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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
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第32話


 ルーカスに半分騙されたような形で、兵に稽古をつける事になったマサヒデ。

 今回は相手の移動の軸を捉え、止めてしまう、という事を教えた。


 そして、ルーカスがこれがトミヤス流か、と驚いたのだが・・・


「トミヤス流ではない? では、トミヤス殿の発見ですか」


 マサヒデが手を振り、


「まさか! 私も身体では分かっていましたが、説明は出来ませんでした。これはヤナギ車道流の教えのひとつを見て分かったんです」


「あっ! あの、日輪国王宮の、御留流の!?」


 更にルーカスが驚く。


「はい。一番最初に習う型に、この教えがあるんですよ。真横を向き、相手を誘う。向かってきた所で線を捉え、足を止める。そして一刀両断」


「一刀両断に? それは、人族の力では難しくありませんか?」


「これが分かっている人は出来ます。文字通りの両断は無理ですが、頭から胸くらいはいけると思います。実際に刀で人を斬る時は、そんなに深く入れずに、基本的に切先の方を使うので、頭から一刀両断はないです。車道流も、これを小手を斬り落とすのに使います」


 マサヒデがルーカスの前に立ち、横向きに一重に立ち、すう、と木刀を半円を描くように、ゆっくりと振り下ろす。ぱっと見は前に傾いて見える姿勢だが、重心はしっかり中心に置かれている。


「ルーカス様。この木刀を押してみて下さい」


 マサヒデが切先をちょい、と動かす。


「こう?」


 ルーカスが木刀の先を握り、ぐいと押す。

 人族とは力が違いすぎるので、軽めに・・・


「む!?」


 少し動きはしたが、マサヒデはびたりと止まったまま。


「むう!」


 ぐ! と踏み込んで押すと、マサヒデは振り下ろした体勢のまま、ずるずると押されていく。だが、腕が真っ直ぐのまま、曲がらない。身体も後ろに崩れない。


「流石ルーカス様! 凄い力です!」


 マサヒデの身体が全く崩れない!


「くっ!? これは一体!」


 2人が声を上げたので、兵達が手を止め、全く崩されずに、ずるずる押されていくマサヒデを見て、目を丸くする。


「ははは! 面白いでしょう!」


 押されながら笑うマサヒデを見て、兵達は呆然としている。


(もっと驚かせてみようかな?)


 狼族は力こそ強いが、体重は人族と大して変わらない。

 ならば出来そうだ・・・

 マサヒデが構えを解き、棒立ちになって前に歩く。


「うおっ!?」


 逆にルーカスが崩され、後ろに仰け反る。


「どうです」


 ぐいぐいとマサヒデがルーカスを押していく。

 堪らず、ぱっとルーカスが木刀から手を離し、だん、だん、と後ろによろけて、たたらを踏む。


「こ、これは? これは?」


 狼族が人族と押し合って負けるなど、どう考えてもあり得ない。

 ましてマサヒデは細いし、分厚くもなく、力持ちという身体ではない。


「身体が決まっていると、人族程度でも、ここまでになります。どうです? これが出来れば、ルーカス様なら簡単に一刀両断も出来そうだと思いませんか?」


「思う・・・」


 マサヒデが木刀を引き、


「ヤナギ車道流、面白いでしょう。流石は王宮剣術指南という所ですか」


「ううむ!」


「歴史は500年くらいありますけど、これを作ってしまったの、初代のヨシミツなんです。500年、今、22代目ですけど、22代、ずうっと工夫して、やっと出来たってわけではないんですよ。当然、これ以外にもたくさん。ヨシミツって凄いですよね」


「恐ろしいな・・・」


「一流を興すような人って、そういう天才なんです」


「カゲミツ殿もですか」


「いいえ。父上はアブソルート流という流派が基本で、他の流派の良いなという技術を盗んできてまとめただけですから、0から作ったわけではないんですよ。つまり、数ある流派を興した人達って、皆、父上よりも遥かに上です。実際に立ち会って強い弱いは、また別だと思いますけど」


「参ったな! 創始者とは、皆、そのような者達か!」


「分派とかもありますけど・・・いや、本家には全く無い技術があったりしますから、やっぱり、父上より上ですよね。全く無いものを考えつくんですから」


「う、ううむ・・・」


「三傅流って流派なんて、宗家を継ぐ時に必ず何かひとつ工夫を加える事、という条件がありますから、ずっと天才が続いてるんですよ」


「ううむ! 何かひとつ、日輪国の剣術を習ってみようか・・・トミヤス殿、何処かの道場から、指導員を招くことは出来ましょうか?」


 マサヒデは少し首を傾げ、


「まあ、出来ると思いますよ。有名なファッテンベルクからお声掛けがあったとなれば、喜ぶ道場も多いと思います」


「お勧めなどは」


「ううむ・・・皆さん、剣が多いですから、私は一剣流をお勧めしますが・・・」


 マサヒデが閃いて、ぽん、と手を叩いた。


「ああ、そうそう。良い本があるんです」


「本?」


「はい。少し待ってて下さい。武術の細見カタログのような感じの本です。馬車の中に1冊ありますから」



----------



 しばらくしてマサヒデが戻って来た。

 ルーカスに差し出した本は、達人探訪録。


 空手世界王者のイサミ=マガチが様々な達人を訪ね、それらから教えてもらった事をまとめて発行している本である(※勇者祭:第875話~)。


「これです。魔の国でも、本屋で売ってると思いますよ。なくても、注文したら簡単に手に入ると思います。14万冊も売ってるそうですし」


「14万!?」


「まあ、少し読んでみて下さい」


 ルーカスがマサヒデが差し出した本を受け取る。

 達人探訪録 第1巻。


 『空手世界王者の挑戦。達人の教え。イサミ=マガチが更に強くなる』


 膝を高く上げた道着の男が大きく描かれている。これが人族の空手世界王者。


「この方、4年連続で世界王者なんですって。多分、今年もなります。人族ですが、恐ろしく強いですよ」


「ほう。それ程の」


「イザベルさんの骨を砕けるんですよ。この人。人族なのに」


「むう・・・」


 しかし所詮はルールありきの格闘技では・・・

 表紙をめくり、目次。


 合気柔術武神精錬館・ユウゾウ=クロカワ、インタビュー。

 同・実技1

 同・実技2・・・


(ユウゾウ=クロカワか)


 この名はルーカスも知っている。

 魔の国に本拠を構え、世界を回って合気柔術を教えている武術家だ。

 一度は手合わせをしたい・・・


 そして、下に目を送って驚いた。


「あっ!」


 ヤナギ車道流宗家・ヨシヒラ=ヤナギ、インタビュー。

 同・実技1

 同・実技2・・・


 宗家!? 同・実技!? 宗家の実技が載っている!?


 慌ててぱらぱらとページをめくると、細かく動きが描いてある!

 注釈に細かな分析も書いてある。

 身体の力の流れ方。筋肉をこう流れる。骨がこう並ぶ・・・


 凄い分析だ!

 これだけでも教本になってしまうではないか!


「凄い! トミヤス殿! これは!?」


「ほら、その図。今、私がやった構え」


「あ! これか!」


「見せても良いよ、くらいの、触りの部分くらいしか載ってないので、奥伝まで学ぼうというなら、指導員を呼ばないといけませんけど・・・実はですね・・・」


「実は? なにかあるのですか」


 マサヒデがにやりと笑って、


「武術にはよくあるんです。最初に学んだ基本が奥義だった、なんて事が。車道流のこの型も、実は奥義のひとつなんですよね」


「なんと」


「面白いでしょう」


「面白いというか・・・驚きしかないのですが」


「同じ刀の剣術でも、握り方とか流派によって違ったりして、面白いんです。型も自分流に使い方を工夫してみたりとか、バラしてみたり。さっきの線を捉えるというのも、この型をバラしたもので・・・ああ、そうだ。ルーカス様には物足りない所があるかも。イサミさん、格闘家ですから、馬術や弓術は見に行かないと思います」


「いや、これでも満足に過ぎる! このような本があったとは! 早速、手に入れてきます! トミヤス殿、感謝します! 誰か!」


「は!」


 手前の兵が返事を上げ、駆け寄ってきた。

 ルーカスが兵に本を見せて、


「この本を、本屋で探して来てもらえるか。第1巻とあるから、他にもあるかもしれん。なかったら、注文してきてくれ。これは教本になるぞ」


「教本ですか」


「そうだ。急いで行ってくれるか」


「は!」


 兵が敬礼して、すっ飛んで走って行く。

 マサヒデが苦笑して走って行く兵を見ながら、


「これを見て、良さそうだな、と思ったら、その道場に連絡してみるなんてどうでしょう。ファッテンベルクにはこれが合う、というのを選別するような感じで」


 ルーカスがマサヒデの肩に手を置き、興奮して上気した顔で、頭を下げた。


「トミヤス殿! 感謝致します!」


 一瞬、イザベルに肩を掴まれて、しっかりしろと揺らされ、逆に気を失ってしまった事を思い出してしまい、思わず笑顔が浮かんだ。


「いえ、お役に立てて嬉しいです」


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