第60話
シルバー・プリンセス号、イザベルの部屋。
カオル、クレールと3人で首都周辺の地域図を広げ、作戦会議である。
「まずプランA。緊急避難用の通路からの侵入。場所が分かりませんので、これはマツ様が来られてからとします。このシルバー・プリンセス号は港に通常通り入港するとして、我らはどこから上陸し、街に入るかですが・・・」
はい、とクレールが手を挙げる。
「プランAとは? Bもあるんですか?」
む、とイザベルが頷く。
「避難用の通路など、そもそもないかもしれないという恐れがございます。何しろ、魔王様と、そのご家族ですから・・・外から来られた奥方を除けば、一家で世界を相手に戦い抜く事も出来そうですので」
「はっ! 確かに!」
「ですので、そのような物が存在しない、という時の策をプランBとします。これを考えておきましょう。マツ様が来られるまで、まだ1ヶ月はございます」
「はい!」
「さて。まずは上陸地点と、街への侵入。荷物に紛れて運び出すという手もございますが・・・これは見つかる可能性が大ですので、やめましょう。港の警備隊に勇者祭の参加者がおりますと、臭いでバレます。箱の上から剣、槍がぶすり。臭いが漏れぬよう密閉しては、窒息死です」
カオルが少し考え、
「・・・重要貨物に偽装しては。レイシクランの紋章を入れ、封印を施した、ように見せる。いえ、開けられぬよう、封印してしまった方が良いでしょうか。中からは開くような仕掛けの封印など・・・」
クレールが首を振る。
「却下です」
「何故でしょう」
「シズクさんが入った箱、異常な重さになります。絶対に検査されます」
「む!」「確かに!」
クレールが腕を組む。
「やはり、港とは別から侵入を考えた方が良いと思います。港は警備が厳重ですから・・・」
そう言って、灯台近くの崖を指差す。
「この辺りなんか。誰もここから入ってくるとは思わないでしょう」
カオルが顎に手を当てる。
「崖は良いですが・・・灯台守もおります。首都の灯台となると、ここも厳重なはず。少し離しましょう」
指差して、すーっと滑らせた所は、何も無い林。防風林である。
あまり木は深くなさそうだが、隠れて進むには十分か。
「この辺り。林が街まで伸びております。問題は街の壁をどう越えるか。門を通るわけにも参りませぬ。イザベル様、街の壁には結界は?」
「ございます」
カオルが渋い顔で天井を仰ぐ。
「ううん! どうしても門を通るしかないですか! どうしたものか・・・運送業者やキャラバンを装いますか」
クレールもがっくり肩を落とす。
「くらいしかございませんね・・・はあ」
「それらに扮して、魔獣に襲われた、などと駆け込むくらいですか。血でも撒いておけば、少しは誤魔化せましょう」
碌な策が浮かばない。
流石は魔王様のお膝元、潜入は非常に難しい。
「あとは地下水路を使うくらいしかないですね。出水口は鉄柵で封鎖されておりますが、シズクさんに壊してもらえば入れます」
む、とクレールが顔を歪める。
「地下水路ですか・・・」
淀んだ水。そこを流れる排泄物。大量のネズミや虫。
イザベルも肩を落とす。
「我々には厳しいですが・・・それに、街に潜入は出来ても、臭いで街中の警備兵にバレてしまいますので、出たら城まで駆け抜けませんと」
「城内には続いていませんか」
「街中に敷かれておりますから、勿論、続いてはおります。が、当然、結界が張られておりましょう」
「ですよねえー!」
クレールが声を上げ、イザベルも頭を抱える。
「出口もどこになるのやら・・・便器から顔を出したくはありませぬ」
カオルが首を振り、諦めたように椅子にもたれる。
「クレール様、イザベル様。地下水路から行くのでしたら、堂々と正面から行く方が良いかと。下水の臭いを纏って城内に入る事は少々・・・臭い勇者などと、マサヒデ様が呼ばれてしまう事に。良く来た。謁見は許すがまずシャワーを3度浴び、香水を頭から浴びてこい、などと」
「それは嫌です!」
「う!」
顔をしかめた2人に、カオルが手を振り、
「地下水路はやめましょう。影働きの潜入ならばありですが、我々はその後、姿を晒さねばならぬのです」
「ううん・・・」
「プランBは、奥方様を含めの案を考えましょう。奥方様がご協力してくれなくても、何らかに使うよう。使うと言うと言葉が悪いですが」
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プランC。
正面突破をするしかないならどうするか。
「騎士達は私にお任せ下さい。良い策がございます」
カオルが得意げに頷くと、クレールが尋ねた。
「自信ありげな顔ですけど、どうするのです?」
「先に街に潜入し、皆様の到着の機を見て、城までの通り道に目潰しの粉を撒いてきます。騎士には獣人族が多くございます。ほとんどは泣きながら、通り行く我らを見送るのみ。例え騎士の中に勇者祭の参加者が居ても、襲いかかってくる者はかなり抑えられましょう」
「それは、そうですけれど」
イザベルが顔をしかめる。これではテロ行為に近い。それに・・・
「カオル殿、それでは一般市民に被害者が出ます」
これはご法度だ。
「では薄めましょう。酷い花粉症になる程度で済みます」
「それでは意味がないのでは」
カオルが自分の鼻をつんつん突付く。
「要は、獣人族の鼻だけを潰す事が出来れば良いのです。通りを歩いている我々は、クレール様配下の影武者に。その間に、我々は裏通りをこっそりと抜け、城へ。鼻の効かぬ獣人族に、我らに気付く者はおりますまい」
ぱん! とクレールが手を叩く。
「なるほど!」
「これなら成功率は高いと思います。ただし、クレール様配下の忍の皆様に力を借りる事になりますし、煙を撒いて忍び込んで勇者とは、少々聞こえが悪くなりますが」
む、とクレールが返事に詰まる。
イザベルも口を濁し、
「カオル殿、それは些か」
「されども、戦いながらでは難しゅうございます」
現実主義の忍らしい意見だ。
そして、効果的なのも事実だ。
確かに、大量に人が集まる通りを堂々と歩いていくのは無理だ。
いつ襲われるか分からないし、狙撃されるおそれは多いにある。
本通りを歩かず裏通りを抜けていくにしても、獣人族の多い街の中である。
簡単に見つかり、囲まれるのは目に見えている。
クレールが困った顔で首を振る。
「カオルさん、良い提案ですけど、それは保留にしましょう。どうしようもなくなった時に」
「ご満足頂けませんか」
「マサヒデ様の名に瑕が付きます。後世まで残ってしまうのです。一般市民にも影響が出てしまう手ですから、下手をすると、その場で脱落。逮捕です」
「・・・」
「綱渡りも過ぎる手ですよ。別の案を考えましょう」
む、とカオルが頷く。
「では、次の策」
「あるのですか?」
「城の門までは行けますが・・・」
こうして、会議は続いていくのであった。




