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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
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第20話


 ジョアルの町を出て、馬に跨がり、街道を歩く。


 昼は宿で作ってもらった弁当で済ませ、街道を歩いて行く。

 この辺りはまだ緑があるが、北に行くと砂漠地帯になるそうな……


「イザベルさーん」


「ははっ!」


 返事がして、かっぽ、かっぽ、とイザベルの馬が出て来る。


「この街道、まっすぐなんですよね」


「はい。これが国道100号線です。東西の陸上輸送の主要路ですから、一番安全で、道もしっかりしております」


「ファッテンベルク領までは、どのくらいあるんです?」


「替え馬を使って馬を飛ばせば1ヶ月です」


「それは前にも聞きましたが、馬車と一緒に行くとどのくらいでしょう?」


 イザベルが目を逸らし、尾を丸める。


「……3ヶ月ほど……」(ぼそ)


 ぎくりとして、マサヒデとアルマダがイザベルに目を向ける。


「えっ? 何ですって?」

「イザベル様、もう一度」


「3ヶ月ほど」


「米衆の横断と同じくらい掛かるんですか!?」

「ご冗談を!?」


 イザベルの気不味い顔が、全てを物語っている……

 これは嘘ではない! 真実! 紛れもない! 現実なのだ!


「街道沿いでありますので、町も多く……補給は……うにゃうにゃ」


 イザベルの最後の言葉は、2人には聞こえなかった。


「……」「……」


 どうしようもない。

 ファッテンベルク領は、この魔の国の南大陸のど真ん中。

 周りに海はないから、馬で行くしかないのだ……


「じゃあ、じゃあですよ。そこから東に出て、海沿いに北上? ファッテンベルク領は中央ですから、また3ヶ月?」


「……はい」


「北上するのに、どのくらい?」


「……砂漠もありますので……」


 も、あります、ではなく、この南大陸の北側は、ほとんど砂漠なのでは?

 聞くのが怖い。一体、どれほどかかるのだ?


「どのくらい?」


「陸路ですと……急いで半年程」


 マサヒデもアルマダも口を開けてしまった。

 後ろで聞いていたカオルも、呆然としている。


「半年!? 急いで!?」


 ファッテンベルク領へ、ここから3ヶ月。

 ファッテンベルク領から、東海岸まで3ヶ月。

 そして、北上して半年……合わせると!


「じゃあ、合計で1年掛かるんですか!? ここから魔王様の所に行くまで、1年も!?」


「は……」


 マサヒデが後ろで口を開けているカオルに振り向く。


「カオルさん!?」


「は!? ははっ!」


「あなた、海沿いで砂漠を越えよう、ご覚悟を、なんて言ってましたよね!?」


 つい、とカオルが目を逸らす。


「さあ、覚えておりません」


「……」


 今すぐ港に戻り、船に乗って行けば……

 マサヒデがアルマダに目をやると、うむ、とアルマダが頷く。


「マサヒデさん。今すぐ港へ戻りましょう」


 う、とマサヒデが狼狽える。


「い……いや。それは流石に。イザベルさんのご家族には挨拶しないと」


「では妥協しましょう。ファッテンベルクへは行きます。行きますが、ジョアルへ戻り、船で首都に行きましょう。その時点でも半年。そこから船旅もあるんです」


「……」


 そうだ。魔族と人族では、時間の概念が違う。

 イザベルは人族より遥かに長生きだから、たかが1年であろうが、マサヒデ達には1年も、なのだ。


「イザベルさん。確認しますよ。ここから北の方は、ほとんどが砂漠なんですよね」


「はい」


「そこを? 半年も? 進む?」


「はい」


「米衆大陸みたいな砂漠ではなくて、全てが砂だけの所を、半年?」


「はい」


「アルマダさん、ファッテンベルク領からジョアルに戻りましょう。船です」

「そうですよ! 無理です!」


 マサヒデもアルマダも、砂漠には米衆連合でうんざりしてしまい、早く魔の国に行きたい、と言っていたのだ。

 そして、この魔の国の砂漠は、米衆連合のそれよりも遥かにきつい。


「直線ならば、2ヶ月程の距離ですが……街道を外れると、野盗や魔獣が多く、余計に時間を食うかと……」


 何故、馬を『飛ばして』1ヶ月という所に気が付かなかったのか……

 ファッテンベルクという馬と一緒に育つような者達が飛ばして、1ヶ月。

 マサヒデもアルマダも、陸路という所をすっかり忘れていた。


 既に半年は過ぎている。

 ファッテンベルク領からジョアルに戻った時点で、1年くらいになるのだ。

 そこから魔の国の首都まで、また何週間も海の上。


 何事もなく魔王様に謁見が出来たとしても、それから、クレールの実家、レイシクラン本家へも行かねばならない。レイシクラン本家の領地は、首都から更に北で、砂漠ではないが陸路である。


「しまった……予想以上にマツさんを待たせてしまう……」


「む、ううむ……マサヒデさん、どうしようもないですよ」


 帰りは船で帰って行くとしても、2年は超えそうだ。



----------



 その頃、日輪国トミヤス道場では―――


 マサヒデの父、剣聖ことカゲミツと、マサヒデの第一夫人マツが、世界地図を挟んで首を傾げていた。


 周りには、錚々たる面子が顔を並べる。


 カゲミツの友人の猫族で、居合の頂点・サカバヤシ流夢想派の宗家、ジンゴロウ=サカバヤシ。

 本来は門外不出という古流空手、柔鋼流のショウジ=マスダ。虎族。師範代。米衆連合国のマフィアの闘技場で、王者であった男である。

 トミヤス道場高弟、ナタノスケ=ナガタニ。一剣流ゾエ派の次代宗家に指名され、現在はトミヤス道場に修行に来ており、指導員を勤めている。


 マツが魔の国の南大陸の、西に出っ張った所の南側を指差す。


「ここがジョアルという港町でして、マサヒデ様達は今ここに」


 カゲミツが腕を組んで頷く。


「ふんふん。ここで船の物資の補充しつつ? 休憩中って感じか?」


「いえ。イザベルさんのお家にご挨拶に向かっているかと」


「てことは、ファッテンベルク……ってえと……どーこー……だ?」


 つつつ……マツの指が滑っていく。


「ここです」


「ほうほう……って南大陸のど真ん中じゃねえか!」


「はい」


「わーははは!」


 マスダが笑い、つん、とナガタニがマスダを肘で小突く。

 カゲミツがちらりとマスダを睨んで、マツに目を戻す。


「どんだけ掛かると思う?」


 マツが小首を傾げる。


「さあ……街道がこうぐねぐね曲がっていますから……馬車もありますし、3ヶ月掛かるか掛からないか? でしょうか」


 ぱしん! とカゲミツが額に手を当てる。


「かあーっ! あいつ馬鹿なのか!?」


 くす、とマツが笑って、


「お父上、別にマサヒデ様のせいでは」


「じゃあイザベルさんのせいだってのかい?」


 マツがにっこり笑って首を振る。


「いいえ。これはお父様(魔王)のせいです」


「なんで」


「ここにファッテンベルクという領地を作ったのは、お父様ですもの」


「ははははは!」


 ジンゴロウが笑い、マスダもナガタニも笑う。


「ははは! こいつは一本取られたな!」


 ナガタニが笑いながら、


「ふふ。では、このファッテンベルクに参りました後は……北上?」


「ううん……予定はないそうですけど、まさか陸路は行かないかと思いますよ。このすぐ北からは、ぜーんぶ砂漠! 川とオアシスの周り以外は、もう砂しかないんです。ジョアルに戻って船だと思います。そのまま首都に行くか、北の大陸に行って、レイシクランに行くか」


「ちなみにだけど、レイシクラン領ってどこ?」


 マツが北大陸と南大陸の間の海峡に指を置き、奥まで持っていく。

 突き出した半島の真ん中、やや南。


「ここが首都ですね」


「ああ」


「で、この首都。ここから北の方の、ここからここまで全部」


 北大陸の西半分。

 これが全部レイシクラン領!?


「まじで!?」


「分家がいくつかありますから。クレールさんの家、本家だけですと、この辺り」


 マツが北大陸の西の海岸沿い辺りで、指で丸を描く。


「ふうん……」


「ここで大体、700万石の広さですね。広さだけで、内実は遥かに上です」


「は!?」「何!?」「700万石!?」


 マスダ以外は驚いて声を上げた。


「それってすげえのか?」


 は、とカゲミツが呆れた溜め息を吐き、


「マスダさんよお、この日輪国の石高、知らねえみたいだな」


「知らねえ」


「大体、420万石だ」


 マスダがぎょっとして、


「何!? て事は、あのおちびちゃんの家は、この国が丸ごと入っちまうくらいあるのか!?」


「そおだよ! なあ、マツさん、分家も入れると、全部でどのくらいになんだ?」


「3000万石を少し超えるくらいですね。広さだけなら、ですけど」


「マジかよ。そんなにでかかったのかよ」


 ジンゴロウが苦笑しながら顎を撫で、ナガタニは言葉無く唸るのみ。


「もう笑うしかないな。日輪国7つ分を超えるのか」

「う、ううむ」


「農地開発がされていない所もありますし、石高はまだまだ増えそうですね。油田や鉱床なんかが見つかったらどうしましょう。うふふ」


 マスダが髭を引っ張りながら、この場の誰もが、聞きたいが聞きたくない、という質問を放った。


「じゃあよお、奥方の家、魔王様ん所はどうなんだよ」


 皆がぎくりとする中、


「あら!」


 と、マツが声を上げた。


「うふふ。驚かないで下さいね。実は、310万石です。内実、400万石いかないくらいですね」


「えっ」


 ナガタニが呆けた顔で声を上げた。

 世界に君臨する魔王様の直轄領地は、たった310万石?

 レイシクランの10分の1?


「うちの直轄領は、この半島だけです」


 マツが海峡の奥の突き出した半島を指差す。

 は? とマスダが肩を落とす。


「ええっ? それだけ? 魔王様って、世界で一番凄いんじゃねえのか?」


「これでも広いんですよ。お父様は、魔の国の全領地から上がってくる書類やら何やらで、毎日てんやわんやなんですから。もっと少なくしたいって言うくらいです」


 カゲミツが顎に手を当てて頷く。


「ああ、忙しくて、自分の領地なんか見てる暇もねえって感じか」


「はい。そういう事です。うふふ。今は、マサヒデ様のお迎えに、もっと忙しくしておられるでしょうか。あれしよう、これしよう、なんて……」


 ううむ! とマスダが腕を組む。


「魔王様の歓迎か! やっぱマサヒデさんは違うよなあ!」


「ううむ、そうですね!」


 ナガタニも頷いたが、すぱん! とカゲミツに頭をはたかれた。


「なあに言ってやがる! 当たり前だろ! 俺の息子なんだからよ!」


 ジンゴロウが笑う。


「ははは! カゲやん、それは違うぞ。マツ殿の旦那だからだ!」


「あらら。そりゃあそうだよな。ははは!」


「おほほほ!」


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