第34話
ファッテンベルク市の鍛冶屋。
届いた玉鋼の扱いや、簡単にで良いので、刀の打ち方を・・・・
礼に、アルマダ一行と、ラディに、好きな剣を持って行って良いから・・・
リチャードにそう言われ、ラディとアルマダ一行はこの鍛冶屋に来たのだ。
ラディは馬に乗れないので、飼い葉を積む小さい荷馬車にちょこんと座り、それに騎士のジョナスが御者として乗っている。
「ハーン鍛冶店。ここですか」
店の前の繋ぎ場に馬を止める。
この町は何処にでも広い繋ぎ場があって困ることがない。
通りも広く、馬で移動するには優しい町だ。
ラディも馬車から降りてきて、アルマダと並ぶ。
「変り者と聞きましたが、大丈夫ですかね・・・」
「ハワード様、不安です」
「私もですよ」
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リチャードは出発前にラディに封筒を差し出し、
「これをハーン、鍛冶屋に見せれば良いのだが・・・」
ラディが頭を下げて受け取ると、リチャードが眉を寄せ、顎に手を当てる。
「少々変り者というか、頑固者というか・・・うむ」
「と仰られますと」
「腕は確かだ。こだわるが、納品に遅れた事もない。だが、仕事の邪魔をされると恐ろしく怒る。兵にハンマーを投げてきた事もあるくらいだ。兜をつけていなかったら、死んでいた」
「・・・」
「最初は気を付けてくれ。最初だけで良い。ホルニコヴァ殿、あなたが鍛冶の技術を教えてくれる者と分かれば、ころりと態度を変え、両手を上げて歓迎するはずだ」
「はい・・・」
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「ハワードさん、ハンマーに気を付けましょう」
「ええ。しかし、仕事道具を投げるのは、職人としてどうです」
「褒められたものではありません」
「でしょうね・・・私が開けます。皆さんは、私の後ろではなく、戸の両側に」
「はい」
皆がぞろぞろと店の戸の横に並ぶ。
中からは、がつん! がつん! と凄い音がする。
かん、かん、という普通の鍛冶屋の音ではない。
アルマダが左右を見て頷き、そっと戸に手を掛け、静かに開けた。
「失礼」
戸を開けると、がちーん! がちーん! と、音が響く。
一心不乱に叩いている。
アルマダは後ろを向き、
「少し待った方が良さそうです。声は掛けずに待ちましょう」
皆、口を閉じて頷く。
ラディもそっと入って来て、振り下ろすハンマーを見る。
がちーん!
(凄い!)
振り下ろされたハンマーが、熱せられた鉄に物凄くめり込む。
この物凄い力で振り下ろされるハンマーが、詰みまくりの固い剣を作るのだ。
長い髭を編んだごつごつの身体の男が、ミトンを着けた手で、がんがん振り下ろす。
(お父様もだけど・・・)
刀鍛冶や、剣の鍛冶屋というのは、髭を伸ばしたがる者なのだろうか?
火花が飛ぶから、危ないと思うのだが。
がちーん! がちーん!
何度も音がして、手が止まった。
鍛冶屋がハンマーを置き、凄い目で温度が下がって赤くなった鉄を睨む。
「ハワードさん。今」
む、とアルマダが頷き、
「失礼!」
ぎら! と殺気の籠もった目がアルマダに向けられた。
「ハーンさん、ですね。リチャード様の使いです」
「・・・ちっ」
一見して貴族と分かるアルマダに、あからさまな舌打ちをして、ハーンが鉄を置き、立ち上がった。背は低いが、恐ろしい分厚さ。これが鍛冶族か。
「なんだ。注文はまだだぞ」
「別の用です」
アルマダがラディに手を差し出した。
ラディがポケットからリチャードから預かった封筒を出して、アルマダに渡す。
「こちらを」
「追加注文か・・・全く」
ぶつぶつ言いながら、封を開け、中の手紙を出して、目を細めて読み進める。
「お?」
途中で小さく声を上げ、ハーンの表情がみるみる明るくなっていき、笑顔に変わった。ぱさぱさと手紙を畳んで、エプロンの下のポケットに突っ込み、ラディに笑顔を向ける。
「ホルニコヴァさん?」
「はい」
「刀鍛冶の?」
「娘ですが」
「さあ来てくれ!」
ぐいとラディを引っ張り、後ろを向いたが、足を止め、面倒そうにアルマダを見た。
「剣はそこにあるから、好きなの持ってとっとと帰ってくれ」
「・・・」
「さあさあ! あの鉄には俺もたまげちまったんだ!」
ハーンはラディを引っ張って、鍛冶場に入って行ってしまった。
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ラディは本当に簡単に刀鍛冶の方法を説明する。
用意してきた覚書を見せながら、マサヒデに借りているヒロスケの脇差を見せながら。
「刀を横に割るとこういう構造です」
「ふむふむ!」
「中が柔らかい鋼。外が固い鋼」
「二重構造か・・・はっ! そうか! 中に柔らかい・・・折れにくい!」
「そうです。戦場で折れたら終わりですけど、曲がっているならまだ振り回せる」
「なあーるほどおー!」
「この中の部分の鋼を、心鉄と言いまして」
「心鉄! ふむふむ」
「外側が皮鉄」
「皮! 外側だからだな」
「そうです。で、刃の厚み。これを重ねと言います」
「ふむ」
「当然、厚いほど丈夫ですけど、斬れにくい」
「斬れにくい? 何故だ。刀は剃刀のように鋭いのだろう」
「厚いと、斬って入った時に、抜けないです。剣は重さの勢いで抜けますが、刀は軽いです。刀身だけだと、1斤と半(1kg弱)くらいが多いです」
「ああ!」
「反対に、薄いほど斬れ味は良いですけど、今度はやわに。まず、ここの兼ね合いが腕の見せ所のひとつ」
「うむうむ!」
「ですが・・・」
「が?」
「ものによっては、厚いのに恐ろしく斬れて、すぱっと抜けるような作もあるのです」
「厚いのにか」
「そうです。マサヒデさん、マサヒデ=トミヤスの差料が良い例です」
おおっ! とハーンが顔を寄せる。
「あれか! 虎斬りか!」
「そうです。あれは厚いのに、すっぱり斬れて抜けてしまうのです」
「おお・・・」
「一般的にそうだというだけで、やはり最後は打ち手という事です」
「うむ、全くだな」
「戻ります。重ねは手元の方が厚く、先に行くほど薄く。これは剣も同じですね」
「うむ」
「で。反りの出し方」
「そこよ!」
「最後に、刃の上に土を置いて、むら無く焼くのです。土はきめの細かい綺麗な粘土のような物です」
「土を!」
ラディがヒロスケを指差し、
「この時、置いた土の形で、このような刃紋が出ますが、描いた通りには出ないです。まっさら均等に温度を調節するのは無理だからです」
「ふむ・・・」
「そして、この刃紋の形にもよって、斬れ味や丈夫さも変わってきます」
「ううむ! そうかあ!」
「基本的には、刃紋が高いほど固く。低いほど柔らかく。ですが、刀身の作り具合によって、これも変わってきます。刃紋は低いのに、頑丈な物もあります。相互作用で斬れ味も変わり、固さも変わり、柔らかさも変わり・・・ここに、刀匠の違いというものが出るのです」
「なあるほどお・・・」
「すみません。脱線しました。反り。土を置く時は、刃の方を薄く。棟側を厚く。それで冷やした時に、冷え方の違いが出て、ぐっと反ります」
「はあー!」
「この反り方によって、斬れ味が大きく変わります。手元から反っていくのか、真ん中辺りから反っていくのか・・・扱いやすいのは、手元から反る形。反りが先にあればあるほど、扱いは難しいのですが、斬れ味が増す・・・」
ラディがヒロスケを出して、
「この脇差なんかは、真ん中辺りから反る。手元からここまではほぼ真っ直ぐ」
「だなあ」
「これくらいが最も斬れやすい形ですが、美しさを求める人には、あまりウケないです」
「こちとら軍の注文で打つんだ。美しさなんざいらねえな」
「ですけど、手元から反っているような刀でも、恐ろしく斬れるのもあります。やはり、刀身との兼ね合いが大事です。自分の打った刀身には、どういう反り方が合っているのか。その見極めです」
「ううむ! 自分の作がどういうものか、分かってるかって試されるわけだな」
「はい。で、実際の打ち方に入りますけど、剣とはまた違いまして、形を整える前に、まずは打つ。鏨を入れ、折り返す。折り返すのです。そして打つ。ひたすら繰り返します。中が柔らかく、外が固くなります」
「ふむ!」
「打っては折り返し、打っては折り返し、と繰り返しまして。これによって・・・」
「なあるほどお・・・ダマスカスと似たような感じか・・・」
「まずは小さな物からで・・・」
「ふむ。ナイフくらいのを試しに・・・」
「炭は松で・・・」
「松・・・」
「藁灰が・・・」
簡単に説明と言っても、中々ラディの説明は終わらない。
この後は、実技を見ながら指導もしないといけない・・・
時間が掛かりそうだ。
「皆さん、剣を見せて頂きましょうか」
アルマダが苦笑いを浮かべ、騎士達に頷いた。




