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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
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第37話


 その夜、エッセン=ファッテンベルク家。


 食事を終え、では解散、という時である。

 マサヒデはリチャードに、アルマダはルーカスに引き止められた。


「トミヤス殿。少し宜しいですか」

「はい」


 マサヒデは上げかけた腰を椅子に下ろす。


「ハワード様、少し宜しいでしょうか」

「はい」


 アルマダも椅子に座り直す。

 イザベルはマサヒデを見てくすりと笑い、カオルはルーカスを見てにやりと笑う。


 リチャードは真剣な顔で、


「トミヤス殿、どうしてもお聞きしたい事があるのです」


「なんでしょう」


 えらく真剣な顔。これは何か・・・マサヒデがぐっと身を固める。


「米衆での、グレート・マッカラナとの試合はどうであったか」


 あら、とマサヒデの肩が落ちた。


「ああ・・・あ、リチャード様、米衆相撲がお好きなんですか」


「勿論! イザベルからも聞いたのですが、やはり戦ったトミヤス殿のお話も聞きたいのです。宜しいですか」


「構いません」


「では、トミヤス殿、頼みます」


「はい。では・・・ええ、イザベルさん、こちらへ。相手役をお願いします」


「は!」


 イザベルが立ち上がり、マサヒデの横に歩いて来る。

 マサヒデも立ち上がり、手を前に出す。イザベルも合わせて手を出す。

 イザベルと手四ツに組み、


「試合開始で、この形になりました」


「うむ!」


「この瞬間、あ、ヤバい! と思ったんです。手を握り潰される。で、手を離そうとしたんですが、右手は離れましたが、左手は取られたまま」


 マサヒデが右手を離し、


「こうなりました。で、ぐっと押される。イザベルさん、少し押して」


「は!」


 イザベルが押して、マサヒデの手首が反る。


「崩される、潰される、と思って、咄嗟にこう」


 くるりとマサヒデの手が横に回る。


「う」


 今度はイザベルの背が少し反る。


「で、こうして」


 クロスアームブロックの片手に、相手が手の平を合わせて握るような形。

 横を向いた、組んだままの手。

 手首が回っている所で、下から出てきたマサヒデの手が絡み、上から抑える。


「いっ!?」


「こうして極めたんですが」


 ぱん! ぱん! と、イザベルがマサヒデの手を叩く。


「はい」


 ぱ、とマサヒデが手を離す。


「つ・・・」


 イザベルが顔を歪めて手を振る。


「今のように、マッカラナさんが思い切り手を叩きにきましたので、さっと離した、と。叩かれたら、手が砕かれますから」


「ふむ!」


「で・・・これは、お客さんには聞こえなかったでしょうね」


 マサヒデがまた手を上げ、イザベルも手を上げる。

 再び手四ツの形。マサヒデがリチャードの方を向き、


「ここで、マッカラナさんが私に言ったんです。全部受けてやる。あんたが諦めるか、俺が死ぬまで、って」


「おお! おお・・・!」


 ぐ! とリチャードが拳を握る。


「うーわー! かーっこいいですー!」

「ひえー!? そんな事あったんだ!」


 一緒に見ていたクレールとシズクも声を上げた。


「でしょう!? マッカラナさん、凄いんですよ! これぞ男って奴ですよね。で、またこうして」


 くるっとマサヒデが手を横に回すと、イザベルの背がぐっと反る。


「うお!?」


「イザベルさん、ゆっくり投げますからね。受け身取って下さい」


「は、は!」


 マサヒデがくぐるように腕の下に入って、ころん、とイザベルを転がす。


「こう投げた。で、この時に分かったんですよ。マッカラナさん、物凄く受け身が上手いんですね。こんな投げでは、全く効きはしないんです」


「で、次に、持ち上げて落とした!」


「はい。マッカラナさんは驚いていたので・・・この隙に、勝負を決めようと、私はロープに向かって行きました」


 マサヒデがイザベルに背を向ける。


「ほら、イザベルさん。覚えてますよね。後ろから」


「は!」


 イザベルが歩いて来て、マサヒデを後ろから抱きかかえる。


「マッカラナさんは、驚きからすぐに立ち直って、こうなりました。で、ここでクロカワ先生の・・・知ってますか? 合気柔術の、ユウゾウ=クロカワ先生です」


「おお! 高名な武術家ですな!」


「そうです。そのクロカワ先生に教えて頂いた技を使いました」


 くい、とマサヒデが腰を回し、イザベルの横後ろから、腰を入れる。

 マサヒデがイザベルと当たっている腰を指差し、


「ここ。この腰の位置です。よっぽど体重差がなければ・・・イザベルさん、掴まってて下さい」


「は!」


 ぐっと腰を入れ、イザベルの足をすくうように手を入れ、ひょいと持ち上げる。

 マサヒデが軽々と持ち上げてしまったので、ルーカスも驚いた。


「このように持ち上げました。で、手を上げて、後ろに落としました、と」


「そんなに軽く持ち上がるのか!」


 マサヒデはイザベルを持ち上げたまま、


「これ、手ではなく、腰に乗せて持ち上げてるんです。ですから、相当に体重差がなければ、持ち上がります。これを使えば、私程度の体格でも、リチャード様を軽く持ち上げられますよ」


「ううむ!」


「この時、マッカラナさんはすぐ手を離して、受け身の姿勢を取ってしまいましたね。凄い勘ですよ。もし、今のイザベルさんのように手を離していなかったら、私、一緒に後ろに倒れながら、喉に肘を入れていました」


 クレールとシズクが驚いて声を上げ、喉を押さえる。


「いー!?」

「まあじでえ!? マサちゃん、それはえぐいよ!」


「そのくらいしないと、あの人には勝てませんよ」


 すとん、とイザベルを下ろし、


「で、次で決めましたよね。私はロープに行って、待ってました」


「そして凄いラリアットをかましたと!」


 マサヒデがにやりと笑う。


「いいえ。実はあれ、ラリアットじゃあないんですよね・・・」



----------



 テラスのすぐ外、庭に下りた所では、アルマダとルーカスが向き合う。

 テラスでは、イザベルの親戚のパウラが、祈るように手を組み、はらはらしながら2人を見ている。


「ルーカス様。立ち会いでしょうか」


「いや。ハワード様、一剣流の技術を見せて頂けませんか」


「一剣流の?」


 ルーカスが頷く。


「はい。とある技術をひとつ極めれば、一剣流は免許皆伝と聞きました」


 擦り落としの事か。


「ああ。構いません。では、私に当たらないぎりぎりの所で、ゆっくりと振り下ろして頂けますか。真っ向の唐竹割りが一番分かりやすいです」


 ルーカスが長い木剣を構え、ゆっくりとアルマダの鼻先を下ろしていく。

 紙一重の所、ぎりぎり。

 ゆっくり振っているのに、全くブレがない。凄い腕だ。


(くそ! マサヒデさんは、よくも3本も続けて取ったものだな!)


 す、とルーカスの木剣が腰で止まる。

 剣先も真っ直ぐ。完璧に出来ている。


「結構です。これなら怪我もないですから、もう一度・・・余裕を持って、8割くらいでお願いします。全力ですと、何をされたか分からないかもしれません。よく見て、手でも感じていて下さい。一目で分かったら、一剣流の初段が頂けます」


「はい」


 アルマダも正眼に構え、ルーカスが木剣を振り上げる。

 ルーカスが振り被ると、アルマダも振り被った。


「参ります」


「どうぞ」


 しゅ! とルーカスの木剣が振り下ろされる。

 同時に、アルマダの木剣も振り下ろされる。

 互いの木剣が交差した。


「む!?」


 すたん! とルーカスの木剣が逸れて地を叩き、アルマダの木剣は真っ直ぐルーカスの喉に向いている。

 す、とアルマダが前に。喉元にアルマダの剣先がつく。


「こうです。ルーカス様、分かりましたか?」


 ルーカスは驚いて目を見開く。

 何をされたのか、さっぱり分からない。


「・・・イザベルは、これを分かったと言うのですか」


 アルマダが木剣を引いて、小さく笑って頷く。


「ああ、初めてマサヒデさんと会って立ち会った時、似たような事をされたのです。それで分かったのでしょう」


「くっ!」


 この敗北感!

 未だイザベルは自分には届かない。

 それは十分に承知だが、この敗北感!

 イザベルは、これを分かったと言うのか!


「これだけで、縦横、袈裟に斬り上げ、何にでも対応出来ます。如何ですか」


「今一度!」


「何度でも」


「参ります!」


 水平斬り。

 アルマダが足を引きつつ、同じように水平斬り。


「うおっ!?」


 ルーカスが横に持っていかれ、体勢を崩す。

 くるっと斬り返されたアルマダの木剣が、横に崩れたルーカスの目の前で止まる。


「如何ですか」


「今一度!」


「はい。ルーカス様、力まず、肩の力を抜き、盗んで下さい。8割です。ルーカス様の目と感覚なら、必ず分かるはずです」


「はい! 参ります!」


 振り下ろされたルーカスの木剣が、また地面を叩く。

 アルマダの剣は、腰の高さで、ぴたりと止まっている。

 まるで師弟のような2人の様子を、パウラが見つめていた。


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