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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
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第39話


 カズトモが去った後の、エッセン=ファッテンベルク家屋敷。


 マサヒデに割り当てられた部屋に、イザベルが入って来た。

 真面目な顔で、頭を下げる。


「マサヒデ様、ご相談が」


「何かありましたか」


 言いながら、マサヒデはベッドに腰掛ける。


「はい。実は、軍諜報部が、私を2、3日貸してほしいと、父上に連絡を寄越したそうです」


 マサヒデが胡乱な顔で、


「諜報部? 何か探るんですか? カオルさんは必要ですかね」


「いえ。月斗魔神の件かと」


「む」


 ぴく、とマサヒデの顔が引き締まる。


「むう・・・あれを見られていたんですね」


「あの時、クレール様は、窓を開けておられました。望遠で見られたと」


「ふうむ」


「おそらくですが、諜報部はただの使い。魔術研究所ではと思うのですが」


「ふうむ・・・ふむふむ」


 マサヒデが顎を撫でる。


「イザベルさんが使ってみた所を、観察する、みたいな感じですかね?」


「おそらく」


 月斗魔神、と聞いて少し警戒してしまったが、イザベルはもう大丈夫だろう。

 きっと、あの力を使いこなせる。


「行きたい、もしくは、行った方が良い、と思いますか」


「はい」


「2、3日、ですね。4日目に戻らなかったら、私達、全力で探しますよ。全力で。マツさんや父上も呼んで、クレールさんにも頼み、ご実家からレイシクランの忍も出せるだけ出してもらいます。カオルさんを通じ、情報省の忍も送ってもらいます。場合によっては、マツさんを通じて魔王様にもご助力を頼む事になります。その旨、先方にはよく聞かせておくように」


「は」


「事故には気を付けて下さい。先方にも人死が出ないように」


「は」


「秘密の実験、みたいなものだと思いますけど・・・今回は、クレールさんから、2人くらい見張りに借ります。何かあって、事故です、なんて言い張られて、闇から闇なんて事があったら嫌です。良いですか」


「は」


「結構です。行って来なさい」


「は!」



----------



 こん、こん・・・


「入れ」


「失礼致します」


 静かにドアが開き、イザベルがリチャードの執務室に入る。

 この時間まで仕事・・・


「父上、会計士を雇ってはいかがです。その方が仕事ははかどります」


「いや・・・まだ、製鉄がな。ここで何本か製作して、出来によるが、セリに出そうかとな。そうすれば、まとまった金が出来そうなのだが」


「それが分かっておられるなら、そこまで節約せずとも・・・会計士の給料くらいは払えるでしょう」


「む、ううむ、まあ、な・・・そうするか」


「このくらいの給料なら払える、という金額をクレール様にお伝え下されば、良い者をお送り下さいます。折角おられるのです。ご相談されては」


「うむ・・・で、用はそれだけか?」


 リチャードが、ふう、と息をつき、葉巻を取る。

 ナイフを取り、先を切ろうとした所で、


「マサヒデ様から、お許しを頂けました」


 ぴた、とリチャードの手が止まった。


「む」


「条件付きです。クレール様の手の者を、見張りに2名。何かあった時の為に」


「その何かがないと良いがな」


「2、3日です。4日目に戻らぬ場合、マサヒデ様の伝手を使い、全力で私の捜索を行うと」


「トミヤス殿の伝手?」


「マツ様、大殿・・・ん、おほん! カゲミツ様、レイシクラン家。日輪国情報省の忍。場合によっては、マツ様を通じ、魔王様のお力も、と」


「おいおい」


 リチャードが呆れ笑いを浮かべ、ぴす! と葉巻の先を落とし、咥えて、マッチを取る。すぱ、すぱ、と煙を吹き、ふあ、と吐き出す。


「やれやれ。過保護なご主人様ではないか」


「家臣思いの主にて、私、恵まれております」


「全くだな・・・返事は今夜中に伝えておく。明日、朝食を済ませたら、町に向かい、広場で勇者祭の放映でも見ていろ。着替えと歯ブラシは忘れるなよ」


「ふふ。分かりました」


「もう寝ておけ。明日からきついかもしれんぞ」


「はい。おやすみなさいませ」


 イザベルが頭を下げ、部屋を出て、ぱたん、とドアを閉めた。


「・・・」


 ふあー、と、リチャードがゆっくりと煙を吐き出して、考える。


 トミヤス殿が心配しているのは、イザベルが月斗魔神で事故を起こす事ではない。

 それを見たがっている者が、イザベルに何をさせるのか、だ。

 そして、こうも過保護になる程の力がある、という事だ。

 場合によっては、魔王様も動かす、という程の。


 魔術研究所であれば、そうおかしな事はさせられまい。

 そして、トミヤス殿が許可を出したという事は、イザベルが月斗魔神を使っても、事故を起こさない、と、トミヤス殿は見ている。

 その点については、安心しても良い、という事だ・・・



----------



 翌朝、ファッテンベルク市中央広場。


 イザベルが、大きく写された放映画面を見ながら、ふあ、と欠伸をして口に手を当てる。


(大丈夫ですか)


(月斗魔神の扱いは大丈夫だ。それよりも何をさせられるかだ)


 ふわ、ふわ、と口に手を当て、口の動きを読まれないように忍と喋る。


(む、来ました)


 す、と背後の忍の気配が消える。

 ハンカチを出して、目に軽く当てていると、イザベルの前に、黒眼鏡に黒スーツの男が2人立つ。


「おい・・・」


 イザベルが呆れ声を出し、溜め息をつく。


「お前達、諜報部ではないな? それはいくら何でも目立ち過ぎだぞ。怪しい者ですと教えているようなものだ。平服に着替えてもう一度だ」


 ん、ん、と黒スーツ2人が気不味い声を喉から上げる。


「・・・申し訳もございません。ファッテンベルク少尉」


「元、だ。今は民間人だ。少尉でもない。イザベルで良い」


「は」


「全く、仕方ないな。行くか・・・」


 のっそりとイザベルが立ち上がり、荷物の袋を肩に掛ける。

 す、す、と2人がイザベルの左右に並んで歩く。


「おい」


「は」


「あのな。あまり並んで歩きたくはないぞ。我も胡乱な目で見られる。分かるであろうが」


「は、はあ・・・」


「1人、5、6間(10m前後)離れて前を歩け。もう1人は後ろから。行くと言ったのだから、ちゃんと付いて行く。逃げたら父上を責めれば良かろうが。後ろから離れて我を見張っておれ。な。それで良かろう。万が一、何者か襲われても、我は対処出来る。逃げもせぬから。な」


「は・・・」

「申し訳ございません・・・」


 その後ろで、町人に変装した忍2人が、くすくす笑っていた。



----------



 少し歩いて、細い路地に入ると、道幅ぎりぎりの幌付きの馬車と、黒スーツ。


「乗れば良いのだな」


「は」


 よ、と馬車に乗り込むと、黒スーツ2人も乗り込む。


「大変申し訳無いのですが」


 と、黒スーツが麻袋を差し出す。

 イザベルが溜め息をついて、荷物袋を下ろし、麻袋を受け取る。


「被れば良いのか? まあ被ってやるがな。先に言っておく」


「はい」


「この後、ぐるぐる町中を回って、という手順であろうが・・・あのな。我が特戦隊におった事は聞かされておるな?」


「はい」


「お前達の上司は、ただでさえ感覚の鋭い狼族で、特戦隊で鍛えた者が、そんな事で方向感覚が狂うと考えておるのか? 1週間回り続けても、町の何処におるかははっきり分かるし、町を出ても、半径10里四方の何処におるかも分かる」


「は・・・」


「真っ直ぐ行け。時間の無駄だぞ。命令されているなら仕方ないから、付き合ってやるが」


「はい・・・」


 イザベルが麻袋を被って、手首を合わせて差し出す。


「縛らんで良いのか? この袋を取るやもしれぬぞ」


「いえ・・・もう結構です」


「では、馬車を出せ」


 馬車の下に貼り付いている忍2人が、にやにや笑っている。



----------



 1刻程走って、馬車が止まった。


 町の外に出ている。


「イザベル様、もう袋を取って頂いて」


「ドジーマ台地に南から入った所だな。北東と北西の遠くに小さな丘が見える所だ」


「・・・」


「場所は分かる。嘘ではなかったであろう」


「は・・・」


 被った麻袋を取り、髪を整え、荷物袋を取る。


「やれやれ」


 馬車を下りると、ゲルが3つ建っている。


「おい、ここにゲルを置くのはいかんぞ。何もないではないか。この辺りは動物も少ないから、狩りに来る者も全くいない。怪しまれる。不審人物、野盗かも、と報告されたら、我が家の兵が飛んでくるぞ」


「は・・・いや、人目につかぬ所となりますと」


「まあ、ううむ・・・それもそうだな・・・で、入れば良いのか? 待つのか?」


「そこの、手前のゲルにお入り下さい」


「うむ。お前達、その黒スーツはすぐ着替えておけ。見られたら通報されてもおかしくないぞ」


「は・・・」


 ばさっとゲルの入口の幕を開いて入ると、おそらく予想通りであろう人物が座っていた。

 龍人族の、壮年くらいに見える男。

 龍人族の殆どは、研究職についている。

 この男も白衣を着ている。やはり魔術研究所か。


 服装は如何にも研究員といった感じだが、研究職に見えぬ体つき。鍛えている。


 ささ、とゲルの中を見回す。

 右手に白いボード。

 左手に大きな箱が3つ。

 この男が使う物であろう杖。


 正面に机。

 向こう側に、龍人族の男が座って、イザベルを見ている。


「イザベル=エッセン=ファッテンベルク様」


「如何にも」


「ご足労、感謝致します。お座り下さい」


「失礼する」


 龍人族の男は軽く頭を下げ、


「お初にお目に掛かります。魔術研究所第26支部の支部長、ゲンゾウ=ヨロイ」


 イザベルが驚いた顔に変わった。


「ん? どうかなさいましたか?」


「あ、あいや。失礼した。魔術研究所とは、26も支部があったのか?」


「50を越えておりますが」


「そんなに!? あ、や、失礼・・・漠然と、魔術研究所なる、こう・・・何と言うか、漠然と大きな建物のような物を想像しておったので。知らなんだ」


「ははは! 面白いお方だ! 軍でお聞きにならなかったのですか!」


 ゲンゾウが笑いながら、机の上に、ごとりと刀を置いた。

 月斗魔神。

 イザベルが腕を組み、足を組んで頷く。


「ま、察しておった」


「でしょうな」


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