第25話
街道を歩きつつ、マサヒデはファッテンベルクの大地を見ていた。
幸い、魔獣には会わなかったが、非常に厳しい大地と見える。
畑も田んぼもひとつもない。
町らしい町もない。
荒れ地なのだ。
(イザベルさんは、ここで育ったのか)
イザベルだけでない。前を歩くフリッツ、ルトガーという兵2人。
イザベルの家族も。
まだ春だというのに、昼は異常な暑さ。夜は冷える。気温は砂漠と変わらない。
石はごろごろしているし、一見して農作など出来る土地ではないと分かる。
食事はほぼ輸入に頼っているのではないか。ここは厳しかろう・・・
だが、兵2人は明るい。
イザベルも上機嫌。
故郷なのだ。
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そして2日後、早朝。
初めて町が見えてきた。
「トミヤス様、あれがファッテンベルクの都、ファッテンベルク市」
「あれが・・・」
市、と言っても、町か都市かの境目くらいの大きさ。
大きな町、と言った程度。
定住する者は少ない、と言うのは明らかだ。
「住民のほとんどが、軍人と商人と言った所ですかな。一応、商店街で一通りは揃います」
「ふうむ」
「貿易は結構しておりますので、物はそれなりに整っておりま・・・ああっ! そう! そうそう!」
わっとフリッツが盛り上がって、マサヒデに身を寄せる。
「トミヤス様!」
「な、なんです? 急に」
「鉄! 鉄が少し届いたのです! 御大将が試しに少し送ってもらったと!」
「あっ! あれですか! もう届きましたか!」
マサヒデの計らいで、日輪国の鉄の名所で、ファッテンベルクと、たたら御三家なる玉鋼を商売にしている貧乏貴族の3家で、製鉄を行う事にしたのだ。(勇者祭:698話)
「あれはどえらい鉄だそうですな! 鍛冶屋が大興奮しておりましたぞ! 御大将もそれを聞いてもう!」
「おお、そうですか。うん、目に適って良かったですよ」
「このファッテンベルクも、鍛冶で大きに儲かりそうですぞ。当然、鍛冶族の者もおりましてなあ。あの鉄を使って鍛冶族が打ったらどうなるかと!」
「あっ! なるほど!」
普通の鋼でも、鍛冶族が扱うと恐ろしく詰んで頑丈な物となる。
それを上質な玉鋼で打ったらどうなる!?
「ちょっとマサヒデさん!」
アルマダも気付いたか、ぎらぎらした目を向ける。
「今のは聞き捨てなりませんよ! 凄い作が出来そうではありませんか!」
「ですよね!」
「御大将も目を輝かせておったそうで! なあルトガー!」
うむ! とルトガーが笑顔で頷く。
「出来上がりが楽しみでございますなあ! 今も鍛冶屋が目を血走らせておりましょう。御大将は何を注文したのやら!」
「ううむ・・・」
どんな剣が出来るのか!
魔神剣ほどに頑丈な物は流石に無理であろうが、えらく頑丈な剣が出来そうだ。
「そうか、頑丈な・・・そうだ! 頑丈なフランベルジュなんか出来ますかね!」
「あっ!」
アルマダの意見に、フリッツが大きな声を上げた。
フランベルジュは波打つような形の剣で、殺傷能力は高いが、形状ゆえに鎧には非常に弱く、当然、打ち合ったりすると簡単に折れる、曲がる、という欠点がある。
生身への攻撃力だけは恐ろしく高いのだが、そこを克服出来るならどうか。
そもそも、鞘からの出し入れが難しい、という大欠点もある。
ゆえに、ほとんどは、その美しさから飾り物になっているのだが・・・
あの形状、ここだけはどうしても克服出来まい。
「ハワード様・・・恐ろしい事を考えますな・・・」
「まあ、実際に打ってみないと分からないでしょうが。出来たら凄いですね」
「ううむ・・・」
フリッツが唸る。
と、あっ、とマサヒデが声を上げた。
「盛り上がっている所、すみません。少しだけ寄り道しても良いですか。少しで良いのです」
「む、何処へ?」
「冒険者ギルドか、魔術師協会か、とにかく通信がある所。父上に、ファッテンベルクに着いたと報告せねば」
「お父上! 剣聖の!」
「や、それはせねばなりませぬな!」
「申し訳ありません」
「いやいや、構いませぬ。町の入口にございます」
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ファッテンベルク冒険者ギルド。
ファッテンベルクの屋敷はこの町を抜けた反対にあるので、到着は夕刻か日が沈む頃になるそうな。
さっさと連絡を終えて行かねば。
フリッツの方は、先に屋敷へ急ぐと、馬を飛ばして行ってしまった。
ルトガーはマサヒデと一緒に冒険者ギルドに入る。
(おっと・・・)
今までに見た事ない雰囲気のギルドだ。
ロビーに居る者達も、今までの冒険者とは少し空気が違うし、装備も違う。
流石はファッテンベルクと言うべきか、それとも、荒い土地ゆえと言うべきか。
どれも腕利き傭兵と言った感じで、ぎらっとしている感じがする。
流石にファッテンベルク、あれに見える毛色の違う犬族は、おそらく狼族か。
「いらっしゃいませー! ファッ・・・あーっ!」
受付嬢が声を上げた。
「皆さん! トミヤス様ですよ!」
がたがたっ! とロビーの冒険者達が立ち上がる。
「何っ!?」「本物か!?」「来たのか!」
騒ぎ出したところで、ルトガーがマサヒデの後ろから前に出る。
「待てえい! 待て待てい! 控えい!」
ルトガーの大きな声がロビーに響く。
「・・・」
しん、と静まり、冒険者達の動きが止まる。
「ファッテンベルク私兵軍少尉、第一騎兵隊所属、ルトガー=オストマルクである! トミヤス様にはお急ぎの御用である! 皆の者! 此度は控えよ!」
かたり、かたり、と静かに椅子を鳴らし、冒険者達がそっと座る。
受付嬢も、ぴしりと背を正している。
これはやりづらい・・・
マサヒデは受付嬢に向いて、
「あの、ですね」
「はいっ!」
「通信を使わせて下さい」
「はいっ! 誰か!」
「はっ!」
たたっ! とメイドが走って来て、マサヒデの前に立つ。
「トミヤス様を通信室へご案内下さい!」
「はっ! トミヤス様、どうぞこちらへ!」
「宜しくお願いします」
か! か! か! と靴を鳴らして歩いて行くメイドに、マサヒデも身を固くしてついて行く。
私兵達は恐ろしいのだろうか。
言葉は悪いが、よく飼い慣らされていると言うか・・・
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ぎぎい・・・と分厚い扉が開き、通信室の中。
メイドがぽぽぽん、と操作して、マサヒデの方を向き、
「トミヤス様、連絡先はどちらへ」
「日輪国、シライ領、オリネオの町の冒険者ギルドです」
「はい」
ぽんぽん、ぽん、ぽん・・・
ぷん、と画面が浮かび、見慣れたオリネオのギルドの通信室が浮かぶ。
しばらくして、向こうのメイドが部屋に入って来て、画面の前に立った。
「トミヤス様」
「ご無沙汰してます。今、ファッテンベルクに着きました」
「ついに」
メイドが頬笑み、マサヒデも笑顔になった。
「はい。これから、イザベルさんのご家族にご挨拶をして。ええと、ですね・・・終わったら、ジョアルに戻って、船で首都へ直行する事にしました」
「左様でしたか」
「陸路だと、半年も砂漠を歩く事になるので、流石に時間が掛かりすぎですから」
「はい」
「何事もなければ、4ヶ月もせずに魔の国の首都に着きますと、連絡を頼みます。何かあれば、また連絡します」
「はい。ご武運をお祈り申し上げます」
マサヒデが頭を下げ、向こうのメイドも頭を下げると、ぷん、と画面が消えた。
「ありがとうございました」
「お役に立てまして、何よりでございます」
このメイドの態度も、いつもは違うのだろうか?
まさか、ジョアルの冒険者ギルドみたいに、にゃんにゃん言わないだろうか?
ファッテンベルクは狼族だから、わんわんとか・・・
「では」
ぎぎい、と重い扉が開いた。
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静まり返ったロビーに戻り、受付の前に立つ。
「おいくらでしょう」
「お代など」
「私はそういう事はしません」
受付嬢がちらりとルトガーを見ると、ルトガーが目で頷く。
「銀貨で10枚です」
マサヒデが懐から小袋を出して、じゃらじゃらと銀貨を出して、1枚、2枚と置いていく。
「はい」
「丁度、お預かり致します」
「それでは」
マサヒデとルトガーが出ていくと、冒険者達がざわめき始めた。
表でシトリナに跨ったままのイザベルが笑う。
「マサヒデ様はどこのギルドでもご人気で、私、鼻が高くなりそうです」
「ふふ。高くしてくれて構いませんよ。でも、トミヤスと比べてあいつはどうだ、なんて言われないで下さいね」
「私も今や冒険者。これでも分かっております」
「結構」
マサヒデが頷いて、しゃ! と黒嵐に跨る。
「では、行きましょうか。お屋敷に着く前に、何処かで馬車を停めて着替えないといけないですね・・・」
マサヒデが手で馬車の御者台のトモヤに行くぞ、と合図すると、馬車が動き出す。
マサヒデ達も、馬を進め始めた。
夜には、ファッテンベルク本家、エッセン=ファッテンベルクのお屋敷だ。




