第22話
翌日、ナガタニとマスダは用事が出来たので稽古を休むと言って、オリネオの町にやって来た。
町の門をくぐってすぐ、大きな冒険者ギルドが見え、道を挟んだ向かいに、魔術師協会こと、マツの家。
「くくく」
マスダが怖い笑みを浮かべる。
「マスダ先生、その笑い方は何とかなりませんか」
「くく。仕方ねえだろ? 魔の国1、2の武術ってもんが分かるかもしれねえ」
「そういう所ではなく・・・まあ、参りましょう。ついでに、冒険者ギルドの方で稽古などしていきませんか?」
「それも良いかもな。前はジロウさんと立ち会っただけで終わったからな。ここの冒険者を軽くひねってやるか」
「では」
まだ朝も早く、玄関を開けるのは少し躊躇われたが、マスダは臆する事なく、がらりと開けた。
「奥方ー! マツさーん!」
「はあーい!」
返事がして、少ししてマツが出て来る。
「あら。マスダ様」
「おう! ちと、頼み事が出来てよお・・・」
ん、ん、とマスダが庭の方に目をやる。
「そこの!」
びし! とマスダが指をさす。
言われてナガタニも目をやると、誰も居ない・・・
「こっち来い」
少ししてから、建物の陰から、ぬるりと町人風の男が出て来る。
困った顔で、マスダに頭を下げ、
「マスダ殿、庭で呼んで頂けませぬか・・・玄関では、通りから丸見えでございますゆえ。我ら、影護衛でございますので」
「ああん? ううむ・・・ああ、そうだよな。気を付ける。すまねえな」
粗暴に見えて、結構素直だ。
マスダはぽりぽり頭をかきながら、マツの方を向き、
「ちょっとな。こいつらに聞きてえ事があるんだ。物騒な話じゃねえ」
「あ、そうでしたか。何か、魔の国の事など?」
にやあ・・・とマスダが笑う。
「ま、そんな所だ」
子供も大人も泣き出しそうな笑顔であったが、マツはにこにこしている。
(流石、トミヤス殿の奥方は違うな)
ナガタニはそこに感心していた。
「朝餉は済みましたか? 作りますけど」
「え!?」
「おう! 頂いちまおうか!」
魔王様の娘が手ずから! とナガタニは驚いたが、マスダは躊躇う事はなかった。
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居間にマスダとナガタニ、先程の忍も上がり、暫く待っていると、マツが膳を持って来て、3人の前に並べる。
(これが、姫の食事?)
細く切った大根と、菜っ葉の入った味噌汁。
焼いたメザシ。
白米。
茶。
これだけ?
マスダの分は茶碗ではなく、丼である。
「いただきますっ!」
ばん! と手を合わせ、ばくん! ばくん! とマスダが食べていく。
ナガタニも手を合わせ、
「それでは、頂きます」
と、頭を下げ、上品に食べていく。
「あら・・・ナガタニ様は、箸もお上手なのですね」
「あ、ああ」
ナガタニは箸を置き、
「うちは元々貴族だったので、しつけは結構厳しくて。祖父の代で町人になりましたが」
「あ、そうでしたか」
「なんで」
マスダは、普通の者であれば、聞きづらい事をずけずけと聞いてくる・・・
悪くもあるが、時には良い所でもあるか。時には、だが。
「さあ? 私は興味もなく、聞いた事もございません。何か失政をしたとか何とかとは聞きましたが」
「ふーん。俺も貴族なんて興味ねえなあ。俺が興味あるのは強さだけだ。というわけで」
ぎろん! とマスダの目が町人姿の忍に向く。
「なあ。今日はあんたに聞きたい事があって来たんだ」
「私でございますか」
忍が箸を置き、マスダを見る。
「全方不敗流だ。カゲミツ先生と、クノとやらの立ち会いは見てたのか」
「ああ・・・はい。見てはおりましたが、さっぱりです」
忍が苦笑する。
「さっぱりってのはなんだ」
「お二人共、目に見えぬ速さで動きますので、打ち合う音だけが聞こえる、と言った風でございましたな」
「なんだ。分かんねえのか・・・」
ふう、と溜め息をついて、マスダが飯をかきこむ。
「これは噂でございますが」
忍の言葉に、ぴたりとマスダとナガタニの箸が止まった。
「かのクノなる者、素手で竜の首をもへし折るとか。ただの虫人族でございますぞ」
「ほう」
「岩を前に歩いて行くと、つるりと磨かれたように穴が出来ていたとか。家を上に蹴り飛ばせば、形そのまま、家が上に飛んだとか」
「ほおう・・・面白え噂だ」
忍がにやりと笑う。
「が。カゲミツ様との立ち会いを見ておりました私には・・・それらの噂を、ただの噂と一蹴する事は出来ませぬ」
「ふうむ」
「そうそう。カゲミツ様との立ち会いの際、最後に放ったあの技は見えました」
「どんな技だ」
忍が両手を上げ、
「手に、気の塊を作りましたな。目に見える程の、恐ろしい気の塊です。あれは魔術ではございませぬ。魔力があれば、我らにも分かりますゆえ。そして、その気の塊を放ったのです。地を削り、壁を壊しながら飛んでいき、最後に爆発しました」
「・・・ほおう・・・」
「目に見える程の、気の塊、ですか」
うむ、と忍が頷く。
「かの流派、気を操る事を大事としておると見ました。並大抵の修行で出来る事ではございませぬ」
「ううむ」
マスダが唸って、湯呑を取る。
「気を、なあ・・・見える程にか」
マスダが使う柔鋼流も、気功などを使いはするが・・・
左の手の平を上げて、じっと見つめる。
目に見える程の気。
無理だ。
「ナガタニさんは出来るか」
「無理です」
「ふうむ・・・その修行法が、カゲミツ先生がもらったって伝書にあるかな。ある、よなあ・・・」
「・・・」「・・・」
ナガタニも忍も黙り込んでしまった。
少しして、ふん、とマスダが笑った。
「ま! 考えて分かんねえならどうしようもねえ。カゲミツ先生が併伝するのを待つか・・・そのうち、教えてくれんだろ」
がつがつがつ! と飯をかきこみ、マスダが丼を差し出した。
「奥方、おかわり良いかい!」
「はい」
マツが丼を受け取り、ぽてぽてと飯を盛って、マスダに差し出す。
マスダが受け取って、味噌汁の大根を摘み、がつがつっ! と飯をかきこんだ。
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その後、マスダとナガタニは冒険者ギルドで冒険者達の相手をし、食堂へ。
ナガタニは感心して腕を組む。
「ううむ、流石、マサヒデ殿が稽古をつけていた者達は違いますね」
「ほう?」
ぐびりとマスダが水を飲む。
「私が以前に籍を置いていたウスケシという町の冒険者ギルドとは、質が違います」
「確かに、結構、上手い奴も居たな」
「ええ。話には聞いていましたが、ランクと腕が良い意味で噛み合っておりません。冒険者は、訓練場の稽古だけではなく、実戦も重ねているのですから、ある程度は使えて当たり前ですが、ある程度、という質ではありませんね」
マスダが、かん、とコップを置き、顎に手を当てる。
「ふうむ。実戦なあ。道場剣法じゃあねえ・・・そうだ。その中に、きちんと剣術が入ってやがるんだ・・・単純に立ち会うってだけじゃあ、あいつらは分からねえよなあ・・・」
「ええ。マサヒデさんも、ジロウさんも、上手い教え方をするのですね」
「確かにな。生きる剣だ・・・俺も見習わねえとな。山暮らしの頃を思い出すぜ」
「たまにここに来るのも良いと思います。道場では学べない所を学べる」
「ああ、良い事思い付いたぜ。なあ、門弟連れて来て立ち会わせてみるか?」
「む! 良いかと思います。道場とは剣の具合が違います」
「だな。実戦知ってる奴らと立ち会わせるのは大事だぜ」
メイドが大量に料理が乗ったワゴンを、がらがらと押してくる。
「来たか。さあて、食うか」
粗暴に見えて、マスダもきちんと師範代をしている。
ナガタニも、もっと指導員として考えねば、と、強く感じた。




