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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
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第60話


 シルバー・プリンセス号、イザベルの部屋。


 カオル、クレールと3人で首都周辺の地域図を広げ、作戦会議である。


「まずプランA。緊急避難用の通路からの侵入。場所が分かりませんので、これはマツ様が来られてからとします。このシルバー・プリンセス号は港に通常通り入港するとして、我らはどこから上陸し、街に入るかですが・・・」


 はい、とクレールが手を挙げる。


「プランAとは? Bもあるんですか?」


 む、とイザベルが頷く。


「避難用の通路など、そもそもないかもしれないという恐れがございます。何しろ、魔王様と、そのご家族ですから・・・外から来られた奥方を除けば、一家で世界を相手に戦い抜く事も出来そうですので」


「はっ! 確かに!」


「ですので、そのような物が存在しない、という時の策をプランBとします。これを考えておきましょう。マツ様が来られるまで、まだ1ヶ月はございます」


「はい!」


「さて。まずは上陸地点と、街への侵入。荷物に紛れて運び出すという手もございますが・・・これは見つかる可能性が大ですので、やめましょう。港の警備隊に勇者祭の参加者がおりますと、臭いでバレます。箱の上から剣、槍がぶすり。臭いが漏れぬよう密閉しては、窒息死です」


 カオルが少し考え、


「・・・重要貨物に偽装しては。レイシクランの紋章を入れ、封印を施した、ように見せる。いえ、開けられぬよう、封印してしまった方が良いでしょうか。中からは開くような仕掛けの封印など・・・」


 クレールが首を振る。


「却下です」


「何故でしょう」


「シズクさんが入った箱、異常な重さになります。絶対に検査されます」


「む!」「確かに!」


 クレールが腕を組む。


「やはり、港とは別から侵入を考えた方が良いと思います。港は警備が厳重ですから・・・」


 そう言って、灯台近くの崖を指差す。


「この辺りなんか。誰もここから入ってくるとは思わないでしょう」


 カオルが顎に手を当てる。


「崖は良いですが・・・灯台守もおります。首都の灯台となると、ここも厳重なはず。少し離しましょう」


 指差して、すーっと滑らせた所は、何も無い林。防風林である。

 あまり木は深くなさそうだが、隠れて進むには十分か。


「この辺り。林が街まで伸びております。問題は街の壁をどう越えるか。門を通るわけにも参りませぬ。イザベル様、街の壁には結界は?」


「ございます」


 カオルが渋い顔で天井を仰ぐ。


「ううん! どうしても門を通るしかないですか! どうしたものか・・・運送業者やキャラバンを装いますか」


 クレールもがっくり肩を落とす。


「くらいしかございませんね・・・はあ」


「それらに扮して、魔獣に襲われた、などと駆け込むくらいですか。血でも撒いておけば、少しは誤魔化せましょう」


 碌な策が浮かばない。

 流石は魔王様のお膝元、潜入は非常に難しい。


「あとは地下水路を使うくらいしかないですね。出水口は鉄柵で封鎖されておりますが、シズクさんに壊してもらえば入れます」


 む、とクレールが顔を歪める。


「地下水路ですか・・・」


 淀んだ水。そこを流れる排泄物。大量のネズミや虫。

 イザベルも肩を落とす。


「我々には厳しいですが・・・それに、街に潜入は出来ても、臭いで街中の警備兵にバレてしまいますので、出たら城まで駆け抜けませんと」


「城内には続いていませんか」


「街中に敷かれておりますから、勿論、続いてはおります。が、当然、結界が張られておりましょう」


「ですよねえー!」


 クレールが声を上げ、イザベルも頭を抱える。


「出口もどこになるのやら・・・便器から顔を出したくはありませぬ」


 カオルが首を振り、諦めたように椅子にもたれる。


「クレール様、イザベル様。地下水路から行くのでしたら、堂々と正面から行く方が良いかと。下水の臭いを纏って城内に入る事は少々・・・臭い勇者などと、マサヒデ様が呼ばれてしまう事に。良く来た。謁見は許すがまずシャワーを3度浴び、香水を頭から浴びてこい、などと」


「それは嫌です!」

「う!」


 顔をしかめた2人に、カオルが手を振り、


「地下水路はやめましょう。影働きの潜入ならばありですが、我々はその後、姿を晒さねばならぬのです」


「ううん・・・」


「プランBは、奥方様を含めの案を考えましょう。奥方様がご協力してくれなくても、何らかに使うよう。使うと言うと言葉が悪いですが」



----------



 プランC。

 正面突破をするしかないならどうするか。


「騎士達は私にお任せ下さい。良い策がございます」


 カオルが得意げに頷くと、クレールが尋ねた。


「自信ありげな顔ですけど、どうするのです?」


「先に街に潜入し、皆様の到着の機を見て、城までの通り道に目潰しの粉を撒いてきます。騎士には獣人族が多くございます。ほとんどは泣きながら、通り行く我らを見送るのみ。例え騎士の中に勇者祭の参加者が居ても、襲いかかってくる者はかなり抑えられましょう」


「それは、そうですけれど」


 イザベルが顔をしかめる。これではテロ行為に近い。それに・・・


「カオル殿、それでは一般市民に被害者が出ます」


 これはご法度だ。


「では薄めましょう。酷い花粉症になる程度で済みます」


「それでは意味がないのでは」


 カオルが自分の鼻をつんつん突付く。


「要は、獣人族の鼻だけを潰す事が出来れば良いのです。通りを歩いている我々は、クレール様配下の影武者に。その間に、我々は裏通りをこっそりと抜け、城へ。鼻の効かぬ獣人族に、我らに気付く者はおりますまい」


 ぱん! とクレールが手を叩く。


「なるほど!」


「これなら成功率は高いと思います。ただし、クレール様配下の忍の皆様に力を借りる事になりますし、煙を撒いて忍び込んで勇者とは、少々聞こえが悪くなりますが」


 む、とクレールが返事に詰まる。

 イザベルも口を濁し、


「カオル殿、それは些か」


「されども、戦いながらでは難しゅうございます」


 現実主義の忍らしい意見だ。

 そして、効果的なのも事実だ。


 確かに、大量に人が集まる通りを堂々と歩いていくのは無理だ。

 いつ襲われるか分からないし、狙撃されるおそれは多いにある。


 本通りを歩かず裏通りを抜けていくにしても、獣人族の多い街の中である。

 簡単に見つかり、囲まれるのは目に見えている。

 クレールが困った顔で首を振る。


「カオルさん、良い提案ですけど、それは保留にしましょう。どうしようもなくなった時に」


「ご満足頂けませんか」


「マサヒデ様の名に瑕が付きます。後世まで残ってしまうのです。一般市民にも影響が出てしまう手ですから、下手をすると、その場で脱落。逮捕です」


「・・・」


「綱渡りも過ぎる手ですよ。別の案を考えましょう」


 む、とカオルが頷く。


「では、次の策」


「あるのですか?」


「城の門までは行けますが・・・」


 こうして、会議は続いていくのであった。


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