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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
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第16話


 翌日。


 今日はクレールも冒険者ギルドに出掛け、魔術の出稽古で、部屋にはラディと2人。

 マサヒデはラディに手首を押さえられ、脈を計られていた。

 ラディがメモを出して、さらさらと書いていく。


「どうです」


「結構です。少し頭を上げて下さい」


 マサヒデが頭を上げると、ラディが枕とマサヒデの頭の間に手を入れて、じっと集中する。


「ううん……結構です。異常はないです」


「ほおら、何も無い」


 マサヒデが笑ったが、ラディは笑いもせず、


「大人しく寝ていると言ったのはマサヒデさんです」


「む」


「何日かは休んで下さい」


 ふい、とマサヒデが横を向く。


「つまんないですね……」


 きらりとラディの眼鏡が光る。


「駄目です。絶対安静です。居合の練習などしないで下さい」


「……」


 やはり図星であったか。

 くい、とラディが眼鏡を上げ、


「私が見張ります」


「やめて下さいよ」


「駄目です。マサヒデさんには見張りが必要です」



----------



 ラディは鉄砲を3丁も持って来て、マサヒデの部屋で整備を始めた。


「……」


 かちかちかち……

 静かに鉄砲が分解されていく。


「……」


 じー……


「……」


 かちかちかち……

 静かに鉄砲が組み上げられていく。


「よし……」


(良くないなあ)


 マサヒデの方は落ち着かない。

 ひりひりした緊張感が部屋を包んでいる。


「その鉄砲、米衆で拾ってきたやつですね。散弾銃」


「はい」


「使うんですか?」


「機会があれば……馬車で襲われた時は、これを使います」


 かし、と鉄砲の手元を折るように開けると、中から赤い弾薬が2つ飛び出す。


「でかい弾ですね」


「はい」


「なんで馬車なんです」


「しっかり狙わなくても、取り敢えず当たりますから……」


 馬車は揺れるから、八十三式や短銃では難しいか。

 飛び出した弾薬を抜き、ふ! とラディが埃を拭いて、折れた鉄砲を戻し、ハンマーを上げて、がち、がち、と引き金を引く。


「ううん……」


 もう一度ハンマーを上げ、がち、がち。


「ううん……」


「何かおかしいんですか」


「いえ。引き金の具合が難しくて……」


 ボロ布を銃身に突っ込み、中の掃除。

 いつまで経っても終わりそうにない。


(堪らんなあ)


 マサヒデはラディに背を向け、横向きに転がった。

 全く眠くはない。



----------



 冒険者ギルド、訓練場では、巻きの練習中である。


「ゆっくり、ゆっくり……そうです、そうです」


 カオルがじっと冒険者の剣を見ている。

 冒険者がゆっくりと剣を回す。


「そのままそのまま……回すのではなく、絡めるように……右手は動かさずに」


「こう、でっか……」


「外れたと思ったら、止めて下さい」


「はい」


 ゆるうり、ゆるうり、と冒険者の剣が回る……


「ここや!」


 ぴたりと冒険者の剣が止まる。


「そう! そこです! 剣を見て下さい。相手側は外れています」


「あ!」

「ほんまや!」


「実戦では、派手に弾くより、出来る限りこれを使った方が宜しい。さ、お相手を。構えて下さい」


「はい!」


 冒険者が構えた所に、カオルの木刀が絡む。


「見ていて下さい。こうです」


 する、とカオルの木刀が出る。

 絡んだ瞬間、小さく、かた、と音がした。

 すかん! と相手の剣が横に。


「このまま突き入れれば勝ち」


 カオルが一歩前に踏み込み、冒険者の剣はカオルの横。

 カオルの木刀は冒険者の顔の横をすっと通り、肩の上に落ちる。


「この通り。本番なら、顔か喉に突き刺さっていました」


「なーるーほーどー!」

「うわ怖!」


 カオルが木刀を引き、納める。


「相手の正中線を取っていれば、必ず決まります。大事なのは、ここで回す事よりも、相手の正中線を取ること。正中線を取っておらずに踏み込んでも、外れる事が多いです」


「ほおー!」


「心得のある者同士の勝負は、正中線の取り合いなのです。ほら、睨み合いだけで『参りました』という勝負、講談や絵物語などで見た事はございませんか」


「あー!」

「そおーいう事やったんかあ!」


 む、とカオルが頷く。


「こちらが動いても、相手がぴたりと正中線を取ってくる。こちらが正中線を取ろうとしても外される。そこで、これは相手の方が上だ……と分かるのですね」


「はあー!」

「ほえー!」


「もう一度、構えてもらえますか」


「あ、はい」


 カオルも木刀を構え、横で見ている冒険者に、


「宜しいですか。正中線を完全に取れる相手には、もはや巻きすら必要ないのです。正中線は分かりますか」


「はい」

「真ん中すよね」


「切先を私の喉に向け、正眼に構えて下さい」


 互いに正眼。

 カオルの切先と、冒険者の剣先が当たる。

 す、とカオルが踏み込むと……


「いー!?」


 カオルの木刀はまっすぐ冒険者の喉元へ。

 冒険者の剣先は、カオルの木刀に割り入られ、横に逸れていく。


「なんでえー!?」

「うーわ鳥肌きた!」


 カオルがにやっと笑う。


「ふふふ。こうなるのです。出来るにこした事はありませんが、ここまでは求めません。まずは先程の巻きで、くるっと逸らしてしまう練習を。弾く事もないので、得物を痛める事もなく、長く戦えます」


「あそうか!」

「うわ凄!」


「これが剣術というものです」


 自分も少しは成長したものだ。

 驚く冒険者を見て、カオルが頷く。

 心中は、満足顔でにやにや笑っている。

 マサヒデに手ほどきを受けていなかったら、ここまでの事は出来なかった。


「さ、もう一度。いきなり実戦で使えるものを求めず、最初はゆっくり、相手の剣を引っ掛けて絡めるのです。これが巻き。100中100が出来るまで。そうしたら、少し速く、100中100。また少し速く……技術は技術ですが、手の内の感覚です。そう長くは掛からないでしょう」


「ほんまでっか?」


「必ず出来ます。イザベル様など、皆様よりも覚えるのは遅いはずですが、マサヒデ様の所に来てから、このような技術を学び、もういくつかは出来るようになっております。あんなに長い剣でですよ」


 寿命の長い者ほど、技術の覚えは遅い、というのが基本である。

 だが、感覚の部分が大きい技術なら、感覚の鋭い種族なら覚えやすい。

 特に獣人族などは感覚が鋭いので、意外と人族と変わらず覚えられるのだ。


「おおー……よしゃ、頑張ろ!」

「やったるで! お前を巻きで倒したる」

「言うたな!」

「絶対、俺が先。お前、不器用大王やからな」


 ふ、と笑って、別の冒険者の組に向かって歩いて行く。

 ここの住人は、皆、賑やかなものだ……


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