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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
15/128

第15話


 アルマダ達は夕方になって帰って来た。

 カオルから話を聞き、マサヒデを見舞いに来たのだが……


「オトサメを見たんです! あれは狂人ですよ!」


「ほう」


「ラディさんが握ったら、凄い魔力が部屋にいっぱいになって!」


「ほう」


 クレールが興奮して話すので、部屋は賑やかだ。

 頷きながら返事を返すアルマダの後ろで、カオル達は苦笑を浮かべている。


「窓を開けますから、握るだけ握ってみて下さい!」


「は!?」


 クレールが鞘を持って、イザベルに月斗魔神の柄を突き出す。


「私がですか!?」


「握るだけ! 多分大丈夫です!」


 マサヒデの説得や、クレール自身が見たオトサメの記憶。

 狂気と言えど、その狂気は、平和を求める狂気であった……そうな。


「柄を握るだけですから!」


 ベッドに寝ているマサヒデが頷く。


「では……」


 恐る恐る、イザベルが手を伸ばし、ふ、と柄に手を置いた。



----------



「は!?」


 ここは……何もない。暗闇。

 星が見える。夜?


「あ、あ?」


 身体が宙に浮いている。足が……手を動かしても、ふらふらと動くだけ。


「これは!?」


 驚いてじたばたと手足を動かすが、急に安心感に包まれた。

 ばたつくのを止め、イザベルは動きを止めた。


「これは……」


 ふわふわと宙に漂い、イザベルの身体が流れていく……

 そして世界が変わる。

 この世界は……

 いくつもの世界が見える……



----------



「イザベルさんには何もなかったんですね」


「え!?」


 びく! とイザベルの身体が跳ねた。


「あっ……あ?」


「イザベルさん?」


「今、私は……」


 クレールが怪訝な顔で、驚いた顔のイザベルを見上げる。


「どうかしたんですか?」


「……今、私は……見ました」


「何か見えたんですか?」


「世界の意思が見えました……いえ、あれは魔力の意思です。進化の先……」


「……」「……」「……」「……」


 皆が怪訝な顔でイザベルを見つめる。

 これは大丈夫か?


「進化の、先……世界の、魔力の、意思……」


 すう……とイザベルが月斗魔神を抜く。

 すい、と切先を立てると、ぴきぴきぴき! と音がして、月斗魔神が伸びていく。形も変わっていく。下にも伸びていく。


「げえっ!?」


 シズクが声を上げた。

 みきみきみき!

 天井まで伸びた月斗魔神は、棒のようになっていたが、先から、横に4尺はあろうかという大きな刃が出て来る。まるで大鎌だ。禍々しい事、この上ない。


「進化の先が! 世界の意思が見えました!」


 ばふ! と音がして、イザベルの肩から黒いマントが出て来た!


「何!?」「えっ!?」「嘘おーっ!?」


 アルマダ、カオル、シズクが驚いて、ぱ! と後ろに下がる。


「我らは進化の途中!」


 ばさばさ! とマントが鳴り、イザベルの身体が宙に浮く!

 びし! びし! つなぎの袖を突き破り、反りの深い太いナイフが生えてきた!

 いや、大きさからして、もはや曲刀! 手首から肘の辺りまで伸びている!


「イザベル!」


 マサヒデが声を上げると、は! とイザベルがマサヒデに目を向け、かきん、と月斗魔神を落とし、とん、と床に下りた。

 マントも消え、腕から生えたナイフも消え、落ちた月斗魔神は、ただの刀に戻っている……


「……マサヒデ様。見ました。聞きました。感じました」


 す、とかがんで、月斗魔神を拾い、クレールの手から鞘を取って納め、クレールの手を取り、月斗魔神を持たせる。


「クレール様。仰る通り、この刀は悪い物ではございませぬ」


「……はい……」


 ぎらっとイザベルの目が光る。


「熱くなるのです! 明日を掴むのです! 過ぎた過去など振り向く必要はございません! 走り出さねば!」


「は、はあ?」


 イザベルはクレールの肩に手を置き、


「クレール様の胸の内でも、何かが叫んでいるはず! それを気付かぬ顔で過ごしておってはなりませぬ! その鼓動がクレール様を呼び覚ますのです!」


「ど、どうされました……?」


 急に様子が変わったイザベルに、クレールは引きまくっているが、イザベルは構わずにがなり続ける。


「忘れてはなりませぬ! 血潮が燃えるのであれば、他に何もいりませぬ! ただ、がむしゃらに生きれば良いのです!」


 アルマダがイザベルの肩に手を置いて、クレールから引き剥がす。


「どうしたんですか? 急に熱血な感じになって」


「ハワード様!」


 ぶうん! と髪を振り、イザベルがアルマダの方を向く。


「熱くなるのです! 夢の彼方へ! 焼け付く程に! その手を」

「えい」


 ごす! とシズクの拳がイザベルの水月に入った。


「う、く……」


 どすん、とイザベルが尻もちをつき、えふ! と息を吐いた。


「イザベル様、どうしちゃったのさ。似合わない……似合うような気もしないでもないけど」


「は……は。見えたのだ……世界の意思が……進化の先が……戦いの先が」


「どうしたのさ。変な宗教みたいな事、言わないでよ」


「うふっ……真面目な話だ……世界に揺蕩う魔力の意思……その行き着く先が……我らは戦わねば。生きる。それは戦う事であるのだ」


 ふ、とマサヒデが笑う。


「何だ、イザベルさん、今頃になって、そんな事に気付いたんですか」


「は?」


「別に剣を抜かなくたって、生きる事、即ち戦いなんです。心の臓は寝る間もなく動き、身体に血を流し、肺は休まず空気を吸ってます。四六時中、私達の身体は戦ってるんです。ただ生きるってだけでも、私達は寿命をがりがりと削ってるんですよ。これを戦いと言わず、何と言います」


「はっ! ……おっ……お、畏れ入りました……」


 イザベルが腹を抑えたまま、マサヒデに頭を下げた。


「ははは! 鼓動で目が覚めましたか!」


 落ち着いたイザベルと、笑うマサヒデを見て、皆も胸を撫で下ろした。


「ん、じゃあ、イザベルさん、その月斗魔神、もらってしまいなさい」


「は!?」


「どうやら、あなたと一番相性が良いみたいです。ただし、封印したい、と来たら、素直に渡してあげる事。良いですね」


「は!? は!?」


 ふん、とマサヒデが鼻で笑う。


「せっかくもらったんです。使ってしまいなさい。それと、後でラディさんに身体を検査してもらって下さい。さっき腕からナイフが生えてましたよ」


「腕!? ナイフ!?」


 は! とイザベルが腕を見ると、袖がばっさりふたつに切れているではないか。


「う!? 袖が! いつの間に!?」


 イザベルのつなぎの袖が、ばっくりと割れている。

 クレールが怪訝な顔で、


「気付いておられなかったのですか? 進化の途中だーって言った後、腕から大きなナイフが生えてきたんです」


「腕から!?」


 アルマダがイザベルのつなぎの肩を摘み、くいくいと持ち上げる。


「そうですとも。マントも生えてましたよ。あれは服から生えたようですね。肩が破れていたら、上半身が裸になっていたかもしれません。良かった」


「マント!?」


 ふ、とアルマダが苦笑する。


「本当に自分の変化に気付いていなかったようですね。イザベル様、宙に浮いていましたよ」


「は!? 私が!?」


 驚くイザベルを尻目に、アルマダがクレールの手の月斗魔神を見つめる。


「ううむ、服まで進化してしまうとは。恐るべし月斗魔神ですか」


 うんうん、とクレールが頷く。


「本当ですね! でも、もうイザベルさんは落ち着きましたよね」


「ちゃんと袖も進化してくれれば、破れずに済んだかもしれませんが」


「それって、進化の途中だからですよね! あははは!」


「ははは!」


 アルマダが笑いながら、クレールの手の月斗魔神を取り、イザベルの手を取って握らせる。


「マサヒデさんのお許しが出たのです。今日からイザベル様の差料です」


「は……」


 持たされた月斗魔神を、イザベルが口を開けて見つめる。

 今日から、この力を……


 こんこん。


「失礼致します」


 は! と皆がドアの方を向くと、き、と微かに音を立ててドアが開いた。


「マサヒデ様」


 クレール配下の忍だ……


「陸軍諜報部の方が来られました」


 ぷ! とマサヒデが吹き出す。


「ははは! 残念! イザベルさん、預けてきなさい」


 イザベルはがっくりと肩を落とした。

 こうして、ハヤテが持っていた月斗魔神は封印された。

 1本だけは……である。


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