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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
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第43話


 イザベルが屋敷に帰って来た頃、マサヒデ達はファッテンベルク冒険者ギルドで、立ち会い稽古を行っていた。


 訓練場の建物はないが、屋外に広い訓練場がしっかり整えられていて、皆、そこで稽古をするのだ。


(くそ! 皆、鋭いな!)


 かすっ! かすーっ! と、木刀で撃ち込みを流して、流して、流して。

 刃ではなく、横腹で。受けずに流す・・・


 さすがにルーカスには足元にも及ばないが、ジョアルの冒険者ギルドとは桁が違う。誰を相手にしても、剣も槍も鋭く、動きにそつがない。


 ちーん。

 時計の音。


 マサヒデと冒険者が手を止める。


「む、ここまでです。交代しましょう」


「ありがとうございました!」


 ふ! と息を吐いて、呼吸を整える。

 すぐに次の相手がやって来て、マサヒデの前に立つ。


「お願いしまーっす!」


「こちらこそ。さ、いつでも」


 マサヒデ、アルマダ、カオル、シズクと、順に立ち会いを行っていく。

 4人と立ち会いが終われば、冒険者は次の順が回るまで休憩。

 マサヒデ達も疲れるし、冒険者達も疲れる。一部を除き・・・


(くそ!)


 流石に狼族の冒険者達は違う。

 単純に速い。単純に強い。体力も違う。


 私兵達とは立会稽古はしなかったが、こんなのがぞろぞろいるわけだ。

 しかも、がっつりと軍の稽古を受けている者達が。

 狼族は数は少ないのだから、勿論、全員が全員狼族ではないが、それに見合う合格ラインの兵ばかりなのだ。流石、武門のファッテンベルクは違う・・・


「えーいっ!」

「むっ!?」


 鍔迫り合い。

 に、なったかと見えて、かくん、とマサヒデの木刀が後ろに傾き、柄頭が冒険者の鼻先。

 冒険者が顔を仰け反らした所で、すとんと柄頭が剣を握る手と手の間に入り、こてん、と冒険者が投げられる。


「あーあ・・・しまったあ・・・攻めちゃいましたね」


 がっくりとマサヒデが肩を落とす。

 今回はひたすら避けるだけで、こちらからは攻めない、という稽古。


 すっ、と木刀を引いた所で、ちーん! と時計が鳴った。


「ああ、時間か!」


 ぺしん! とマサヒデが額を叩き、空を仰ぐ。


「手、出しちゃいましたね。負けました」


 冒険者が立ち上がって、ぱたぱた服をはたき、髪を整える。


「あの、何であれで避けられるかが、全然分からないんですけど・・・何で投げられちゃうんですか?」


「ああ、もう昼・・・最後ですよね」


「はい!」


「じゃ、説明します。まず大前提として、鍔迫り合いって、下手同士のする事です。講談とか絵物語みたいに、睨み合いはやらないです」


「ええーっ!」


「少しでも使える人同士の立ち合いだと、なった瞬間、どっちかが死にます。今みたいに」


 マサヒデが冒険者の木剣を持って、上に上げる。自分の木刀を合わせる。


「こうでしょう? 軽く押してて下さい」


「はい」


「刀でこうやって受けたら、下手すると折れます。相手が剣なら尚更です。折れなくても、根本から曲がっちゃったり、柄が割れたり」


「ええー! なんか夢が・・・火花を散らしてがつーん! とか無いんですか? 額と額を突き合わせて、きりきり睨み合ったりとか」


 マサヒデが木刀をぐいっと引く。

 肩に冒険者の木剣が当たる。


「ないです。現実、こうですよ。狼族みたいな力持ちの方の撃ち込みを、私の力で受けられるわけないじゃないですか。ほとんどの方が受けられませんよ。このまま押し込まれて、真っ二つ。刀はぱきん」


「はい・・・」


「折れなくったって、鍔迫り合いの状態なら、片っぽの手で相手の武器を止めたら、もう勝ちじゃないですか」


「はい・・・」


「という事で、鍔迫り合いってのは、ただの力比べ。私があなたとまともに鍔迫り合いしたら、詰みです。なので」


 マサヒデが押し戻し、最初の鍔迫り合いの形に戻す。


「こうなった瞬間」


 すっと半身になって、鍔迫り合いの所を支点に、木刀を水平に。

 柄頭が冒険者の顔の前。


「ほら。相手が押し込んでくれるから、勝手にこうなると。これは当てなかったですけど、実際だとここで顎とか顔に入ります。相手の力で上がるので、相手が強く撃ち込んでくるほど、強いのが入ります」


「あら・・・」


「で、流しちゃう。そのまま真っ直ぐ押し込んで下さい」


 すとん、と冒険者の木剣が落ちる。手元を指差し、


「ほら、剣を握ってる小手が丸見え。真上には私の刀の柄がある。そのまま、こう。ここに柄頭を突っ込む。で、引っ掛けると」


 引っ張られて、冒険者がころーん。


「ね?」


「ああー・・・こうなっちゃうんですね・・・」


「後ろにいった刀を返して、斬っちゃっても良いです」


 冒険者が立ち上がり、また髪を直す。


「こんな近間でですか?」


「こうです」


 添え手に構えて、


「ほら。こうやって手を添えるだけで、近間でもがっつり斬れます」


 避けた半身の体勢から、くるっと180度回って、添え手の木刀を回す。

 冒険者の首元にぴたり。


「わ」


 す、と木刀を引き、マサヒデが苦笑い。


「これは刀みたいな、片刃の刃物じゃないと出来ないですけどね。両刃の剣だと出来ないです」


「やっぱり刀って凄いんですね・・・」


「そんな事はないです。剣でも刀でも、槍でも弓でも鉄砲でも、強みがどこにあって、どうやって、どこまで引き出せるか。それが武器術ですよ」


「じゃあ、今の、剣だとどうするんですか?」


「む」


 マサヒデが腕を組み、少し考える。

 剣だったら、鍔迫り合いをどう制するか。


「ううむ、ちょっと見せて下さい」


「はい」


 木剣を渡される。

 鍔が横から見ると十字で、刃の方に出ている形。刀のように丸くない。

 刃で受けず、横腹で受けて流そうとすると、親指が持っていかれる恐れがある。


「これで鍔迫り合いって、結構、怖いですね・・・」


「何がですか?」


 マサヒデが木刀を乗せて、すー・・・こつん。親指に当たる。


「ほら。指が」


「あっ」


「ううむ・・・ああ、そうか。刀と違って、刃と刃を合わせるのは、もう折込済みなんだな。少しくらい欠けたって何とかなるから・・・じゃあ、鍔迫り合いは・・・ううむ・・・どうするかな」


 マサヒデは木刀を冒険者に渡し、木剣を掲げるように真っ直ぐ立てて持ち、ううむ、と唸る。


「あ、ひとつ閃きました。じゃあ、鍔迫り合い」


「はい」


 冒険者が木刀を持ち、マサヒデが木剣を持ち、鍔迫り合いの形。


「押して下さい」


「はい」


 同じように半身、剣を後ろに倒す。

 下から柄頭が上がってきた。


「こうなりますよね。ここまでは同じ」


「はい」


 半歩前に。


「ここで、この柄頭でがつんと顔を叩いても良いですけど、兜とか被ってたら、大して効かないですよね」


 ひょいと柄頭を冒険者の首に引っ掛ける。


「だから、こう」


「あー!」


「はい、と」


 マサヒデがそのまま身を回す。ころん。


「こんな感じですかね。私がやったみたいに、手に引っ掛けても良いですが、剣は柄頭が大きいから、首でいけますよ。剣を握っている手元なんて、ちょっと怖いですからね」


「あー、凄ーい!」


 マサヒデが照れて、困ったような笑みを浮かべ、


「まあ、こんな感じで。武器の使い方とか・・・探すみたいな」


「マサヒデさん、何してるんです」


 アルマダがにやにや笑いながら歩いて来る。

 尻もちをついている冒険者を見て、


「おやおや。今度はこのギルドの女性も口説こうとしてるんですか?」


 あっ! と驚いて、冒険者の尾がぴんと立つ。


「ええー! 私、口説かれてたんですか!?」


「違いますよ! ただの稽古です!」


「またそんな事を言って・・・リチャード様に叱られますよ」


「違いますからね!」


「この人、ジョアルの冒険者ギルドでも口説いてましたからね」


「違いますよ!」


「マサヒデさんは、旅の先々で女を作るんです。今まで立ち寄った冒険者ギルドには、大体1人は居ますから」


「ええっ!?」


「ははは! それでは私は先に!」


「あれ嘘ですよ!? 嘘ですからね!」


 どす、どす・・・


「ジョアルは本当だよ」


「シズクさんまで!」


「うっわー! かわいそ! 泣いてたのに」


「うっ」


 たじろいだマサヒデを見て、シズクが冒険者の横にしゃがみ、マサヒデを指差す。


「ほらね。ジョアルでも女の子泣かしてんだ」


「ほんとなんですか・・・?」


「酷いよねー。騙されちゃ駄目だよ」


「騙してませんよ! 向こうが勘違いしただけで!」


「ほら、口説いたの認めたぞ。で、勘違いだって向こうのせいにするんだ」


「ええー・・・」


「違いますって!」


「あーあ! これから何人泣かすのかなー! あははは!」


 シズクも笑いながら歩いて行く。


「ほんと! ほんとに違いますよ!」


「・・・」


 明らかな疑いの目。

 マサヒデが慌てて声を上げる。


「違うんですって! 私にはもう妻もいるんです! そんな事はしません!」


 慌てるマサヒデを見て、後ろで冒険者達が笑っていた。


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