第134話
無事に出航準備を終えて、朝一番。
もうすぐ港を出るが、マサヒデはすぐ部屋に引きこもり、魔王様に送る手紙を書き始めた。
知り合った武術家や如何に。
オリネオに行ってから、順番に思い出していこう。
----------
まず、アブソルート流のコヒョウエ=シュウサン。カゲミツの師匠。
同じくアブソルート流、ジロウ=シュウサン。コヒョウエの息子。
武神精錬館合気柔術、ユウゾウ=クロカワ・・・
クロカワは、マサヒデが小さい頃から、ちょくちょくトミヤス道場に来てくれた。では、こっちが先か。
マサヒデやアルマダの無手術は、クロカワ仕込みが大くを占める。
本業は剣ではなく研師だが、ナリカツ=イマイ。すごい居合と抜刀の腕前。
次は・・・
----------
「ふーう!」
「たまらーん!」
「嗚呼・・・」
カオルの部屋には、クレール、シズク、ラディが集まって、寝転がってタマコの尾を顔に擦り付けている。
カオルは黙って壁を向いたまま、脈を感じろ! と集中している。
「ふわふわですうー」
「滑るー」
「気持ちいいです・・・」
とんとん。
ぴく、とカオルが動き、ゆっくり振り向いた。
「はい」
「失礼致します」
給仕の姿をしているが、忍か。
何かあったのか・・・
「そろそろ休憩のお時間です」
「あ。もうですか。ふう! 時間を忘れてしまいます」
給仕が差し出したグラスを取り、水を一口。
首を回しながら囁く。
(何かございましたか)
(いえ。タマコの尾ですが)
(尾?)
(何かあった際、ホルニコヴァ殿の治癒魔術で治せますか)
す、とタマコの方を見ると、シズクが顔にタマコの尾を擦り付けている。
もし、ぐっと押し付けたりされたら、簡単にぺらぺらの紙のように・・・
(生身であればともかく、式神の身に、治癒魔術は通るのでしょうか)
(む)
こん、とワゴンにグラスを置き、カオルが歩いて行く。
「皆様」
「はあー・・・」
「気持ちー・・・」
「はい・・・」
完全にとろけた顔。
「皆様っ!」
「はあっ!?」
「うおっ!?」
「はいっ!?」
ぎく! と3人がカオルを見上げる。
「すみませんが、タマコに尋ねたい事があるので、手を離して下さい。タマコ。ついて来なさい」
するっと3人の手から尾が抜けて、カオルと一緒にドアの外。
「早くして下さーい!」
「おおーい! 急ぎなのかよー!」
「むむ・・・」
むっすりした3人。
カオルはすぐに戻ってきて、皆の前にタマコを座らせた。
「クレール様」
「はーい?」
すりすり・・・
「もしタマコに何かございましたら、札に戻し、もう一度呼び出して下さい」
「はあー? はあ・・・」
全然聞いてない。
ふうっ、と息をついて、給仕の姿の忍の所へ。
(自分の治癒魔術は良いが、他の者の治癒は効かぬと)
(ふむ)
(身体に欠損が出た場合、札に戻し、再度呼び出す事で、封印された際の姿に)
(なるほど。死んだ場合は)
(消えるそうです。危ない時はすぐ札に戻せば良しと)
(式神といえど、命もございますか)
(命・・・とは違いましょうが、そのような感じでしょうか)
(不思議なものですね)
(はい)
----------
こちら、トモヤの部屋―――
「ローン! チートイドラ2! 裏は・・・あーねえかー」
「あっ! ちきしょう!」
「単騎かよ! 読めねえはずだあ!」
「トんだぜ!」
酒の香むんむんの部屋で、卓を囲む騎士4人。
そして、難しい顔で駒を動かし、ユカリ王妃との対局の感想を何度も行うトモヤ。
「トモヤ殿ー」
じゃらじゃらじゃら・・・
「・・・」
ぱちり。
じゃらじゃらじゃら・・・
「一局どうでございますー?」
じゃらじゃらじゃら・・・
「ええい! うるさいのう!」
がたーん! と椅子を倒し、トモヤがふんぬと立ち上がる。
のしのしと歩き、空いた席に乱暴に座り、
「東風のみじゃぞ! ワシは感想で忙しいのじゃ!」
むっとした顔で牌を集めて並べていくトモヤを見て、騎士3人が笑う。
トモヤの後ろに、トビの騎士が立つ。
「ええい! 後ろに立ちまするな!」
「トモヤ殿、通しなどしませぬ」
「どうだかのう!」
げらげらと騎士が笑う。
「ははは! 別に何も賭けておるわけでもなし!」
「そうでございますぞ!」
「むう、我らを信用出来ませぬかな? ははは!」
----------
そして四半刻後―――
すふー・・・
トモヤの対面の騎士、ジョナスがじりじりしながら、酒臭い息を吐く。
来た。
五萬を切って一・四萬待ち!
一萬が出れば! 發チャンタ三色ドラ1で跳ね! 最下位からトップ!
「・・・」
じりじりじり・・・
(問題は対面の立直)
五萬を切りたいのは山々だが、かなり危険。
ここは現物の二萬を・・・すっ。
「死中に活と申す」
「う」
ぽつっと呟いたトモヤの声に、びたりと止まるジョナスの手。
トモヤの目が、冷たく光っている。
「今・・・気配が死んでおりもうしたがの・・・」
「・・・」
「既に死んでおるのか・・・活を求めに・・・死にに来た、か・・・」
ごくり。死線を越えてきた騎士達が、喉を鳴らす。
トモヤの目が、すうー・・・と細まる。
「ジョナス殿・・・その手は・・・勝ちに来ておらぬ・・・助かろうとしておる手じゃ・・・くくくっ・・・ワシにはそう見える・・・見えておる・・・」
「・・・」
「どうなされた。その牌で・・・ワシに勝てるかの・・・ククク・・・」
にじり、にじり、と、ジョナスの親指が二萬を擦る。
良いのか。本当に・・・これで・・・これは博打ではないのか・・・っ!
「う、う」
が。ジョナスには橋を渡れなかった。
とん・・・
「ロっ・・・ロン・・・」
ぱたん。
下家の牌が倒された。
三暗刻。白・二萬待ち。
「う、う・・・ううっ!」
くくく、とトモヤが喉で笑う。
「トビでござるか・・・ここまでにござるが・・・麻雀は久し振りでござるし・・・」
ぱたん、とトモヤが手牌を倒した。
リーのみ。五萬単騎待ち。
こっちに振り込んでいれば、生きていた・・・
静かな部屋。波の揺れは微かにしか感じない。
きしぃ・・・きしぃ・・・と、小さく船が音を立てる。
「もう一局、参りましょうぞ。どうも、今日は牌が泣いておる気がしますでのう」
すうー、と、倒した手配の上を、トモヤの太い指が走る。
「どうものう・・・皆様の牌は、煤けて見えるでのう・・・東のみではのう・・・」
「・・・」「・・・」「・・・」
「ふっ。次は、半荘で参りましょうかの。東風だけでは煤が取れそうにもないでのう。次は・・・賭けますかの・・・」
じゃらり。
トモヤが牌を押し付けるように出して、洗牌を始める。
遅れて、騎士達も牌を押し出し、じゃらじゃらを混ぜる。
「金貨1枚」
「えっ」
「最下位は・・・金貨1枚じゃ。皆々様、やるかの。ワシも、これまでの旅で、稼いでおりまするでの・・・」
不気味。
静かな声。
洗牌の音で消えそうな声。
「・・・」
たん、たん、たん・・・トモヤが静かに牌を並べていく。
ぐ、とサクマが拳を握る。
このような若造に舐められたまま終われるか!
ちらり、ちらり、左右に目を配ると、む、と騎士2人も頷く。
トモヤが後ろの騎士をちらりと見て、
「ジョナス殿はトビじゃったでの。交代じゃ」
「・・・」「・・・」
無言で2人が席を替わる。
「今度は賭けておるでの。後ろには立たんで下されや。ワシの後ろでなければ、構わぬが・・・そうじゃの。卓からは2歩くらい離れての」
凄い将棋打ちだとは分かっていたが、この若造、慣れている。
きちんと警戒出来ている。
真剣師・・・勝負師の、天性の才!
「はい」
ジョナスが離れて、ソファーに座る。
からん、とサイコロが振られた。
親番、いきなりトモヤ。
ぴり、と皆に警戒が走った。
たん、たん、たん、と皆が理牌していく。
「ん?」
トモヤが手を止め、首を傾げる。
「どうかなされましたか」
多牌か少牌でもしたのか?
「あいや・・・うむ? はあてなあ」
ぱたん。
トモヤの手牌が倒れる。
「う!?」「何っ!」「そんな!」
「上がっておるわ」
ずぎゃーん! 天和!
「ばっ・・・馬鹿な・・・っ! あるわけながない・・・っ! そんな馬鹿げた事・・・っ! イカサマっ! イカサマっ!」
「いや、一緒に混ぜておったではござらぬか」
「イカサマっ! イカサマだっ!」
ふん! とトモヤが鼻で笑う。
「証はござるのか? して? ワシはどんなサマをしたのじゃ?」
「うっ・・・ぐっ・・・」
「ふん! サマをしておったと分かっておるなら、先に止めておりましょうが! 仮にしておったとして、見抜けぬ者が悪い! それが真剣勝負じゃ! 違いまするかの!」
言い返す言葉もない。
ぶるぶる拳を震わせ、騎士が黙り込む。
「全く! これが命のやり取りをしておった騎士様か? 見苦しいのう」
「・・・」「・・・」「・・・」
「死んでからあやつはズルいと言うても、誰の耳にも聞こえませぬぞ・・・あいや、クレール殿なら聞こえるやもしれぬが・・・」
じゃらじゃらじゃら・・・
「あ、もう酒が少ないの」
「む・・・もうないですな」
「ああ。私も頼みます」
「私も」
トモヤが離れたジョナスに首を伸ばし、
「ジョナス殿や! 申し訳ござらぬが、酒の追加注文を頼みまする!」
「はい」
ジョナスが立ち上がり、かちゃかちゃと皆が理牌していく。
「おんやあ?」
ぎくっ! と皆の手が止まった。
ぱたん・・・
トモヤの手牌が倒れる。
「くくく・・・今日はついておるのう。また上がっておるわ。わーはははは!」




