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勇者祭5 魔の国編  作者: 牧野三河
第一章 港町ジョアル
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第128話


「ま、難しい話はやめやめ! 面白い話、しようか」


 イザベルとアルマダが顔を上げた。


「あのさあ・・・外来飛行物体・・・って、聞いた事ある?」


 はてなんだろう?

 マサヒデ達は首を傾げたが、アルマダ、カオル、イザベルは頷いた。


「魔王様でも追いつけないくらい、すっごい速さで飛んだり、光ったりする、わけのわかんないやつ。そんなのがあるんだって」


「へえ! 魔王様でもですか!」


「いいね! トミちゃん、いい反応! 実はね。軍がそういうの認めてるって噂は、どこの国でも聞くんだよね」


「ええっ!? 聞いた事もないですけど!」


「うん。秘密にしてるから・・・ていう、噂だよ? 噂。でさ。じゃあ、いっちばん見てるの、どこの軍か知ってる?」


 皆が顔を見合わせる。

 アルマダ、カオルが外来飛行物体を見たのは、米衆連合であるが・・・


「分かんないか。米衆連合。のー・・・海軍なのよ。でさ、何で海軍だと思う? サダマキさん、どう? そんな情報、掴んでない?」


「いえ、全く、聞いたこともありません。海軍がですか?」


「トミちゃんはなんで海軍だと思う?」


「いや、さっぱりです。何故でしょう?」


 マサヒデもカオルも首を振る。

 カオルとアルマダが見たのは、砂漠のど真ん中。陸軍ではないのか?


「そうだなあ。魔の海域って、聞いた事ない?」


 こん、とアルマダがグラスを置く。


「中央米衆の東の海域ですね。海賊だらけで、海流も荒く、無事に出られないから、魔の海域と」


「いや、違うんだな、それ」


 イナダがぐじぐじと灰皿に煙草を押し付け、新しい煙草を出して火を点ける。


「ふー・・・まあ確かに海流も荒いし、海賊も多いけどさ。軍艦とかはそう簡単に沈まないでしょ。でも、今でもあそこって、海軍も絶対に入っちゃ駄目! って言われるの。何か見ても絶対に近付くな。これ、米衆海軍の教科書にも載ってるんだよ。マジだよ。嘘だと思うなら、米衆海軍の教科書見てみて」


 教科書にも。何だか話に信憑性が出て来たが・・・

 これがあの外来飛行物体と、どうつながる?


「実はさ。その海域近くで、すっごい光を見る事、結構あるんだって。中央米衆じゃあ、海の神様とか、妖とか言われてたりね。でえ。もう退役もされて、かなり年もいってる方なんだけどさ。元海軍の人。その方とお話しした時。昔、そこの海域で遭難しちゃった事があったんだって。嵐でさ、入っちゃったの。当時は、今ほど軍艦も頑丈じゃなかったし、何かに当たって、穴が空いて、沈みかけの所で漂着」


 ふー、とイナダが煙を吐き出し、一拍置いて、


「流れ着いたのは、本当、ちーっちゃな無人島。助かりはしたけど、どうしよう。どこだか分からないし、船も壊れちゃった。取り敢えず何か燃える物を集めて狼煙だね。ちょっと離れた所に、同じように漂着してる船もあるから、何かないか探してきて。て事で、その船まで歩いて行ったら、これが凄いクラシックな船で、なんと手漕ぎのオールがいっぱいのやつ。20世紀くらい前の軍船。うわあ、凄いなあ。良く出来てるなあ・・・見た目は凄い綺麗だし、最近の船だね。どこか民間がレプリカで作ったんだね。へえー! って、感心して見てた」


「うんうん」


 シズクが頷く。


「でね。壊れた所から中に入るでしょ。何かないか。それに新しいから、もしかしたら生きてる人が居るかも。そう思って、誰かいませんかー。声が出せないなら音出してー。大声上げながら、部屋を見てくんだけど、少し見て、あれえ? と思ったの。人が居ないのよ。見た所、壊れたのはつい最近。一緒に嵐で遭難したかな、くらい。こりゃおかしいぞ。段々、みんな怖くなって、声がちっちゃくなっちゃった」


 無人の船。それだけで怖い。

 ごっくん。

 リディアーヌが喉を鳴らす。


「で、仲間の1人が気付いたの。嵐で、島の中に非難したのかも。流されちゃうかもしれないから。あ、そりゃそうか! 派手に穴が空いてたしね。ビビってた皆も、こりゃ戻ったら報告して、救助隊を編成しないとね、なーんて言いながら、船の中を見てくでしょ。で。貨物室っぽい所に入ったら、荷物がいっぱい。食い物もいっぱい。おかしいでしょ? 非難するのに、食い物置いてく?」


 マツがはっとして、


「あっ! 確かに、確かにそうですね!」


「こーりゃおっかしいぞお。よくよく荷物見るけど、どおーも変。がっちがちの塩漬けの魚。ぺらっぺらの薄ーいがちがちのパン。すっごい昔の食い物ばかり。でも、全然古くはなってないの。普通に食える状態。でも、今時こんな食料乗せるかあ? 絶対おかしいよ。奥まで見てくと、剣に槍に鎧。すっごい古いタイプのやつ。ええー? 武器も鎧も、レプリカじゃなくて、本物。この船、もしかして・・・レプリカじゃない・・・? 見てて気付いたんだけど、物凄い武器の量があるのに、銃が1丁もないの。おかしいよねえ」


「でも、新しい?」


「そう。これはちょっと報告しに戻った方が良いよねえ。怖いなあ、なんて思いながらさ、船の外に出るでしょ。あっれー? と思ったら、向こうにも船があったのね。早く出ちゃったから、ちょっとあっちも見とくか? んー、じゃあ行こうか・・・で、歩いてく。そしたら・・・」


 からん。

 グラスの氷が溶けて鳴る。


「あれ? これって、米衆海軍の船じゃないの? でもさ、ぼろっぼろ。苔とか生えてて、フジツボがびっしり。錆で今にも崩れそう。何で? 同じように漂着したにしても、こんなにボロくなるか? おっかしいのよ。その船、当時やっと出始めたばっかだった、ボイラー式の船だよ。海軍でも何隻かしかなくて、何年か前にやっと導入始めたばっかりだよ。それが、どう見ても、10年、20年は軽く経ってる感じ。錆びた所に指いれたら、ぼろぼろって簡単に崩れて、手まで入っちゃうくらい。いくら潮風に当たるにしても、ちょっとおかしいよねー」


 マサヒデが怪訝な顔で、


「それって、それって、どういう事なんですか?」


 イナダが首を振る。


「いやー、いまだに分かんないって、その海軍の人は言ってたけどさ。何かヤバい! ちょっとこれ、すぐ戻ろう! って、皆で走り出したの。うん。そしたら、急にぱっとね。音もなーんにもなく、海の上に、お皿みたいなすっごい眩しーいのがさ、ばーんて。うわー! ってなったら、ばっしゃん。いきなり海の中」


「ええー!?」


「溺れかけたけど、流石に海軍だからさ。すぐ立て直して、さーっと浮かんで。一緒にいた人達も、浮かんで。近くに何か浮くもの、って見たら、船が見えたの。おーい、おーい。で、助かった」


「助かったんですか」


「うん、うん。いや助かったんだけどー・・・どーこの島にいたのか、分っかんないんだよ。確かに群島地域だから、いっぱい島はあるんだけど、島? えー? この辺、そーんな所、あったあ? 捜索は出たんだけど、結局、見つかんなくて、助かったのはその方と、仲間の2人だけ。で。でだよ」


「はい」


「これー。箝口令が敷かれたの。漂着した。遭難した。これは良いけど、光ったのを見た。それだけは絶対に話すなよ・・・って・・・うん。で。そのご老人、思ったの。あそこ、もしかして、そういう光るやつの基地とかだったのかなあ? だから、米衆海軍が、一番見てるんじゃないのかなあ・・・なーんてね!」


 にやりとイナダが笑って、


「ま! 信じるか、信じないかは・・・ね! うん。面白かった?」


 ぱちぱちぱち・・・

 リディアーヌが小さな拍手。


「面白かったです・・・」



----------



 不思議な話が終わって、一段落・・・と思いきや。

 イナダが立ち上がって、


「じゃあ! 新しいブラザーのお迎えの儀式、やろうか!」


 と、にやにや笑いながら、ぐりん、ぐりん、と肩を回す。

 イザベルが慌てて、


「きょ、教官殿!? やるのですか!?」


「そりゃあやるよ!」


「その」


 イザベルがシズクを見る。

 う、とイナダが回していた肩を止めた。


「あっ。あーの子は流石に無理かなあ・・・」


「は。流石に教官殿でも・・・効かせる事は出来ましょうが、お返しが」


「だよねえ・・・うん。死ぬね。うん」


「は」


「じゃあさ、トミちゃん! ハワードさん! ブラザーになる!? ファミリー!」


「は?」「ブラザー?」


「うん! 1発ずつ殴り合い! 顔面なしだよ! ボディね!」


「は!?」「イナダ先生!?」


「イザベルちゃんもね! 姫様もやっちゃう?」


「え」


「魔術なし! 素手のガチンコ! 1発ずつ、順番! 受けなきゃ駄目だよ! 避けるのは駄目ー! 最後に立ってた人が勝ちー!」


 アルマダが慌てて、


「イナダ先生! 姫は!」

「やりますっ!」


 マサヒデもアルマダもイザベルも、げっ! とリディアーヌを見た。

 ふーん! と鼻息荒く、腰から魔剣ヴェントを外し、


「姉上。お預かり願います」


 と、マツに押し付け、ぽきき! ぽきき! と指を鳴らす。


「私は?」


 シズクが自分を指差す。


「いやあ、鬼族は、さっすがに無理だって! あははは! あ、受けるだけは受けてみる?」


「よっしゃー! 受けるー!」


 イナダがにこにこ笑いながら、シズクの前に立つ。


「うん! じゃあ、うん! 思いっ切り打ってみるよおー! 俺、思いっ切り打ち込んだ事ってないんだ! 死んじゃったら怖いから!」


「え」


「じゃいくね!」


 背は小柄。体格も全然厚くない。

 だが、その時! はっ! とシズクは気付いた。

 イナダの拳。

 中指の所だけ、異常なタコが出来ている。


(やべ!?)


 ごすん!


「う・・・うおー・・・」


 シズクは顔を歪めたが、立っている。

 イナダは拳を振り抜いた所で固まっている。


「・・・何、この感じ? モロに入ったと思う、けど・・・」


 腹の中まで入って来て、内蔵を潰されるかと感じた。

 が、シズクは今にも膝を付きそうな所を我慢して、笑みを浮かべた。


「うー、へっへっへ・・・私、神槍インのマジの一撃受けて、生きてるんだぜ。死にそうにはなったけど」


「嘘おー!? 無理無理無理! そりゃあ無理だわ! あははは!」


 手を振って笑うイナダを見ながら、ぱあん! とリディアーヌが手を拳を当てる。


「イナダ殿! 参りますよ!」


「うーん! 姫様からの一撃! 俺、頑張っちゃうぞお!」


 ふ! とイナダが息を吐く。


(む!?)


 マサヒデが驚く。

 凄い丹田の膨らみ!


「にいーやっ!」


 ずっどおん! とは、入らなかった。


(あれ!?)


 この手応えは一体?

 真っ直ぐ入ったはずなのに、ふいっと拳がズレてしまった。何故!?

 イナダがふらふらと壁までよたつき、どすん、と尻もちをついてから、


「おおー・・・これは効いたあ・・・流石、魔王様の血だあ・・・」


 などと言いながら、ふらふらと立ち上がった。

 マサヒデもアルマダも、目を丸くして、立ち上がるイナダを見ている。

 あれを受けて立ち上がるか!?


(あっ! そうか! 流したな!)


 受ける前、異常な程に丹田が膨らんだ。

 腹を動かして、横に流したのだ。

 マサヒデがにやっと笑って、


「イナダさん、ずるは駄目ですよ。ちゃんと受けなかったですよね」


「あっ! あー・・・トミちゃん、バレちゃった?」


 リディアーヌが声を上げる。


「何ですって!? 変な手応えと思ったら!」


「んふふふふ」


 ふ! とイナダが息を吐いて、丹田をぽっこり膨らませる。


「姫様には分かんなかったかあー。ほら、こう」


 ぐいん、ぐいん、と腹だけが左右に!

 腰は全然回っていない!


「え、えええーっ!?」


「あはははは! こうやって流しました! いや、でもかなり効きましたよ、うん」


「教官殿!?」


 イザベルも声を上げる。


「あっれえー? イザベルちゃんも気付いてなかったのおー?」


「ん・・・む・・・」


「あはははは! もうみーんなファミリーでいいや! トミちゃん、お見事!」


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