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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
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第30話


 肉だらけのディナーも終わって、皆は用意された部屋に案内され、マサヒデ、カオル、ラディが残された。


 リチャードとルーカスの刀鑑賞会である。

 クレールは呼ばれなかったが、自ら残った。


「マサヒデ様! まずは何からいきましょう!」


「ううむ・・・まあ、分かりやすいのが良いでしょう。ラディさん」


「はい」


 ラディが腰から脇差を取る。

 新刀時代の傑作、当欄乱刃の創始者、ヒロスケの作。

 マサヒデの予備の脇差である。マサヒデが受け取り、


「まず、鑑賞の時の刀の取り扱いを簡単に」


「そのような物があるのかね」


「難しいものではありません」


 マサヒデが両手に乗せ、左手に柄を、刃を自分に向ける。


「柄は左手。渡すと見えて、いきなり斬りかかられたら大変、という理由から出来た作法ですね」


「む、なるほど」


「同じ理由で、刃の方は自分に向けます」


「ふむ。作法と言うより、安全を考慮してと」


「そうですね」


 マサヒデがひょいと前に出し、


「こうして受け渡しをします。受け取る側も同じように両手で受け取ります」


「ふむ」


「私が一番大事だと思うのは次。抜く前に軽く一礼。見せてくれる人への礼もありますが、何よりも、この刀を打った刀匠への礼。この刀に関わった色々な職人さん達への礼。職人の皆さん、見せてくれてありがとうございます。お仕事、拝見します。そういった感じで、私はここが一番大事ではないかと思います」


 うむうむ、と後ろでラディとクレールが頷く。


「ふむ。持ち主は当然だが、優れた職人への礼も忘れずか。なるほど」


「次。刀という物の取り扱いになります」


 マサヒデが右手に柄を持ち替え、鐺(こじり:鞘の先)を前に、縦に持つ。

 刃は上向き。


「こうして縦向きというか、鞘の先を前にして持ちます。これは短いですが、こういう風に持つと、意外と長いのも抜けてしまうんです」


「なるほど」


 マサヒデが横を向き、鞘を指差す。


「刃を上にするのは、抜く時に鞘の中を傷付けないように。勿論、刃も傷付けないように。下に傾いて、鞘の中を切りながら抜いたりしてたら、鞘が痛みます。かつっと引っかかったら、刃が欠けてしまうかも。年代物の鞘だと壊したりしたら大変ですし、そうでなくとも、作り直すには時間が掛かりますので」


「ふむ」


「で、後は、鞘の中で刀身が横で擦れたりしないように、ゆっくり慎重に抜く」


 マサヒデが一礼して、す、とヒロスケの脇差を抜く。


「こんな感じに抜きます、と」


「おおっ」「凄い!」


 リチャードとルーカスが声を上げる。

 派手な当欄乱刃のヒロスケは、素人目でも、これは! と分かりやすい。


「こうですね。で、納める時も同じように、横に擦れたりしないように気を付けて、ゆっくりと刃を上にして納めます。相手に返す時は刃を向けず、柄は左に向けて、と」


 マサヒデが納め、両手で脇差を持つ。


「こう戻されます。後は、刀身に触らない、という所ですか。他にも細々した所はありますが、大体こんな感じです。では、リチャード様」


 マサヒデがリチャードの横に立って、ひょいと差し出す。


「どうぞ」


「トミヤス殿、これはあなたの?」


「予備の物です」


「予備・・・予備か。これがか・・・うむ」


 リチャードが受け取り、一礼。

 マサヒデが教えた通り、縦にして抜き、立てて持つ。


「ううむ! 美しい!」


 派手な当欄乱の刃紋は、樋にまで届いている。

 リチャードが樋を指差し、


「この溝は何かな」


と言います。削っても大丈夫な所を削って、軽くするのですね。あと、おまけで、振った時に良い音がするようになります」


「軽量化の為か・・・剣でも同じように溝を彫る事はありますな」


 ぎらぎら光る当欄乱刃を見て、ルーカスも唸る。


「父上、この紋様は凄いですよ。恐ろしさまで感じます」


「うむ。美術目的のようなものか」


 マサヒデが薄く笑って、


「いいえ。斬れるようにです。焼き、その白い刃紋ですが、基本的には、その白い刃紋が高いほど、刃は固くなります。まあ、形状や刀身との兼ね合いもありますので、一概にそうとは言えませんが」


「ふむ! で、これは斬れるのですかな」


「斬れますね。焼きもそうですが、この刀の場合は反り方が大きいです。非常に斬れる反り方が出来ています」


 マサヒデが懐紙を出して、リチャードの前で両手で開いて持つ。


「どうぞ」


 リチャードがそっと懐紙の上に刃を置く。

 つー・・・リチャードとルーカスの目が開かれていく。

 すぱり。


「怖ろしい斬れ味!」

「なんと!」


「良く出来た刀だと、まあこのくらいです」


「まあこのくらい、とは・・・」


 クレールがにっこり笑った。


「マサヒデ様のお腰の物は、もっと斬れるんです!」


 は! とリチャードとルーカスが顔を上げた。


「虎斬りか!」「虎斬りの!」


 マサヒデが苦笑して、手に持った雲切丸をテーブルに置いた。


「これ、物騒な二つ名が付いてしまったんですね」


 ぱ! とクレールが手を出し、


「おっと! マサヒデ様、それは最後です! カオルさん!」


「は」



----------



 その頃、テラスでは・・・


 舞台のお手本のような、貴族の恋愛ドラマ中。

 手すりにグラスを乗せたアルマダと、ワインレッドのドレスのパウラ。

 アルマダはうんざりしていたが、顔に出さないよう、微笑みを浮かべている。


「ハワード様は、いつまで・・・」


「ご挨拶も済みましたし、明日にでも」


「明日・・・」


 パウラが哀しげに俯く。

 やれやれ。まるで三文芝居ではないか。

 とっとと部屋に戻りたいなあ、などとは決して顔に出してはいけない。


「ハワード様」


「何でしょう」


「リチャード叔父様がお聞きになられた時、先程、会ったばかりですからって、おっしゃいました」


「ええ」


「私の事を、知らないから」


「そうです」


 俯いたパウラが顔を上げ、アルマダを真っ直ぐ見つめる。


「知ろうとは、してくれませんの?」


 アルマダがグラスを取り、琥珀色の酒を軽く口に入れる。


「さ・・・また、お会いになる事があれば」


「首都に、参られますのね」


「ええ。魔王様に会いに。謁見のお許しを頂ければですが」


「その後は」


「今の所は、私にはその後の予定はないので、マサヒデさんと一緒にレイシクラン家に行くか、国に戻るか」


「ここへは」


「もう来ないと思います」


「私」


 す、とアルマダが手を上げ、パウラの口が止まった。

 上げた手を、そのまま、パウラの頬に静かに手を当てて微笑む。


「綺麗な瞳ですね。真っ直ぐな瞳だ」


 パウラを見つめたまま、グラスを上げる。


「この琥珀の色に溶けそうな・・・美しい瞳です」


 軽く一口。ことん、とグラスを置くと、パウラが静かに目を閉じた。

 が、アルマダは頬から手を離し、すっと離れてしまった。


「では、また機会があれば」


 あ、とパウラが目を開けると、アルマダはテラスから中に入って行ってしまった。

 歩いて行くアルマダを少し見送って、パウラはまた俯いてしまった。


(やれやれ)


 わざわざこんな回りくどい演出も必要か・・・

 中では、リチャードとルーカスが、カオルのモトカネに見入っている。


「おや。マサヒデさんのはまだですか」


 アルマダが笑いながら、椅子に座った。



----------



 こちらはイザベルの部屋。


 懐かしい部屋で、イザベルがベッドに飛び込み、アンがくすくす笑う。


「ああ、母上!」


 イザベルが声を上げながら、枕を抱いて起き上がる。


「お許し下さい! 久し振りなもので」


「構いませんよ。何かお話を聞かせて頂戴」


「いくらでもございます」


「じゃあ、トミヤス様はどんなお方?」


「素晴らしきお方です!」


「どんな風に?」


 イザベルがにやにや笑いながら、枕を抱きしめる。


「お強いのです。剣だけでなく、お心も・・・斬ったのが紛れもなき悪党であっても、悩んで頭を抱えてしまうほど、お優しくて」


「そうね。ルーカスが参った、なんて言ったの、何十年振りかしら? でも、全然怖い感じはしなかったわ」


「でも、軟弱とも言えます。マサヒデ様は、それを分かって、お心をすぐに直してしまって・・・ここまで来るのに、1年も経っておりませんけれども、毎日、剣も心も強くなっていって。初めてお会いした時も、既に怖ろしい強さでした。でも、自分より強い者はいくらでもいると。まだ剣も分かっておらぬと。傲慢さの欠片も見えず、謙虚で、素直で、達観していると見えれば、子供みたいな心もあって・・・ああ!」


 ばすん! とイザベルがベッドに伏せる。


「母上! もう言葉では言い表せませぬ!」


 ぶんぶんぶん! イザベルの尾が振られている。


「まあ! トミヤス様よりもお強い方が?」


「たくさんおります。お父上のカゲミツ様は当然ですが、日輪国にも何人もおりました。まだお会いしておらぬ方々も多くおられましょう」


「うふふ。日輪国に帰ったら、武者修行?」


「やもしれませぬ・・・」


「イザベル」


「はい」


「トミヤス様はお好き?」


「・・・」


「お父上も、トミヤス様なら文句は言いませんよ」


「・・・」


「こちらには、報告だけしてくれれば良いから」


「・・・はい」


「うふふ。じゃあ、おやすみなさい」


「おやすみなさいませ」


 アンがくすっと笑って、部屋を出て行った後。


「ああ!」


 イザベルが声を上げ、ぼすぼすとベッドを叩く。


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