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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
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第38話


 庭でアルマダがルーカスに一剣流の擦り落としを何度も見せていた時。


 ぶおー! と角笛が鳴った。


「む!?」


 は! とルーカスが剣を止め、暗い庭の向こうを見る。


「何事!」


 ばたん! と戸を開け、リチャードもテラスに飛び出てくる。


「侵入者だー」


 リチャード達の耳には、私兵の声が届いた。


「侵入者!? ハワード様! ルーカス! 中に!」


 ぱぱ! と2人が手すりを飛び越え、アルマダはパウラの肩を抱いて中に飛び込む。

 ルーカスも飛び込んで、壁に掛かった剣を取る。

 アルマダは奥まで駆けて行き、窓の方を見たまま、パウラの肩に手を当て、


「ここに。いつでも動けるように、立っていて下さい。ヒールは脱いで」


「は、はい」


 そう言ってぱっと立ち上がると、


「アルマダさん!」


 マサヒデが投げた剣を受け取り、鞘から抜く。


「たあー!」

「ぐあーっ!」


 私兵達の声と、打たれる音が近付いてくる。

 ざざざ! とテラスの前に私兵達が集まり、ばん! とドアが開いて、廊下からも私兵達が、ざかざかと駆け込んでくる。


「とあーッ!」


「何!?」「跳んだぞ!」


 ばばば! とローブを翻し、私兵達を高く跳び越え、男がテラスに立った。

 背中に私兵達の槍を向けられたまま、男は片手に木刀を下げ、部屋の中を睨む。


「マサヒデ=トミヤス!」


「何奴!」「囲め!」


 部屋の中の私兵達が、マサヒデ達の前に立つ。

 私兵達には全く構わず、男が声を上げる。


「俺と勝負をしろ!」


 リチャードが声を上げる。


「トミヤス殿は当家の客! 不法侵入をしてきた挙げ句! 礼を失した勝負の申し込み! このリチャード=エッセン=ファッテンベルク、許さん! 囲め!」


「「「はっ!」」」


 ず! と兵達の輪が狭くなる。


「不法侵入、だと・・・武術家の勝負に! 時と場所は関係ない! 俺の邪魔をするのならば・・・押し通るッ!」


 ぱあん! とクレールが手を叩く。


「皆の者!」


「「「ははっ!」」」


 ずら! と手すりの上にレイシクランの忍達が並ぶ。


「忍か! 小賢しい!」


 マサヒデが前の私兵の肩に手を置き、


「ちょっと通して下さい」


「トミヤス殿!?」


 リチャードが声を上げたが、マサヒデは落ち着いていて、


「リチャード様。構いません。武術家の勝負に時と場所は関係ない。この人の言う事は正しいです」


「しかしトミヤス殿!」


「構いません」


「く、ぬう・・・トミヤス殿を通せ!」


 私兵達は後ろのマサヒデを見て、ず、と横に詰め、道を開ける。

 マサヒデはすたすたと歩いて出て、男の前に立った。


「名を聞きましょう。墓石に刻む名が必要です」


「俺の名を聞きたいか!」


 む、とマサヒデが眉を上げた。

 はて? この台詞、どこかで・・・この感じは、もしかして?


「間違っていたら失礼。あなたは、もしかしてですが・・・クノ先生の?」


 ひょい、と男がマサヒデに木刀を投げる。

 ぱし、とマサヒデが受け取り、腰の雲切丸を抜いて、隣に立つ私兵に差し出す。


「如何にも! 全方不敗流! カズトモ=モンド!」


「やはり・・・お弟子さんが居たとは」


 マサヒデの目が細くなる。

 落ち着いて見れば、この男、騒がしいが、相当の腕と見える。

 カズトモは背中からもう1本の木刀を出し、マサヒデに切先を突きつけ、


「マサヒデ=トミヤス! 勝負を申し込むッ!」


「良いでしょう! しかし! 勝負を受けるに条件をつけさせてもらいます!」


「言ってみろ!」


「あなたがなぎ倒して来た兵隊さん達に、しかと詫びを申し上げ、許しを請い、必要とあらば慰謝料も払いなさい! 壊してしまった武器、鎧! きちんと弁償なさい! その上で勝負を受けましょう!」


「何っ! 貴っ様あ・・・勝負に金を払えと言うのか! 馬鹿にするなあッ!」


 びし! とマサヒデが木刀の切先を向ける。


「私にではない! 関係のない者達にその腕を持ち、怪我をさせた事! 武術家として恥ずべき行為! それは暴漢の行い! 武術家ではない! 違いますか!」


「うっ!?」


「今のあなたは武術家を名乗る狼藉者! 尋常の勝負はしません! カオルさん!」


「はっ!」


 すた! と男の後ろの手すりにカオルが腕組みで立つ。


「シズクさん!」


「おおう!」


 どすん! とマサヒデの後ろにシズクが出て来る。


「イザベルさん!」


「ははっ!」


 イザベルがマサヒデを跳び越え、膝を付いて銃とナイフを構える。


「無闇に力を振るう下郎! 武術家を名乗る賊! カズトモ=モンドよ! このイザベル=エッセン=ファッテンベルク、許さぬ! 大人しく縛を受ければ命までは取らぬ! 抵抗するのならば、覚悟せよ!」


「く、くくっ・・・うおおーっ!」


 がらん、とカズトモの手から木刀が落ち、どさり、と膝をついた。


「お、俺の・・・俺の! 俺の不心得! 俺は未熟! マサヒデ=トミヤス! 俺の無礼を許してくれ! リチャード=エッセン=ファッテンベルク! 済まん!」


 マサヒデが膝を付いたカズトモの前に立つ。


「分かれば、もう良いのです」


「くっ! マサヒデ=トミヤス! 俺を許すと言うのか!」


「私は、です。兵隊の皆さんには、きちんと許しを得て来なさい。当然、リチャード様にもです。良いですか。ここの兵隊さん達は、この魔獣の多いファッテンベルクの地の民を守る為、毎日忙しく駆け回っているのです。分かりますか。あなたの行いは、民を危険へと近付かせたのです」


 ぐぐ! とカズトモが拳を握り、震わせる。

 目からはらはらと涙が落ち、ぽたり、ぽたり、と床を濡らす。


「俺はっ・・・俺は! 無辜の民にも!」


「そうです」


「く、くそ! 何と言う事をしたのだ! 取り返しのつかぬ事をしてしまった!」


「兵隊さん達を何人も殴り倒してきたでしょう。手が回らない分は、あなたが助けるのです。それがあなたの責任です」


「そうだ・・・俺が! 俺がこの地の民を守らねばならないッ! 全方不敗流の名に懸けて! マサヒデ=トミヤス! 勝負は預けても良いか!」


「はい」


「リチャード=エッセン=ファッテンベルク!」


「・・・」


「教えろ! 俺は何処へ向かえば良い! 全ての魔獣を狩ってみせる! 全ての賊を屠ってみせる!」


「言うだけの腕はあると見える。当家の兵をなぎ倒して入って来たのだからな」


「・・・」


「良かろう! 傭兵として雇ってやろう。貴様の給料は全て賠償に当てる。食い扶持は別で稼げ。帰って来るまでに被害状況を確認、明細をまとめておく。うちの装備は高いぞ。覚悟しろ」


「構わんッ!」


「では命を下す。今朝、北東のブリャー周辺で、大規模な魔獣の群れの目撃が報告された。明朝、当家の兵が出発する予定だ。兵が到着する前に全て屠ってみせろ。全てだ。1頭残さず始末しろ。口にしたのだ。やれ。死体の処分は兵に任せて構わんぞ」


「良いだろう! 兵の力は借りん!」


 マサヒデが木刀を差し出すと、カズトモがぐいと掴んだ。

 2人の視線がぎりりと絡む。


「必ず、また」


「マサヒデ=トミヤス! 俺は強くなる! 必ず会いに行く! さらばだ!」


 たーん! と床を蹴って、手すりに立ったカオルよりも高く跳び、私兵を跳び越え、カズトモはあっという間に夜の闇の中に消えて行った。


「ふーう!」


 少しして、マサヒデが息をつく。


「リチャード様! 一目で分かりました! ありゃ、とんでもない腕ですよ! いや、流石はクノ先生のお弟子さんだ!」


 ふはっ! とシズクが笑って、


「暑苦しい奴だったね!」


 ぺたん、とクレールが椅子に座り、肩を落とす。


「はーっ! 私、びっくりしましたー!」


 マサヒデは私兵が差し出した雲切丸を受け取り、部屋の中に戻る。

 肩越しに振り返って、カズトモが消えた暗い庭を見て、


「まともに勝負してたら、負けたかもしれませんね」


「何と!?」


 リチャードが驚いて、声を上げた。

 私兵達も驚き、顔を見合わせ、ざわざわと声を上げる。


「はあ! 上手くいなせて良かった。構わず勝負だ! なんてきてたら、どうなった事か」


「それ程ですか!? あの若造が!?」


「あれは間違いなく傑物です。リチャード様、上手くこき使って下さい。皆さんも、まだ許さーん、とか言って、しばらくここから離さないようにすると良いですよ」



----------



 翌朝。


 ずさ、ずさ、と砂利の敷かれたような、荒れたファッテンベルクの大地を、カズトモが歩いていた。

 乾いた風が吹き、ばたばたとローブがはためく。


 ゲル(遊牧民の大きなテント)が見える。

 ずさ、ずさ・・・


「済まない」


「おん?」


 洗濯をしていた女が顔を上げた。


「道を尋ねたい。北東のブリャーという所に行きたいのだが、ここからどのくらいだ」


「はっ!? ブリャー!?」


「ああ」


「本気!?」


 この驚きよう! やはり危険が迫っているのか!


「ああ。急ぐんだ」


「歩きで!?」


「む? ああ。見ての通り、馬はないが」


「あんた、ブリャーっちゃ、こっから100里(400km)もあるよ!?」


「な、何!? 100里!?」


 そこに驚いていたのか!


「そおだよ! あんた、馬なしで行くのかい!?」


 カズトモの健脚と体力でも、急いで1週間近く掛かる。

 それから魔獣の群れを探し、追いかけ、退治・・・兵が到着する前に!


「い、いや。俺は急げば日に20里は歩ける」


「馬並みだね!?」


「ブリャーに魔獣が大発生しているのだ! 俺が行かねば!」


「ええっ! そうなのかい!?」


「そうだッ! 民を危険に晒すわけにはいかないッ!」


「いやいや、危ないよ! 御大将の兵隊さんに任せなよ!」


「俺はそのファッテンベルクに雇われた傭兵! カズトモ=モンド!」


「傭兵さん? あ、主水もんどって、お役人さんかい?」


「安心しろッ! この地の平和は・・・俺がッ! 守るッ!」


 恥ずかしい台詞も、こうも力強く言われると、じいん、と来る。


「格好良いねえ! ね、ちょっと、ちょっと待ってなよ。その荷物、あんま飯持ってないだろ? 少し分けてあげるから」


「え、食い物をか? 良いのか」


 この地の遊牧民の暮らしは、決して豊かではない。

 仲間同士であればいざ知らず、見知らぬ者に食い物を分け与えるのは、厳しいはずだ。


「良いともさ! 御大将に雇われるくらいの傭兵さんなんだ、強いんだろ! 応援するから!」


 女がゲルの中に入って行く。

 ぐぐ! とカズトモが拳を握る。


(俺は・・・俺はッ! この民を危険に晒そうとッ! 未熟ッ!)


 女が出て来て、カズトモに袋を差し出した。


「さ! 傭兵さん、持ってきな!」


「こ、こんなにか? 本当に良いのか?」


「良いのよ! 兵隊さん達のお陰で、私達ゃここで生きていけるの! あんたは傭兵さんだろ! 兵隊さんのお仲間なんだ!」


「くっ・・・済まないっ・・・」


 袋を受け取り、カズトモが北東を向いて、


「では、行く! 一刻も早く、魔獣を退治せねば!」


「死ぬんじゃないよ!」


「俺は死なん!」


 ざざざ! とカズトモが早足(?)で歩いて行く。


「わ、すご! ほんとに馬並に歩くの!?」


 どんどん遠ざかるカズトモを、女は呆然と見送っていた。


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