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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
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第48話


 そして、また3ヶ月―――

 マサヒデ達は、ジョアルの町に戻って来た。


「ああ、やっと見えてきましたね」


「やっとですよ」


 マサヒデもアルマダも息をつく。

 もう荒れ地も砂漠も、うんざりだ。


「このまま、船に行きましょうよ。急がないと」


「マサヒデさん、冒険者ギルドでこれから船で首都に直行する、と連絡しませんと」


「むう・・・あそこですか・・・」


 またリュウやハヤテに絡まれるかもしれない。

 受付嬢に顔を合わせるのも、ちょっと気不味い。


「いや、今回は魔術師協会で連絡します」


 アルマダがにやりと笑う。


「あの受付の子ですか?」


「違いますよ。リュウさんやハヤテさん。居るでしょう」


 上手く誤魔化せた。

 アルマダの笑みが消え、渋い顔になる。


「む・・・確かに、顔を合わせると厄介ですね」


「そういう事です。で、船は大体、どのくらいでしょうね?」


「ううむ、距離で見れば・・・2週間か・・・くらいでは? 海流とかもあると思いますが、少なくともマツ様が来るより早くは着きますよ」


 ぽっくり・・・ぽっくり・・・


「・・・結局、武者修業的な事とか、全然なかったですね・・・」


「・・・」


 アルマダが目を逸らし、


「ルーカス様と手合わせ出来たではありませんか」


「まあ、そうですが」


「ルーカス様は、一流の武術家にも引けを取る事はないと・・・我々は、十分に通用すると分かったんです」


「そうですが・・・」


「仕方ありませんよ。道場とか、全然ないんですから。この辺りで戦いたいなら、宝石の鉱山とか、砂漠の油田とかに行くしかないんです」


「それは半分くらい戦争的な感じでは」


「仕方ないですよ・・・流石に傭兵達に混ざって大規模盗賊団と斬り合いは・・・したいんですか?」


「したくないです」


 ぽっくり・・・ぽっくり・・・


「勇者祭の人、来ないですね」


「探せば居るでしょうけど、多分、逃げますよ。レイシクランとファッテンベルクの名は、この魔の国では大きすぎます。人の国でも異常に大きいのに」


「アルマダさん、どうしたら良いのでしょう」


「魔王様の城に行けば、嫌って程、龍人族の人が相手してくれますよ。5人組で」


「・・・勝てる気が全くしないんですが。マツさんみたいに、町ごと吹き飛ばしたりしそうですけど」


「それは一般人に被害が出るからしないでしょうけど、行くしかないでしょう」


 ぽっくり・・・ぽっくり・・・


「魔王様の所、魔剣や称号武器とかも一杯ありますよね」


「マサヒデさん、もう言わないで下さい。これ以上、絶望したくありません」



----------



 そして町の入口。


 町の中では緊急時以外の乗馬は禁止されているので、マサヒデ達は馬を下り、手綱を引いて歩いて行く。

 もう夕方になってしまったが、マサヒデとカオルは魔術師協会に向かう事にした。

 途中で皆と分かれ、大通りを反対に歩いて行く。


「カオルさん」


「は」


「嫌な時間帯ですね」


 日の沈みかけ。

 奇襲をするにはもってこいの時間。

 このジョアルは闇討ちは少ないとはいえ、居ることはいる。

 しかも、マサヒデ、カオルの2人だけ。


「む、確かに」


 カオルの空気がぴりりと引き締まる。

 マサヒデがそれを感じ取り、


「いや、そうではなく」


「何か」


「あの受付の人、仕事が終わる頃では」


 マサヒデに惚れ込んでしまった、冒険者ギルドの受付嬢の事か。


「・・・」


「通りですれ違ったら、気不味いですよ」


 カオルが呆れ顔をマサヒデに向ける。


「ご主人様」


「明日にはもう港を出るのに・・・やだなあ」


 く、とマサヒデが菅笠を目深にする。

 そんな事をしても、この魔の国では2本差は珍しいし、馬も目立つ。


「トミヤスはーん!」


 歩く人の声。手を振っている。

 マサヒデが弱々しい笑みを浮かべて、手を振る。


「ご主人様、笠を深くしても無駄です」


「ええ・・・みたいですね」


 かっぽり、かっぽり・・・

 馬を引き、魔術師協会に着いたが・・・


「あれえ?」


 『閉店』の札。


「おや?」


 カオルも札を見て、少し驚いた声を上げた。


「この町の魔術師協会は、夕方には閉まってしまうんですか」


「の、ようですね・・・」


 通りを挟んだ向かいの冒険者ギルドは開いている。

 冒険者ギルドは24時間営業だ。

 マツの家(魔術師協会オリネオ支部)も、出掛けている時と就寝時以外は開いていたのだが。


「まあ、役所に近い所もございますし、冒険者が常駐しているわけでもございませんし」


「ううむ・・・」


 マサヒデが唸って、向かいの冒険者ギルドを睨む。

 行かなければ。


「仕方ない。行きますか・・・リュウさんとかハヤテさん、居ないですよね。また絡まれたら面倒ですよ」


「むう・・・確かにそれは面倒」


 仕方なく、冒険者ギルド前に馬を繋ぎ、中に入ると、


「あーっ! トミヤス様ー!」


 声を上げた受付嬢を見て、ほっとした。

 あの受付嬢ではない。遅番で変わったようだ。

 おおっ! と冒険者達が声を上げ、マサヒデ達を見る。

 マサヒデは苦笑して、


「や、どうも。通信、使えますか」


「あ、はい! すぐ準備します! メイドさーん! 誰か来て下さい!」


「はーい!」


 たかたかたか・・・


「お久し振りですうー! ファッテンベルクからお帰りですね!」


「あ、どうも」


 顔に覚えはないが、笑顔を作って、ぺこりと頭を下げる。


「通信、使わせて下さい」


「はあーい! こちらへどうぞ!」



----------



 そして通信室。


 ぽんぽん、と機材をいじり、ぷん、と画面が浮かぶ。

 しばらく待っていると、オリネオの冒険者ギルドのメイドが入ってくる。


「トミヤス様」


「お久しぶりです。ファッテンベルクから、ジョアルに戻りました」


「はい」


「陸路はやめて、船で首都に直行する事にしました」


「はい」


「どのくらいかかるか分かりませんが・・・ええ、まあ1ヶ月は掛からないと思います。そういう事で、マツさんに、そろそろこちらへ来て下さいと伝えて下さい」


 いつも無表情なメイドが顔を綻ばせた。


「ああ、ついに! はい。すぐお伝え致します」


「で、向こうでは」


 あ、と気付いた。待ち合わせはどこにすべきか。

 流石に城門前にマツが風の魔術でばさばさと降り立つのは、迷惑だろう。


「向こうでは・・・ううん、どうしようかな。ええと・・・船に居るか、宿を取るなら、船にちゃんと伝えておくので。レイシクランの紋章がついた、白くて、大きな客船。シルバー・プリンセス号という船です。そこに来て下さい、と」


「はい」


「それでは、宜しくお願いします」


「はい! ご武運を!」


 マサヒデが横のメイドに頷くと、ぷつん、と画面が消えた。


「これでよしと。ありがとうございます」


「あの、つかぬことをお聞きしても良いですか?」


「何でしょう」


「マツさん、とは?」


 ん、とマサヒデが言葉に詰まる。

 ただの嫁なら、わざわざこちらに来る必要は皆無だ。

 どう言うべきか・・・魔王様の娘です、とは言い難い。


「え、ええと・・・ですね・・・」


 日輪国内であれば、元陰陽頭で、人の国で3本の指に入る魔術師で、王宮にも名が知れていて・・・で誤魔化せた。しかし、ここは魔の国。どう誤魔化すか。


「ん・・・元陰陽頭、こっちで言う王宮魔術師の長で・・・人の国では3本の指に入る程の大魔術師で」


「あ、凄い! そんなお方が!」


「あ! そうそう、王宮の覚えめでたく、日輪国の陛下から、魔王様に書簡を預かってるそうで・・・こちらに来るそうですよ」


「なんで直に来るんですか?」


 書簡は冒険者達に任せてしまえば良いではないか。

 それに、大事な物なら、外務省の者が持って来るはず。


「ん、ん・・・あ、あれですよ! クレールさんがいるから! そう、レイシクランの娘さんがいるので、宜しくお願いします、お祝いしますよ、みたいな挨拶なんです。ただの挨拶ですから、政府を通すみたいな必要はないし、でも、大事と言えば大事、みたいな書簡ですから・・・ね?」


「あー・・・面倒ですね・・・」


「そ、そうなんですよね! マツさんも大変ですよ! ははは!」


 乾いた笑いを浮かべながら、通信室を出て行く。

 首都で聞かれたら、どう誤魔化そうか・・・

 城内に入れば、もう大丈夫なのだが。


 廊下を歩きながら、マサヒデがメイドに質問。


「ところで、お聞きしたい事が」


「はい!」


「魔の国の首都って、何ていう名前なんです? ただ、首都、首都、って呼んでましたけど」


「・・・」


 メイドの呆然とした顔。

 そんな事も知らないのか・・・

 マサヒデが顔を赤くして、ぷいっと背ける。


「自分でも分かってますよ・・・ええ。世間知らずにも程があるって。でも、一緒に来てる人達に知られたくないんです。怒られますし」


「ロ=マーンです」


 む! とマサヒデが腕を組む。


「浪漫ですか! ううむ」


「ではなく、ろ、で区切って、まあん、です」


 ぐっと盛り上がった気分が、かくんと落ちた。


「あ、そうですか・・・で、どんな所なんです?」


「ううん、行った事はないですけど、古い都ですよ」


「そりゃ古いですよね。魔王様が居を構える所ですし」


「遺跡みたいな物が街中にあって、観光者はいつもいっぱいだそうです。何年も回らないと、回り切れないと思います。治安の良さは世界最高です。街中の遺跡保護もありますけど、何より魔王様のお膝元ですし」


「遺跡がたくさん・・・それはそうですよね。魔王様がずっといる所ですから、何千年も前の古い物がたくさんあるでしょうね」


「何万年も、なんて物もあります。何十万年、かも。しかも、物凄く大きい」


「ええっ!? そんなに!? 何なんです、それ!? 見たいです!」


 くす、とメイドが笑って、


「魔王様の御城、ロ=マーン城です! 建て替えとかもしてますけど!」


「ああっ! ははは! それはそうですよね! ははは!」


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