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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
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第34話


 ファッテンベルク市の鍛冶屋。


 届いた玉鋼の扱いや、簡単にで良いので、刀の打ち方を・・・・

 礼に、アルマダ一行と、ラディに、好きな剣を持って行って良いから・・・


 リチャードにそう言われ、ラディとアルマダ一行はこの鍛冶屋に来たのだ。

 ラディは馬に乗れないので、飼い葉を積む小さい荷馬車にちょこんと座り、それに騎士のジョナスが御者として乗っている。


「ハーン鍛冶店。ここですか」


 店の前の繋ぎ場に馬を止める。

 この町は何処にでも広い繋ぎ場があって困ることがない。

 通りも広く、馬で移動するには優しい町だ。

 ラディも馬車から降りてきて、アルマダと並ぶ。


「変り者と聞きましたが、大丈夫ですかね・・・」


「ハワード様、不安です」


「私もですよ」



----------



 リチャードは出発前にラディに封筒を差し出し、


「これをハーン、鍛冶屋に見せれば良いのだが・・・」


 ラディが頭を下げて受け取ると、リチャードが眉を寄せ、顎に手を当てる。


「少々変り者というか、頑固者というか・・・うむ」


「と仰られますと」


「腕は確かだ。こだわるが、納品に遅れた事もない。だが、仕事の邪魔をされると恐ろしく怒る。兵にハンマーを投げてきた事もあるくらいだ。兜をつけていなかったら、死んでいた」


「・・・」


「最初は気を付けてくれ。最初だけで良い。ホルニコヴァ殿、あなたが鍛冶の技術を教えてくれる者と分かれば、ころりと態度を変え、両手を上げて歓迎するはずだ」


「はい・・・」



----------



「ハワードさん、ハンマーに気を付けましょう」


「ええ。しかし、仕事道具を投げるのは、職人としてどうです」


「褒められたものではありません」


「でしょうね・・・私が開けます。皆さんは、私の後ろではなく、戸の両側に」


「はい」


 皆がぞろぞろと店の戸の横に並ぶ。

 中からは、がつん! がつん! と凄い音がする。

 かん、かん、という普通の鍛冶屋の音ではない。


 アルマダが左右を見て頷き、そっと戸に手を掛け、静かに開けた。


「失礼」


 戸を開けると、がちーん! がちーん! と、音が響く。

 一心不乱に叩いている。

 アルマダは後ろを向き、


「少し待った方が良さそうです。声は掛けずに待ちましょう」


 皆、口を閉じて頷く。

 ラディもそっと入って来て、振り下ろすハンマーを見る。


 がちーん!


(凄い!)


 振り下ろされたハンマーが、熱せられた鉄に物凄くめり込む。

 この物凄い力で振り下ろされるハンマーが、詰みまくりの固い剣を作るのだ。

 長い髭を編んだごつごつの身体の男が、ミトンを着けた手で、がんがん振り下ろす。


(お父様もだけど・・・)


 刀鍛冶や、剣の鍛冶屋というのは、髭を伸ばしたがる者なのだろうか?

 火花が飛ぶから、危ないと思うのだが。


 がちーん! がちーん!

 何度も音がして、手が止まった。

 鍛冶屋がハンマーを置き、凄い目で温度が下がって赤くなった鉄を睨む。


「ハワードさん。今」


 む、とアルマダが頷き、


「失礼!」


 ぎら! と殺気の籠もった目がアルマダに向けられた。


「ハーンさん、ですね。リチャード様の使いです」


「・・・ちっ」


 一見して貴族と分かるアルマダに、あからさまな舌打ちをして、ハーンが鉄を置き、立ち上がった。背は低いが、恐ろしい分厚さ。これが鍛冶族か。


「なんだ。注文はまだだぞ」


「別の用です」


 アルマダがラディに手を差し出した。

 ラディがポケットからリチャードから預かった封筒を出して、アルマダに渡す。


「こちらを」


「追加注文か・・・全く」


 ぶつぶつ言いながら、封を開け、中の手紙を出して、目を細めて読み進める。


「お?」


 途中で小さく声を上げ、ハーンの表情がみるみる明るくなっていき、笑顔に変わった。ぱさぱさと手紙を畳んで、エプロンの下のポケットに突っ込み、ラディに笑顔を向ける。


「ホルニコヴァさん?」


「はい」


「刀鍛冶の?」


「娘ですが」


「さあ来てくれ!」


 ぐいとラディを引っ張り、後ろを向いたが、足を止め、面倒そうにアルマダを見た。


「剣はそこにあるから、好きなの持ってとっとと帰ってくれ」


「・・・」


「さあさあ! あの鉄には俺もたまげちまったんだ!」


 ハーンはラディを引っ張って、鍛冶場に入って行ってしまった。



----------



 ラディは本当に簡単に刀鍛冶の方法を説明する。

 用意してきた覚書を見せながら、マサヒデに借りているヒロスケの脇差を見せながら。


「刀を横に割るとこういう構造です」


「ふむふむ!」


「中が柔らかい鋼。外が固い鋼」


「二重構造か・・・はっ! そうか! 中に柔らかい・・・折れにくい!」


「そうです。戦場で折れたら終わりですけど、曲がっているならまだ振り回せる」


「なあーるほどおー!」


「この中の部分の鋼を、心鉄しんがねと言いまして」


「心鉄! ふむふむ」


「外側が皮鉄かわがね


「皮! 外側だからだな」


「そうです。で、刃の厚み。これを重ねと言います」


「ふむ」


「当然、厚いほど丈夫ですけど、斬れにくい」


「斬れにくい? 何故だ。刀は剃刀のように鋭いのだろう」


「厚いと、斬って入った時に、抜けないです。剣は重さの勢いで抜けますが、刀は軽いです。刀身だけだと、1斤と半(1kg弱)くらいが多いです」


「ああ!」


「反対に、薄いほど斬れ味は良いですけど、今度はやわに。まず、ここの兼ね合いが腕の見せ所のひとつ」


「うむうむ!」


「ですが・・・」


「が?」


「ものによっては、厚いのに恐ろしく斬れて、すぱっと抜けるような作もあるのです」


「厚いのにか」


「そうです。マサヒデさん、マサヒデ=トミヤスの差料が良い例です」


 おおっ! とハーンが顔を寄せる。


「あれか! 虎斬りか!」


「そうです。あれは厚いのに、すっぱり斬れて抜けてしまうのです」


「おお・・・」


「一般的にそうだというだけで、やはり最後は打ち手という事です」


「うむ、全くだな」


「戻ります。重ねは手元の方が厚く、先に行くほど薄く。これは剣も同じですね」


「うむ」


「で。反りの出し方」


「そこよ!」


「最後に、刃の上に土を置いて、むら無く焼くのです。土はきめの細かい綺麗な粘土のような物です」


「土を!」


 ラディがヒロスケを指差し、


「この時、置いた土の形で、このような刃紋が出ますが、描いた通りには出ないです。まっさら均等に温度を調節するのは無理だからです」


「ふむ・・・」


「そして、この刃紋の形にもよって、斬れ味や丈夫さも変わってきます」


「ううむ! そうかあ!」


「基本的には、刃紋が高いほど固く。低いほど柔らかく。ですが、刀身の作り具合によって、これも変わってきます。刃紋は低いのに、頑丈な物もあります。相互作用で斬れ味も変わり、固さも変わり、柔らかさも変わり・・・ここに、刀匠の違いというものが出るのです」


「なあるほどお・・・」


「すみません。脱線しました。反り。土を置く時は、刃の方を薄く。棟側を厚く。それで冷やした時に、冷え方の違いが出て、ぐっと反ります」


「はあー!」


「この反り方によって、斬れ味が大きく変わります。手元から反っていくのか、真ん中辺りから反っていくのか・・・扱いやすいのは、手元から反る形。反りが先にあればあるほど、扱いは難しいのですが、斬れ味が増す・・・」


 ラディがヒロスケを出して、


「この脇差なんかは、真ん中辺りから反る。手元からここまではほぼ真っ直ぐ」


「だなあ」


「これくらいが最も斬れやすい形ですが、美しさを求める人には、あまりウケないです」


「こちとら軍の注文で打つんだ。美しさなんざいらねえな」


「ですけど、手元から反っているような刀でも、恐ろしく斬れるのもあります。やはり、刀身との兼ね合いが大事です。自分の打った刀身には、どういう反り方が合っているのか。その見極めです」


「ううむ! 自分の作がどういうものか、分かってるかって試されるわけだな」


「はい。で、実際の打ち方に入りますけど、剣とはまた違いまして、形を整える前に、まずは打つ。たがねを入れ、折り返す。折り返すのです。そして打つ。ひたすら繰り返します。中が柔らかく、外が固くなります」


「ふむ!」


「打っては折り返し、打っては折り返し、と繰り返しまして。これによって・・・」

「なあるほどお・・・ダマスカスと似たような感じか・・・」

「まずは小さな物からで・・・」

「ふむ。ナイフくらいのを試しに・・・」

「炭は松で・・・」

「松・・・」

「藁灰が・・・」


 簡単に説明と言っても、中々ラディの説明は終わらない。

 この後は、実技を見ながら指導もしないといけない・・・

 時間が掛かりそうだ。


「皆さん、剣を見せて頂きましょうか」


 アルマダが苦笑いを浮かべ、騎士達に頷いた。


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