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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
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第31話


 そして翌朝。


 メニュー自体は質素だが、大量に盛られた朝食。

 山と盛られたパン、チーズ、サラダ。

 狼族ともなれば、この量が普通か・・・


 おはようございます、と挨拶をして、マサヒデ達が席につくと、リチャードが早速話し掛けてきた。


「トミヤス殿」


「はい」


 パンに伸ばしかけた手を引っ込め、リチャードを見る。


「ああ、いや。トミヤス殿と言うか、ホルニコヴァ殿」


「は」


 みし、とパンを千切ったところで、ラディがびくっと手を止める。


「鍛冶屋を見に行ってくれないだろうか」


「私がですか?」


「うむ。あの最高級の鉄、送ってはもらえるが、少しも無駄には出来ない。普通の鉄とは違うから、扱いを見て欲しいのだ。刀の打ち方も、簡単にで良いので、教えてやって欲しい。刀は無理でも、そこから何か良い物を思いつくかもしれない。あなたも鍛冶族の仕事は興味はあるだろう。どうかな」


 ラディがマサヒデを見ると、マサヒデが頷いた。

 何日かは足止めだが、これは断れない。


「承知しました」


「感謝する。ハワード様、騎士の皆様。貴重な技術を教えて頂ける礼として、鍛冶屋から気に入った物があったら持って行って下さい。勿論、ホルニコヴァ殿も」


 アルマダが驚いて、


「宜しいのですか? 鍛冶族の剣をですか?」


 リチャードが笑う。


「ははは! ハワード様、人の国では高く売られておりましょうが、こちらでは鍛冶族の剣が普通の剣なのですぞ!」


「あ・・・確かに・・・それは、そう、ですね」


「と言っても、何本も持っては行かないで下さい。1人1本で頼みます。ご存知の通り、当家は懐事情が良くはありませんので」


 アルマダが頭を下げ、


「ご厚意、感謝致します。それでは、遠慮なくお言葉に甘えさせて頂きます」


「いやいや、感謝するのは私の方です。お急ぎは重々承知。引き止めるような真似をして申し訳ない」


 アルマダ達一行とラディは、今日は鍛冶屋に行く事になる。

 さて、では自分はどうしようか・・・と、マサヒデが考えていると、


「トミヤス殿」


 ルーカスが声を掛けてきた。


「なんでしょうか」


「ホルニコヴァ殿が鍛冶屋に行っている間は暇でしょうし、ひとつ稽古でもつけてくれませんか。どうか」


「ああ、勿論! ありがとうございます。どうしようか考えていた所です」


「ありがたい。感謝します」


 ルーカスが頷いて、にやりと笑った。



----------



 そして・・・


「清聴! 本日はトミヤス殿がお前達に稽古をつけて下さる!」


「「「ありがとうございます!」」」


 マサヒデの前に並ぶのは、ファッテンベルク家のいかつい私兵達。

 稽古をつけるとは、ルーカスと稽古をする、という事ではなかった。


 しかも私兵達は鎧も兜もがっちりつけての稽古。

 獣人族、狼族も多いであろうし、彼らには軽い物だろうが。


「一言も聞き漏らすな! その一言に10年の訓練の価値がある!」


「「「はっ!」」」


「トミヤス殿」


 ルーカスがマサヒデに笑顔を向ける。


「はい・・・」


 どうしたものか。どうしたものか。

 鎧兜をつけた者達に、何を教える・・・

 盾を持っている者もいるし、何を教えるか・・・

 単純に立ち会い稽古でも良いのだが、彼らが求めるのは、そうではあるまい。


「えー、皆さん、剣に槍に、盾も持っておられる方もおられますので」


「・・・」


「今回は、基本の身体の使い方、武術における身体の使い方などを教えます。基本も基本なので、得物が何であろうが使えるものです。軍の訓練とかではあまり見ないと思いますが、人だけでなく、獣や魔獣にも使えるものです」


 マサヒデが手前の槍の兵を指差す。


「そちらの方」


「は!」


「私の前に立って下さい。皆さんに見えるよう」


 マサヒデが横を向き、兵がマサヒデの前に立つ。

 マサヒデは手に持った木刀を上げ、兵が持つ槍を指差す。

 よく見れば刃が丸めてあるが、これは当たったら痛いだろうに。


「刀。槍。相手は正面。見ての通り、私は圧倒的に不利です。ですが、これからどうなるか、よく見ていて下さい。何をしたのか、何をされたのかは、後で教えます」


 マサヒデが木刀をぶらんと下げたまま。


「痛い事は一切ないので、ご心配なく。構えて下さい」


「は!」


 間を開けて、兵が槍を構える。

 マサヒデも一歩下がって、半身になり、すいと木刀を兵に向けて上げる。

 切先を兵の肩くらいに向けた、正眼で切先を横にしたような構え。


「では、来て下さい。突き、払い、叩き、何でも構いません」


「参ります!」


 兵がぐっと槍を引いた時、ほんの少しマサヒデが木刀を動かす。


「ん」


 踏み込もうとした兵が、びた、と止まった。

 マサヒデがゆっくりと右に回る。

 兵も槍を後ろに引いたまま、穂先をマサヒデに向けて回る。


「どうしました。突いて下さい」


「む、む」


 マサヒデは一歩下がっているので、一歩踏み込まねば当たらない。

 が・・・


「さあ」


 す、す、とマサヒデが回る。

 兵は何故か踏み込めず、槍をぐっと引いたまま、踏み込めない。


 そのまま兵を中心に半回転し、立ち位置が反対になった所で、ふっ、とマサヒデが木刀を下げて半身から正面を向くと、しぱ! と槍が突かれた。


(鋭い!)


 掴もうと思っていたが、これは無理だ。

 また半身になりつつ木刀を上げると、しーっ! と木刀の横腹を擦って、槍が抜けていく。


「そこまで」


 マサヒデが手を出して止め、兵達の方を見る。


「こちらの方、最初、何故か踏み込めませんでした。何故でしょう。分かった方、居ますか」


「・・・」


「ルーカス様」


 ルーカスも不思議そうな顔で首を振る。


「実は、心得のある人は、結構自然に出来ている人が多いです。ルーカス様もやっています。上手い人に対すると、何故か動けないってありますよね。勿論、空気に飲まれるというのもありますが、技術もあります。さて、技術の場合です。何故そうなるのか、という事を説明出来ない。勘とか感覚でやっているからです。これをご説明しましょう。理屈で分かれば、練習の仕方も分かります。対策も分かります。あとは飲まれないようにするだけとなります」


 マサヒデが剣を持った兵を手で招く。


「こちらへ」


「は!」


 兵がマサヒデの前に立つ。

 皆の方を向き、


「短い方が分かりやすいですから、剣でご説明します。皆さんの方を向き、剣を構えて一歩踏み込んで下さい」


「は!」


 兵が剣を構え、一歩踏み込む。

 マサヒデが横に立って、兵の右の鎖骨から足先まで、指ですーっと線を引く。


「今、この線を中心に前に出ました。分かりましたか? もう一度、一歩踏み込んで下さい」


「は!」


 兵が一歩踏み込む。

 マサヒデが横に立ち、もう一度線を引く。


「この線の所を中心に前に出ましたね。皆さん、分かりましたね。ここに向けて、剣でも槍でも、ナイフでも、何なら手でも良いので、ぴったり合わせて構えるだけです。それで動けなくなります。移動したい先に邪魔があるから、反射でどうしても止まってしまうのです」


 マサヒデが兵の後ろに立ち、肩に手を乗せ、横を向かせる。


「私に剣を向けて下さい」


「は」


 マサヒデが正眼に構えて、移動の中心の線に合わせる。


「何か出づらいですよね」


「はい」


 ほんの少しだけ切先を動かす。


「どうです? 踏み込めそうだと感じませんか?」


「は・・・」


「では、こうしてみましょう」


 マサヒデが最初の槍兵と対した時と同じように、左肩を向けて、ぴったり横を向いて、切先を移動の中心に向ける。


「どうでしょう。凄く踏み込みづらくないですか? 私、横を向いてるのに」


「はい。確かに」


 マサヒデがにやりと笑う。


「皆さん、講談や絵物語で、こういうの見た事ないですか? 囲まれてるのに、ぴたっと横に剣を向けると、相手が止まってしまう。そのまま斬りかかれば良いのに・・・なんて場面」


「おお!」「確かに!」「これか!」


 マサヒデは自分の左肩から、真っ直ぐ兵に向けて手を伸ばす。


「実はこれ、真横を向いているとやりやすいです。相手から見て、狙う所の幅が、この肩の幅しかないからです。しかし、正面を向くと・・・」


 マサヒデが半身から正面を向く。

 木刀を持った右手と左手を上げる。


「これだけ幅があるから、こちらに向けての移動の軸が、右に左にと、向きを大きく変えられます」


「ううむ!」


 ルーカスが顎に手を当てて唸る。


「これが分かると、人だろうが獣だろうが、対する事が出来ます。獣を正面にした時、獣がゆっくり回るのって、自分のこの軸を取られないように、相手の軸が自分に向かないようにって動くわけですよ。そこが所謂『隙』というやつです。で、相手の軸を捉えた瞬間! がぶっ! です」


「あっ!」「なるほど!」「そういう事か!」


「獣は口から噛みにくるのが多いので、凄く分かりやすいですよね。人と違って、横向きのまま飛び掛かってきません。必ず正面から。ですから、簡単に止められます」


「ううむ・・・」


「練習の前に、ひとつ注意。あくまでこれは止められるだけです。さて止めた、攻撃だ! と振り被った時、捉えた線を外してしまえば相手は動きます。そうなると単純に速い方が勝ちなので、止めた意味がないです」


 ルーカスが頷く。


「確かに」


「最終的には、捉えて止めてしまったまま、手を出させずに仕留めるか、もしくは、誘う事ですが、それはひたすら反復の稽古を積み重ねるしかないです。ですが、どういう仕組かは分かりましたよね。勘や感覚も必要ですが、頭で分かってしまえば、出来た瞬間、ああこれか、と、すぐ理解出来ます。


 注意は、相手の移動の中心線を捉えようと注目してしまわない事。きちんと身体全体を捉えたままでいる事。周りにも視野を広くしておく事。1人止めたって、2人、3人と別にいたら、そいつらは動きます。獣だって、群れている事が多いですね。


 正面の相手に注目してしまって、視野が狭くならないよう、気を付けて下さい。それが癖になると簡単に死にます。兵として集団で戦う事の多い皆さんなら、言われなくても分かりますよね」


「「「は!」」」


「では皆さん、2人1組で、お互いに踏み込む相手の移動の中心を捉え、止めてみて下さい。踏み込む方も、捉えられないようにして踏み込んで下さい。捉えられたまま無理に踏み込むと、完全にやられるという状態になるので、すぐ分かります」


「「「は!」」」


 兵達がばらばらと2人1組を作る。


「撃ち込まなくても良いですよ。鎧が痛みますからね。では! 始めて下さい!」


「「「は!」」」


 ふ! ふ! と大きく剣を動かす兵、外して踏み込む兵。

 ルーカスが兵達を見ながら、


「トミヤス殿」


「なんでしょう」


「これがトミヤス流の技術ですか。いやはや、畏れ入りました」


 ふふ、とマサヒデが笑う。


「実は違います」


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