表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
28/128

第28話


 そしてパーティーが始まるのである。


 と言っても、マサヒデが想像していたような貴族様のお集まりではなく、イザベルの家族だけ。


 『エッセン=ファッテンベルク』はファッテンベルク本家。


 本家という事は分家の親戚もいくつかあるのだろうが、ここらはどこも領地の面積が広いから、近隣から貴族を呼び寄せる事は簡単ではあるまい。近くても片道何週間が普通であろう。

 イザベルの兄、ルーカスも、2ヶ月かけて任地からここに戻っている。

 任地は隣の隣の領地。それで、馬で2ヶ月。かなり遠い。


 執事が皆のグラスにワインを注いでいき、行き渡って、リチャードが立ち上がった。


 先程の立ち会いで驚いたせいか、少しは軽くなっているが・・・

 テーブルの皆を鋭い目で見回し、グラスを上げる。


「それでは、乾杯」


「かんぱーい!」


 明るい声を上げたのはクレールだけで、マサヒデ達は緊張して「乾杯」と声を上げるのが精一杯。

 アルマダは落ち着いて、笑顔でグラスを傾けている。流石だ・・・


 イザベルはワインを一息に飲み干し、グラスを置き、


「父上。兄上。早速ですが、ご報告せねばならぬ事が」


「む」「何だ」


 イザベルが懐から紙を綴じた冊子を取り出す。


「私、武術のみを学んでおった訳ではございませぬ」


「ほう」


「途中どころか、さわり程度でございますが、私の勉学の成果。ご覧下さいませ」


 ああ、とマサヒデが頷いた。

 イザベルがまとめていた、人の国の軍学書。

 日輪国の戦乱期の戦の記録だ。

 魔の国の歴史には戦らしい戦がないので、こういった記録が乏しく、世界に知られた軍学書、といった程度しかないという。


「ふむ」


 リチャードは無関心に冊子を取り、マサヒデを見る。

 マサヒデは首を振り、


「私ではありません。イザベルさんが自分で探し、自分で学び始めた事です」


 おや、とリチャードが少し驚き、ルーカスを見る。

 ルーカスも眉を上げて、リチャードを見て、冊子を見る。


「そうですか・・・イザベルが」


 ばらばらと適当にめくって、手を止める。


「ふむ。合戦図な。ほう」


 ふっ、とイザベルが笑う。


「父上」


「何だ」


「その合戦図、人族のみの合戦の図とご承知してご覧下さい。別の種族の者は入っておりませぬ」


「む」


 イザベルが立ち上がり、リチャードの後ろから覗き込む。


「おお、これは私も驚きました。モートシー王の合戦図ですね。銀で有名でありました、あのモートシー家の初代王です。3000で3万に勝つには。籠城し、5000の民間人を抱えて、しかも打って出て野戦で」


「む・・・むむ・・・」


 ふふん、とリチャードの後ろでイザベルが笑う。


「モートシー王曰く、勝つる事間違いなし。父上。種族の差なく、手勢3000、敵勢3万。野戦で。勝つ事は間違いない、と言えますか」


 ぐ、とリチャードの眉間に深くしわが刻まれる。


「・・・」


「兄上は如何です」


「・・・難しいな」


「日輪国の名将軍師は数多おりまして・・・とてもまとめきれず、私、困っております。ふふふ」


 リチャードがルーカスに冊子を渡し、ルーカスもぱらぱらとめくり、


「ううむ」


 と、唸り、眉を寄せる。


「これを私の勉学の証と、旅の土産に」


「うむ・・・そうか」


 がた、がた、とリチャードが椅子を動かし、ルーカスの方に動いていく。

 ルーカスが難しい顔を上げ、リチャードの方に合戦図を差し出し、指さして、


「父上。ここを見て下さい」

「何?」

「合戦が始まって・・・」

「正面が本隊であろう・・・厚すぎる」


 ぱらり。


「ここに伏兵を置きます。しかしこれではいくら何でも」

「無謀にしか見えぬが」


 イザベルがチーズを摘み、母のアンを見て、くすっと笑う。


「そうそう。戦乱期の日輪国には、魔術師はおりませんでした」


「む!」「そ、そうであったな!?」


 アンも、全く仕方のない・・・といった苦笑を浮かべ、チーズを摘む。


「父上、これは英雄王と呼ばれてもおかしくないですよ」

「全くだ・・・一体、どういう」


「英雄王! そうそう! 日輪国8代王は、タイガーハートと呼ばれる英雄王であったとか!」


 ぷ、とアンが笑って、


「イザベル、その辺りにしておきなさいな」


「ふふふ。はい」


「パウラさん」


 アンがイザベルの姉らしき、少し年上の女に声を掛けると、立ち上がって、スカートを摘み、優雅に頭を下げた。


「皆様、ご紹介が遅れました。パウラ=ロブ=ファッテンベルクと申します」


 エッセンではない。分家の者だったのか。


「パウラさんは、首都からこんな田舎に遊びに来ておられたのです。皆様、お見知り置き下さい」


「パウラお姉ちゃんは」


 ぶ! とマサヒデ、トモヤに、シズク、アルマダまで吹き出した。

 クレールもカオルも、チーズを摘んだまま、呆然とイザベルを見つめる。


 『お姉ちゃん』


 およそ、イザベルの口から出る言葉ではない。

 そのイザベルは、不思議そうに、むせたマサヒデを見る。


「如何されました?」


 ん、おほん、とアルマダが咳払いをして立て直し、すす、と口を拭いて、さらりと髪をかきあげ、


「いえ。流石にイザベル様の姉君、美しいお方だ、と思っておりましたが、ご親戚の方でしたか」


 さり気なく2人を褒める所は流石だ。


「まあ」


 パウラがにっこり笑って、


「お上手ですこと。ハワード様、行く先々で女性に囲まれておりますなどと、本当の噂でしたのね」


「ははは! 私など大した者ではありません。マサヒデさんに比べたら。ねえ?」


「んっ」


 もちゃもちゃとチーズを食べるマサヒデが、アルマダの方を向く。

 また、マツやクレールを引き合いに出すのか・・・


「ジョアルでも、冒険者ギルドの受付嬢の方を泣かせていましたよ」


「ぐふっ」


 こん、こん、とマサヒデがむせる。


「まあ!」「あら!」


 アンとパウラがむせるマサヒデを見る。

 アルマダは哀しげな顔を作って、首を振り、


「あれは可哀想でしたよ・・・病に倒れたマサヒデさんを心配して、クレール様、イザベル様がお側におられるというのに、意を決して、顔を青くしながらも、見舞いに来てくれたんですが」


「やめて下さいよ!」


 アルマダは無視してグラスを取り、一口入れて、


「そんな事も分からずに、お見舞いありがとう。私は大丈夫だから、もう帰ってくれ、だなんて、すげなく帰してしまって。クレール様も可哀想になってしまって、嫉妬するどころか、一緒に酒を呑んでいたくらいです」


 クレールも責めるような目でマサヒデを見る。


「マサヒデ様、あれは可哀想でした」


 ふん、とマサヒデが鼻を鳴らし、


「じゃあ何ですか。あの方、次の妻にしても良いんですか」


「それは・・・それは、あれですけど」


「あれってなんです」


「もう!」


 ぷん! とクレールがそっぽを向くと、アルマダが笑う。


「ははは! こんな感じで、これまで何人の女性を泣かせた事か!」


「泣かせてませんよ!」


 アルマダがにやっと笑い、グラスを傾ける。


「あの方は、泣いてましたよ」


「・・・」


「ふふ。この通りです」


「おほほほ!」「うふふ」


 黙り込んだマサヒデを見て、アンとパウラが笑う。


「モテるのに、女心の欠片も分かってない。余計にたちが悪いでしょう。ところで、このチーズが、もしかして名産という?」


 アルマダがチーズを摘み上げる。

 アンが頷いて、


「ラクダのチーズです。外から来たお方には、珍しいお味でしょう」


「はい。これ程に美味しいチーズは珍しい。酸味に甘味があり、コクがあるのに、不思議とさっぱりしていて、素晴らしい味です。ワインには最高の友ですね」


「外に出せれば良いのですけれど。日持ちがしませんから」


「ここでしか食べられない、ですね。イザベル様が自慢するのも納得の絶品です」


 アンがにっこり笑って、ぱん、ぱん、と手を叩く。


「そろそろお料理をお持ちなさい」


 給仕が頭を下げて下がって行き、執事がにこにこしながら歩いて来て、アルマダのグラスにワインを注ぐ。


「ううむ! このワインにこのチーズ、これだけでもここに来た甲斐がありました」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ