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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
57/128

第57話


 そして翌朝、トミヤス道場前―――


 フギが門前に立って道場を覗き込んでいると、中から門弟が出て来た。


「おはようございます」


「はい。おはようございます。はあ、ここがトミヤス道場」


「はい。何か御用でしょうか」


「うんうん。私、三傅流のヒデノブ=フギと申します。カゲミツ君、いる? ああいや、カゲミツ様、おられますか?」


 う! と門弟が目を見開く。

 この老人、森戸三傅流宗家か!


「はい・・・」


「あ、そうそう! 今、柔鋼流の人、来てるんだって? ジロウさんから聞いたの。居るかな?」


「ああ、マスダ先生。おられます。師範代を務めておられまして」


「師範代! カゲミツ君、柔鋼流まで入れちゃうつもり!?」


「さ、そこは私には何とも・・・ご案内致します」


「宜しくお願いします」



----------



 さらりと道場の戸が開く。


「やれやれ。最近は客が」


 多いな、と、カゲミツが言いかけ、入って来たフギを見て、ぎくりと身を固めた。

 森戸三傅流のフギではないか。

 カゲミツが首都に居た頃はまだ宗家ではなかったが、既に指名はされていた。


 師、コヒョウエのシュウサン道場と三傅流道場は親交もあり、当然、カゲミツも知っている。


「ん、おほん!」


 カゲミツが咳払いして、ぴ! と身を正す。


「わざわざのお運び、ありがとうございます」


 頭を下げたカゲミツに、門弟も、ジンゴロウも、マスダも、ナガタニも、皆が驚いた。

 誰だ? と思ったが、とにかくカゲミツがこれ程になる者。合わせて頭を下げる。


「や! カゲミツ君、久し振り! 貫禄出て来たねえ!」


「畏れ入ります」


 フギが笑顔で頭を下げて、


「森戸三傅流のヒデノブ=フギと申します」


 う! とジンゴロウとナガタニが身を固めた。

 すぐに驚いた身を正し、頭を下げる。


「お初にお目にかかります。サカバヤシ流夢想派、ジンゴロウ=サカバヤシです」

「一剣流ゾエ派、ナタノスケ=ナガタニです」


 マスダはあぐらのまま、頭を下げる。


「柔鋼流、ショウジ=マスダだ」


 ぱしん! とカゲミツがマスダの頭をはたき、


「マスダさん! すげえ人だから! ちゃんとしてくれ!」


「んん・・・」


 マスダが正座になり、頭を下げる。


「失礼。柔鋼流の、ショウジ=マスダです」


「あははは! いやいや、凄い顔ぶれじゃない!」


「は! 運に恵まれまして!」


 フギがにやにや笑う。


「息子さんのお陰じゃあないの? んん?」


「は!」


「何々、道場、上手くいってるそうじゃない。馬術まで始めちゃったとか?」


「は!」


「んふふ。いやあ、柔鋼流の人が居るって聞いてびっくりしちゃったけど、サカバヤシ流の宗家まで居るなんて、聞いてなかったよ! それにゾエ派の一剣流! 本土じゃあ滅多に見られないね!」


「は!」

「畏れ入ります」

「まだまだでございますが」

「・・・」


「カゲミツ君とは積もる話もあるけど、まずは・・・皆さん、どう? ちょっとだけ」


 ちょっとだけ、とフギが指を作り、片目をつむる。

 頭を下げたままのカゲミツ。

 緊張した顔を見合わせる、ジンゴロウとナガタニ。

 その3人を見る、マスダ。


「どうでしょう? 他流派との交流って、悪くないと思いますけど。勿論、出せる範囲で構いませんし」


 んく、とカゲミツが喉を鳴らし、


「で、では・・・おい、ナタノスケ。折角だから、勉強させてもらえ」


「自分ですか!?」


 一番手!?

 指名されたナガタニが、ぎょっとして声を上げた。



----------



 ナガタニは木剣。

 フギは竹刀。

 道場の真ん中に立ち、頭を下げる。


「宜しくお願いします」

「宜しくお願いします」


 フギがひょいと構えた瞬間、ぐ! とナガタニの身体に緊張が走る。

 何と言う威圧感!

 ただでさえ大柄なフギの身体が、異常に大きく感じる。


 気圧されて、す、と引く。

 す、とフギも出て来る。

 引く、出る、と数歩。


(いかん!?)


 もう背中に壁を感じる。

 1歩下がったら終わりだ。

 が、気圧されて手が出せない。


「ほい」


 竹刀が動き、正眼から切先が少し上がった。

 は! と木剣を上げたが、その瞬間、ばしん! と脇腹に入った。


「うっ」


「はい。そう力まないで。手を出して下さい」


(それは無理です!)


 脇腹への撃ち込みは軽いもの。大して痛くもないが・・・


「ナタノスケ! 呼吸を整えろ!」


 カゲミツの声。


「はい!」


 フギが頷き、す、す、と下がる。

 すうー、ふうー、すううう・・・ふううう・・・

 ゆっくり呼吸を整えると、幾分はマシになった、気がする。


 完全に飲まれているのは分かっているが、分かっていてもどうしようもない。

 それほどに威圧感がある。

 これは割り入って擦り落とし、など出来るものではない。


「ん! お見事! 見せて下さい!」


 ではせめて!

 八相に構え、ささ! ささ! と左右に動く。

 左右転之秘太刀そうまろばしのひだち


 ここで拍子を変え・・・

 もう一度左に動いた時、ぴたりとナガタニの足が止まった。


 踏み込めない。

 フギの竹刀の切先は、ぴたりとナガタニの正中線を捉え、動く。


「う」


「面白いね。さあ見せて」


 一目で見切られた。完全に捉えられている。


「む!」


 そのまま八相から袈裟に振り下ろす。

 フギも打ちに行く。


 かん!


 木剣と竹刀。

 ぶつかって互いに弾いたが、竹刀が負けた、と見えた。

 フギが横に押された。


 が、押されるまま横に動いて、弾かれた竹刀はフギの頭の上でくるりと回る。

 弾かれた木剣に振られ、少し崩れたナガタニのこめかみに、ぴたり。


「こういう事なんですね。分かった?」


「参りました」


 ナガタニが身を起こすと、フギがにこにこ笑っている。


「初めて見る歩法だねえ。うちの千鳥足に少し似てるかな」


「は」


「完全に飲まれてるな、と思ったけど、よく動けた。胆力が練られてる証拠。ね」


「畏れ入ります」


「うんうん。全然一剣流に見えなかった。あれに擦り落としも入るんだね! いやあ、面白い!」


「は」


 ナガタニが一礼して下がって行くと、カゲミツが、ちらちらとジンゴロウ、マスダと見る。ジンゴロウが目を細めて頷いた。


「私が行こう」


 そう言って立ち上がり、すたすたと歩いて行き、模擬刀を2本持って来た。


「フギ先生」


「おっ! やっぱりそうきた! いや私もね。興味あったの」


 そう言って、フギがにやりと笑うと、ジンゴロウもにやりと笑った。

 フギは木刀を壁際に置いて、帯に模擬刀を差し、下緒をくるりと巻く。

 ジンゴロウも同じように、下緒をくるりと巻く。


「うちもね。抜き打ちは売りのひとつだから。いやあ、サカバヤシ先生の抜き打ちなんて、見れるもんじゃないもんね! お互いに見せましょう。ね」


「まだまだ修行の身。ご満足頂けるか分かりませぬが」


「まあたまた!」


 そう言ってフギが笑うと、ジンゴロウもにやりと笑った。

 2人がすたすたと歩いて行き、道場の真ん中に立つ。

 ジンゴロウが懐に入れていた右手を抜く。


 これだけでも門弟達は驚いてしまった。

 ジンゴロウは懐に手を入れたままでも、いつ抜かれたか分からない抜き打ちをしてくる程なのに・・・


 一礼して上げた2人の顔からは、笑みが消えていた。

 ぴん、と空気が張り詰め、皆が息を飲む。


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