないわね。うふふ」


 ユカリは意外そうに、マツは不本意な、という顔をして、


「そう? 私は占いは好きよ」

「まあ! コルネリアお母様、私は陰陽頭を務めておりましたのよ!」


「オンミョーノカミって何?」


「日輪国の王宮魔術師のトップです。占い師のまとめ役も兼ねておりました」


「あら!」

「ま! ごめんなさい!」


「うふふ。トップだなんて、自分で言うのも何ですけど」


 くすくすと王妃とマツの3人が笑う。

 マツがにこにこしながら、マサヒデの方を向き、


「マサヒデ様は、占いは信じますか?」


「いえ」


「うふふ。妻が元陰陽頭って知っていて、酷い言い草」


 マツは笑いながら、テーブルの上のタマゴを撫でる。


「お母様」


「ん?」


「私は、どのくらいで産まれましたか?」


 マサヒデやカゲミツ達が生きている間に、子の顔が見られるか。

 ユカリは首を振って、


「300年は掛かったかしら? もっとかも」


「そうですか」


「そうね。マサヒデさんの血を引いているとはいえ、この子も、短くても100年は掛かると思うわ」


「・・・」「・・・」「・・・」


 テーブルの皆が黙り込んでしまった。

 タマゴに置かれたマツの手に、ユカリの手が重ねられる。


「マツ。ごめんなさいね。私の子に産まれてしまったから」


 マツが首を振り、微笑んだ。


「いえ。良いのです。マサヒデ様も、トミヤスのお父上も、このタマゴが見られただけで幸せだと仰ってくれました」


「そう。良いご家族が増えましたね」


「はい。お母様、カゲミツ様や、トミヤスのお母上、アキ様にお会いになって頂けますか?」


「勿論よ」


「ありがとうございます」


 ユカリが手を引いて、コルネリアと顔を見合わせて笑う。


「うふふ。マツ、知ってるでしょう? 私達は暇なんです」


「ま! ユカリ様ったら。でも、マツさん。私もお会いになってみたいわ」


 段々と女性の会話の流れになってきた。

 こうなってくると、マサヒデが口を開くのは少なくなってくる。


(魔王様が戻るまで、俺は茶を飲むだけか)


 空になったカップをメイドに差し出すと、上品に注いでくれる。

 元々、自分から、こういった世間話のようなものに・・・


「マサヒデさん」


「ぐ! えっふ! ごふ」


 もう喋らなくても良いかな、と完全に油断して茶を口に入れた所で、急に話し掛けられたので、むせてしまった。


「あら、大丈夫?」


「けふっ! い、いえ」


 こほん、こほん、とむせながら、カップを置いて、懐紙を出して口とテーブル、袴を拭く。メイドも慌てて、マサヒデの袴にハンカチを差し伸ばしたが、マサヒデは手で止めて、丸めた懐紙を懐に入れる。


「おほん! ん、んんっ・・・や、失礼致しました。何でしょうか」


「ここまでは、どのような旅路を?」


「む」


 どのような、と聞かれても、一言には答えにくい。


「色々ありまして、一言ではとても。オリネオの町から首都まで、あ、日輪国の首都、ウキョウまで歩いて。北のゾエという所に海を渡って、また海を渡って、米衆大陸を横断して、海を渡って、ジョアルに来て、ジョアルからファッテンベルク家に行って、ジョアルに戻って、ジョアルから船でここに」


「日輪国から、米衆連合を横断して・・・という事は、もう世界の半分近くを渡って来たんですね」


「まあ、ほぼ直線でですが、そうなります。ですが、3つの国しか歩いていません。日輪国、米衆連合、魔の国だけです」


「では、どなたが一番お強かったですか?」


「んんー・・・」


 マサヒデが腕を組み、吹き抜けの空を見上げる。

 一番強い・・・と、言えば、あの存在。


「テヅカ様ですね」


「テヅカ様? 何かの武術の先生ですか?」


「いえ。彫カトウ=テヅカという神様に会いました」


「え!?」「ええっ!?」「そんな!?」


 マツもまだ聞いていなかったので、これには驚いた。


 彫カトウ=テヅカ。

 戦の神として有名だ。米衆大陸で、太古の昔、栄華を極めた国の神。

 多面性があり、他にも、太陽、剣、魔術、予言、創造など、色々な面を持つ。


 元々、米衆大陸に文化を持ち込んだのはおおとりの神で、その元で学んでいた現地人の1人であり『もう大丈夫だろう』と鳳の神が飛び去った後に、戦で破壊と殺戮の限りを尽くし、古代の米衆連合の地に大帝国を築いた、と言われる。

 そして、後に様子を見に来た鳳の神の怒りを買って、封印されてしまったと聞く。

 現在の米衆連合の先住民は、テヅカの帝国民の子孫だという。


「圧倒的です。神様も生き物だ、とはマツさんから聞いていましたが、あれは殺せる生き物ではないですね。戦ったのは、テヅカ様ご本人ではなく、化身のジャガーでしたが」


「戦ったのですか!? 神と!?」


 驚いて声を上げるマツに、マサヒデは腕組みしたまま頷く。


「ええ。と言っても、向こうは全く手を出さなかったんですが。斬っても、燃やしても、元の姿に戻ってしまい、困ってしまって、魔術で地の底深くに埋めたんですが、しれっと茂みから出てくるんです」


「・・・」「・・・」「・・・」


「魔剣で斬っても、全く効きませんでしたね。すぱっと斬れた、と思ったら、また元の姿に戻るんです」


 マツ達3人も、テーブルの脇のメイドも、口を開けて驚いている。

 まさか、神と戦った者が、魔王様とリュウイチ以外にこの世にいるとは!

 驚く3人を見て、マサヒデが笑い、


「おお、そうでした。トモヤはテヅカ様ご本人と戦いましたよ。ははは」


「ええっ!?」


「ええ。勿論、将棋で」


「しょしょっ、しょ、将棋!? 神様と将棋ですか!?」


「ははは! とんでもない話ですよね。ちゃんと棋譜は残してありますよ。興味があるなら、船に使いを出して、届けてもらっては?」


「あ、あ、あります!」


「なら、私も勇者になってしまいましたし、ついでにトモヤも呼んでくれると嬉しいですね。船に残って震えているか、拗ねているかは分かりませんが、もう安心です、と伝えてくれると」


「あっ! すっかり忘れてました・・・」


「ははは! マツさん、それはトモヤが可哀想ですよ!」


 マツが横のメイドに顔を向け、


「港に停泊中のレイシクランの船、シルバー・プリンセス号に使いを頼みます」


「はい」


 さ、とメイドがメモと鉛筆を出す。


「トモヤ=マツイ様宛。マサヒデ様が勇者となりましたので、万事ご安心下さい。つきましては、このロ=マーン城へ是非お運びを。その際は、テヅカ神との勝負の棋譜をお持ち下さい。以上」


 さらさら、とメイドが鉛筆を走らせ、マツに顔を向ける。


「レイシクランの船、シルバー・プリンセス号。トモヤ=マツイ様宛」


「はい」


「マサヒデ様が勇者となりましたので、万事ご安心下さい。つきましては、このロ=マーン城へ是非お運びを。その際は、テヅカ神との勝負の棋譜をお持ち下さい。以上で宜しいでしょうか」


「結構です」


「すぐに」


 ふふ、とマサヒデが横で笑う。

 あのトモヤが、魔王様の城へ、たった1人で、門を通って入って来るのだ。


(どんな顔をして入って来るかな)


 くく、と笑いを堪えているマサヒデを見て、ユカリもくすっと笑い、


「まあ、嫌らしい笑い方を致しますのね」


「あ、これは失礼致しました。ふふふ、私達は、あの隠し通路から来ましたけど、トモヤはたった1人で正門から入って来るのか、と想像してしまったら」


「くっ!?」


 マツが笑いを堪え、口を押さえる。


「あはははは! トモヤ様、お、驚きますよね!」


「あーっははは! マツさん、隠れて見に行きましょうよ! ははは!」


「う、ふふふ・・・マサヒデ様! また、もう!」


 げらげら笑う2人を見て、ユカリもコルネリアも楽しそうに笑う。

 その様子を、向こうの離されたテーブルで、アルマダ達が見ていた。


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