第32話
ルーカスに半分騙されたような形で、兵に稽古をつける事になったマサヒデ。
今回は相手の移動の軸を捉え、止めてしまう、という事を教えた。
そして、ルーカスがこれがトミヤス流か、と驚いたのだが・・・
「トミヤス流ではない? では、トミヤス殿の発見ですか」
マサヒデが手を振り、
「まさか! 私も身体では分かっていましたが、説明は出来ませんでした。これはヤナギ車道流の教えのひとつを見て分かったんです」
「あっ! あの、日輪国王宮の、御留流の!?」
更にルーカスが驚く。
「はい。一番最初に習う型に、この教えがあるんですよ。真横を向き、相手を誘う。向かってきた所で線を捉え、足を止める。そして一刀両断」
「一刀両断に? それは、人族の力では難しくありませんか?」
「これが分かっている人は出来ます。文字通りの両断は無理ですが、頭から胸くらいはいけると思います。実際に刀で人を斬る時は、そんなに深く入れずに、基本的に切先の方を使うので、頭から一刀両断はないです。車道流も、これを小手を斬り落とすのに使います」
マサヒデがルーカスの前に立ち、横向きに一重に立ち、すう、と木刀を半円を描くように、ゆっくりと振り下ろす。ぱっと見は前に傾いて見える姿勢だが、重心はしっかり中心に置かれている。
「ルーカス様。この木刀を押してみて下さい」
マサヒデが切先をちょい、と動かす。
「こう?」
ルーカスが木刀の先を握り、ぐいと押す。
人族とは力が違いすぎるので、軽めに・・・
「む!?」
少し動きはしたが、マサヒデはびたりと止まったまま。
「むう!」
ぐ! と踏み込んで押すと、マサヒデは振り下ろした体勢のまま、ずるずると押されていく。だが、腕が真っ直ぐのまま、曲がらない。身体も後ろに崩れない。
「流石ルーカス様! 凄い力です!」
マサヒデの身体が全く崩れない!
「くっ!? これは一体!」
2人が声を上げたので、兵達が手を止め、全く崩されずに、ずるずる押されていくマサヒデを見て、目を丸くする。
「ははは! 面白いでしょう!」
押されながら笑うマサヒデを見て、兵達は呆然としている。
(もっと驚かせてみようかな?)
狼族は力こそ強いが、体重は人族と大して変わらない。
ならば出来そうだ・・・
マサヒデが構えを解き、棒立ちになって前に歩く。
「うおっ!?」
逆にルーカスが崩され、後ろに仰け反る。
「どうです」
ぐいぐいとマサヒデがルーカスを押していく。
堪らず、ぱっとルーカスが木刀から手を離し、だん、だん、と後ろによろけて、たたらを踏む。
「こ、これは? これは?」
狼族が人族と押し合って負けるなど、どう考えてもあり得ない。
ましてマサヒデは細いし、分厚くもなく、力持ちという身体ではない。
「身体が決まっていると、人族程度でも、ここまでになります。どうです? これが出来れば、ルーカス様なら簡単に一刀両断も出来そうだと思いませんか?」
「思う・・・」
マサヒデが木刀を引き、
「ヤナギ車道流、面白いでしょう。流石は王宮剣術指南という所ですか」
「ううむ!」
「歴史は500年くらいありますけど、これを作ってしまったの、初代のヨシミツなんです。500年、今、22代目ですけど、22代、ずうっと工夫して、やっと出来たってわけではないんですよ。当然、これ以外にもたくさん。ヨシミツって凄いですよね」
「恐ろしいな・・・」
「一流を興すような人って、そういう天才なんです」
「カゲミツ殿もですか」
「いいえ。父上はアブソルート流という流派が基本で、他の流派の良いなという技術を盗んできてまとめただけですから、0から作ったわけではないんですよ。つまり、数ある流派を興した人達って、皆、父上よりも遥かに上です。実際に立ち会って強い弱いは、また別だと思いますけど」
「参ったな! 創始者とは、皆、そのような者達か!」
「分派とかもありますけど・・・いや、本家には全く無い技術があったりしますから、やっぱり、父上より上ですよね。全く無いものを考えつくんですから」
「う、ううむ・・・」
「三傅流って流派なんて、宗家を継ぐ時に必ず何かひとつ工夫を加える事、という条件がありますから、ずっと天才が続いてるんですよ」
「ううむ! 何かひとつ、日輪国の剣術を習ってみようか・・・トミヤス殿、何処かの道場から、指導員を招くことは出来ましょうか?」
マサヒデは少し首を傾げ、
「まあ、出来ると思いますよ。有名なファッテンベルクからお声掛けがあったとなれば、喜ぶ道場も多いと思います」
「お勧めなどは」
「ううむ・・・皆さん、剣が多いですから、私は一剣流をお勧めしますが・・・」
マサヒデが閃いて、ぽん、と手を叩いた。
「ああ、そうそう。良い本があるんです」
「本?」
「はい。少し待ってて下さい。武術の細見のような感じの本です。馬車の中に1冊ありますから」
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しばらくしてマサヒデが戻って来た。
ルーカスに差し出した本は、達人探訪録。
空手世界王者のイサミ=マガチが様々な達人を訪ね、それらから教えてもらった事をまとめて発行している本である(※勇者祭:第875話~)。
「これです。魔の国でも、本屋で売ってると思いますよ。なくても、注文したら簡単に手に入ると思います。14万冊も売ってるそうですし」
「14万!?」
「まあ、少し読んでみて下さい」
ルーカスがマサヒデが差し出した本を受け取る。
達人探訪録 第1巻。
『空手世界王者の挑戦。達人の教え。イサミ=マガチが更に強くなる』
膝を高く上げた道着の男が大きく描かれている。これが人族の空手世界王者。
「この方、4年連続で世界王者なんですって。多分、今年もなります。人族ですが、恐ろしく強いですよ」
「ほう。それ程の」
「イザベルさんの骨を砕けるんですよ。この人。人族なのに」
「むう・・・」
しかし所詮はルールありきの格闘技では・・・
表紙をめくり、目次。
合気柔術武神精錬館・ユウゾウ=クロカワ、インタビュー。
同・実技1
同・実技2・・・
(ユウゾウ=クロカワか)
この名はルーカスも知っている。
魔の国に本拠を構え、世界を回って合気柔術を教えている武術家だ。
一度は手合わせをしたい・・・
そして、下に目を送って驚いた。
「あっ!」
ヤナギ車道流宗家・ヨシヒラ=ヤナギ、インタビュー。
同・実技1
同・実技2・・・
宗家!? 同・実技!? 宗家の実技が載っている!?
慌ててぱらぱらとページをめくると、細かく動きが描いてある!
注釈に細かな分析も書いてある。
身体の力の流れ方。筋肉をこう流れる。骨がこう並ぶ・・・
凄い分析だ!
これだけでも教本になってしまうではないか!
「凄い! トミヤス殿! これは!?」
「ほら、その図。今、私がやった構え」
「あ! これか!」
「見せても良いよ、くらいの、触りの部分くらいしか載ってないので、奥伝まで学ぼうというなら、指導員を呼ばないといけませんけど・・・実はですね・・・」
「実は? なにかあるのですか」
マサヒデがにやりと笑って、
「武術にはよくあるんです。最初に学んだ基本が奥義だった、なんて事が。車道流のこの型も、実は奥義のひとつなんですよね」
「なんと」
「面白いでしょう」
「面白いというか・・・驚きしかないのですが」
「同じ刀の剣術でも、握り方とか流派によって違ったりして、面白いんです。型も自分流に使い方を工夫してみたりとか、バラしてみたり。さっきの線を捉えるというのも、この型をバラしたもので・・・ああ、そうだ。ルーカス様には物足りない所があるかも。イサミさん、格闘家ですから、馬術や弓術は見に行かないと思います」
「いや、これでも満足に過ぎる! このような本があったとは! 早速、手に入れてきます! トミヤス殿、感謝します! 誰か!」
「は!」
手前の兵が返事を上げ、駆け寄ってきた。
ルーカスが兵に本を見せて、
「この本を、本屋で探して来てもらえるか。第1巻とあるから、他にもあるかもしれん。なかったら、注文してきてくれ。これは教本になるぞ」
「教本ですか」
「そうだ。急いで行ってくれるか」
「は!」
兵が敬礼して、すっ飛んで走って行く。
マサヒデが苦笑して走って行く兵を見ながら、
「これを見て、良さそうだな、と思ったら、その道場に連絡してみるなんてどうでしょう。ファッテンベルクにはこれが合う、というのを選別するような感じで」
ルーカスがマサヒデの肩に手を置き、興奮して上気した顔で、頭を下げた。
「トミヤス殿! 感謝致します!」
一瞬、イザベルに肩を掴まれて、しっかりしろと揺らされ、逆に気を失ってしまった事を思い出してしまい、思わず笑顔が浮かんだ。
「いえ、お役に立てて嬉しいです」




