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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
50/128

第50話


 マツは一旦、魔術師協会に戻って来た。


 コヒョウエの息子、ジロウと、マサヒデ達が世話になった坊主は、コヒョウエの将棋仲間であるし、伝えておく、と引き受けてくれた。


 向かいの冒険者ギルドのオオタやマツモトには、時が来たらと事前に知らせてある。後は、カゲミツ達に挨拶をして、旅立つだけ・・・


 床の間のタマゴを取り、そっと抱く。


(嗚呼、テルクニ)


 お父様(魔王)とお母様は、きっと喜んで下さる。

 もしかしたら、怒ったふりくらいはするかもしれないけれど・・・


(お祖父様に会いに行くのですよ)


 見たら誰もが驚く、禍々しいタマゴ。

 魔獣のタマゴか、などと言われた事もある。


 中々大きくならないから、生まれるのは100年以上は掛かりそうだ。

 少なくとも、人族であるマサヒデ達は、顔を見られまい。

 でも、マサヒデもカゲミツも、そんな事は構わぬと、涙を流し喜んでくれた。

 お父様もきっと、喜んで下さる。


(参りましょう!)


 見られたら驚くのは分かっているから、袋に入れて。

 金の袋と、着替えだけを背負って。


 庭に立つと、すう、と庭木の裏から、マツと同じ顔、同じ服装の忍が出て来た。


「マツ様、行かれまするか」


「はい。道場に寄って、皆様にご挨拶に参りましたら、そのまま」


 忍が頭を下げた。


「道中、お気を付けて・・・など、マツ様には要らぬ言葉でございまするか」


「いいえ。ありがとうございます。留守をお願い致します」


「しかと」


「では、行って参ります」



----------



 トミヤス道場。


 ばたばたばたと着物をはためかせ、マツが門前に降り立った。

 中からは、既に稽古の声が聞こえる。


(よし!)


 ずんずんと中に入っていき、縁側に立つと、カゲミツが笑って手を上げ、ぽこん、と門弟を竹刀で押しのける。


「よう! マツさん! その荷物は、行くのか!」


「おはようございます。はい。もう行きます」


 カゲミツがにやっと笑って頷く。


「サカバヤシ先生! マスダさん! ナタノスケ!」


 カゲミツが声を掛けると、3人が手を止めて、縁側に集まってきた。


「これはマツ様」

「おう! マツさん!」

「おはようございます」


 3人が集まって、頭を下げると、マツがにっこり笑って、


「私、これから、お父様の所に挨拶に行きます。マサヒデ様と一緒に」


 あ、と3人が顔を見合わせた。

 魔王様の所に、孫を見せに行く。

 マサヒデとの結婚を、許してもらいに行くのだ。


「そういう事だ。マスダさん、しばらく、マツさんとは呑めねえぞ」


「くはははは! なあに、んな事あ構やしねえさ。また、こっち戻って来るだろ」


「はい」


「トミヤスさん、強くなってんだろなあ! サカバヤシ先生、危ねえぞお」


「ははは!」


 ジンゴロウが笑う。

 ナガタニもにっこり笑って、


「私、マサヒデ殿と再度の手合わせを願っておりますゆえ・・・マツ様、ここだけの話、仮に魔王様に引き止められても、何としても止めて下さいませんか」


「うふふ。はい」


「よおし! じゃあ・・・アキには言っておくから! すぐ行くか!?」


「はい!」


「おっと、荷物が少ねえな? 土産は?」


「テルクニの顔が土産です」


「ははは! 顔っつっても、まだタマゴじゃねえか!」


 ははは! とジンゴロウ、マスダ、ナガタニも笑う。


「うふふ。それでは、皆様! 行って参ります!」


 ぶわ! と風が巻く。


「うおおっ!?」


 マスダが驚いて声を上げ、ジンゴロウもナガタニも慌てて顔の前に袖を持って来る。


「2ヶ月程でー!」


「おおーう!」


 カゲミツの返事。

 ばん! と大きな音がして、大きく砂が舞った。

 風が収まった、と見えた時には、もうマツは居なかった。


「な、何だ、ありゃあ!?」


 カゲミツがぱんぱん袖を叩き、砂をはたく。


「おう、マスダさんは知らねえのか。マツさん、ああやって空飛ぶんだ」


「何!?」


「魔術だよ、まーじゅーつ。普通の魔術師は、あんなに飛べねえからな」


「飛ぶのか!? 空を!?」


「そうだよ。いつもは門を出てから飛んでくからな。見てなかったか」


「知らなかったぜ・・・」


 マスダが口を開けて、縁側から顔を出し、空を見上げる。

 もうマツは見えない。


「魔王様は、魔術使わなくても飛べるんだってさ。羽もないのに」


「マジかよ!」


「ああ、本当だぜ。マツさんは、残念ながらその力は引いてないから、ああやって魔術で飛ぶんだ」


「はあー・・・」


「レイシクランも飛べるぞ。ほんの少しだけどな」


「えっ!?」


 今度はナガタニが声を上げた。


「おう、ナタノスケは知らなかったか。羽を使わずに飛べるのは、魔王様の一族と、レイシクランの一族だけだ」


「し、知りませんでした・・・という事は、クレール様も」


「そうだよ。でも、ほーんの少しだけだ。すぐに力尽きて落ちちまう。魔術で飛ぶ方が楽なんだ。だから、普段は飛んだりしねえ」


「そうだったのですか・・・」


「お前、消えるの見せてもらったか?」


「いえ」


「あれはすげえぞ。消えたら俺でも斬れねえ。完全に無くなるんだ。不思議だぜ。帰って来たら、見せてもらえよ」


「はい・・・」


 ふん、とカゲミツが鼻で笑って、空を見上げる。


「2ヶ月くらいって言ってたな。くくく。マサヒデの野郎、どうなるかな? 魔王様に首飛ばされたりしねえよな」


 ジンゴロウが笑った。


「ははは! カゲミツ殿、それはなかろう!」


「どんくれえ強くなったかなあ。少しは俺とやりあえるくらいにはなってるかなあ」


「いいやあ、そこまでは届くまいよ。どうかな、マスダ殿とやりあえるくらいだから、皆と力を合わせれば、龍人族とは何とか張り合えるくらいと見た」


「ううむ・・・じゃ、魔王様の城で脱落だな。城までは行けるかな?」


「城までは行けような。まあ、勇者祭の参加者が城に着いたら、中までは丁寧に迎えてくれるであろうし」


「中での歓迎が楽しみだな。くくく」


「歴代の勇者はそれを破って行ったが、さて、マサヒデ殿が届くかな?」


 カゲミツとジンゴロウの2人はにやにやしているが、マスダもナタノスケも、笑えなかった。


 マサヒデはカゲミツには届かない。

 しかし、力を合わせれば、龍人族には勝てる。

 つまり・・・カゲミツもジンゴロウも、龍人族に勝てる・・・?


「魔神剣くらい、マツ様に持たせてやったら良かったろう」


「大して変わりゃしねえって」


「もしマサヒデ殿の刀が折れたらどうする。あれはコウアンの刀だぞ」


「大丈夫だよ。マツさんが直せるんだから」


「ああ! そうであったな。では良いか」


「そういう事! さ、稽古に戻るか!」


 ぱんぱん! とカゲミツが手を叩く。


「おう! お前ら、途中で済まなかったな! 稽古再開!」


 カゲミツとジンゴロウは中に入って行く。

 マスダがそっとナガタニに顔を寄せ、


「なあ」


「はい」


「あの2人、どのくれえ強いんだ・・・」


 ナガタニが首を振る。


「もう私には分かりません。しかも、カゲミツ先生は、上はいくらでも、なんて言いますし・・・」


「その上ってやつら、一体どんだけ強いんだ」


「いや、もう、もう分かりません。何を基準にしたら良いのか、さっぱりです。さっぱりですよ・・・」


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