表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
54/127

第54話


「ほなら、宜しくお願いします」


 縁側でマスダと対面したフルタが、えらく丁寧に頭を下げる。

 自身も空手をやっていた事もあり、柔鋼流という古流空手に対する尊敬や憧れもあり、マスダという虎族の武術家に対するリスペクトも大きい。

 2人の横では、マガチとササイが正座して座っている。

 ササイはペンを持ち、一言一句逃すまい、と集中している。


「おう。何でも聞け」


「まずひとつ。どおーしても分からん事があります」


「何だ」


「何処で柔鋼流を習ってはりましたか、ちゅう所です」


「あー、皆それ聞くな。魔の国でだ」


「魔の国?」


「俺が習ったのは道場でじゃあねえ。柔鋼流を破門になったオヤジが魔の国に来た。で、山ん中で襲いかかった俺をぶちのめし、俺を拾った」


「ちょ待って下さい。襲って、拾ったちゅうのは、あれですか。マスダ先生は、盗賊とか山賊みたいので、才能を見た的な感じで?」


「いや、違う。俺は捨て子でな。獣同然に、山で裸で走り回ってた。親の顔も知らねえ。いつ捨てられたのかも覚えてねえ。それを、オヤジが拾い、読み書き、言葉を教えてくれて、武術を仕込んでくれて、ショウジという名も、オヤジがつけてくれた」


「んー!」

「壮絶というか、いや、僕らには想像も出来ないすね」

「ほんまやな・・・」


 マスダが煩そうに手を振る。


「で! オヤジが死んで。山を下りて。その後、色々あって、ここに来た」


「その、お父上は、最初はどうしてその山に?」


 ぷ! とマスダが吹き出し、口に手を当てた。


「く、くくく・・・わ、笑うなよ!?」


「は?」


 すふー、すふー、とマスダが呼吸を整え、何とか笑いを納めたが・・・


「あ、あのな・・・ぶーっ! がははは!」


 堪らず、大声で笑い始めてしまった。


「て、て、天狗! 天狗探しに来たんだと!」


「ぶっ!」

「あははは! 何すかそれ!」

「んく・・・くくく」


 マスダはばしばし膝を叩き、


「ひひ、ひ、ひ・・・俺がな、居た山の中さ、俺が獣だけじゃなく、人も殺しちまってたんだ! で、こりゃあ天狗かもって、オヤジが聞いて!」


 すう、と皆の笑いが引く。


「人、殺してたんすか?」


「ああ」


「・・・」


 ちょいちょい、とマガチがフルタの袖を引き、


「フルタ。お父上が拾ってくれるまで、動物と同じに暮らしてたんやで」


「あ、せやな。仕方ないな・・・」


 む、とマスダがそっぽを向く。


「仕方ないだろ。俺は自分は獣だっていうか、獣も人も区別なんかつかなかったんだぜ。ただ、この縄張りじゃ、他より強いぞって自覚しかなかったんだ」


「すません」


 と、そこにずかずかとカゲミツが歩いて来て、マスダの後ろにしゃがみ、ぽん、と肩に手を置いた。


「面白え話してるな。お前のオヤジさん、天狗探ししてたのか」


 く! とマスダがまた吹き出す。


「くはははは! そうなんだよ!」


 カゲミツがにやっと笑って、


「天狗って本当に居るんだぞ」


「はーははは! トミヤス流も天狗の教えってか!」


「ははは! トミヤス先生、そらないすわ!」


 マスダ達4人はげらげら笑ったが、カゲミツは首を振り、


「前にマツさんが死霊術で呼び出した事があるぞ」


 皆の笑いが止まった。


「・・・」


「おっそろしく強いらしくてな。竜を呼び出すより魔力使うそうだ。あのマツさんが、数秒しか呼び出せないんだぞ。人の国でも最高峰の魔術師が。山ひとつ、更地に出来るくらいの魔術師でも、ほんの数秒、呼び出すのがやっと」


「まじすか」


「ああ。本当の話だぜ」


「・・・」


 皆の顔が固まり、脇の下に嫌な汗が垂れていく。


「ちなみに、俺が死んでたなら、死霊術で10分くらいは呼び出せるんじゃねえかってな。それが数秒。分かるか? 天狗の強さ。ちなみにな、天狗って、種族の名前みたいなもんなんだ。正式な呼び名じゃなくて、鍛冶族、みたいな通称だけどな」


 フルタが手を挙げ、


「じゃあ、トミヤス先生、あの、たまに開祖が天狗に教わったとかいう、流派とかありますけど」


 カゲミツがにやりと笑って頷く。


「ああ。有名どころだと、鹿神流とか、サキョウ八流がそうだな。大体ホラ話が多いだろうが・・・もしかしたら! だろ?」


「まじすか!」

「うわ、浪漫すね!」

「ほんまやな・・・」


「もしかしたら、だぞ。実際にその開祖の人ら、死霊術で呼び出して聞いてみたら、分かるかもしれねえな。後で箔付けに作られた話とかもあるだろうしよ。だがな。俺は、マスダさんのオヤジさんは、本気で探してたんだと思うぜ」


「オヤジがか」


 カゲミツが目を細める。


「マスダさんよ。あんた、オヤジさんに届いてると思うか」


 ぎくりとマスダが身を固める。


「柔鋼流道場を飛び出て、魔の国に来てまでだ。100年以上前だぞ。今みたいに、のんびり安全な船旅で、なんて簡単に行ける時代じゃねえ。バカ高い金も掛かったはずだ。そこまでして、強さを求めた男。天狗に教えを請おうって考えてても、全く不思議じゃねえな」


「・・・」


「オヤジさん、死んでとっくに100年だな。あんたも腕は磨いてたが、とっくに飛び越してていい年月は経ったはずじゃねえのか」


 マスダは拳を握り、がっくりと項垂れた。


「返す言葉もねえ」


 ばん! とカゲミツがマスダの背を叩き、立ち上がった。


「水差しちまったな! マサヒデの野郎との立ち会いでも話してやれよ!」


「え」


 フルタが小さく声を上げ、次いで、マガチとササイもカゲミツを見た。

 カゲミツが2人ににやりと笑って、


「マスダさん、マサヒデの野郎の大ファンだったのさ! こう見えて、ミーハーな所があるんだぜ! ははは!」


 項垂れていたマスダが慌てて顔を上げ、カゲミツに悲壮な顔で手を伸ばす。


「カゲミツ先生! やめてくれ!」


 カゲミツはひょいとそれを避け、


「俺との立ち会いもあるし、サカバヤシ先生との立ち会いもあるし、ナタノスケとの立ち会いもあるし、ジロウさんとの立ち会いもあるし! お前さんにゃ面白い記事のネタはいくらでもあるだろ! ははは!」


 笑いながら、カゲミツは稽古に戻って行った。

 手を伸ばしたままのマスダを、マガチ達3人が見つめている。

 マスダはフルタに向き直り、はあ、と息をついた。


「何でも聞けよ」



----------



「マフィアの闘技場すか!? あるんすね、そういうの!」


「そうだ。で、そこの親玉がまた腐った野郎でな。マサヒデさんに、俺と立ち会わなきゃ、町の人殺すぞって脅しかけたのさ」


「まじすか!」


「で、そいつの頭潰してゴミ箱に・・・」


「や、ちょっとそれ記事に出来ないす・・・」



----------



「サカバヤシ先生は全然無理! 気付いたらここに刀がよ」


「まじすか!? マスダ先生の目でも分からんかった!?」


「おお! 全く見えねえ!」


「はあー! マガチ、次サカバヤシ先生決定やで」



----------



「ナガタニさんなあ。もうちょい欲しい! でも、こないだぐんと強くなったぞ。ジロウさんとの立ち会いでな。やり合ってると、急にぐんと上がる時があるんだ」


「はあはあはあ! やっぱ実戦すか!」


「ああ、得物は木刀、木剣だったが、当たり所が悪けりゃ簡単に死ぬだろ。そこを本気でやり合ったからな。最中にいきなり化けた! 足運びが急に良くなって・・・」


 ナガタニが門弟達に怒鳴り声を上げながらも、ちらちらとそれを聞いている。



----------



「ジロウさんは、前はマサヒデさんと五分くらいだったらしいがな。今は負けちまってるよ。だがなあ、あれは、きっかけあれば、ばんと伸びると見た」


「その、さっきから出てるジロウさんて人、どんな人なんすか」


「カゲミツ先生の師匠の息子さんだ」


「は!? まじすか!?」


「オリネオの冒険者ギルドで聞いてみろ。マサヒデさんがオリネオ出る時に、冒険者の稽古、頼んでった程の腕前だぞ」


「うーわ! ここどんだけ達人おんねん!」



----------



 話は長く続き、夕方になってしまった。


「マスダ先生、貴重なお話、ほんまにありがとうございました」

「ありがとうございました」

「ありがとうございました」


 フルタ、マガチ、ササイが頭を下げる。


「また、なんか伸び悩んだりしたら、ここに来い。俺が分かる範囲で、何か教えてやれる事があるかもしれねえ。俺がここに居なくても、ナガタニさんあたりが連絡してくれるだろ」


 見た目も言動も恐ろしいが、今やマスダも師範代。

 こういった所も見せてやれるようになった。


 マガチは顔を上げ、マスダの顔を見てから、改めて手を付いて、頭を下げた。


「ありがとうございます」


「俺が教えたんだ。試合は勝て。お前の実力は見た。人族相手なんか、楽々勝って当たり前だ。お前には、狼族も砕ける拳があるんだ。それを殺さねえようにな」


「押忍!」


「お前は俺だけじゃなく、色んな人に教えを受けてる。その人達の期待が、お前の拳に全部掛かってんだ。忘れるなよ。お前の拳は、重い拳なんだ」


「押忍!」


 マガチが拳を握りしめた。

 ぐっと上げた顔には、火が入っていた。


「良い顔だぜ」


 マスダがにやりと笑った。こいつはもっと強くなる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ