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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
52/128

第52話


 時は少し遡って、フギがコヒョウエの元へ向かっている頃。


 トミヤス道場へも客が来ていた。


「押忍! お久し振りです!」


「や! これはこれは!」


 門前で、迎えに出た門弟と、3人の男が礼を交わしていた。

 空手世界王者マガチと、同行する2人、フルタとササイ。

 この3人は各地の武術の達者を尋ね、学びながら、それを本にして出版している。


「ささ、どうぞ中へ! 新しい先生が来ております」


「え、新しい先生?」


「いやあ、空手のマガチ殿は、きっと驚きますぞ」


「いやいや、トミヤス先生でめっちゃ驚いたんすけど」


「古流空手の先生ですから、ご参考になる事があるやも」


「まじすか!」



----------



「すー・・・」


 揃って道場に入った3人であったが、萎縮して肩をすぼめていた。


「おうおう! 久し振りじゃねえか!」


 カゲミツがにやにや笑っている。

 その隣には、2人の獣人族。

 柔鋼流のショウジ=マスダと、サカバヤシ流夢想派のジンゴロウ=サカバヤシ。

 このマスダに、3人が圧倒されている。


「今日はどうしたんだい?」


「あー・・・とすね、そろそろ試合近いんで、首都に戻る途中で・・・挨拶っす」


「おお、そうか! じゃ、新しい師範代、紹介するか! マスダさん」


 にやあ・・・とマスダが凄い笑顔を向け、ひ、と3人が更にすぼまる。


「柔鋼流のショウジ=マスダってんだ」


「え」「まじすか」


 マガチのみでなく、空手経験者のフルタも声を上げた。

 柔鋼流は門外不出、他流試合禁止。

 見る事が出来る機会はまずない。


「あ? なんだ」


「いやいや、柔鋼流すか!?」


「そうだ」


「まあじっすか!?」


「そおだ! つってんだろ! くどい!」


 少し怒りが浮いたマスダであったが、ぱ! とマガチが立ち上がり、頭を下げた。


「押忍! イサミ=マガチです! 空手世界王者やってます!」


「空手? 世界王者? ・・・ああっ!」


 マスダの顔から怒りが消え、驚愕の顔に。

 マサヒデに聞いていた、人族で、狼族の骨を砕く拳を持つ男! この男か!


「あんた、もしかして、マサヒデさんとこの、狼族の女と、立ち会ってねえか?」


「うす」


 ぱあ、とマスダの顔に恐ろしい笑顔が浮かぶ。


「あんたがあ! 会いたかったんだぜ! すげえ空手家がいるってよお! マサヒデさんに聞いてたんだ!」


 うわ、とフルタとササイが身をすくませ、マガチもちょっと引き気味。


「まじすか。全然凄くないすけど」


「いやいや、確かに俺らよりは弱えかもしんねえがだ!」


「あ、はい」


「お前さんの拳、狼族の骨、折ったそうだな!」


「え、そうだったんすか?」


 マガチはイザベルとの立ち会いの後、すぐ帰ってしまったので、知らなかった。

 自分も拳を砕いてしまったが、イザベルに入れていたのか。


「なんだ、自分で気付いてなかったのか?」


「知らんかったっす。あん時、僕の拳も砕けちゃったんで、感覚分かんなくて」


 後ろからフルタとササイの小さな声のツッコミ。


「お前な、そこは気付いとけ」

「そうやな」


「狼族っちゃ、人族の遥か上だろ。その骨折るんだ。そりゃあすげえ空手家だ! って、マサヒデさんもベタ褒めしてたんだぜ」


 マガチが少し照れて、頭に手を当てた。


「まじすか? やー、恐縮というか・・・」


「いや! 俺もすげえと思うぞ! 胸張っていいぞ!」


「あざす!」


 ふ、とカゲミツが苦笑して、ぱん! と手を叩く。


「はい! マスダさん、そこまで! 後にしてくれ。サカバヤシ先生」


 ジンゴロウも苦笑しながら、す、と頭を下げる。


「サカバヤシ流夢想派の、ジンゴロウ=サカバヤシと申します」


「押忍! イサミ=マガチす! 空手世界王者やってます!」


「待て待て! すません」


 後ろから、フルタの慌てた声。


「ちょっと! ちょっと良いすか。サカバヤシ流言うたら、あれちゃいます? トミヤスさんと立ち会った、サカバヤシの・・・あれすか? お父さん?」


「はっはっは! 息子が情けない姿を晒しましたな!」


「まあじすか!」

「はあー!」

「やば!」


「はっはっは!」


「マガチ来たでこれ! 購読者増えるで! よしゃ立ち会お!」


「死ぬわ!」


「ははは! お前さん所は、相変わらず賑やかだな!」


 カゲミツが喜んで手を叩き、マスダを見て、顎をしゃくる。


「ほら、マスダさん、出番だぞ」


「ん?」


「まともに立ち会っちゃ、まあ相手にゃならねえけどさ。何か教えてやれよ」


「俺が?」


「そうだ。あと、後ろのでかいの、あれがフルタさん。話、聞かせてやれ。お前さんの話が本に載るかどうかは分からんが、聞いてて面白いはずだ」


「本?」


「ああ。あいつら、本出してんだ。色んな武術家に会いに行って、色々教えてもらって、話聞かせてもらって、時には立ち会ってな。それを記録に残してんだ」


「ほーん!」


「ダジャレか?」


 く! とジンゴロウが口を抑え、マガチ達も顔を逸らす。


「違うって! おい、王者!」


「ぷ・・・はい!」


 カゲミツが苦笑しながら、門弟達を見回す。


「よおし、体術組も一緒に見とけ。他、稽古始めろ」


「「「はい!」」」



----------



 体術をやっていた門弟達と、フルタとササイが、マスダとマガチを囲む。

 マガチも背は高い方だが、マスダは7尺もある上、分厚い。

 並ぶと、マガチも小さく見える。


「よし。じゃあな、まず、お前の空手を見たい」


「僕の空手すか」


「ああ。空手は随分変わっちまったって聞いた。俺は他の空手を見た事がない。ここ、空手やる奴いねえしな。手は出さねえから、攻めてこい。俺は虎族だぞ。いくら当たっても平気だから、思い切り打ち込め」


「押忍! 宜しくお願いします!」


 ぐ、とマガチが構え、とん、とん、とステップを踏み、す、と構える。

 マスダは棒立ち。所謂、自然体。


「む」


 軽い足運び。

 たまに、ふらり、ふらり、と両手をだらだらさせながら・・・


(ほう)


 緩やかな動きだが、目が取られる。

 これはイザベルの動きから学んだ動きを、マガチが苦労して取り入れたものだ。


「良いじゃねえか」


 マガチが右に、左に、と動く。

 その動きを、マスダがじっと追っている。


「・・・」


 フルタが顎に手を当て、ううむ、と唸る。

 普段は煽るような事ばかり言うのだが、真面目すぎる顔。

 フルタも空手経験者で、引退はしたが、元世界王者なのだ。


「ササイ先生、あかんで。全く隙ないわ。あれは入れへんぞ」


「まじか」


「んん~~~~・・・おい無理でも手え出せ! まず見てもらわなかんやろ!」


「しゃあ!」


 ばん! マガチの拳が入ったが・・・


「んん? こんなもんじゃねえだろ」


 マスダの身体は微動だにしない。


「こんなんで狼族の骨折れるか? 真面目にやれ」


「押忍!」


 そのまま近間で、すとん、と肩を抜き、下からねじり上げるフックのように。

 力は抜いて、肩甲骨を落とせば、手は自然に出る。その勢いに乗せて!

 ごす。

 これは入った。マスダが少し驚いた。


「む! むう・・・なるほど、これか。よし。ちょっと離れろ」


「うす」


 マガチが引くと、棒立ちだったマスダが構える。

 両手を前に。左手は顎。右手は下腹くらい。


「今度は動くぞ。手は出さねえし、強く払ったりもしねえから。安心して攻めてこい」


「押忍! いきます!」


 フルタが首を傾げる。


「何やろ、あの構え・・・見た事ないな。古流て聞いて、伝統派みたいな感じ想像してたけど、全然ちゃうな」


「どゆこと?」


「伝統派だと、相手に対して垂直みたいな、ぴったり真横向いた構えする人が結構多いねん。あと、最初みたいな構えなしのノーガードな」


「そうなんか。全然ちゃうな。がっつり守りに入ってる感じか」


「いや、膝見て。緩いやろ。手はがっちり前に出して守りに見えて、身体の重心、構えのぴったり真ん中や。固い守りに見えるけど、動けるで、あれ」


「はー・・・」


 攻め口を見つけられないマガチが、前蹴りを出してきた。


「っし!」


 ぱん、とマスダが受ける。

 火が点いたように、次々とマガチが前蹴りを出してくる。

 しっかり線をずらし、右構えにしたり、左構えにしたりして蹴りを出す。

 が、マスダはほとんど動かず、全部受けられてしまう。


「おい、フルタ、凄いな。届きもせえへんぞ。何で? 全然動いてへんのに」


「手があって入れんねん。ぎりっぎりで入れんねん。向き変える所、足、見とき。前足中心やったり、後ろ足中心やったりするやろ。しゃあけど、全然体重傾かんやろ。完璧フラットや」


「あ、ほんまや!」


「な。重心の中心が全く崩れてへん。普通、どっちかに寄ってまうねんけど。しかも距離も角度も絶妙すぎんねん。種族とか関係なしに、ほんまの達人やで。構えで分かるわ。巧すぎや。あれ、顔だけ怖いんとちゃうぞ。ガチのほんまもんやで」


「はー・・・」


 しばらくマガチが蹴り、突き、マスダが全てを受けて、流して・・・

 マガチの息が上がってきた所で、マスダが頷いた。


「よし、もういいぞ」


「はあ! あざす!」


 息を切らせるマガチを前に、マスダが腕を組む。


「ううむ、こういう感じになってんのか。これが空手か・・・ふうん」


「ど、どすか」


 にやりとマスダが笑った。


「中々上手いな。だが、このままじゃ100年経っても中々止まりだ。俺が基本を教えてやる」


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