↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
22/134

第22話


 翌日、ナガタニとマスダは用事が出来たので稽古を休むと言って、オリネオの町にやって来た。


 町の門をくぐってすぐ、大きな冒険者ギルドが見え、道を挟んだ向かいに、魔術師協会こと、マツの家。


「くくく」


 マスダが怖い笑みを浮かべる。


「マスダ先生、その笑い方は何とかなりませんか」


「くく。仕方ねえだろ? 魔の国1、2の武術ってもんが分かるかもしれねえ」


「そういう所ではなく・・・まあ、参りましょう。ついでに、冒険者ギルドの方で稽古などしていきませんか?」


「それも良いかもな。前はジロウさんと立ち会っただけで終わったからな。ここの冒険者を軽くひねってやるか」


「では」


 まだ朝も早く、玄関を開けるのは少し躊躇われたが、マスダは臆する事なく、がらりと開けた。


「奥方ー! マツさーん!」


「はあーい!」


 返事がして、少ししてマツが出て来る。


「あら。マスダ様」


「おう! ちと、頼み事が出来てよお・・・」


 ん、ん、とマスダが庭の方に目をやる。


「そこの!」


 びし! とマスダが指をさす。

 言われてナガタニも目をやると、誰も居ない・・・


「こっち来い」


 少ししてから、建物の陰から、ぬるりと町人風の男が出て来る。

 困った顔で、マスダに頭を下げ、


「マスダ殿、庭で呼んで頂けませぬか・・・玄関では、通りから丸見えでございますゆえ。我ら、影護衛でございますので」


「ああん? ううむ・・・ああ、そうだよな。気を付ける。すまねえな」


 粗暴に見えて、結構素直だ。

 マスダはぽりぽり頭をかきながら、マツの方を向き、


「ちょっとな。こいつらに聞きてえ事があるんだ。物騒な話じゃねえ」


「あ、そうでしたか。何か、魔の国の事など?」


 にやあ・・・とマスダが笑う。


「ま、そんな所だ」


 子供も大人も泣き出しそうな笑顔であったが、マツはにこにこしている。


(流石、トミヤス殿の奥方は違うな)


 ナガタニはそこに感心していた。


「朝餉は済みましたか? 作りますけど」


「え!?」

「おう! 頂いちまおうか!」


 魔王様の娘が手ずから! とナガタニは驚いたが、マスダは躊躇う事はなかった。



----------



 居間にマスダとナガタニ、先程の忍も上がり、暫く待っていると、マツが膳を持って来て、3人の前に並べる。


(これが、姫の食事?)


 細く切った大根と、菜っ葉の入った味噌汁。

 焼いたメザシ。

 白米。

 茶。

 これだけ?

 マスダの分は茶碗ではなく、丼である。


「いただきますっ!」


 ばん! と手を合わせ、ばくん! ばくん! とマスダが食べていく。

 ナガタニも手を合わせ、


「それでは、頂きます」


 と、頭を下げ、上品に食べていく。


「あら・・・ナガタニ様は、箸もお上手なのですね」


「あ、ああ」


 ナガタニは箸を置き、


「うちは元々貴族だったので、しつけは結構厳しくて。祖父の代で町人になりましたが」


「あ、そうでしたか」


「なんで」


 マスダは、普通の者であれば、聞きづらい事をずけずけと聞いてくる・・・

 悪くもあるが、時には良い所でもあるか。時には、だが。


「さあ? 私は興味もなく、聞いた事もございません。何か失政をしたとか何とかとは聞きましたが」


「ふーん。俺も貴族なんて興味ねえなあ。俺が興味あるのは強さだけだ。というわけで」


 ぎろん! とマスダの目が町人姿の忍に向く。


「なあ。今日はあんたに聞きたい事があって来たんだ」


「私でございますか」


 忍が箸を置き、マスダを見る。


「全方不敗流だ。カゲミツ先生と、クノとやらの立ち会いは見てたのか」


「ああ・・・はい。見てはおりましたが、さっぱりです」


 忍が苦笑する。


「さっぱりってのはなんだ」


「お二人共、目に見えぬ速さで動きますので、打ち合う音だけが聞こえる、と言った風でございましたな」


「なんだ。分かんねえのか・・・」


 ふう、と溜め息をついて、マスダが飯をかきこむ。


「これは噂でございますが」


 忍の言葉に、ぴたりとマスダとナガタニの箸が止まった。


「かのクノなる者、素手で竜の首をもへし折るとか。ただの虫人族でございますぞ」


「ほう」


「岩を前に歩いて行くと、つるりと磨かれたように穴が出来ていたとか。家を上に蹴り飛ばせば、形そのまま、家が上に飛んだとか」


「ほおう・・・面白え噂だ」


 忍がにやりと笑う。


「が。カゲミツ様との立ち会いを見ておりました私には・・・それらの噂を、ただの噂と一蹴する事は出来ませぬ」


「ふうむ」


「そうそう。カゲミツ様との立ち会いの際、最後に放ったあの技は見えました」


「どんな技だ」


 忍が両手を上げ、


「手に、気の塊を作りましたな。目に見える程の、恐ろしい気の塊です。あれは魔術ではございませぬ。魔力があれば、我らにも分かりますゆえ。そして、その気の塊を放ったのです。地を削り、壁を壊しながら飛んでいき、最後に爆発しました」


「・・・ほおう・・・」

「目に見える程の、気の塊、ですか」


 うむ、と忍が頷く。


「かの流派、気を操る事を大事としておると見ました。並大抵の修行で出来る事ではございませぬ」


「ううむ」


 マスダが唸って、湯呑を取る。


「気を、なあ・・・見える程にか」


 マスダが使う柔鋼流も、気功などを使いはするが・・・

 左の手の平を上げて、じっと見つめる。

 目に見える程の気。

 無理だ。


「ナガタニさんは出来るか」


「無理です」


「ふうむ・・・その修行法が、カゲミツ先生がもらったって伝書にあるかな。ある、よなあ・・・」


「・・・」「・・・」


 ナガタニも忍も黙り込んでしまった。

 少しして、ふん、とマスダが笑った。


「ま! 考えて分かんねえならどうしようもねえ。カゲミツ先生が併伝するのを待つか・・・そのうち、教えてくれんだろ」


 がつがつがつ! と飯をかきこみ、マスダが丼を差し出した。


「奥方、おかわり良いかい!」


「はい」


 マツが丼を受け取り、ぽてぽてと飯を盛って、マスダに差し出す。

 マスダが受け取って、味噌汁の大根を摘み、がつがつっ! と飯をかきこんだ。



----------



 その後、マスダとナガタニは冒険者ギルドで冒険者達の相手をし、食堂へ。


 ナガタニは感心して腕を組む。


「ううむ、流石、マサヒデ殿が稽古をつけていた者達は違いますね」


「ほう?」


 ぐびりとマスダが水を飲む。


「私が以前に籍を置いていたウスケシという町の冒険者ギルドとは、質が違います」


「確かに、結構、上手い奴も居たな」


「ええ。話には聞いていましたが、ランクと腕が良い意味で噛み合っておりません。冒険者は、訓練場の稽古だけではなく、実戦も重ねているのですから、ある程度は使えて当たり前ですが、ある程度、という質ではありませんね」


 マスダが、かん、とコップを置き、顎に手を当てる。


「ふうむ。実戦なあ。道場剣法じゃあねえ・・・そうだ。その中に、きちんと剣術が入ってやがるんだ・・・単純に立ち会うってだけじゃあ、あいつらは分からねえよなあ・・・」


「ええ。マサヒデさんも、ジロウさんも、上手い教え方をするのですね」


「確かにな。生きる剣だ・・・俺も見習わねえとな。山暮らしの頃を思い出すぜ」


「たまにここに来るのも良いと思います。道場では学べない所を学べる」


「ああ、良い事思い付いたぜ。なあ、門弟連れて来て立ち会わせてみるか?」


「む! 良いかと思います。道場とは剣の具合が違います」


「だな。実戦知ってる奴らと立ち会わせるのは大事だぜ」


 メイドが大量に料理が乗ったワゴンを、がらがらと押してくる。


「来たか。さあて、食うか」


 粗暴に見えて、マスダもきちんと師範代をしている。

 ナガタニも、もっと指導員として考えねば、と、強く感じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。