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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
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第4話


 そして歩く事、四半刻(30分)。


 港につながる本通りと、大きな通りの交差点。

 左右に冒険者ギルドと、魔術師協会があった。


「あ、中々大きいですね」


 マサヒデとカオルは、慣れた冒険者ギルドの方に向かう。


「はい。信頼は出来そうです」


 2人は冒険者ギルド前の繋ぎ場に馬を繋げる。  

 ちゃんと馬止め場用に前が広く取ってあり、建物は道から少し奥。

 繋ぎ場には何頭も馬が並んでいて、冒険者の数と盛況ぶりがよく分かる。


「やっぱりここもメイドさんなんでしょうか」


「ではございませんか。今まで来たどのギルドも、メイドがおりましたし……」


 大きな扉の前に立つと、中の様子が見える。

 ロビーの中にはやはり魔族の冒険者ばかりだが、数人、人族も見える。

 奥にはメイドが数人並んでいて、テーブルに酒を運んだりしている者もいる。

 依頼書が貼られた大きな掲示板。見慣れた冒険者ギルドの光景。


「ふうむ」


 と、小さく唸って受付の方を向き、あれ、と思った。

 ここは受付嬢もメイドなのだ。

 マサヒデとカオルが受付に向かって行くと、受付嬢が頭を下げ、にっこり笑った。


「いらっしゃいませにゃーん! ジョアル冒険者ギルドにようこそ! にゃん♪」


 そう言って、招き猫のように手を上げる。


「……」「……」


「本日のご用は何ですにゃん♪」


「……」「……」


 マサヒデもカオルも何とも言えない顔で黙り込んでしまった。

 とても用を言い出しづらい。


「……ま、真顔で、沈黙はつらいにゃん……」


「あの、普通に」


「これが普通にゃん♪」


 カオルが目を逸らし、


「この冒険者ギルドは大変なのですね」


 と、小さく呟くと、受付嬢の笑顔が固まってしまった。


「そー、そんな事はないにゃん……こ、これが地にゃん♪」


 なんと痛々しい……


「そうですか。そうですよね」


 マサヒデは何だかいたたまれなくなって、笠を深くして、目を逸らしてしまった。


「通信、使いたいんですけど、いくらでしょうか」


「ありがとうございますにゃーん♪ 1分銀5枚にゃん♪」


「はい」


 ぱん! ぱん!

 受付嬢が手を叩くと、奥に並んでいたメイドの1人が歩いて来て、また招き猫のように手を上げ、


「ご用は何ですにゃん♪」


「……」「……」


 見ているのがつらい。

 聞いているのがつらい。


「通信のお客様にゃん。通信室にご案内にゃーん♪」


「ありがとうございますにゃん! こちらへどうぞー! にゃん♪」


「はい」「……」



----------



 そして通信室。


「どこに繋げるにゃん?」


「日輪国、シライ領、オリネオ冒険者ギルドです」


「合点にゃー!」


 かちかちとメイドがボタンを押したりして、画面が映る。

 しばらく待っていると、ガラス板のようなものが浮かび、オリネオ冒険者ギルドの通信室が浮かび上がる。


「繋がったにゃん♪ 褒めてほしいにゃー♪」


「あー、ええと、はい……よく出来ました、ね?」


「うーれしーいにゃー!」


 メイドはくるくる回りながら、部屋の隅のワゴンの所に行き、カップにちょろちょろと紅茶を注ぎ、


「褒めてくれたから、お茶はサービスにゃん♪ 猫メイドパワー注入にゃーん!」


「……ありがとうございます」


 なんとやりづらいギルドであろうか。

 別に悪いギルドではなさそうなのだが、多分、もう来ない。


 しばらく待っていると、画面の向こうのドアが開き、能面のような無表情のメイドが入って来て、画面の向こうに立った。マサヒデが笠を取って頭を下げると、向こうのメイドも頭を下げる。


「これはトミヤス様」


 ぎく! とマサヒデの後ろでメイドが身を固めたが、マサヒデには見えていない。


「ジョアルからという事は、ついにお着きになられましたか」


「はい。魔の国に着きました。今の所、脱落者もいません」


「おめでとうございます。皆様もお喜び頂けますでしょう」


「これからですが、まずイザベルさんの家、ファッテンベルク家に向かい、イザベルさんのご家族に挨拶をします」


 ファッテンベルク家!? 軍人の偉い貴族!

 ぎくぎくーっ! 後ろのメイドの顔が青くなっていく。


「はい」


「まあ、その後はおおまかなんですが、西か東かは分かりませんが、海沿いに出て北上して、首都に向かおうかな、という感じです。ま、行き当たりばったりです」


「はい」


「では、皆さんに宜しくお伝え下さい。何かあったら、また連絡します」


「はい。トミヤス様、ご武運をお祈りしております」


 メイドが頭を下げ、ぷつ、と通信の画面が消えた。

 マサヒデが横に置かれた紅茶のカップを取って、ずず、とすする。

 もうここには来ないつもりだ。この紅茶だけは頂いておくか……


「あのう」


 メイドの小さな声。先程までの勢いがない。


「何か」


「マサヒデ=トミヤス様でしたか」


「そうですよ」


「無礼をお許し下さい」


 やけに腰が低いが、これは自分に対してではなく、妻のクレールと、家臣のイザベルに対してであろう。どちらも魔の国では名門中の名門の貴族の出だ。


「無礼だなんて。別に構いませんよ」


 ずずー……


「あの、当ギルドでも稽古はつけて頂けるのでしょうか」


 ああ、そういう事か。

 オリネオ冒険者ギルドで稽古をつけた所、冒険者達の成績が伸びたと、冒険者界隈ではマサヒデの名が売れているらしい、と、米衆連合国で会った冒険者に聞いた。


「すみませんが、ここに長滞在をする予定はないんです。聞いていたと思いますが、ファッテンベルクに行かないといけませんので」


「残念です」


「申し訳ありません。まあ、旅の準備の買い物なんかもありますし、2、3日なら……皆に話してはみます」


「ありがとうございます」


「ただ、期待はしないで下さい。私達には、リチャード=エッセン=ファッテンベルク大将を待たせているという都合があるので」



----------



 メイドと一緒に受付に戻ると、メイドがそそくさと受付の中に入っていき、こそこそと受付嬢に耳打ち。


「ほんまに……」

「せやから……」

「うんうん……」


 そうして少し話した後、メイドは作り笑いを浮かべて、受付から去って行った。


「お、お待たせしました! トミヤス様、ご用はお済みで!」


 もう「にゃーん」はないようだ。

 トミヤスと聞いて、冒険者達がマサヒデに目を向けた。


「済みました。おいくらでしょう」


「銀10枚になります!」


 懐から金の袋を出し、1枚、2枚、と置いていく。


「10枚。お確かめ下さい」


「はい! 1、2の、3の……はい! 10枚、確かに!」


「では、これで」


「またのお越しをお待ちしております」


 軽く頭を下げ、マサヒデ達が去った後、冒険者が2人、テーブルから立って受付に歩いて来た。


「なあ、あれもしかして、あのトミヤスはん? 勇者予定の?」


 うん、と受付嬢が頷き、


「せやねーん。びっくりしてもうたわー」


 おお! と冒険者2人が馬を引いて去って行くマサヒデとカオルを見る。


「ほんまかいな! はあー! あれがあ! 笠被っとったから分からんかったわ」


「なんか港にレイシクランの船来たって聞いたけど、あれに乗って来たんかな」


「せやろ。奥方レイシクランやろ。今の女の方、あれや、お弟子さんや」


 ああ! と受付嬢が顔を両手で隠す。


「あかーん! 私、もう生きてけへん! トミヤスはんに、にゃんにゃん言うとったんやで!」


「うわきっつ!」

「あいたたた! いやそれは痛いなあ……」


 冒険者2人が哀れみの目を受付嬢に向ける。


「まあまあ、しゃあないて。うちの決まりやし……」

「せやで。メイドにゃんにゃんで客取っとる部分もあんのやし」


「ああー、もうどうしょ! 恥ずかしいわあ! 尻尾取れそうや!」


「お前だけちゃうやろ。あのメイドもやろ」

「せやな。2人共、もう生きてけへんな」


「生きてけへんとか言わんといてやあ! しゃあないやん! 商売やもん……」


「まあなあ……ほんでも、ひとつ言わして。自分で生きてけへん言うといて、人に言われたら言うなて返すんかい」

「ほんまやな。しゃあけど、また来はったらどおすんねや。またにゃんにゃん言うんか。普通に戻るんか」


「普通」


 うんうん、と冒険者2人が頷く。


「真面目な話、それが身のためやで。もし奥方とか一緒に来たら、きっついでー」

「ファッテンベルクはんも来てもうたら、えらいこっちゃで。絶対、無礼者! なんて、ごつい声で言わはるで。ほんで次の瞬間、首や、首。無礼討ち」


「怖い事言わんといてや!」


「いやあ……トミヤスはんににゃんにゃん言うて、助かった方が奇跡や思うけど」

「出来てはる人で良かったなあ。トミヤスはん、意外と怖ない人なんかな?」


 こんな事を言われているとは露知らず、マサヒデもカオルも冒険者ギルドから離れて行くのであった。


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