第24話
ここはファッテンベルク領の端の街道脇。
迎えに来ていた兵が建てておいてくれたゲルに入り、マサヒデ達は一休み。
流石に全員は入れないので、女性陣と、マサヒデ、アルマダが中。
他は外で床几を用意されて、好きに茶を飲んでいる。
皆は焚き火の周りで、小さな座布団の上に座っているが・・・
「フリッツ=メディングと申しまする」
「ルトガー=オストマルクと申しまする」
兵2人はクレールを前に、膝を付いている。
「お出迎え、感謝致します」
「「ははっ!」」
「ここは公の場でもございませんので、気楽になさって下さい。私もそう致します」
「「ははっ!」」
「お茶をご用意して下さっておられるとか。さあ、皆で楽しみましょう」
「は! しばしお待ち下さいませ!」
焚き火に掛けられたやかんからは、ぷつぷつと沸騰している音が聞こえる。
フリッツが蓋を開け、中を覗いて鼻を鳴らした後、頷いて、大量の砂糖をぶち込み、ぐるぐるかき回してから、ミルクを足していく。
ルトガーは隅の箱から小さなカップを出して、盆の上に置いていく。
少しして、ぽこぽこぽこ・・・とまた沸騰の音。
フリッツが小さなカップに茶漉しを通し、薄く白い茶色の液体を注ぎ、ルトガーが皆の前にカップを置いていく。
「ささ、どうぞ」
すん、とマサヒデが鼻を鳴らす。紅茶の匂いはするが、生姜か?
「紅茶・・・なんですか?」
「紅茶は紅茶ですが、これはチャイという飲み物と言うか、飲み方と言いますか。お疲れの身体には良い飲み物です」
「へえ・・・初めてです。頂きます」
ふー。ふー。つ・・・
おお! とマサヒデが驚く。
「うわ、あっまいですね、これ! いや、砂糖入れてたから分かってましたけど、想像以上に甘いですよ」
「本当ですね・・・初めての味です」
アルマダも驚いている。
クレール、ラディは頷きあって、
「美味しいですね!」
「はい」
フリッツがにんまり笑う。
「安い茶の葉では、こうして飲むのです。これも貧乏の知恵と申しましょうか」
「・・・言うな、フリッツ・・・」
イザベルが哀しげにチャイをすする。
「でも、すごく美味しいですよ! ね、ラディさん!」
「はい」
クレールとラディには好評。
マサヒデも甘い物は結構食べるので、好評。
カオルはいつも通りの顔で、どうだか分からない。
シズクは何を食べても美味いと言うので分からない。
アルマダは、感心した顔で頷いている。
「うむ、確かにこれは栄養の補充になりますね。大量の糖分、濃く煮出された茶、ミルクのタンパク質・・・ただ、我々人族がたくさん飲むと、身体を壊しますね。マサヒデさん、ホルニコヴァさん、あまり飲まないようにしておきなさい」
「ええ? 美味しいのに」
「マサヒデさん。薬も過ぎれば毒ですよ。ホルニコヴァさんは分かりますよね」
ラディもちょっと残念そうな顔で頷く。
「はい」
シズクはクレールに、にんまりと笑う。
「ね! クレール様、私達はいっぱい飲もうね!」
「はい!」
ふう、と兵2人が胸を撫で下ろす。
クレールにカップを投げられでもしたらどうしよう、と心配していたのだ。
上機嫌のようで良かった。
良し! ここだ! と、2人が顔を見合わせて頷く。
「トミヤス様、ハワード様。ひとつ、我らの願いを聞いて頂けませぬか」
「ん?」
「何でしょう?」
「ご休憩の間だけで結構です! 馬を見せて下され!」
「先程見て、目が奪われました! 是非にも!」
「ああ、そんな事ですか。どうぞお好きに。アルマダさん、カオルさんも良いですよね?」
「構いませんよ」「勿論」
アルマダとカオルが頷くと、じゃら! と鎧の音を立てて、ぱ! と2人が立ち上がった。軽装鎧とはいえ、金属鎧なのに、流石は狼族。身軽だ。軽くても2、3貫はあるだろうに、全くそんな風を見せない。
「では、しばし! チャイは好きに飲んで下さいませ!」
「そちらの箱に菓子もございますので、好きなだけ! されば!」
うきうきして、2人がゲルを出て行く。
「ははは! 流石はファッテンベルクの兵と言いますか」
「ふふ。皆が馬好きなのですね」
笑いながら、マサヒデとアルマダが、ちみり、ちみり、とチャイを口に入れる。
これは実に甘い。
シズクが箱の蓋を開けて、おっ、と声を上げた。
「クレール様! ドーナツがあるぞ!」
「頂いてしまいましょう!」
笑顔を向けるシズクに、マサヒデが苦笑して手を振る。
「もう甘い物はたくさんですよ」
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そして、天幕の外。
アルマダの騎士、サクマが、フリッツとルトガーに皆の馬の紹介をしていた。
「まずこちらがマサヒデ殿の愛馬、黒嵐。黒い嵐と書いて黒嵐でございますな」
「ううむ! ルトガー、これは・・・これは凄いぞ!」
「足が実に良いな! 曲がるぞ、この肉の付き方よ・・・あ! うむむ、フリッツ、この蹄を見ろ」
「むうっ! 参ったな! これは良い形だ! 走るぞ、これは! もはや蹄鉄も不用なのではないか?」
サクマが満足そうに頷く。
「流石、ファッテンベルクのお方は目の付け所が違う! まあ、我らの馬の中では一番でございましょう」
2人が眉を寄せて頷く。
「いいやあ、これ程の馬はファッテンベルクにもおりませぬなあ・・・」
「これは御大将の馬でも、とても敵わぬなあ」
「ふふふ。して! こちらが我らがアルマダ様の愛馬! ファルコン!」
「おお、これよこれこれ!」
「見たかった! 尾花栃栗毛!」
「そう! この身体で尾花栃栗毛は、世界中探してもおりますまいて!」
ルトガーが苦笑して、ぺしん! と額を叩く。
「やあ、参った!」
「これ、買ったらいくらするかな・・・」
「して、こちらが! カオル殿の愛馬! 黒影!」
「でかいっ!」
「これに乗って戦場を駆けたら!」
「胸が踊りましょう! いや、この黒影、乗っておると、気分が昂ぶるのでございまするな! まあー、馬の方から、行けよ行けよと伝えてくるのですな! 分かりましょう? そのような感じ!」
「いやあ! 分かりまするぞ!」
「かあーっ! 堪りませぬなあ!」
ぱちん! とサクマが手を叩き、シトリナを指差す。
「さあさあ、これは!」
「これが黄金馬! 何と言う輝き!」
「お嬢様が捕らえたという!」
「そう! さあて、いくら致しまするかなあ! ははは!」
「サクマ殿、話に聞いた牧場には、これが何頭もおられると?」
「真にございまするか?」
サクマが腕を組み、にやりと笑って頷く。
「ふっふっふ。真でございまするぞ。イザベル様の尽力のお陰ですなあ。もう15頭程は集まっておりましたかなあ。種付けも始まっておりましょう」
「ううむ!」
「むう・・・」
フリッツとルトガーが唸る。
「さあさあ、我らの馬も見て下され」
「おうっ!」
「是非に!」
「流石に皆様の馬には負けましょうがな・・・ふふふ・・・」
アルマダの騎士達の馬も、マサヒデが見つけた野生馬の群れから捕らえて来たのだ。
どれもでかいし、走る。
サクマがにやにやしながら、自分達の馬へ2人を案内していく。
「なあんと!?」
「これは参った!」
「はあっはっは! そこまででございますかなあ! はっはっは!」
サクマの笑い声が響いた。




