第35話
店の方では、アルマダ達が剣を見ている。
「私はこれ・・・に・・・うむ、します、よ・・・うむ」
アルマダが取ったのはマチェーテ。
言いながら、重さのバランスをしっかり確認。
得物は剣なので、脇差の代わりのように持つのである。
米衆連合で見つけたマチェーテは、買わずに来てしまったのだ。
「アルマダ様、剣でなくとも宜しいのですか」
「ええ」
アルマダが腰の剣に手を置き、
「これは鍛冶族の作ですからね」
「ああ、なるほど」
「これは・・・剣と・・・左に下げるのは邪魔か・・・右で・・・」
アルマダがベルトにマチェーテの鞘を着け、抜きを試してみる。
「ふうむ。逆手ならいける、が・・・ううむ」
「後ろに回しては如何です」
「前に反っていますからね。まあ抜けるか・・・納めるのが難しいですね」
「鞄のベルトに固定してしまいますか? 防具にもなりますし」
アルマダ達は、肩に掛けるタイプの小さな鞄を着けている。
これは米衆連合で襲ってきた者達が使っていた物だ。
「ふむ・・・」
「柄を下に向ければ、ホルダーを外せば、すとんと落ちてきますから、抜きやすいでしょう」
柄まで入れると結構な大きさがあるので、前に着けると剣を振るに邪魔だ。
「ううむ・・・しかし、大きい。剣を振るには邪魔ですね。まあ、どう着けるかは、後で考えます。これにしましょう」
鍛冶場の方に入り、ラディが覚書とヒロスケを見ながら、指差しながら、あれこれと説明している所に、
「失礼。ハーンさん」
「あ?」
ハーンがあからさまに不機嫌な顔を上げる。
ぴく、とアルマダが眉を上げたが、堪える。
「これを頂きます」
「そうか。そこの薪でも割ってろ」
ぴき! とアルマダのこめかみに青筋が浮いたが、ハーンは無視してヒロスケに目を戻し、
「試さなくて良いのか」
「む」
す、とアルマダの青筋が消え、ほ、とラディが胸を撫で下ろす。
「マチェーテならごろごろあんだろうが。好きなだけ割ってみて選べ」
商品を試し斬りしても良い、と言うのだ。
口は悪いが、確かにそれはありがたい。
「ありがとうございます。では」
薪割り台の所に行き、こん、と薪を置き、しゃがんで軽く振ってみる。
やはり、かなり先が重い。雑に扱っても平気な物と聞いているが・・・
振り下ろす。
(う!)
振ってみれば予想以上の回転力。加えて先の重さ。手が持っていかれる。
ぱかーん!
「おおっ」
良い音がして、真っ二つに割れた薪が左右に飛び、転がった。
マチェーテはぐっさりと薪割り台に深く食い込んでいる。
中程くらいで止まると思ったのだが、物凄い威力だ。
「む、ぐ」
ぐいぐいとマチェーテを動かし、足を踏ん張って薪割り台から引っこ抜く。
この大きさでこの威力が出るのか!
刃には瑕ひとつない!
「素晴らしい! ハーンさん! これを頂きますよ!」
「ああそうか。さっさと行け」
アルマダの方を見もせず、し、し、とハーンが手を振る。
今度はアルマダも怒らなかった。
「ありがとうございます。ホルニコヴァさん、我々は外に居ますから」
「はい」
アルマダはマチェーテを持って、笑顔で店を出て行った。
----------
イザベルは1人、リチャードの部屋に呼ばれていた。
部屋は静かだ。
外で兵達がマサヒデに訓練を受けている声が聞こえる。
リチャードと机を挟み、イザベルは気を付けの姿勢で立っている。
部屋の空気は、再開を楽しむ雰囲気ではない。
リチャードは手を組み、下から睨むようにイザベルを見ている。
「先日、諜報部から連絡があってな」
「は」
「お前がこちらに着いたら、2、3日・・・貸して欲しいと言ってきた」
「は」
これは月斗魔神だ。
そうだ。あの時、クレールは窓を開けていた。
おそらく、自分が月斗魔神を持った時の姿を、見られていたのだ。
(望遠で監視されていたか)
宿や宿の周辺はレイシクランの忍が見張っていたが、望遠でも監視されていたのだ。20町、30町(2km~3km)の距離から見られていては、皆も慌てていたから、あの騒ぎの中、その視線を察する余裕はなかったであろう。
「お前はもう軍属ではない。命令ではない。また、危険があるかもしれんので、お前の任意で良いそうだ。心当たりはあるか」
「はい」
「あれは特務隊だぞ。何をした。それとも、何か見たか」
「両方です」
「話せるか」
イザベルは少し考えたが、頷いた。
リチャードもオトサメ研究所の事は知っているし、構わないだろう。
「元オトサメ研究所の者が盗んでいた月斗魔神を、マサヒデ様が奪取致しました」
リチャードの眉間が寄り、目が鋭くなった。
「持っているのか」
「いえ。既に軍に渡しております」
「では、何故お前が呼ばれる」
イザベルが月斗魔神に選ばれたからだ。
この先を話して良いものか・・・
月斗魔神には隠れた力がある、という事を、話す事になる。
諜報部も、それは知られたくはあるまい。
「話したくありません」
「それは、知らない方が良い、と言う事だな」
「はい」
「その理由、トミヤス殿達は知っておられるのか」
「はい」
「口止めの報せは来たか」
「いえ」
「ふむ・・・口止めは来ていないのか・・・」
リチャードが鋭い目を下に向け、考え込む。
数分して、リチャードが目を上げ、イザベルを睨むように見る。
「お前は行った方が良いと思うか」
「はい」
「オト研絡みか・・・碌な用件ではないと思うが」
「父上」
「言ってみろ」
「オト研は、月斗魔神の力の封印を目的とされ、作られた研究所です」
「そんな事は知っている」
「それが目的です」
「お前が行けば、その力になると言いたいのか」
「かも、です。何しろ、物が物ですので」
「では、この事をトミヤス殿に話し、指示を仰げ。お前はもうトミヤス殿の家臣であるからな。先方もそれは承知だ。お前が首を縦に振っても、トミヤス殿が否と言えば否で構わぬ、と、了承は得てある。返事が決まったら報せろ。町に待機してもらっている」
「は」
ふう、とリチャードが溜め息をついた。
「この事、トミヤス殿が断っても、諜報部も恨みはせんさ。諜報部ではないか・・・魔術研辺りか。そのつもりなら、お前はとっくに拉致されておろうしな」
「私もそう考えます。ですが、正直な所を申し上げますと」
「なんだ」
「力になれるかも、の確率は、かなり低いです」
「何故だ」
「あれは人の意志を超えております。魔王様にも分かりかねましょう」
「人の意志? 何を言っているのだ?」
「神の位にある者であれば、もしかして、というくらいです」
リチャードが訝しげな目を向ける。
「分からんな。危険と言いたいのか」
「それは私次第です」
「お前次第? ますます分からん」
「父上。深入りせぬ方が良い事です。分からぬままにしておいて下さい。我々も、口にはしませぬ」
「むう・・・お前に危険はあるのか」
リチャードが親の顔になった。
イザベルは心配そうなリチャードに笑顔を向け、
「もうございません」
「もう?」
「マサヒデ様のお陰です」
「ふむ?」
「ただ、実験内容によっては、少々土地に被害があると思いますので、その際は補償を求めておきます」
「実験? 月斗魔神の力のか?」
「それは分かっておいででしょう」
「まあ、そうだが」
「父上、そうご心配下さいますな。私はマサヒデ様に導かれたのです」
リチャードの顔が、ますます心配を深める。
「イザベル。お前、大丈夫なのか? 主を見つけるとは、それ程に心酔するものなのか?」
くす、とイザベルが笑った。
「ふふ。胡散臭い宗教のように聞こえましたか」
「ああ」
「違います。私の心得違いと言うか、未熟な所を、マサヒデ様にご指摘されまして」
リチャードが苦笑する。
「そうだな。お前は未熟も未熟だ」
たん! とリチャードが机を指で叩く。
「だがな。トミヤス殿はお強いとはいえ、まだ16・・・いや、年が明けたから、もう17になったか。お前は98なんだぞ」
「はい」
「80も上なのだぞ」
「はい」
リチャードが呆れ顔でイザベルを睨む。
「未熟を指摘されるな」
「それは仕方ございませぬ。マサヒデ様の方が出来ております。でなければ、私、主と認めなかったかと存じます」
ち、とリチャードが舌打ちする。
「口だけは達者になって帰って来る」
「剣の腕も少しは上がりました。父上、お久し振りに一手どうでしょう。まだ兄上には届きませぬが、父上とは良い勝負が出来る程度になったと存じます」
「程度? 父を愚弄するのか」
「父上。マサヒデ様に付いて参りますと、もう信じられぬような達人にしか会わぬのです。日輪国でも、米衆連合でもそうでした」
は! とリチャードが顔を上げた。
「そうだ! すっかり忘れていた!」
「どうなさいました」
「グレート・マッカラナとの試合はどうだったのだ!?」
意外な質問に、イザベルが言葉に詰まる。
「・・・父上? もしや米衆相撲がお好きだったのですか?」
「当たり前だ! 仕事で試合が見られなかったのだ!」
知らなかった・・・
イザベルが驚いて口を開ける。
「読売にでかでかと出ていたではないか! マッカラナは休場3ヶ月と!」
「それは・・・マサヒデ様に直にお聞きになれば」
「勿論聞く! 観客目線の試合の様子が聞きたいと言っているのだ!」
「はあ・・・されば」
こんこん。
「ちっ! 仕事か」
おほん、とリチャードが咳払いをして、
「入れ!」
「失礼致します!」
がちゃりとドアが開き、書類の束を抱えた兵が敬礼。
リチャードはイザベルを見て、不機嫌な顔で手を振った。
イザベルは頭を下げ、兵の横を通り過ぎ、部屋を出て行った。




