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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
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第47話


 翌日。


 短い滞在ではあったが、マサヒデ達はファッテンベルク家を出立する。

 領外までの送りの私兵達が並び、マサヒデ達の馬も、馬車も出されている。

 イザベルの家族、父・リチャード、母・アン、親戚のパウラが玄関前に出て来た。


「トミヤス殿。イザベルをお頼みします」


「はい」


 マサヒデが頷くと、リチャードが封筒を出し、マサヒデに差し出した。


「これをお持ち下さい」


「これは? 誰宛ですか?」


「国王陛下宛です」


「え」


 国王陛下。つまり、魔王様。

 マサヒデが慌てて、


「そんな大事な手紙を!? 私が届けるんですか!?」


「いや・・・まあ、トミヤス殿の謁見に、便宜をはかって頂けるよう。もし、勇者祭から脱落したとしても、謁見を願えるようにとの願いを。必ず、この手紙を陛下にお渡し下さい。必ずです」


 リチャードの顔がやけに真剣だ。

 マサヒデの後ろからリチャードを覗いていたクレールも、引っ込んでしまった。

 これは、娘可愛さとかマサヒデを気に入ったとか、そういう理由ではなさそうだ。


「何か、他にも・・・その、報せみたいな物が入っているのですか」


「そうです。そして、通信で話すのは憚られる事です。手紙ですから、ジョアルからクレール様の船が一番早い。しかし、出来うる限りで構いませんし、それをなくしたとて、トミヤス殿達に何か罰があるなどは、一切ございませんので」


「分かりました」


 マサヒデが封筒を受け取り、懐に入れると、リチャードが重く頷いた。


「娘を頼みます」


「必ず」


 リチャードが手を差し出すと、マサヒデも手を差し出し、握った。

 ぐっと頷くと、リチャードは逆の手をマサヒデの肩に手を置き、


「こちらでも急ぎますが、出来れば・・・頼みます」


 何かあるのか。

 分からないが、無くしても構わないなら、ありがたい物ではある。

 勇者祭から脱落したら、魔王様との謁見は叶わないかもしれないのだ。


「首都に着いたら、しばらく待ち時間が出来ます。その時、この手紙を届けたかどうか、必ず連絡します」


「お待ちしております」


「では、リチャード様」


 む、とリチャードが頷き、手を離し、強い目で私兵達を睥睨する。

 マサヒデが馬に跨がり、皆も馬に跨がり、馬車に乗り込む。


「トミヤス殿御一行! ハワード様御一行! ご出立である! 皆様の御武運を祈り! 敬ー礼ッ!」


 ぶおー・・・ぶおー・・・と角笛の音。

 マサヒデ達の前の、ファッテンベルクの紋章旗を持った私兵が馬を歩かせ出した。


 マサヒデ達も馬を進め出す。

 馬車もがらがらとついてくる。


 これでファッテンベルク家には、しばらく顔を出すこともなかろう。

 ちら、と後ろを向いたが、馬車に隠れ、もうリチャード達は見えなかった。



----------



 エッセン=ファッテンベルク家を出て、3日。


 ファッテンベルク領を出て、街道脇で野営をしている時、マサヒデがカオルを呼んだ。


「御用は」


「ちょっとこちらへ」


 焚き火の側から離れ、馬車の中に乗り込んでいく。

 奥の箱から、リチャードから預かった封筒を出し、


「カオルさん、開けたのがバレないように、中、見れますか」


「出来ますが、ご主人様、宜しいのですか」


「書かれている内容によっては、どなたかに馬を貸して、走ってもらいます。えらく真剣な顔でしたから」


 マサヒデが封筒を差し出すと、カオルが受け取った。


「分かりました。ご主人様も、見ない方が良いかもしれませんので、しばし」


「はい」


 マサヒデは馬車の長椅子に座る。

 カオルは反対側に座り、カランビットナイフを出し、すう、と封の下を滑らせる。

 中に入った手紙は2枚。


「・・・」


 謁見に際し、便宜をはかって頂けるように、との陳情。

 もう1枚・・・


「!」


 白露帝国、日輪国へ動き出す恐れ、多いにあり・・・

 此度の紛争で、本軍は出ておらず・・・


(なるほど)


 マサヒデ達を急がせろ、という事か。

 しかし、仮に戦が起こってしまったら、そこに魔の国がどう対処するのか?

 イザベルも日輪国に戻る事になるからか?

 魔王様の姫、マツが居るからか?

 大貴族のクレールが居るからか?

 それで口出しするのは、私情になるまいか・・・


(あっ!)


 そうだ。マツが日輪国を離れている時は「日輪国には娘がいるのだ」と、魔王様が口出し出来なくなる。クレールも居ないから、レイシクランも口を出せない。私情ですら介入が出来なくなるのだ。同盟を組んでいるでもないし、強引にも介入する理由が無くなってしまうのだ。


 魔王軍は少数だが、強烈なので、余程の理由がなければ前に出ては戦わない。

 強引だが、姫が居るのだ、という言い分は立つから、軍は出せない事もない。

 魔王様自身が口に出さずとも、軍から強い要望があった、抑えられない、などと言い訳は繕えるし、上手くやれば、それら声を上げる者達をクビや脱走兵(表向き)にして、傭兵として向かわせる事も可能。


 しかし、その理由がなければ、出来る事は、国際会議で非難するとか、なんらかの経済制裁や、復興支援までだ。前に出ては戦えない。


 マサヒデが正式にマツの夫として認められたとしても・・・

 確か、マツは全速で2ヶ月掛かると言っていたから、往復で最短でも4ヶ月の隙が出来る。既にある程度の準備はしているはず。戦を起こすには十分な時間だ。


「むう・・・」


 少し考えて、すぐ対応に閃いた。

 マツが居ると思わせれば良いのだ。


 しばらくは影武者を置いておけば良い。

 護衛の忍が何人もいるから、これは簡単。

 仕事は、クレールの執事が残っているから、手伝ってもらえれば捌ける。


 魔術師協会にも、マツが有給を取った事を決して知られないようにと、注意を促さねばなるまい。そちらを調べられると、影武者だとバレる・・・


 ぱたぱたと手紙を閉じ、全く同じに封筒に入れ、ぱたんと封筒を閉じ、す、と手で撫でると、ぴたりと封がくっつく。

 カオルは笑顔を上げ、


「ふふ。リチャード様は、余程にイザベル様を甘やかしたいようで」


「は?」


「ふふ。いやはや、ご主人様、これは読んではなりません」


 大事に見えないよう、カオルはくすくす笑う。


「何が書いてあったんです」


「秘密です。読んではなりません、と申しました。ふふ。リチャード様も、人の親という事ですね」


「はあ・・・では、別に急がなくても良い事ですか?」


「いいえ。急いだ方が良い事ですが、全く大した事ではございません。そうですね、クレール様の忍の皆様に、少々お手伝い頂きましょうか。当国の忍も、ジョアルまで行けばおりましょうが」


「なんです、それ? 凄く気になるんですが」


「ふふふ。あのリチャード様が。これはおかしい・・・」


 カオルはくすくす笑いながら、マサヒデに封筒を差し出し、馬車を下りていった。

 マサヒデは渡された封筒を見ながら、ひらり、ひらり、と表、裏、と返す。

 何が書いてあったのか?



----------



 カオルは馬車を出た後、すぐにクレール配下の忍達とこそこそ話し出した。


「通信で急ぎ伝えましょう。暗号は」


「勿論」


「一度、ファッテンベルクの冒険者ギルドに?」


「はい」


「黒影をお使いに・・・いや、目立ちますか」


「カオル殿、黒影でなくとも、ファッテンベルクの兵達は、一度見た馬は忘れますまい。大丈夫です。潜伏しておる仲間がおります、か、ら・・・そうですな、クレール様に式神で鳥を作って頂きます」


「流石です」


 伝書鳩のように使うのだ。


「日が上り次第に」


「頼みます。これはクレール様にとっても大事です」


「承知しております。お任せ下さい」



----------



 翌日、リチャードも大忙し。


 本当の理由は告げず、日輪国との合同演習をしよう! と、軍に声を掛けるのだ。

 それが叶えば、堂々と日輪国に部隊を置ける。数は少くても良い。

 日輪国の方は、余程の馬鹿でなければ、状況は分かっているだろう。

 魔王軍との合同演習、こちらから声を掛ければ、必ず受け入れてくれる。


 通信機の前には、幾人もの何たら隊大将とか、何たら方面司令といった顔が並ぶ。


「・・・という訳で、私、日輪国の軍に強く心を惹かれます。人の国の中でも、兵も精強と名高い。そして、数々の名将、智将を生んだ国、一度顔合わせするのも悪くないかと。仲を作っておきますれば、教官役を誘う事も出来ましょう。正規軍でなくとも、私兵でも良いでしょうし」


「ふうむ」

「なるほど」


 興味深そうな声を上げる者もいれば、下らん、と顔を背ける者もいる。


「如何でしょう」


「ファッテンベルク大将、参謀本部には打診したのか?」


「これからです。まず皆様の意見をお聞きしたい」


「ふうむ。興味はあるがな。いきなり正規軍を送るのは、流石に無理だろう?」


「正規軍は無理でも、私は私兵の一部を送ろうと考えております。どなたかご一緒に如何でしょう」


「うちは構わんぞ」


「無理だ」


「駄目だ」


 数名で良い。

 私兵で良い。

 魔の国の軍人が居るとなれば、大きな抑止力になるのだ。


「ファッテンベルク大将」


「何か」


「白露帝国が活発だそうだな」


「そのようですな」


「もう停戦も間近だ」


「でしょうな」


「白露帝国のハラムィ陛下は、随分と日輪国にご執心だな」


「そう聞きますが」


「君の娘は、トミヤスなる日輪国の武術家の家臣になったとか」


「はい」


「停戦したら、白露帝国の目は何処に向くのかな」


「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」


 皆が黙り込んでしまった。

 戦の火種がくすぶっている国に、合同演習の兵を送る。


「私は送らんぞ」

「すまんな」

「参謀本部を通してくれ」


 ぷつん、ぷつん、と通信の画面が次々に消える。

 3名が残り、苦笑を向けた。


「送ってやろう。噂の戦略の講義を受けたい。佐官1名。尉官2名。士官候補生も数名見繕わせる」

「うちも希望者がいれば送ろう。希望者がいればな」

「船を用意しよう。大盤振る舞いで特務隊3名を送る。がっかりさせないでくれ」


「感謝します。話はこちらでまとめます。後日、また連絡致します」


「頼むぞ」

「ではな」

「連絡を待とう」


 ぷつん、と通信画面が消え、リチャードが息をついた。

 これで牽制を置く事が出来る。

 まず参謀本部で許可を貰おう。少数なら、簡単に許可はもらえよう。

 後は日輪国の許可待ちだ。


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