第128話
「ま、難しい話はやめやめ! 面白い話、しようか」
イザベルとアルマダが顔を上げた。
「あのさあ・・・外来飛行物体・・・って、聞いた事ある?」
はてなんだろう?
マサヒデ達は首を傾げたが、アルマダ、カオル、イザベルは頷いた。
「魔王様でも追いつけないくらい、すっごい速さで飛んだり、光ったりする、わけのわかんないやつ。そんなのがあるんだって」
「へえ! 魔王様でもですか!」
「いいね! トミちゃん、いい反応! 実はね。軍がそういうの認めてるって噂は、どこの国でも聞くんだよね」
「ええっ!? 聞いた事もないですけど!」
「うん。秘密にしてるから・・・ていう、噂だよ? 噂。でさ。じゃあ、いっちばん見てるの、どこの軍か知ってる?」
皆が顔を見合わせる。
アルマダ、カオルが外来飛行物体を見たのは、米衆連合であるが・・・
「分かんないか。米衆連合。のー・・・海軍なのよ。でさ、何で海軍だと思う? サダマキさん、どう? そんな情報、掴んでない?」
「いえ、全く、聞いたこともありません。海軍がですか?」
「トミちゃんはなんで海軍だと思う?」
「いや、さっぱりです。何故でしょう?」
マサヒデもカオルも首を振る。
カオルとアルマダが見たのは、砂漠のど真ん中。陸軍ではないのか?
「そうだなあ。魔の海域って、聞いた事ない?」
こん、とアルマダがグラスを置く。
「中央米衆の東の海域ですね。海賊だらけで、海流も荒く、無事に出られないから、魔の海域と」
「いや、違うんだな、それ」
イナダがぐじぐじと灰皿に煙草を押し付け、新しい煙草を出して火を点ける。
「ふー・・・まあ確かに海流も荒いし、海賊も多いけどさ。軍艦とかはそう簡単に沈まないでしょ。でも、今でもあそこって、海軍も絶対に入っちゃ駄目! って言われるの。何か見ても絶対に近付くな。これ、米衆海軍の教科書にも載ってるんだよ。マジだよ。嘘だと思うなら、米衆海軍の教科書見てみて」
教科書にも。何だか話に信憑性が出て来たが・・・
これがあの外来飛行物体と、どうつながる?
「実はさ。その海域近くで、すっごい光を見る事、結構あるんだって。中央米衆じゃあ、海の神様とか、妖とか言われてたりね。でえ。もう退役もされて、かなり年もいってる方なんだけどさ。元海軍の人。その方とお話しした時。昔、そこの海域で遭難しちゃった事があったんだって。嵐でさ、入っちゃったの。当時は、今ほど軍艦も頑丈じゃなかったし、何かに当たって、穴が空いて、沈みかけの所で漂着」
ふー、とイナダが煙を吐き出し、一拍置いて、
「流れ着いたのは、本当、ちーっちゃな無人島。助かりはしたけど、どうしよう。どこだか分からないし、船も壊れちゃった。取り敢えず何か燃える物を集めて狼煙だね。ちょっと離れた所に、同じように漂着してる船もあるから、何かないか探してきて。て事で、その船まで歩いて行ったら、これが凄いクラシックな船で、なんと手漕ぎのオールがいっぱいのやつ。20世紀くらい前の軍船。うわあ、凄いなあ。良く出来てるなあ・・・見た目は凄い綺麗だし、最近の船だね。どこか民間がレプリカで作ったんだね。へえー! って、感心して見てた」
「うんうん」
シズクが頷く。
「でね。壊れた所から中に入るでしょ。何かないか。それに新しいから、もしかしたら生きてる人が居るかも。そう思って、誰かいませんかー。声が出せないなら音出してー。大声上げながら、部屋を見てくんだけど、少し見て、あれえ? と思ったの。人が居ないのよ。見た所、壊れたのはつい最近。一緒に嵐で遭難したかな、くらい。こりゃおかしいぞ。段々、みんな怖くなって、声がちっちゃくなっちゃった」
無人の船。それだけで怖い。
ごっくん。
リディアーヌが喉を鳴らす。
「で、仲間の1人が気付いたの。嵐で、島の中に非難したのかも。流されちゃうかもしれないから。あ、そりゃそうか! 派手に穴が空いてたしね。ビビってた皆も、こりゃ戻ったら報告して、救助隊を編成しないとね、なーんて言いながら、船の中を見てくでしょ。で。貨物室っぽい所に入ったら、荷物がいっぱい。食い物もいっぱい。おかしいでしょ? 非難するのに、食い物置いてく?」
マツがはっとして、
「あっ! 確かに、確かにそうですね!」
「こーりゃおっかしいぞお。よくよく荷物見るけど、どおーも変。がっちがちの塩漬けの魚。ぺらっぺらの薄ーいがちがちのパン。すっごい昔の食い物ばかり。でも、全然古くはなってないの。普通に食える状態。でも、今時こんな食料乗せるかあ? 絶対おかしいよ。奥まで見てくと、剣に槍に鎧。すっごい古いタイプのやつ。ええー? 武器も鎧も、レプリカじゃなくて、本物。この船、もしかして・・・レプリカじゃない・・・? 見てて気付いたんだけど、物凄い武器の量があるのに、銃が1丁もないの。おかしいよねえ」
「でも、新しい?」
「そう。これはちょっと報告しに戻った方が良いよねえ。怖いなあ、なんて思いながらさ、船の外に出るでしょ。あっれー? と思ったら、向こうにも船があったのね。早く出ちゃったから、ちょっとあっちも見とくか? んー、じゃあ行こうか・・・で、歩いてく。そしたら・・・」
からん。
グラスの氷が溶けて鳴る。
「あれ? これって、米衆海軍の船じゃないの? でもさ、ぼろっぼろ。苔とか生えてて、フジツボがびっしり。錆で今にも崩れそう。何で? 同じように漂着したにしても、こんなにボロくなるか? おっかしいのよ。その船、当時やっと出始めたばっかだった、ボイラー式の船だよ。海軍でも何隻かしかなくて、何年か前にやっと導入始めたばっかりだよ。それが、どう見ても、10年、20年は軽く経ってる感じ。錆びた所に指いれたら、ぼろぼろって簡単に崩れて、手まで入っちゃうくらい。いくら潮風に当たるにしても、ちょっとおかしいよねー」
マサヒデが怪訝な顔で、
「それって、それって、どういう事なんですか?」
イナダが首を振る。
「いやー、いまだに分かんないって、その海軍の人は言ってたけどさ。何かヤバい! ちょっとこれ、すぐ戻ろう! って、皆で走り出したの。うん。そしたら、急にぱっとね。音もなーんにもなく、海の上に、お皿みたいなすっごい眩しーいのがさ、ばーんて。うわー! ってなったら、ばっしゃん。いきなり海の中」
「ええー!?」
「溺れかけたけど、流石に海軍だからさ。すぐ立て直して、さーっと浮かんで。一緒にいた人達も、浮かんで。近くに何か浮くもの、って見たら、船が見えたの。おーい、おーい。で、助かった」
「助かったんですか」
「うん、うん。いや助かったんだけどー・・・どーこの島にいたのか、分っかんないんだよ。確かに群島地域だから、いっぱい島はあるんだけど、島? えー? この辺、そーんな所、あったあ? 捜索は出たんだけど、結局、見つかんなくて、助かったのはその方と、仲間の2人だけ。で。でだよ」
「はい」
「これー。箝口令が敷かれたの。漂着した。遭難した。これは良いけど、光ったのを見た。それだけは絶対に話すなよ・・・って・・・うん。で。そのご老人、思ったの。あそこ、もしかして、そういう光るやつの基地とかだったのかなあ? だから、米衆海軍が、一番見てるんじゃないのかなあ・・・なーんてね!」
にやりとイナダが笑って、
「ま! 信じるか、信じないかは・・・ね! うん。面白かった?」
ぱちぱちぱち・・・
リディアーヌが小さな拍手。
「面白かったです・・・」
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不思議な話が終わって、一段落・・・と思いきや。
イナダが立ち上がって、
「じゃあ! 新しいブラザーのお迎えの儀式、やろうか!」
と、にやにや笑いながら、ぐりん、ぐりん、と肩を回す。
イザベルが慌てて、
「きょ、教官殿!? やるのですか!?」
「そりゃあやるよ!」
「その」
イザベルがシズクを見る。
う、とイナダが回していた肩を止めた。
「あっ。あーの子は流石に無理かなあ・・・」
「は。流石に教官殿でも・・・効かせる事は出来ましょうが、お返しが」
「だよねえ・・・うん。死ぬね。うん」
「は」
「じゃあさ、トミちゃん! ハワードさん! ブラザーになる!? ファミリー!」
「は?」「ブラザー?」
「うん! 1発ずつ殴り合い! 顔面なしだよ! ボディね!」
「は!?」「イナダ先生!?」
「イザベルちゃんもね! 姫様もやっちゃう?」
「え」
「魔術なし! 素手のガチンコ! 1発ずつ、順番! 受けなきゃ駄目だよ! 避けるのは駄目ー! 最後に立ってた人が勝ちー!」
アルマダが慌てて、
「イナダ先生! 姫は!」
「やりますっ!」
マサヒデもアルマダもイザベルも、げっ! とリディアーヌを見た。
ふーん! と鼻息荒く、腰から魔剣ヴェントを外し、
「姉上。お預かり願います」
と、マツに押し付け、ぽきき! ぽきき! と指を鳴らす。
「私は?」
シズクが自分を指差す。
「いやあ、鬼族は、さっすがに無理だって! あははは! あ、受けるだけは受けてみる?」
「よっしゃー! 受けるー!」
イナダがにこにこ笑いながら、シズクの前に立つ。
「うん! じゃあ、うん! 思いっ切り打ってみるよおー! 俺、思いっ切り打ち込んだ事ってないんだ! 死んじゃったら怖いから!」
「え」
「じゃいくね!」
背は小柄。体格も全然厚くない。
だが、その時! はっ! とシズクは気付いた。
イナダの拳。
中指の所だけ、異常なタコが出来ている。
(やべ!?)
ごすん!
「う・・・うおー・・・」
シズクは顔を歪めたが、立っている。
イナダは拳を振り抜いた所で固まっている。
「・・・何、この感じ? モロに入ったと思う、けど・・・」
腹の中まで入って来て、内蔵を潰されるかと感じた。
が、シズクは今にも膝を付きそうな所を我慢して、笑みを浮かべた。
「うー、へっへっへ・・・私、神槍インのマジの一撃受けて、生きてるんだぜ。死にそうにはなったけど」
「嘘おー!? 無理無理無理! そりゃあ無理だわ! あははは!」
手を振って笑うイナダを見ながら、ぱあん! とリディアーヌが手を拳を当てる。
「イナダ殿! 参りますよ!」
「うーん! 姫様からの一撃! 俺、頑張っちゃうぞお!」
ふ! とイナダが息を吐く。
(む!?)
マサヒデが驚く。
凄い丹田の膨らみ!
「にいーやっ!」
ずっどおん! とは、入らなかった。
(あれ!?)
この手応えは一体?
真っ直ぐ入ったはずなのに、ふいっと拳がズレてしまった。何故!?
イナダがふらふらと壁までよたつき、どすん、と尻もちをついてから、
「おおー・・・これは効いたあ・・・流石、魔王様の血だあ・・・」
などと言いながら、ふらふらと立ち上がった。
マサヒデもアルマダも、目を丸くして、立ち上がるイナダを見ている。
あれを受けて立ち上がるか!?
(あっ! そうか! 流したな!)
受ける前、異常な程に丹田が膨らんだ。
腹を動かして、横に流したのだ。
マサヒデがにやっと笑って、
「イナダさん、ずるは駄目ですよ。ちゃんと受けなかったですよね」
「あっ! あー・・・トミちゃん、バレちゃった?」
リディアーヌが声を上げる。
「何ですって!? 変な手応えと思ったら!」
「んふふふふ」
ふ! とイナダが息を吐いて、丹田をぽっこり膨らませる。
「姫様には分かんなかったかあー。ほら、こう」
ぐいん、ぐいん、と腹だけが左右に!
腰は全然回っていない!
「え、えええーっ!?」
「あはははは! こうやって流しました! いや、でもかなり効きましたよ、うん」
「教官殿!?」
イザベルも声を上げる。
「あっれえー? イザベルちゃんも気付いてなかったのおー?」
「ん・・・む・・・」
「あはははは! もうみーんなファミリーでいいや! トミちゃん、お見事!」




