↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
46/132

第46話


 そして翌日。


 出立を1日ずらし、イザベルの父、リチャードの馬見物である。


「おお! これは!」


 ずらりと並ぶマサヒデ達の馬に、リチャードが驚きの声を上げる。

 マサヒデ達はにやにや笑って、驚くリチャードを後ろから眺めている。


「おお!? 本当に尾花栃栗毛ではないか!? これぞ黄金馬!」


 子供のように興奮するリチャードに、イザベルが気不味い顔で肩に手を置き、


「父上、少し落ち着いて下さいませ。私、少々恥ずかしく」


「おけ!」


 イザベルの手を払って、リチャードが満面の笑みで振り向く。


「トミヤス殿! 本当に乗せて頂いて宜しいのか!」


「どうぞどうぞ」


「名! 名は!?」


「黒い嵐と書き、黒嵐こくらん


「くうー! 良い名だあ・・・黒嵐!」


 ぺち、ぺち、とリチャードが黒嵐の首に手を置く。


「これ程の馬は滅多におりませぬぞお・・・されば!」


 すぱっ! と一瞬で馬に跨った。

 これにはマサヒデ達も驚いた。

 これはイザベル以上!


「ははは! 参りますぞ!」


「父上、走らせすぎませぬよう」


「分かっておるわ! 走れ! 黒嵐号! はあっ!」


 わははは・・・と笑い声を残し、どかかっ! どかかっ! と黒嵐が走って行く。

 呆れ顔でイザベルが首を振る。


「父が申し訳もございません」


 アルマダは笑って頷く。


「いいや、イザベル様。見せてもらうだけならまだしも、乗せてもらえるとなったら、あれが普通です」


 アルマダは、まだ、自分の馬、ファルコンを見た時の感動を覚えている。

 あの胸の高鳴り! 声が震え、涙が出そうな程に喜んだ・・・

 しかし、さすがに黒嵐には劣るか。


「黒嵐の後では、私達の馬は負けてしまいますかね」


「いえいえ」


 カオルが自信あり、といった風に笑い、に首を振る。


「馬は見た目ではございませぬ。乗った時の感覚というか、個性がございますから」


 ほほう、とマサヒデが腕を組む。


「おっ! 自信あり、ですか」


「勿論! 白百合の落ち着く乗り心地。黒影の、跨っているだけで気分が高揚する感じ。私の馬も負けませぬ」


「・・・」


 マサヒデが黒影を見る。相変わらずでかい。


「そう言えば、私、まだ乗った事ないですよね。しょっちゅう遊んでたから、何かそんな気になってましたが」


「乗られますか? ご主人様でしたら、喜んで走りましょう」


「ふうむ」


 リチャードの方に目を戻すと、遠くで兵達と何やら話し、一緒に駆け出した。

 これは走らされそうだ。馬が疲れてしまわなければ良いが・・・


「今日はやめておきます。リチャード様に走らされるでしょう? ジョアルに戻る途中で、皆で馬を変えて試してみましょうよ。3か月もあるんです」


 アルマダがにっこり笑う。


「お、マサヒデさん、それは良いですね」



----------



 私兵達と馬を並べ、リチャードが黒嵐で走る。

 くく! と手綱を握ると、黒嵐はくいくいと曲がる。


「おう! えらく機敏だぞ!」


 後ろから兵が駆けてくる。


「リチャード様ー!」

「凄いですなあー!」


「ははは! この大きさでこれだけ動くぞ!」


 走らせながら動かしたり、止めて動かしたり・・・

 この馬はどうだ!


「リチャード様、これだけでかいのに、動きには全然重さを感じませぬぞ」

「なんと身軽な。この身体で、我らの馬とも変わりませぬ」


「凄いな! トミヤス殿はこんな馬に乗っておられる!」


「流石、馬も人も一級でございますな」

「その大きさでそんなに動かれましたらば、それは恐ろしいでしょうな」


「ふふふ。乗り心地も最高だ。この馬なら、平均台も走れそうだ。何と言う安心感! これだけ動いても、全く不安を感じぬ」


「おおっ! そのガタイででございますか」

「まさに名馬では!」


「全くだ!」


 はふ、はふ、と黒嵐が息をついている。


「む、しまった。調子に乗ったか。少し走らせ過ぎたな・・・どうどう。よしよし、ゆっくり戻ろう。さ、戻って休もう! 次はハワード様の馬に乗せてもらう!」


「ややっ! リチャード様、ハワード様の馬と言えば!」

「あの、見事な尾花栃栗毛でございますか!」


「そうよ! はーっはっは! 皆様の馬に乗せて頂けるのよ! わざわざ仕事を休みにしたのだ!」


「羨ましいですな・・・」

「全くです・・・」


 ふふん! とリチャードが笑う。


「おおっと! お前らはいかんぞお。馬が疲れてしまうからなあ。トミヤス殿らは、明日には出るゆえ」


「・・・」「・・・」


「わーっはっはっは!」


 ぽく、ぽくと黒嵐を歩かせ、リチャードが高笑いして歩いて行く。

 後ろを、拗ねた顔の私兵2人がついていく。

 今日は名馬を思う存分に乗り回すのだ。



----------



 その夜。


 上機嫌で食事を終えたリチャードの執務室に、イザベルが小さなアタッシュケースを持って入って来た。

 休みを取った、などとは言っていたが、ファッテンベルク家は多忙だ。

 リチャードがペンを置き、ちらっとアタッシュケースを見て、イザベルに目を戻す。


「もう用意は済んだのか」


「はい。父上、出掛けに渡すつもりでしたが、これを」


 リチャードが机の上の書類をどけると、イザベルがアタッシュケースを置く。


「何だ。金か?」


「いえ。金より価値のある物です。お確かめを」


「ふむ」


 ぱちん、ぱちん、と留め具を外し、アタッシュケースを開けて、


「う」


 と、リチャードが小さく声を上げ、目を見開く。

 封筒と、バラされた白露特殊部隊の消音長銃。


「お前・・・何処でこれを」


「日輪国、ゾエにて。白露の特殊部隊とやり合ったのです」


「何!?」


 イザベルが、す、と懐から白露特殊部隊の消音拳銃を出す。


「これも頂いてきました」


「待て待て! これを持っていたという事はアドナー部隊だな。でなければ情報省の特務か」


「おそらく」


「よし。何があって、奴らとやりあった」


「我らの宿に、白露第一王女、アナスターシャ様が参られまして。そこで襲われたのです」


 リチャードの顔が引き締まる。


「王女から何かまずい事でも聞いたのか」


「色々と聞きましたが、狙いは我らではなく、王女の暗殺で忍び込んで来たのです。それを見つけ、始末しました」


 ぐ、とリチャードの言葉が詰まる。


「お・・・お前っ・・・それは、つまり、内乱か?」


 こく、とイザベルが頷く。


「おそらくですが、内乱とは少し違います。王女の暗殺を日輪国の手に見せかけ、戦の理由にと」


「な、何!? もう動き出したのか!? ワキーナとはまだ停戦前ではないか!」


「もう停戦は間近ではございませんか。早ければ、ここに着く前に停戦はされておりました」


「それは・・・そうだが。早すぎではないか」


「現に来たのです。ゾエの報道は、既に、王女が同国の者に命を狙われた事を嗅ぎつけております。こちらにも、遅かれ早かれ報せが届くでしょう。王女は未だゾエに潜伏中のはず」


「・・・」


「兵器開発の研究にお役立て下さい。弾薬も1弾倉分は入っております」


 ぱたん、とアタッシュケースを閉じ、リチャードがイザベルに鋭い目を向ける。


「やり合った、と言ったな」


「はい」


「外交上の問題はないか」


「はい。外務大臣のミスジ公爵が骨を折って下さいました。我々にもお咎めはございません。事の経緯はその封筒の中に。現在の王女の行方などは、日輪国情報省にお問い合わせ下さい。返事が来るかは分かりませんが。それと・・・」


 イザベルがポケットに手を入れ、コインを出す。


「米衆連合で、これを」


 マサヒデから預かった、白露帝国の人体実験部隊のチャレンジコイン。

 ことりと置いて、すっと差し出す。


「う!?」


 リチャードはこの紋章を知っていたのか、ぎくりと身を固め、言葉を失う。


「勝ちました」


「・・・」


「申し訳ございませんが、これは土産には置いていけませぬ。マサヒデ様からお借りした物です」


 イザベルが、す、とコインを引き、ポケットに入れる。


「トミヤス殿が、あの部隊と立ち会ったのか・・・」


「凄まじいものを見ました。彼奴らとの立ち会いの様子も、その封筒の中に」


「・・・」


「では、父上。おやすみなさいませ」


 絶句した父を置き、イザベルは頭を下げて執務室を下がって行った。

 リチャードはそっとアタッシュケースを開き、封筒を手に取る。

 早い。早すぎる。もう日輪国に手を出し始めていたのか。


「むう・・・」


 もし、イザベルがマサヒデと共に日輪国に戻った時、戦が始まってしまったら。

 イザベルは間違いなく引っ張り出される。

 マサヒデ達一行は、おそらく全員。


 もうひとつ。


 年明け前、白露の特殊部隊が、ワキーナ入国管理局内で、冒険者と傭兵の混成部隊に返り討ちにされた、という報道があった。まさかと思ったが・・・


(やはり出ていなかったのか)


 傭兵達全員がマサヒデ達のような恐ろしい腕利き揃いなら可能だろうが、あれほどの腕の者は、そうそう居ない。おそらく、特殊部隊の格好をさせられた一般兵か。


 つまり。


 白露帝国は、本気で殴りには行っていない。

 手練れの兵達は、ほとんど出していないのだ。

 そして、本軍が出る前のタイミングで、米衆主導の強引な停戦交渉。

 タイミングが良すぎる。

 万が一、停戦から、和平となったら・・・

 親日輪国派の王女の暗殺の目論見・・・

 兵力が温存された白露の次の矛先は、考えるまでもない。


(万が一は十分にありそうだな。急がせねば)


 リチャードはバラされた消音銃を睨み、ぱたん、とアタッシュケースを閉じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。