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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
25/128

第25話


 街道を歩きつつ、マサヒデはファッテンベルクの大地を見ていた。

 幸い、魔獣には会わなかったが、非常に厳しい大地と見える。

 畑も田んぼもひとつもない。

 町らしい町もない。

 荒れ地なのだ。


(イザベルさんは、ここで育ったのか)


 イザベルだけでない。前を歩くフリッツ、ルトガーという兵2人。

 イザベルの家族も。


 まだ春だというのに、昼は異常な暑さ。夜は冷える。気温は砂漠と変わらない。

 石はごろごろしているし、一見して農作など出来る土地ではないと分かる。

 食事はほぼ輸入に頼っているのではないか。ここは厳しかろう・・・


 だが、兵2人は明るい。

 イザベルも上機嫌。

 故郷なのだ。



----------



 そして2日後、早朝。


 初めて町が見えてきた。


「トミヤス様、あれがファッテンベルクの都、ファッテンベルク市」


「あれが・・・」


 市、と言っても、町か都市かの境目くらいの大きさ。

 大きな町、と言った程度。

 定住する者は少ない、と言うのは明らかだ。


「住民のほとんどが、軍人と商人と言った所ですかな。一応、商店街で一通りは揃います」


「ふうむ」


「貿易は結構しておりますので、物はそれなりに整っておりま・・・ああっ! そう! そうそう!」


 わっとフリッツが盛り上がって、マサヒデに身を寄せる。


「トミヤス様!」


「な、なんです? 急に」


「鉄! 鉄が少し届いたのです! 御大将が試しに少し送ってもらったと!」


「あっ! あれですか! もう届きましたか!」


 マサヒデの計らいで、日輪国の鉄の名所で、ファッテンベルクと、たたら御三家なる玉鋼を商売にしている貧乏貴族の3家で、製鉄を行う事にしたのだ。(勇者祭:698話)


「あれはどえらい鉄だそうですな! 鍛冶屋が大興奮しておりましたぞ! 御大将もそれを聞いてもう!」


「おお、そうですか。うん、目に適って良かったですよ」


「このファッテンベルクも、鍛冶で大きに儲かりそうですぞ。当然、鍛冶族の者もおりましてなあ。あの鉄を使って鍛冶族が打ったらどうなるかと!」


「あっ! なるほど!」


 普通の鋼でも、鍛冶族が扱うと恐ろしく詰んで頑丈な物となる。

 それを上質な玉鋼で打ったらどうなる!?


「ちょっとマサヒデさん!」


 アルマダも気付いたか、ぎらぎらした目を向ける。


「今のは聞き捨てなりませんよ! 凄い作が出来そうではありませんか!」


「ですよね!」


「御大将も目を輝かせておったそうで! なあルトガー!」


 うむ! とルトガーが笑顔で頷く。


「出来上がりが楽しみでございますなあ! 今も鍛冶屋が目を血走らせておりましょう。御大将は何を注文したのやら!」


「ううむ・・・」


 どんな剣が出来るのか!

 魔神剣ほどに頑丈な物は流石に無理であろうが、えらく頑丈な剣が出来そうだ。


「そうか、頑丈な・・・そうだ! 頑丈なフランベルジュなんか出来ますかね!」


「あっ!」


 アルマダの意見に、フリッツが大きな声を上げた。

 フランベルジュは波打つような形の剣で、殺傷能力は高いが、形状ゆえに鎧には非常に弱く、当然、打ち合ったりすると簡単に折れる、曲がる、という欠点がある。

 生身への攻撃力だけは恐ろしく高いのだが、そこを克服出来るならどうか。


 そもそも、鞘からの出し入れが難しい、という大欠点もある。

 ゆえに、ほとんどは、その美しさから飾り物になっているのだが・・・

 あの形状、ここだけはどうしても克服出来まい。


「ハワード様・・・恐ろしい事を考えますな・・・」


「まあ、実際に打ってみないと分からないでしょうが。出来たら凄いですね」


「ううむ・・・」


 フリッツが唸る。

 と、あっ、とマサヒデが声を上げた。


「盛り上がっている所、すみません。少しだけ寄り道しても良いですか。少しで良いのです」


「む、何処へ?」


「冒険者ギルドか、魔術師協会か、とにかく通信がある所。父上に、ファッテンベルクに着いたと報告せねば」


「お父上! 剣聖の!」

「や、それはせねばなりませぬな!」


「申し訳ありません」


「いやいや、構いませぬ。町の入口にございます」



----------



 ファッテンベルク冒険者ギルド。


 ファッテンベルクの屋敷はこの町を抜けた反対にあるので、到着は夕刻か日が沈む頃になるそうな。

 さっさと連絡を終えて行かねば。

 フリッツの方は、先に屋敷へ急ぐと、馬を飛ばして行ってしまった。

 ルトガーはマサヒデと一緒に冒険者ギルドに入る。


(おっと・・・)


 今までに見た事ない雰囲気のギルドだ。

 ロビーに居る者達も、今までの冒険者とは少し空気が違うし、装備も違う。

 流石はファッテンベルクと言うべきか、それとも、荒い土地ゆえと言うべきか。

 どれも腕利き傭兵と言った感じで、ぎらっとしている感じがする。

 流石にファッテンベルク、あれに見える毛色の違う犬族は、おそらく狼族か。


「いらっしゃいませー! ファッ・・・あーっ!」


 受付嬢が声を上げた。


「皆さん! トミヤス様ですよ!」


 がたがたっ! とロビーの冒険者達が立ち上がる。


「何っ!?」「本物か!?」「来たのか!」


 騒ぎ出したところで、ルトガーがマサヒデの後ろから前に出る。


「待てえい! 待て待てい! 控えい!」


 ルトガーの大きな声がロビーに響く。


「・・・」


 しん、と静まり、冒険者達の動きが止まる。


「ファッテンベルク私兵軍少尉、第一騎兵隊所属、ルトガー=オストマルクである! トミヤス様にはお急ぎの御用である! 皆の者! 此度は控えよ!」


 かたり、かたり、と静かに椅子を鳴らし、冒険者達がそっと座る。

 受付嬢も、ぴしりと背を正している。

 これはやりづらい・・・

 マサヒデは受付嬢に向いて、


「あの、ですね」


「はいっ!」


「通信を使わせて下さい」


「はいっ! 誰か!」


「はっ!」


 たたっ! とメイドが走って来て、マサヒデの前に立つ。


「トミヤス様を通信室へご案内下さい!」


「はっ! トミヤス様、どうぞこちらへ!」


「宜しくお願いします」


 か! か! か! と靴を鳴らして歩いて行くメイドに、マサヒデも身を固くしてついて行く。

 私兵達は恐ろしいのだろうか。

 言葉は悪いが、よく飼い慣らされていると言うか・・・



----------



 ぎぎい・・・と分厚い扉が開き、通信室の中。


 メイドがぽぽぽん、と操作して、マサヒデの方を向き、


「トミヤス様、連絡先はどちらへ」


「日輪国、シライ領、オリネオの町の冒険者ギルドです」


「はい」


 ぽんぽん、ぽん、ぽん・・・

 ぷん、と画面が浮かび、見慣れたオリネオのギルドの通信室が浮かぶ。

 しばらくして、向こうのメイドが部屋に入って来て、画面の前に立った。


「トミヤス様」


「ご無沙汰してます。今、ファッテンベルクに着きました」


「ついに」


 メイドが頬笑み、マサヒデも笑顔になった。


「はい。これから、イザベルさんのご家族にご挨拶をして。ええと、ですね・・・終わったら、ジョアルに戻って、船で首都へ直行する事にしました」


「左様でしたか」


「陸路だと、半年も砂漠を歩く事になるので、流石に時間が掛かりすぎですから」


「はい」


「何事もなければ、4ヶ月もせずに魔の国の首都に着きますと、連絡を頼みます。何かあれば、また連絡します」


「はい。ご武運をお祈り申し上げます」


 マサヒデが頭を下げ、向こうのメイドも頭を下げると、ぷん、と画面が消えた。


「ありがとうございました」


「お役に立てまして、何よりでございます」


 このメイドの態度も、いつもは違うのだろうか?

 まさか、ジョアルの冒険者ギルドみたいに、にゃんにゃん言わないだろうか?

 ファッテンベルクは狼族だから、わんわんとか・・・


「では」


 ぎぎい、と重い扉が開いた。



----------



 静まり返ったロビーに戻り、受付の前に立つ。


「おいくらでしょう」


「お代など」


「私はそういう事はしません」


 受付嬢がちらりとルトガーを見ると、ルトガーが目で頷く。


「銀貨で10枚です」


 マサヒデが懐から小袋を出して、じゃらじゃらと銀貨を出して、1枚、2枚と置いていく。


「はい」


「丁度、お預かり致します」


「それでは」


 マサヒデとルトガーが出ていくと、冒険者達がざわめき始めた。

 表でシトリナに跨ったままのイザベルが笑う。


「マサヒデ様はどこのギルドでもご人気で、私、鼻が高くなりそうです」


「ふふ。高くしてくれて構いませんよ。でも、トミヤスと比べてあいつはどうだ、なんて言われないで下さいね」


「私も今や冒険者。これでも分かっております」


「結構」


 マサヒデが頷いて、しゃ! と黒嵐に跨る。


「では、行きましょうか。お屋敷に着く前に、何処かで馬車を停めて着替えないといけないですね・・・」


 マサヒデが手で馬車の御者台のトモヤに行くぞ、と合図すると、馬車が動き出す。

 マサヒデ達も、馬を進め始めた。

 夜には、ファッテンベルク本家、エッセン=ファッテンベルクのお屋敷だ。


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