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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
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第53話


 トミヤス道場にて、マスダが空手世界王者、マガチに教える。

 マガチの腕に満足はしたのか、マスダの機嫌は中々。


「お前は足が悪い」


「足すか」


「何、稽古方法は簡単だ。簡単だがな。足運びってのは、才能は全く関係ねえ。どれだけ歩いたかで決まる。勿論、正しくな。下手な足運びでいくら歩いても、下手のまま。当然だよな」


「うす」


「続けるぞ。これが出来ると、まず入りやすくなる。次に、突きが伸びる。次に、突きの威力が上がる。上手く出来るようになると、全然疲れなくなる」


「まじすか!」


 マスダが腕を横に向けて出す。マガチの間合いぎりぎりの所。


「まず、この腕掴んでみろ」


「はあ」


 す、とマガチが手を伸ばすと、ほんの少しマスダが引く。ん、とマガチが手を伸ばす。


「分かるか? 伸びたな」


「え?」


 マガチがフルタとササイの方を向き、


「伸びた?」


 はて? と2人が首を傾げる。


「ははは! 最初は分からねえさ。手え離せ」


「はい」


「軽く突き出してみろ。軽ーくだぞ。突くって言うより、まっすぐ伸ばすだけだ。丁度、腕がぎりぎり届く所で、何か掴む感じで」


「はい」


 ほい、とマガチが腕をまっすぐ伸ばす。

 マスダはそこから1尺(30cm)程先に手を出し、


「ここに手え乗せろ。前屈みになるなよ」


 前屈みにならずに・・・

 足を軽く1歩。


「それだよ、それ。それで良いんだよ」


「は?」


「お前、足、腰と回してから、最後に手え出すな。違う。先に手を伸ばしてから足を出すんだ。そうすると、どうなるか分かるか」


「え? どうなるんすか?」


「足が浮く。浮いて、前に出たら? 拳に全体重が乗るんだ。楽だろ? 手、伸ばすだけで、重い突きが出るんだ」


「・・・」「・・・」「・・・」


 マガチ達3人が顔を見合わせる。

 どういう事? と、皆の顔が語っている。


「だから、腕は振り回さなくて良いんだ。体力なんか全然使わねえ」


「あっ!」


 ササイが声を上げ、


「分かりました! だから、手は真っ直ぐ! 曲がってると、力が逃げるから!」


「そおだよ! かくん、て肘が曲がっちまうと、ただ手え置いただけになるだろ。だからな」


 マスダが真っ直ぐ伸びたマガチの手を取り、腹に持って来る。

 そして、半歩下がる。


「さあ、そのまま、踏み込んできて当ててみろ。腕は真っ直ぐのまま」


「はい」


 ほい、と足を上げ、どっすん、と拳が当たる。


「今、肩から抜けてったな。分かったか? 肘はしっかり伸びてたが、肩が決まってねえからだ。じゃどうするか」


 マスダが今度は1歩下がる。


「こんだけ離れたぞ。1足で当てろ」


「ん」


 マガチがぐいっと踏み込む。遠くまで踏み込んだから、身体はほとんど真横。


「あ!」「それか!」


 フルタとササイが声を上げた。

 真横に手を伸ばしたような形。


「あ、すご!」


 当たった拳から、肘、肩、と来て、腹までどっすんと入って来た。

 それだけの力が入ったのに、手は真っ直ぐ。


「おお、良い突きだな! がっつり乗ってるぞ!」


 マガチが腹を叩き、


「今、反動がここまで響いた! ここまで来た!」


「まあじで!?」


 ササイは目を丸くして頷いている。

 マスダはマガチの手をどけて、


「目指す所はここだって、分かりやすく見せただけだぞ。今みたいにのんびりやってたら、実戦じゃ使えねえからな」


「はい!」


「それと。今は、俺が相手だから、お前の身体に力が返っちまった。重さが全然違うからだ。だが、同じ程度の重さが相手なら、どうなったと思う? 力は返らねえ。もろに全部入るんだ」


 にやり。


「ぶっ飛ぶぜ」


「やっば!」


「簡単だろ? 要はだな、体当たりと同じだ」


「ああ!」


 ササイが声を上げ、


「その重さが、拳に固まるから、凄い威力が出る! 腕は突く必要はない! 伸ばしておくだけで良い!」


「その通りだ! さ、犬、猫くらいなら1発で倒せる突きが出来たぞ。急所に入らなくても、間違いなく動きは止めれるぜ。後は好きに出来る」


「はあー!」

「凄いっすね!」


 マガチとフルタが声を上げ、ササイは凄い勢いでノートにペンを走らせる。


「でだ。実戦で使うにはどうするか。足だよ」


「はい!」


「これはなあ、練習方法は簡単。ええと・・・」


 マスダが門弟を見て、


「おい、お前。木刀か竹刀か杖か、何でも良いから、真っ直ぐな棒、持って来い」


「はい!」


 ばたばたと門弟が走って行き、壁に掛かった木刀を持って来て、マスダに渡す。

 マガチが少し身を引き、


「え、ちょっと」


「殴りゃしねえ。足運びがちゃんと出来てるかの確認に使う」


「あ、はい」


「少し離れた腰の高さの手すりに、上からじゃなくて、真っ直ぐ伸ばして、手え乗っけるみたいにしろ」


 マガチが下を向いて、手を越しの高さに上げる。


「こんな感じすか」


「そうだ」


「はあ」


「右手を出してから、右足を出す。左手を出してから、左足を出す。手を出してからの、足だ。手に引っ張られる感じで」


「あー!」「ナンバ歩きや!」


「いや、ううん、まあ少し違うが、まあそういう事、かな。真っ直ぐ出さなくてもいいぞ。最初は下段突きくらいの高さで良い。やってみろ」


 マスダが離れて、木刀を正中線の前にぴったり立てる。


「おい、おまけの2人。空手王者さんの後ろから見てろ」


「おまけて」

「・・・」


 2人が立ち上がり、マガチの後ろに立つ。


「ほら。この木刀に向かって、手え出して、足。手え出して、足だ。まあ、手を伸ばす、くらいでも良いぞ。そうだな・・・横にした梯子に手を伸ばす感じだ。手に引っ張られる。前に出した手で、残った身体を引っ張ってくる感じ。腰は浮かせるなよ」


「はい」


 ほい、と手を出して、足を上げ、とん。

 ほい、と手を出して、足を上げ、とん・・・


「あ!」


 マガチが驚いて声を上げた。

 手を出して、足。

 手を出して、足・・・


「あ、すげえ!」


 ぶん! と後ろのフルタ、ササイに振り返り、


「見てた!?」


「え、何?」

「何かあったんか?」


「いやいや! 全っ然、横にブレへんねんて!」


「かはははは! ほれ、下がってもう1回! あいつらに見せてやれ!」


「はい!」


 マガチが下がって、もう1度。

 手を出して、足。

 手を出して、足。

 手を出して、足・・・

 残った身体を、前に出した手で引っ張るように。


 向こう側でマスダが木刀を立てているので、はっきり分かる。

 マガチの頭の中心と、木刀の先が全然ズレない!


「うーわ、まじや! 達人みたいな動きなってるー!」

「ヤバいでこれ!」


 フルタとササイが声を上げ、目を丸くする。

 とん、とん、とん。

 マガチがマスダの前に来て止まった。


「ブレねえとどうなるか分かるか」


「起こりが、全然なくなる、すか」


「おお、勉強してるな。出来る奴ほど起こりに敏感だが、これはまず分からねえ。これで突きを出しても、まあ中々避けられねえ。しかも伸びる。気付いたら拳が目の前だ。思いっきり腕を振るみたいな事はねえから、体力も減らねえな」


「やば!」


「こんなの、初歩の初歩だぜ。基本以前の練習だぞ」


 マスダが木刀をマガチに押し付け、


「まだ上下の揺れはあるから、腰がしっかり据わってない。足が上に浮きすぎだ。まだまだ出来てないぞ。出来るようになると、こんな事も出来るようになる」


 マスダが拳を上げ、手の平を外に向け、つんつん、と長い爪で手の甲をつつく。

 次の瞬間。


 ぶうん! と思い切りねじられた拳が、マガチの顔の横を掠めた。

 遅れて、ふわ、とマガチの髪が揺れる。


「こんな頭もカチ割れる突きを出しても、避けられねえようになる。つっても、ほとんど、だぞ。中には避けるような人もいる。カゲミツ先生とか。マサヒデさんもな」


 ごっくん、とマガチが喉を鳴らし、後ろでフルタとササイが仰け反った。


「勿論、引く時もこれで引けるから・・・」


 ひゅ、とマスダの手がねじられながら引かれた。

 開かれた手が、ぴたりとマガチの後頭部で止まり、


「避けられても、これで殺せる」


 殺せる・・・すうー、とマガチの顔から血の気が引いていく。

 ぽん、ぽん、とマスダがマガチの後頭部を軽く叩き、にやあ・・・と笑った。


「くくく・・・そんなビビんじゃねえ。殺しゃしねえ。今はな」


「い、今は、すか」


「俺は弱い者いじめが嫌いだからな! かはははは! 強くなったらやろうぜ。本気の立ち会いってやつをよ」


「いや・・・いやいやいや、ほんま勘弁して下さい」


「これが柔鋼流の突きなんだぜ。言っとくが、基本だぞ」


「基本・・・」


「ま! 古い空手ってのも、面白いもんだろ?」


 面白くない。恐ろしい。


「押忍! マスダ先生! あざした!」


 これ以上は怖い! と思い、マガチは頭を下げた。


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