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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
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第42話


 力が持たず、立てなくなってしまったイザベルは、ゲルに運ばれて、診察台に寝かされた。


 脈を計ったり、心音を聞いたり、全身の魔力をチェックしたり・・・


「ヨロイ殿、どこかおかしな所は」


 ゲンゾウが首を振る。


「いや、何も・・・疲労だけですか? 何か他に自覚症状は?」


「ない」


「ううむ!」


 イザベルが部屋を見回し、


「ヨロイ殿、月斗魔神は何処に」


「厳重にしまってあります」


「封印するまでは、ヨロイ殿が肌身放さず持っておいた方が良い。その方が安全だ」


「分かりました」


「まだ、少しだけ話す事があるゆえ、月斗魔神を取りに行ったら、戻ってもらえまいか」


「イザベル様、お休みになられませ」


「すぐ済む。話したら寝かせてもらう」


 ゲンゾウが頷き、ゲルを出て行った。



----------



 ゲンゾウが月斗魔神を持って戻ると、イザベルは顔の前で、手を握ったり開いたりしていた。


「どうされました」


「あ、いや。ここまで力が入らぬとは、と驚いておった。実は、マサヒデ様も、それを使った後に、急に膝から崩れてしもうたのだ」


「ふむ」


「我もマサヒデ様も、魔術を全く使わぬゆえ、こう、魔力が身体を通るという事に慣れておらぬから、かな? 単純に肉体への負担かな?」


「なるほど。説得力はありますな。お話ししたい事とは、この事ですか?」


「いや、違う」


「お聞かせ下さい」


「うむ。あのな、魔力の意思が見えるとか、世界の意思が見えるとか言うたがな」


「はい。あの力を見た後です。心底から信じられますな」


「こう進むと破滅の世が待つとか・・・それはな。月斗魔神を持っておっても、結局は分からぬのだ」


「何故でしょう。魔力の行き着く未来が、見えるのでは」


 イザベルがにやりと笑う。


「ふふふ。この世界に人は幾人おるのだ。全員が同じ方向に進化するのか? では、月斗魔神を持つ1人だけが理想の方向に進化して、世界の皆が幸せになるのか?」


「む」


「されば、その剣を持ち、我が方向を示せば導けるかと言えば、否であるな。どう言われようと、進化する方向は個々人で変わる。進化は自然の摂理。即ち世界の理であるからだ」


「ふうむ!」


「環境によって変わるは当然ながら、その心持ちによっても変わろう。その剣を持ち、我と同じくして世の行き着く先が見えたとしても、導き手には決してなれぬ。そもそも、なろうなどと傲慢な考えを持つ者は、選ばれまい。そんな者が持っても、せいぜい、大きな剣とかになるぞ、くらいではないかな」


「それでも恐ろしい力ですが」


「ふふ。それもそうだがな。我が幾つもの世界を見た、というのも、幾つもの進化があり、幾つもの未来がある、という事よ。ここと選んで導きは出来ぬ。行きたい先が分かっておったとて、そこへの道が分からねば、どうしようもなかろうが」


「む、それは確かに」


 はー、とイザベルが息をつく。


「どれだけ優れた者が持ったとて、導き手にはなれぬのよ。この事、しかと心得て、実験記録に記しておいてくれ」


「はい」


「それはただの凶器止まりである・・・は、言いすぎかな。さすがに名工が打っただけはあり、美しい刀であるし。ま、危険物以上の何物でもない。惜しまず、封印してしまってくれ。あ、くれるならもらうが」


「はは。お渡しは出来ませんな」


「そうか。話は以上だ。時間を取らせたな」


「結果は十分。貴重なお話も聞けました。このゲンゾウ=ヨロイ、心より感謝致します。本日はこちらでゆっくりお休み下さい。明日、お屋敷までお送り致します」


 ゲンゾウが頭を下げた。



----------



 その夜、ファッテンベルク家屋敷、マサヒデの部屋。


「以上がご報告に。体調の変化などなければ、明日中にお戻りになられるかと」


「ん、そうですか。こんな夜まですみませんでした。ありがとうございます」


 マサヒデが忍に深く頭を下げた。

 イザベルに見張りとしてつけたうちの1人が、報告に帰って来たのである。


「しかし、あの、ぼーっとしてた時、そんな事があったとは、驚きですね」


「はい。我らも半信半疑で聞いておりましたが、イザベル様は真剣そのもので・・・後の実験を見れば、もはや疑いの余地もなく」


「色んな世界をたくさん見て・・・ああ、そうか。私も似た経験してますよ」


「なんですと?」


 にやっとマサヒデが笑った。


「クレールさんも一緒に。ほら、米衆連合で神様に会った時」


「ああ。ご寝所には長くおられたのに、戻ったら時計が戻っていたと」


「ええ・・・世界の意思、魔力の意思、か。魔力って、そこら中にふわふわしてるんですよね」


「はい。私も魔術は使いませぬが、種族がら、魔力の流れは感じます」


「意思があるんですね」


「それは・・・私めには分かりませぬが」


「単純に、魔術の為に使う、何と言いますか・・・そう、火を点けるには空気が必要で、それが魔術の時は魔力、みたいな認識でしたが」


「私も全く同じに認識しておりました」


 ふわり、ふわり、とマサヒデが手を振る。


「私は、何処へ向かったら正解なんですかねえ」


「それは分かっております」


「何処です」


「魔王様の所です」


 ぷ! とマサヒデが吹き出す。


「ははは! そりゃあそうですよね!」


「その後はレイシクラン家です」


「ははは!」



----------



 翌日の昼前になって、イザベルは屋敷へと帰って来た。


 門前で馬車から下り、訓練をしている兵達の前を歩いて行く。

 屋敷に入り、テラスでおしゃべりをしていた母とクレールに軽く頭を下げ、リチャードの執務室に入る。


「帰りました」


「早かったな」


「滞りなく終わりました」


 リチャードがペンを置く。


「やはり魔術研でした」


「そうか。何かされたか」


「いえ。月斗魔神の変化を観察し、満足されたようです。美味しいチャイもご馳走になりました」


「そうか。トミヤス殿方は、冒険者ギルドに行っておられる。冒険者達に軽く稽古をつけると申し出てくれた」


「ありがたき事です」


「うむ。ホルニコヴァ殿は、今日、鍛冶屋への教えを終わらせると言っておった」


「では、明日にでも?」


「お前が帰ってきたら、とな・・・」


 小さく息をつき、リチャードが背もたれにぎしっと背をもたれる。


「寂しくなるな」


 ふ、とイザベルが笑う。


「これは父上らしくもない」


 リチャードも苦笑する。


「トミヤス殿方が来て、急に賑やかになったからな・・・そう言えば、ルーカスが指南役を考えると言っておったな」


「幾つかの道場を回りましたので、その技術のひとつをマサヒデ様に見せて頂き、驚いたのでしょう」


「ハワード様に、熱心に教えてもらっていたが」


「ふふ。それは一剣流でしょう」


「お前、その一剣流の黒帯をもらったそうだな?」


「はい」


「お前が黒帯とはな。驚いたぞ」


「まだ初段です」


「で? トミヤス流では何段なのだ?」


 つ、とイザベルの目が逸れる。


「・・・」


「お前な」


 おほん! とイザベルが咳払いして、


「い、いや! 父上、私、トミヤス道場に籍を置いてはおりませぬ」


「ふうん。一剣流に籍を置いておるのか」


 リチャードがくるりと椅子を回し、窓を向く。


「いえ」


「もう少し真面目にやれ」


「しております。トミヤス道場では、出稽古で指導員を任されております」


 リチャードが少し驚いた顔で、イザベルに振り向く。


「何? お前が?」


「はい。お疑いでしたら、トミヤス道場にお問い合わせ下さいませ」


「・・・ならば良い」


 しばしの沈黙。


「帰りは・・・まあ、ここへは寄るまいな」


「明日1日は引き止められます」


「聞かせろ」


「馬を見たい、乗ってみたいとご希望なさりませ。父上もまだ見ておりませぬでしょう。驚きます」


「ふむ」


「乗れば更に。先に言っておきますが、ねだったりしても無駄でございます」


「ふむ・・・ま、確かに見たいな。話は変わるが、パウラは惜しい事をした」


「そうですか? 私は、お返事は分かっておりました」


「ううむ。何年かしたら、もう一度尋ねてみるか・・・」


 ふ、とイザベルが鼻で笑う。


「何がおかしい」


「いえ。父上もご心労が絶えませんね。当家ではなく、ロブの家ではございませぬか」


「まあ、そうだがな・・・」


 イザベルがにやにや笑い、


「ま! 私はパウラお姉ちゃんとハワード様をくっつける策はいくつか」


「聞こう」


「お断り致します」


「・・・」


「これも勉学の賜物。兵法とはこういう所にも役立ちます。かのウー=スンも戦わずして勝つが上策と。父上は思い付きませぬか?」


「・・・」


「では、頑張ってもう一子お作りになさっては? マサヒデ様のお子もおられますゆえ、トミヤス家と縁を結ぶ事は出来るやもしれませぬ」


「お前な」


「私も兄妹が増えれば嬉しい限り。マサヒデ様も祝に来られるやもしれませぬ」


 リチャードが呆れ顔で首を振り、溜め息をつく。


「ふう・・・お前こそ、婿探しをすべきではないのか」


「どなたになさいましょう。今の所、これはというお方は・・・マサヒデ様、ハワード様、サカバヤシ様、ナガタニ様、コウ王子・・・ご年齢で言えば、キノト様もまだいけますし・・・」


「それだけおるのに、嫁に行こうとも思わぬか」


「思いませぬ」


「全く」


「ふふ。お仕事中、失礼致しました」


 くるっとイザベルが振り返る。


「待て!」


「お邪魔致しました!」


「おい!」


 ぱたん、とドアを閉め、イザベルが出て行く。


「ああ、全く!」


 リチャードは渋い顔でわしわしと頭をかき、ペンと書類を取った。


「ふむ。馬か・・・馬な・・・」


 トミヤス殿、ハワード様の馬。

 見事な馬だ、とフリッツが驚いていたが・・・

 イザベルは聞いていた黄金馬に乗ってきたと聞いている。

 むくむくと興味が湧いてきた。どんな馬か。


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