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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
133/160

第133話


 マサヒデ達が港についたのは、そろそろ日が上がろうという頃であった。

 すぐに港が開く。


 アルマダはここまで考えている事があった。


 騎士達の事。


 もう勇者祭は終わった。騎士達は、ここで帰っても良いのだ。装備をハワード家に送り、無事に魔王様の所に辿り着いた、という事で、大きな報酬を貰い、贅沢に暮らしていける。


 彼らも鍛えられた。腕も上がった。日輪国に戻れば、騎士にだってなれる。近衛騎士にもなれるかもしれない。


 港入口で、休憩中の所、アルマダは4人の騎士を集めた。


「皆さんは、もう帰りますか? 貴方がたは、与えられた任務を無事に成功させました。勇者祭も終わった。私についてくる必要はありませんが」


 騎士4人が顔を見合わせ、


「アルマダ様、レイシクランに行った後は、ご帰国でしょう」


「その予定です」


「なら一緒に行きます。なあ?」


 うむうむ、と皆が頷く。


「義理とかそういったものを感じているのであれば、構いません」


「アルマダ様には、分かりませんか? 私達はどうしてもついて行きたいのです」


「何故です」


 ふ! と騎士のサクマが笑って、


「一緒に参れば、レイシクランの歓迎が受けられるのですぞ? レイシクランの歓迎なのですぞ? 超豪華なワインが飲み放題! とろける程に美味い飯を食い放題! 帰国の際も、あの凄い豪華客船にタダ乗りなのですぞ? そこの所、分かりませんか? ははははは!」


 騎士達がげらげら笑い、アルマダも笑ってしまった。


「は、ははははは!」


「それと、出来ればで宜しいのですが・・・アルマダ様、ひとつ忘れておりませんか? レイシクランの都、ブリョウの近くに、行きたい所はございませんか」


「ん?」


 はて? あの辺りに何かあっただろうか・・・眉を寄せ、腕を組む。


「北に北に・・・10日程・・・何か有名な街がございませんか・・・」


「む? む?」


 かしゃん! と鎧を鳴らし、アルマダの馬、ファルコンを指差す。


「馬で有名な街が!」


「はっ!?」


「丁度! 季節ではございませんか! 一般枠もある、あのレースが!」


「ル、ルーメン・・・」


「出たくはございませぬか! 我らの馬で!」


 ぶん! と首を振り、後ろのファルコンに振り返る。


 ルーメン・シティ!

 それは何代も前のレイシクラン当主が作った、馬の街! レースの街!

 なんと街がそのままレース場という街!

 貴族の中でも『あれは金持ち』と言われる貴族の別荘が、所狭しと立ち並ぶ!

 疾走する馬を眺め、歓声を上げるのだ!


 バカでかく広い庭ではなく、本当に狭い建物が長屋の如くに並ぶのだが、誰も文句はあげない。


 何故なら!


 馬が!

 レースが!

 好きだから!


 窓を開ければ、目の前を馬が走るのだ!

 2階に上がれば、群れをなして走る馬達を見られるのだ!


 一般枠でも上位に入れば、本物の競馬馬達と走れるのだ・・・


「夏場所・・・夏場所ですか」


 レースは春夏秋冬行われる。魔王杯ほどに大きなレースではないが、勿論、重賞である。

 ゆっくりとアルマダが騎士達に顔を戻すと、む! と騎士のリーが頷く。


「はい。十分に間に合います。予選は1ヶ月後。レイシクラン家まで10日。そこから10日の距離。間に10日もございます」


 ぷるぷるぷる・・・

 アルマダが小さく震え、顔を赤くしたり青くしたり。

 重賞レースに、自分達の馬が出られたら!


「如何!」


「もちろ・・・いや! 少々、少し! 少し待って下さい・・・」


 興奮する頭で考える。

 レイシクラン領と、ハワード領と、領地交換の話が上がっている。返事をもらったら即帰って、父に伝えねば。通信や、配達で送るわけにはいかない、大事な書簡。これは日輪国の将来を左右するほどの書簡なのだ・・・


 だが行きたい! どうするアルマダ!


「く、くく・・・い、行きたい・・・」


「結構! 参りましょう!」


 ぐう! とアルマダが目を閉じる。


「まっ・・・魔王様から、書簡を預かっていて・・・レイシクラン公爵と話をまとめ次第に、日輪国に戻らないといけない・・・」


 ああ・・・と騎士達から声。


「お可哀想に・・・」

「少しくらい、ずらせんのですか」


「ううっ! 国と・・・っ・・・国との・・・っ・・・政の話なんだ・・・っ!」


「それは気の毒な・・・」

「仕方もございませんなあ」


「く、くそっ! どうして! ルーメンの事なんか忘れてたのに!」


 ぐい! とアルマダがサクマに詰め寄る。こんな態度のアルマダは見たこともない。余程に悔しいようだ。


「いや、別に私は悪くは。責めるなら、書簡を預けられた魔王様か、今の季にレースを決めた、魔の国の競馬界で・・・」


「ううっ! く、くそ! くそ!」


 だん! だん! とアルマダが地面を踏む。

 流石に皆にも聞こえ、ぞろぞろと寄ってくる。

 アルマダが子供のように、地団駄を踏んでいる・・・


「一体、どうしたんです?」


 マサヒデが怪訝な顔で菅笠を上げると、サクマが苦笑い。


「ああ、マサヒデ殿。いや、レイシクランの都、ブリョウの北に、馬のレースで有名な街がございましてな」


「はあ」


「一般でも参加出来るのです。我らも自慢の馬がありますゆえ、参加したいと」


「あ、良いですねえ!」


 サクマが肩をすくめ、地団駄を踏むアルマダを指差す。


「しかし、アルマダ様は即帰らねばならぬ用事がございまして。魔王様から、急ぎの書簡を預かっておるのです」


「あらら」


 ぬう! とアルマダが振り返り、マサヒデの胸ぐらを掴む。


「うお」


「あらら! ではありませんよっ!」


「仕方ないじゃないですか」


「ぐ、くく・・・」


 アルマダはマサヒデの胸ぐらから手を離し、どさりと膝をつく。


「じゃあこうしましょう。アルマダさんのファルコンを預かって、イザベルさんに出てもらうとか。イザベルさんなら、ファルコンにも乗れます」


 馬だけ・・・


「そんなの嫌だ! 自分で走らせたい!」


 本当に、まるで子供だ。アルマダがこんなに乱れた姿を見せるとは、余程悔しいのか。


「でもですねえ。アルマダさんは帰らないと」


「くそ・・・っ! くそ・・・っ!」


「まあまあ、アルマダさんだけ先になんて言いませんから。私達も一緒に帰りますから。私達だけ楽しむなんてしません。ね? それで納めて下さいよ」


 ぐぐ、ぐぐ、とアルマダが拳を握る。


「はい」


「皆さん、すみませんけど」


 ああ、なんだ・・・ふう・・・と騎士達が落胆の声を上げ、首を振る。


「また来れば良いじゃないですか。寄り道とかしなければ、船なら2、3ヶ月なんでしょう? 書簡を届けて。また戻ってくれば」


「はい・・・」


「別に、日輪国で競馬に出たって良いじゃないですか・・・まあ、まあ、あれです。競馬は無理でも、アルマダさんが声を掛けたら、馬自慢の方々が、いくらでも集まるでしょう? ね?」


「はい・・・」


「さあ、そろそろ港が開くんですから。そんな格好してたら、警備兵の方々に怪しまれますって」


「はい・・・」


 アルマダが、すん、と小さく鼻を鳴らした。


(ええ!?)


 このアルマダが泣くなんて!? そんなに悔しいのか・・・

 皆、驚いて、立ち上がったアルマダを見ている。

 涙は流れていなかったが、目は潤んでいた。


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