第16話
翌日。
今日はクレールも冒険者ギルドに出掛け、魔術の出稽古で、部屋にはラディと2人。
マサヒデはラディに手首を押さえられ、脈を計られていた。
ラディがメモを出して、さらさらと書いていく。
「どうです」
「結構です。少し頭を上げて下さい」
マサヒデが頭を上げると、ラディが枕とマサヒデの頭の間に手を入れて、じっと集中する。
「ううん……結構です。異常はないです」
「ほおら、何も無い」
マサヒデが笑ったが、ラディは笑いもせず、
「大人しく寝ていると言ったのはマサヒデさんです」
「む」
「何日かは休んで下さい」
ふい、とマサヒデが横を向く。
「つまんないですね……」
きらりとラディの眼鏡が光る。
「駄目です。絶対安静です。居合の練習などしないで下さい」
「……」
やはり図星であったか。
くい、とラディが眼鏡を上げ、
「私が見張ります」
「やめて下さいよ」
「駄目です。マサヒデさんには見張りが必要です」
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ラディは鉄砲を3丁も持って来て、マサヒデの部屋で整備を始めた。
「……」
かちかちかち……
静かに鉄砲が分解されていく。
「……」
じー……
「……」
かちかちかち……
静かに鉄砲が組み上げられていく。
「よし……」
(良くないなあ)
マサヒデの方は落ち着かない。
ひりひりした緊張感が部屋を包んでいる。
「その鉄砲、米衆で拾ってきたやつですね。散弾銃」
「はい」
「使うんですか?」
「機会があれば……馬車で襲われた時は、これを使います」
かし、と鉄砲の手元を折るように開けると、中から赤い弾薬が2つ飛び出す。
「でかい弾ですね」
「はい」
「なんで馬車なんです」
「しっかり狙わなくても、取り敢えず当たりますから……」
馬車は揺れるから、八十三式や短銃では難しいか。
飛び出した弾薬を抜き、ふ! とラディが埃を拭いて、折れた鉄砲を戻し、ハンマーを上げて、がち、がち、と引き金を引く。
「ううん……」
もう一度ハンマーを上げ、がち、がち。
「ううん……」
「何かおかしいんですか」
「いえ。引き金の具合が難しくて……」
ボロ布を銃身に突っ込み、中の掃除。
いつまで経っても終わりそうにない。
(堪らんなあ)
マサヒデはラディに背を向け、横向きに転がった。
全く眠くはない。
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冒険者ギルド、訓練場では、巻きの練習中である。
「ゆっくり、ゆっくり……そうです、そうです」
カオルがじっと冒険者の剣を見ている。
冒険者がゆっくりと剣を回す。
「そのままそのまま……回すのではなく、絡めるように……右手は動かさずに」
「こう、でっか……」
「外れたと思ったら、止めて下さい」
「はい」
ゆるうり、ゆるうり、と冒険者の剣が回る……
「ここや!」
ぴたりと冒険者の剣が止まる。
「そう! そこです! 剣を見て下さい。相手側は外れています」
「あ!」
「ほんまや!」
「実戦では、派手に弾くより、出来る限りこれを使った方が宜しい。さ、お相手を。構えて下さい」
「はい!」
冒険者が構えた所に、カオルの木刀が絡む。
「見ていて下さい。こうです」
する、とカオルの木刀が出る。
絡んだ瞬間、小さく、かた、と音がした。
すかん! と相手の剣が横に。
「このまま突き入れれば勝ち」
カオルが一歩前に踏み込み、冒険者の剣はカオルの横。
カオルの木刀は冒険者の顔の横をすっと通り、肩の上に落ちる。
「この通り。本番なら、顔か喉に突き刺さっていました」
「なーるーほーどー!」
「うわ怖!」
カオルが木刀を引き、納める。
「相手の正中線を取っていれば、必ず決まります。大事なのは、ここで回す事よりも、相手の正中線を取ること。正中線を取っておらずに踏み込んでも、外れる事が多いです」
「ほおー!」
「心得のある者同士の勝負は、正中線の取り合いなのです。ほら、睨み合いだけで『参りました』という勝負、講談や絵物語などで見た事はございませんか」
「あー!」
「そおーいう事やったんかあ!」
む、とカオルが頷く。
「こちらが動いても、相手がぴたりと正中線を取ってくる。こちらが正中線を取ろうとしても外される。そこで、これは相手の方が上だ……と分かるのですね」
「はあー!」
「ほえー!」
「もう一度、構えてもらえますか」
「あ、はい」
カオルも木刀を構え、横で見ている冒険者に、
「宜しいですか。正中線を完全に取れる相手には、もはや巻きすら必要ないのです。正中線は分かりますか」
「はい」
「真ん中すよね」
「切先を私の喉に向け、正眼に構えて下さい」
互いに正眼。
カオルの切先と、冒険者の剣先が当たる。
す、とカオルが踏み込むと……
「いー!?」
カオルの木刀はまっすぐ冒険者の喉元へ。
冒険者の剣先は、カオルの木刀に割り入られ、横に逸れていく。
「なんでえー!?」
「うーわ鳥肌きた!」
カオルがにやっと笑う。
「ふふふ。こうなるのです。出来るにこした事はありませんが、ここまでは求めません。まずは先程の巻きで、くるっと逸らしてしまう練習を。弾く事もないので、得物を痛める事もなく、長く戦えます」
「あそうか!」
「うわ凄!」
「これが剣術というものです」
自分も少しは成長したものだ。
驚く冒険者を見て、カオルが頷く。
心中は、満足顔でにやにや笑っている。
マサヒデに手ほどきを受けていなかったら、ここまでの事は出来なかった。
「さ、もう一度。いきなり実戦で使えるものを求めず、最初はゆっくり、相手の剣を引っ掛けて絡めるのです。これが巻き。100中100が出来るまで。そうしたら、少し速く、100中100。また少し速く……技術は技術ですが、手の内の感覚です。そう長くは掛からないでしょう」
「ほんまでっか?」
「必ず出来ます。イザベル様など、皆様よりも覚えるのは遅いはずですが、マサヒデ様の所に来てから、このような技術を学び、もういくつかは出来るようになっております。あんなに長い剣でですよ」
寿命の長い者ほど、技術の覚えは遅い、というのが基本である。
だが、感覚の部分が大きい技術なら、感覚の鋭い種族なら覚えやすい。
特に獣人族などは感覚が鋭いので、意外と人族と変わらず覚えられるのだ。
「おおー……よしゃ、頑張ろ!」
「やったるで! お前を巻きで倒したる」
「言うたな!」
「絶対、俺が先。お前、不器用大王やからな」
ふ、と笑って、別の冒険者の組に向かって歩いて行く。
ここの住人は、皆、賑やかなものだ……




