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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
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第5話


 マサヒデ達が皆と別れた交差点に向かって行くと、イザベルが歩いて来るのが見えた。手を上げると、イザベルが目礼を返す。


「宿は見つかりましたか」


「は。安宿ですが、馬車を止める所もございますので。ご案内致します」


「ありがとうございます」


「ここの冒険者ギルドは如何でしたか」


「……」「……」


 イザベルの何気ない問いに、マサヒデとカオルが、黙って顔を見合わせる。

 マサヒデが頷いて、


「まあ……ええ。悪いギルドではなかったんですが」


「何か問題でも」


「問題はなかったのですが、とても変わったギルドでしたね」


「と、おっしゃられますと」


「どう、説明したら良いものか……まあ、まず入ったらですね」


「はい」


「いらっしゃいませにゃーん、ようこそにゃん、ときました」


「ようこそにゃん、ですか。まあ、猫族の田舎者はそういう者が多いですが」


 マサヒデとカオルが驚いてイザベルを見る。


「多いんですか!?」


「はい」


「いや……でも、あれは反応に困りましたよ。ねえ、カオルさん」


「全くです。見ていると痛々しくて、目を逸らしてしまいました」


「左様で」


 かっぽ、かっぽ、と馬の蹄の音だけがついてくる。


「カオルさん、通信室でも、えらくきつかったんですよ。紅茶はサービスにゃん、猫メイドパワー注入にゃん、とか言って、紅茶を出してくるんです」


「それは厳しいですね……」

「猫メイドパワー、ですか……それは田舎者ではなく、作っておりますね」


「まあ、ぼったくられるような所ではないですし、繁盛しているようなので、仕事は信頼しても良いのでしょう。あ、そうそう。少し冒険者に稽古をつけて欲しいという話がありましたよ」


 カオルが何とも言えない顔で、


「ご主人様。私、稽古をつけるのは構いませんが、少々……また、にゃんにゃん言われると、如何に忍とは言え、心が痛く」


「カオルさんにここまで言わせるとは、あのギルド中々ですね。正直な所、私もきついです。冒険者さん達もにゃんにゃん言うんですかね」


 カオルが眉をひそめる。


「……それは、きついですね……稽古の最中も、一本にゃん、参ったにゃん、などと言うのでしょうか」


 想像して、胸が痛くなってきた。


「……それ、きついですね……でも、私達も合わせる必要はないでしょう。まあ、少し長めに準備の時間を取る感じで、2、3日どうです? イザベルさん」


 イザベルは頷いた。


「マサヒデ様がやるのでありましたら、私は構いませぬ」



----------



 宿の近く。


 イザベルに案内されて、取ったという宿に来たのだが、宿の周りに人が集まっている。


「何かありましたかね」


 マサヒデが腰の刀の位置をあわせる。

 カオルもぴりっとして、


「ご主人様、探って参りましょうか。イザベル様、先程もこのような人だかりが?」


「いえ。しかし、心配はなされなくてもよろしいかと」


「心当たりでも」


 くす、とイザベルが笑って、


「ふふ。トミヤス様、ハワード様が降臨なされたと集まって来たのでしょう」


「降臨って……あのお坊様じゃあるまいし」


「この町は、魔の国の中でも最もお祭好きと有名ですから。参りましょう」


 馬を引いて歩いて行くと、は! と集まった者の1人がこちらを向いて指差した。


「来はったで! トミヤスはんや!」

「来たんか!」


 わいわいと人が寄って来る。

 マサヒデの馬、黒嵐が少し落ち着かなくなり、ふんふんと鼻息を吹き出した。

 カオルの馬、黒影も、ぶる! と声を上げた。


「あ、まずい。イザベルさん、ちょっと止めてきて下さい。馬が暴れそうだ」


「は!」


 ぱ! とイザベルが前に出て、両腕を広げ、


「待て待てい! 皆の者! そこで足を止めよ!」


「何やねん!」

「お前誰やねん!」


「控えおろう! 我はマサヒデ=トミヤス様が家臣! イザベル=エッセン=ファッテンベルクである!」


 う、と皆が足を止めた。

 イザベルは声を抑えて、


「嬉しいのは分かるが、あまり多くで近寄るでないわ。マサヒデ様が馬を引いておられるのが見えぬか。馬が興奮して暴れるゆえ、馬を繋いで来るまで待て。それに、あまり声を上げてくれるな。他の馬も興奮してしまう。暴れ馬が出たら大変であろう」


「あ、それもそや! すませんした!」

「せやった。ファッテンベルク様、おおきにありがとうございます」

「皆、ぎょうさんで寄ったらかんて! 止まりや! あのばかでかい馬が暴れてまうわ!」


 おお、それもそうだ、と、ざわざわと人々が離れていく。

 が……馬を繋いだらどうなることか……

 マサヒデとカオルが気を付けながら、馬を引いて行く。



----------



 わらわら……人が集まってきて、中々宿に入る事が出来ない。


「トミヤスはん!」


「はい、なんでしょう」


 皆、押しが強い。

 先の和尚といえ、魔の国の人々は皆こうなのだろうか。不安だ。


「正直な所、奥方どうなん?」

「それや!」

「そこやな!」


「どうと言われましても」


「ここだけの話! 中まで聞こえへんて!」


 でかい声だ。忍でなくとも、丸聞こえではなかろうか。


「どうとは、何がどうと聞きたいのでしょう」


「色々やって。色々含めてどうなんかなって」


「良い方ですよ。頭も良いし、魔術師として頼りにもなるし、パーティーではお偉方達の相手も引き受けてくれて、助かります」


 うんうん! とマサヒデを囲む人々が頷く。


「やっぱレイシクラン言うたら違うな!」

「うちの嫁にも見習わせたいわ」

「あんた!」

「おったんかい!」

「「「わはははは!」」」


 賑やかな……賑やかも過ぎる。


「トミヤスはん、一番強い剣客言うたら誰?」

「それや!」

「そこやな!」


「そりゃあ……誰でしょうね? 少なくとも、私より強い人には何人も会いましたよ」


「何人も!? ぎょうさんおるんかいな!?」

「どこどこ!? どこにおんねん!?」


「いくらでも居ますとも。日輪国から米衆連合国と渡って来ましたけど、どっちにも居ましたよ」


「米衆連合!? あんなとこに剣客おるんかいな!?」


「剣客じゃあないですけど、スティアン伯爵は私より強いと思います」


「伯爵!? 誰!?」

「お前知らんのかいな!? 冒険者ギルド作った人やて!」

「はあー! あの人! 言うて知らんけど」

「龍人族の人やって」


「その人です」


「あっちゃあ、トミヤスはんも龍人族には勝てんかあ……」


「いや、日輪国には人族で私より強い人、ごろごろ居ますけどね」


「まじすかッ!」

「有名な人なん!?」


「父上と」


「トミヤスはん! そこ当たり前やん!」

「父ちゃん剣聖やで!」

「それはノーカンや」

「あ、これあれや、日輪国流のボケやって」


 マサヒデは苦笑いを浮かべ、指をくりながら、これまで会った達者達の名を数えていく。


「いやいや、まだ続きますから。コヒョウエ先生と、ヤナギ先生と、フギ先生と、ヤダ先生と、アラガヤツ先生と、イトウ先生と、シノ先生と、キノト先生と、サカバヤシ先生と、トワダ先生と、イン先生と……」


 こう数えてみると、もう10人以上の達人と言える者達に会ってきたのか。


「どんだけおんねん!?」

「それ全部人族で!?」


「そうですよ。全部人族……あ、サカバヤシ先生は猫族ですけど、まあ日輪国の人ですから入れて下さいます? おっと忘れてました、それとイマイさん」


「あっかーん。日輪国あっかーん」

「も日輪国の人に喧嘩売れへんな」

「お前喧嘩したことあるんかい。泣き顔しか覚えてへんけど」

「言うなて」



----------



 カオルも大変である。


「トミヤスはんの修行ってどんなんしてはりますん?」


「色々です」


「色々て、いっぱいやってはりますのん?」


「剣術は棒振りだけではございませんので……」


「あれや、トミヤス流言うたら、剣だけちゃうぞ」

「そやったな! 弓とか棒とか槍とか、色々やってはる聞いたわ!」

「魔術もやってはりますのん?」


「魔術は今の所は」


「今の所は! こら、そのうち魔法剣士出るで!」

「そこら中におるやんけ! 冒険者見てみ! 魔法剣士だらけや!」

「知っとうか。魔法剣士て、90まで童貞我慢しとらんとあかんらしいで」

「嘘や嘘! 若い子でも魔法剣士おるわ!」

「ほんなん都市伝説て皆知っとるわ」

「都市伝説にもなれへんわ。そこらに魔法剣士おんのやから」


「……」


「もう言いな! サダマキはん困ってもうてるやん!」

「10割くらいお前のせいやと思うんやけど」

「せや! サダマキはん、悟り開いてはるってほんま!?」


「ないです。私は仏罰上等です」


「きたわこれ! こら悟り開いとるで!」

「堪らんわあー! サダマキはんになら斬られてもいいなあ!」

「ほな斬ってもらおか。南無阿弥陀仏」

「堪忍してえや」


 ふう、とマサヒデとカオルが溜め息をつく。

 後ろでイザベルがその2人を見て、にこにこしていた。


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