第133話
マサヒデ達が港についたのは、そろそろ日が上がろうという頃であった。
すぐに港が開く。
アルマダはここまで考えている事があった。
騎士達の事。
もう勇者祭は終わった。騎士達は、ここで帰っても良いのだ。装備をハワード家に送り、無事に魔王様の所に辿り着いた、という事で、大きな報酬を貰い、贅沢に暮らしていける。
彼らも鍛えられた。腕も上がった。日輪国に戻れば、騎士にだってなれる。近衛騎士にもなれるかもしれない。
港入口で、休憩中の所、アルマダは4人の騎士を集めた。
「皆さんは、もう帰りますか? 貴方がたは、与えられた任務を無事に成功させました。勇者祭も終わった。私についてくる必要はありませんが」
騎士4人が顔を見合わせ、
「アルマダ様、レイシクランに行った後は、ご帰国でしょう」
「その予定です」
「なら一緒に行きます。なあ?」
うむうむ、と皆が頷く。
「義理とかそういったものを感じているのであれば、構いません」
「アルマダ様には、分かりませんか? 私達はどうしてもついて行きたいのです」
「何故です」
ふ! と騎士のサクマが笑って、
「一緒に参れば、レイシクランの歓迎が受けられるのですぞ? レイシクランの歓迎なのですぞ? 超豪華なワインが飲み放題! とろける程に美味い飯を食い放題! 帰国の際も、あの凄い豪華客船にタダ乗りなのですぞ? そこの所、分かりませんか? ははははは!」
騎士達がげらげら笑い、アルマダも笑ってしまった。
「は、ははははは!」
「それと、出来ればで宜しいのですが・・・アルマダ様、ひとつ忘れておりませんか? レイシクランの都、ブリョウの近くに、行きたい所はございませんか」
「ん?」
はて? あの辺りに何かあっただろうか・・・眉を寄せ、腕を組む。
「北に北に・・・10日程・・・何か有名な街がございませんか・・・」
「む? む?」
かしゃん! と鎧を鳴らし、アルマダの馬、ファルコンを指差す。
「馬で有名な街が!」
「はっ!?」
「丁度! 季節ではございませんか! 一般枠もある、あのレースが!」
「ル、ルーメン・・・」
「出たくはございませぬか! 我らの馬で!」
ぶん! と首を振り、後ろのファルコンに振り返る。
ルーメン・シティ!
それは何代も前のレイシクラン当主が作った、馬の街! レースの街!
なんと街がそのままレース場という街!
貴族の中でも『あれは金持ち』と言われる貴族の別荘が、所狭しと立ち並ぶ!
疾走する馬を眺め、歓声を上げるのだ!
バカでかく広い庭ではなく、本当に狭い建物が長屋の如くに並ぶのだが、誰も文句はあげない。
何故なら!
馬が!
レースが!
好きだから!
窓を開ければ、目の前を馬が走るのだ!
2階に上がれば、群れをなして走る馬達を見られるのだ!
一般枠でも上位に入れば、本物の競馬馬達と走れるのだ・・・
「夏場所・・・夏場所ですか」
レースは春夏秋冬行われる。魔王杯ほどに大きなレースではないが、勿論、重賞である。
ゆっくりとアルマダが騎士達に顔を戻すと、む! と騎士のリーが頷く。
「はい。十分に間に合います。予選は1ヶ月後。レイシクラン家まで10日。そこから10日の距離。間に10日もございます」
ぷるぷるぷる・・・
アルマダが小さく震え、顔を赤くしたり青くしたり。
重賞レースに、自分達の馬が出られたら!
「如何!」
「もちろ・・・いや! 少々、少し! 少し待って下さい・・・」
興奮する頭で考える。
レイシクラン領と、ハワード領と、領地交換の話が上がっている。返事をもらったら即帰って、父に伝えねば。通信や、配達で送るわけにはいかない、大事な書簡。これは日輪国の将来を左右するほどの書簡なのだ・・・
だが行きたい! どうするアルマダ!
「く、くく・・・い、行きたい・・・」
「結構! 参りましょう!」
ぐう! とアルマダが目を閉じる。
「まっ・・・魔王様から、書簡を預かっていて・・・レイシクラン公爵と話をまとめ次第に、日輪国に戻らないといけない・・・」
ああ・・・と騎士達から声。
「お可哀想に・・・」
「少しくらい、ずらせんのですか」
「ううっ! 国と・・・っ・・・国との・・・っ・・・政の話なんだ・・・っ!」
「それは気の毒な・・・」
「仕方もございませんなあ」
「く、くそっ! どうして! ルーメンの事なんか忘れてたのに!」
ぐい! とアルマダがサクマに詰め寄る。こんな態度のアルマダは見たこともない。余程に悔しいようだ。
「いや、別に私は悪くは。責めるなら、書簡を預けられた魔王様か、今の季にレースを決めた、魔の国の競馬界で・・・」
「ううっ! く、くそ! くそ!」
だん! だん! とアルマダが地面を踏む。
流石に皆にも聞こえ、ぞろぞろと寄ってくる。
アルマダが子供のように、地団駄を踏んでいる・・・
「一体、どうしたんです?」
マサヒデが怪訝な顔で菅笠を上げると、サクマが苦笑い。
「ああ、マサヒデ殿。いや、レイシクランの都、ブリョウの北に、馬のレースで有名な街がございましてな」
「はあ」
「一般でも参加出来るのです。我らも自慢の馬がありますゆえ、参加したいと」
「あ、良いですねえ!」
サクマが肩をすくめ、地団駄を踏むアルマダを指差す。
「しかし、アルマダ様は即帰らねばならぬ用事がございまして。魔王様から、急ぎの書簡を預かっておるのです」
「あらら」
ぬう! とアルマダが振り返り、マサヒデの胸ぐらを掴む。
「うお」
「あらら! ではありませんよっ!」
「仕方ないじゃないですか」
「ぐ、くく・・・」
アルマダはマサヒデの胸ぐらから手を離し、どさりと膝をつく。
「じゃあこうしましょう。アルマダさんのファルコンを預かって、イザベルさんに出てもらうとか。イザベルさんなら、ファルコンにも乗れます」
馬だけ・・・
「そんなの嫌だ! 自分で走らせたい!」
本当に、まるで子供だ。アルマダがこんなに乱れた姿を見せるとは、余程悔しいのか。
「でもですねえ。アルマダさんは帰らないと」
「くそ・・・っ! くそ・・・っ!」
「まあまあ、アルマダさんだけ先になんて言いませんから。私達も一緒に帰りますから。私達だけ楽しむなんてしません。ね? それで納めて下さいよ」
ぐぐ、ぐぐ、とアルマダが拳を握る。
「はい」
「皆さん、すみませんけど」
ああ、なんだ・・・ふう・・・と騎士達が落胆の声を上げ、首を振る。
「また来れば良いじゃないですか。寄り道とかしなければ、船なら2、3ヶ月なんでしょう? 書簡を届けて。また戻ってくれば」
「はい・・・」
「別に、日輪国で競馬に出たって良いじゃないですか・・・まあ、まあ、あれです。競馬は無理でも、アルマダさんが声を掛けたら、馬自慢の方々が、いくらでも集まるでしょう? ね?」
「はい・・・」
「さあ、そろそろ港が開くんですから。そんな格好してたら、警備兵の方々に怪しまれますって」
「はい・・・」
アルマダが、すん、と小さく鼻を鳴らした。
(ええ!?)
このアルマダが泣くなんて!? そんなに悔しいのか・・・
皆、驚いて、立ち上がったアルマダを見ている。
涙は流れていなかったが、目は潤んでいた。




