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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
35/128

第35話


 店の方では、アルマダ達が剣を見ている。


「私はこれ・・・に・・・うむ、します、よ・・・うむ」


 アルマダが取ったのはマチェーテ。

 言いながら、重さのバランスをしっかり確認。

 得物は剣なので、脇差の代わりのように持つのである。

 米衆連合で見つけたマチェーテは、買わずに来てしまったのだ。


「アルマダ様、剣でなくとも宜しいのですか」


「ええ」


 アルマダが腰の剣に手を置き、


「これは鍛冶族の作ですからね」


「ああ、なるほど」


「これは・・・剣と・・・左に下げるのは邪魔か・・・右で・・・」


 アルマダがベルトにマチェーテの鞘を着け、抜きを試してみる。


「ふうむ。逆手ならいける、が・・・ううむ」


「後ろに回しては如何です」


「前に反っていますからね。まあ抜けるか・・・納めるのが難しいですね」


「鞄のベルトに固定してしまいますか? 防具にもなりますし」


 アルマダ達は、肩に掛けるタイプの小さな鞄を着けている。

 これは米衆連合で襲ってきた者達が使っていた物だ。


「ふむ・・・」


「柄を下に向ければ、ホルダーを外せば、すとんと落ちてきますから、抜きやすいでしょう」


 柄まで入れると結構な大きさがあるので、前に着けると剣を振るに邪魔だ。


「ううむ・・・しかし、大きい。剣を振るには邪魔ですね。まあ、どう着けるかは、後で考えます。これにしましょう」


 鍛冶場の方に入り、ラディが覚書とヒロスケを見ながら、指差しながら、あれこれと説明している所に、


「失礼。ハーンさん」


「あ?」


 ハーンがあからさまに不機嫌な顔を上げる。

 ぴく、とアルマダが眉を上げたが、堪える。


「これを頂きます」


「そうか。そこの薪でも割ってろ」


 ぴき! とアルマダのこめかみに青筋が浮いたが、ハーンは無視してヒロスケに目を戻し、


「試さなくて良いのか」


「む」


 す、とアルマダの青筋が消え、ほ、とラディが胸を撫で下ろす。


「マチェーテならごろごろあんだろうが。好きなだけ割ってみて選べ」


 商品を試し斬りしても良い、と言うのだ。

 口は悪いが、確かにそれはありがたい。


「ありがとうございます。では」


 薪割り台の所に行き、こん、と薪を置き、しゃがんで軽く振ってみる。

 やはり、かなり先が重い。雑に扱っても平気な物と聞いているが・・・

 振り下ろす。


(う!)


 振ってみれば予想以上の回転力。加えて先の重さ。手が持っていかれる。

 ぱかーん!


「おおっ」


 良い音がして、真っ二つに割れた薪が左右に飛び、転がった。

 マチェーテはぐっさりと薪割り台に深く食い込んでいる。

 中程くらいで止まると思ったのだが、物凄い威力だ。


「む、ぐ」


 ぐいぐいとマチェーテを動かし、足を踏ん張って薪割り台から引っこ抜く。

 この大きさでこの威力が出るのか!

 刃には瑕ひとつない!


「素晴らしい! ハーンさん! これを頂きますよ!」


「ああそうか。さっさと行け」


 アルマダの方を見もせず、し、し、とハーンが手を振る。

 今度はアルマダも怒らなかった。


「ありがとうございます。ホルニコヴァさん、我々は外に居ますから」


「はい」


 アルマダはマチェーテを持って、笑顔で店を出て行った。



----------



 イザベルは1人、リチャードの部屋に呼ばれていた。


 部屋は静かだ。

 外で兵達がマサヒデに訓練を受けている声が聞こえる。

 リチャードと机を挟み、イザベルは気を付けの姿勢で立っている。


 部屋の空気は、再開を楽しむ雰囲気ではない。

 リチャードは手を組み、下から睨むようにイザベルを見ている。


「先日、諜報部から連絡があってな」


「は」


「お前がこちらに着いたら、2、3日・・・貸して欲しいと言ってきた」


「は」


 これは月斗魔神だ。

 そうだ。あの時、クレールは窓を開けていた。

 おそらく、自分が月斗魔神を持った時の姿を、見られていたのだ。


(望遠で監視されていたか)


 宿や宿の周辺はレイシクランの忍が見張っていたが、望遠でも監視されていたのだ。20町、30町(2km~3km)の距離から見られていては、皆も慌てていたから、あの騒ぎの中、その視線を察する余裕はなかったであろう。


「お前はもう軍属ではない。命令ではない。また、危険があるかもしれんので、お前の任意で良いそうだ。心当たりはあるか」


「はい」


「あれは特務隊だぞ。何をした。それとも、何か見たか」


「両方です」


「話せるか」


 イザベルは少し考えたが、頷いた。

 リチャードもオトサメ研究所の事は知っているし、構わないだろう。


「元オトサメ研究所の者が盗んでいた月斗魔神を、マサヒデ様が奪取致しました」


 リチャードの眉間が寄り、目が鋭くなった。


「持っているのか」


「いえ。既に軍に渡しております」


「では、何故お前が呼ばれる」


 イザベルが月斗魔神に選ばれたからだ。


 この先を話して良いものか・・・

 月斗魔神には隠れた力がある、という事を、話す事になる。

 諜報部も、それは知られたくはあるまい。


「話したくありません」


「それは、知らない方が良い、と言う事だな」


「はい」


「その理由、トミヤス殿達は知っておられるのか」


「はい」


「口止めの報せは来たか」


「いえ」


「ふむ・・・口止めは来ていないのか・・・」


 リチャードが鋭い目を下に向け、考え込む。

 数分して、リチャードが目を上げ、イザベルを睨むように見る。


「お前は行った方が良いと思うか」


「はい」


「オト研絡みか・・・碌な用件ではないと思うが」


「父上」


「言ってみろ」


「オト研は、月斗魔神の力の封印を目的とされ、作られた研究所です」


「そんな事は知っている」


「それが目的です」


「お前が行けば、その力になると言いたいのか」


「かも、です。何しろ、物が物ですので」


「では、この事をトミヤス殿に話し、指示を仰げ。お前はもうトミヤス殿の家臣であるからな。先方もそれは承知だ。お前が首を縦に振っても、トミヤス殿が否と言えば否で構わぬ、と、了承は得てある。返事が決まったら報せろ。町に待機してもらっている」


「は」


 ふう、とリチャードが溜め息をついた。


「この事、トミヤス殿が断っても、諜報部も恨みはせんさ。諜報部ではないか・・・魔術研辺りか。そのつもりなら、お前はとっくに拉致されておろうしな」


「私もそう考えます。ですが、正直な所を申し上げますと」


「なんだ」


「力になれるかも、の確率は、かなり低いです」


「何故だ」


「あれは人の意志を超えております。魔王様にも分かりかねましょう」


「人の意志? 何を言っているのだ?」


「神の位にある者であれば、もしかして、というくらいです」


 リチャードが訝しげな目を向ける。


「分からんな。危険と言いたいのか」


「それは私次第です」


「お前次第? ますます分からん」


「父上。深入りせぬ方が良い事です。分からぬままにしておいて下さい。我々も、口にはしませぬ」


「むう・・・お前に危険はあるのか」


 リチャードが親の顔になった。

 イザベルは心配そうなリチャードに笑顔を向け、


「もうございません」


「もう?」


「マサヒデ様のお陰です」


「ふむ?」


「ただ、実験内容によっては、少々土地に被害があると思いますので、その際は補償を求めておきます」


「実験? 月斗魔神の力のか?」


「それは分かっておいででしょう」


「まあ、そうだが」


「父上、そうご心配下さいますな。私はマサヒデ様に導かれたのです」


 リチャードの顔が、ますます心配を深める。


「イザベル。お前、大丈夫なのか? 主を見つけるとは、それ程に心酔するものなのか?」


 くす、とイザベルが笑った。


「ふふ。胡散臭い宗教のように聞こえましたか」


「ああ」


「違います。私の心得違いと言うか、未熟な所を、マサヒデ様にご指摘されまして」


 リチャードが苦笑する。


「そうだな。お前は未熟も未熟だ」


 たん! とリチャードが机を指で叩く。


「だがな。トミヤス殿はお強いとはいえ、まだ16・・・いや、年が明けたから、もう17になったか。お前は98なんだぞ」


「はい」


「80も上なのだぞ」


「はい」


 リチャードが呆れ顔でイザベルを睨む。


「未熟を指摘されるな」


「それは仕方ございませぬ。マサヒデ様の方が出来ております。でなければ、私、主と認めなかったかと存じます」


 ち、とリチャードが舌打ちする。


「口だけは達者になって帰って来る」


「剣の腕も少しは上がりました。父上、お久し振りに一手どうでしょう。まだ兄上には届きませぬが、父上とは良い勝負が出来る程度になったと存じます」


「程度? 父を愚弄するのか」


「父上。マサヒデ様に付いて参りますと、もう信じられぬような達人にしか会わぬのです。日輪国でも、米衆連合でもそうでした」


 は! とリチャードが顔を上げた。


「そうだ! すっかり忘れていた!」


「どうなさいました」


「グレート・マッカラナとの試合はどうだったのだ!?」


 意外な質問に、イザベルが言葉に詰まる。


「・・・父上? もしや米衆相撲がお好きだったのですか?」


「当たり前だ! 仕事で試合が見られなかったのだ!」


 知らなかった・・・

 イザベルが驚いて口を開ける。


「読売にでかでかと出ていたではないか! マッカラナは休場3ヶ月と!」


「それは・・・マサヒデ様に直にお聞きになれば」


「勿論聞く! 観客目線の試合の様子が聞きたいと言っているのだ!」


「はあ・・・されば」


 こんこん。


「ちっ! 仕事か」


 おほん、とリチャードが咳払いをして、


「入れ!」


「失礼致します!」


 がちゃりとドアが開き、書類の束を抱えた兵が敬礼。

 リチャードはイザベルを見て、不機嫌な顔で手を振った。

 イザベルは頭を下げ、兵の横を通り過ぎ、部屋を出て行った。


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